師匠の本当の価値
おれは次の日、早速ゼラスとアリス2人に声をかける。
「おれのお師匠とこれまでの修行の成果を見せるために出かけるんだけどゼラスとアリスもよかったらくる?」
おれのお師匠と聞いて2人は当然くることを即断する。元々、数日間かかるクエストに行く予定だったため、おれたちはそのクエストを辞めて代わりにそっちにいくことにしたのだ。最近、ココはおれらの行くクエストにいよいよ身の危険を感じ始めたらしく、よっぽど長いこと家を空けない限り、基本的には自宅警備をかって出てくれていた。おそらく、家にいるときにはしっかり魔素を与えているのも一因だろう。
ラキカ曰く、魔道の回復の泉があるのはテペ村から北東に行った山脈の中にあるらしく、このあたりは人が寄り付かず、ドラゴンなんかが生息しているとかなんとか。おれが事前にラキカと話をしてた際にドラゴンなんて倒せるのか?と聞いたところ相手によるらしい。しかし、今回障害となるのはドラゴンではなくどちらかと言うとその魔素に当てられて生まれてくる魔物らしい。北西の辺りは北の大地からの魔素も流れ込んでくるため、ドラゴンと北の大地の両方の魔素を受け取った魔物は強力ということだ。それに、ドラゴンはこちらが危害を加えない限り理性が高いためよっぽど向こうから襲ってくることはないそうだが、そこにいる魔物は当然異なる。
出発する当日、納屋でおれがラキカと一緒に待っていると初めにやってきたアリスにラキカが声をかける。
「おう、君がアリス姫だな、いつもショウが世話になってるみたいだな、ありがとう。」
しかし、その相手を見るやアリスは思わず固まって言葉が出ない様子。
「あれ、アリス、大丈夫?」
おれの呼びかけにようやくハッと我に返ったアリスは慌ててその場に膝をつき頭を下げる。
「この度はお誘い頂き大変光栄です。わたくし、アリス=アーガンスと申します。お気軽にアリスとお呼びください。」
おれとラキカは思わず顔を見合わせて笑う。
「ガハハハハ!アリス姫、いやアリス、そんな畏まらなくていいんだぞ!おれなんてもうただのクソジジイだ。ほら、頭を上げてくれ。」
アリスはしかし!と食い下がっているがラキカは膝をつくアリスの前に腰を降ろし肩を掴むとアリスはその顔を上げラキカを見つめる。
「いいんだよ、それに、これはここだけの秘密だがアリスは4年前のアキラとの騎士団戦、覚えているか?」
アリスは突然何を言い出すのかと思いラキカの顔を見て頷く。
「あれ、実はおれだ。あのときは悪かったな。」
アリスは当時のことを思い出し、そしてタリス、マーナの言ってたことも思い出す。結局、あのとき色々教えてくれると言っていたがそのまま聞けずじまいだったが、ようやくショウがアキラに勝てなくても両親が納得している理由がわかった。それと同時に当時アリス自身が勝てなかったのもようやく腑に落ちた。アリスは何も言わず、すっくと立ち上がるとショウの方を見る。
「あんたがとんでもない実力を持ってるのは、もちろんあんた自身の努力の賜物だと思うけど師にも恵まれていたからこそ、努力する方向を正しくできたのね。」
たしかに、アリスの言う通りだった。間違いなくおれはラキカのお陰でここまで強くなれた。
「うん、そう思うよ。だからこそ、今回一緒に来てもらって、ちゃんと成長したんだってところをラキカさんにも見てほしいんだ。」
その言葉にアリスは頷いていると、遅れてゼラスがやってくる。すると、アリスと同様にラキカの様子を見ると膝をつき頭を下げて、アリスと同じやりとりをし、なんとかゼラスも普通にラキカには接することができるようになった。こうやってみると、おれはラキカの凄さや歴史的な背景を身内目線でしか見れていないからラキカの本当の意味の凄さは知らないことを痛感した。逆を言えば、この境遇に産まれた自分の運の良さに驚く。いや、むしろこれすらもディーナが仕組んだことなのだろうか。いつになるかわからないが、今度ディーナにあったら聞いてみよう。
こうしておれたちはお互いの自己紹介や能力などを簡単にラキカに説明し、いよいよ目的地へ移動を始める。
◇◇
おれたちは回復の泉がある山岳地帯に辿り着くと、そこからは馬を降りてひたすら山を登る。目的の泉はこの山の頂上近くで、登るのに丸一日かかるらしい。山の麓に着いたのが夕方だったため、その日は麓で夜を明かし日の出と同時に山を登り始める。
山岳地帯といっても入り口付近は標高がそこまで高くなく、森が続く。その森では狼やら虎やら獣系の魔物が出てくるがこれくらいの魔物であれば正直この4人にかかればなんてことはない。基本的にはラキカは最後尾でおれたちの様子を見てもらいながら後方からくる攻撃があった場合にのみ対応してもらっていた。
「これくらいの魔物ならなんてことはないわね。」
アリスが余裕をかましているが、その森を抜け、標高が少し上がり樹木ではなく高山植物のような背丈の低い植物しか生息しない地帯にやってくるとガラリと雰囲気が変わる。
「く、な、なんだ、ここ?魔素が、すごいですね。」
おれは振り返りラキカを見ると頷く。
「さぁ、ここからが本番だ。気を引き締めていくぞ。」
おれたちはさらにそこから山を登るが出てくるのは強敵ばかり。それこそ、Bランクで出てきたキングスライムやらその他の魔物が普通に群れを成して現れる。
おれは斬れ味付与でキングスライム二体をまとめて切り飛ばすと、隣ではアリスがアーガンスキメラよりも更に素早く広域に炎を吐き出してくる魔物を氷の槍で滅多刺しにしていた。
ひと段落すると、ラキカを除く全員が肩で大きく息をしていた。
「ここの魔物、一体一体がそこそこ強い上に、数がハンパないわね。」
アリスは手元の水を飲みながら大きく息を吐く。
「えぇ、今までいろんなクエストを回ってきましたが、こんなところは初めてです。」
ゼラスもアリスの言葉に大きく頷く。
「だからこそ、いい修行になるだろう?ここは、この大陸の中ではかなり魔物が強く、集まりやすいところの1つだ。元々北の大地から魔素が流れ込みやすいのと、ショウから聞いてるかもしれないがここはドラゴンがいる。そのドラゴンから漏れ出る魔素と北の大地からの魔素が混ざってこれだけの魔物がいるんだ。」
「ってことは、北の大地ってやっぱりもっと魔物が多くて強いんですか?」
おれの問いにラキカは頷く。
「あぁ、おれも一度だけ北の大地にはいったことがあるが、こんなもんじゃないな。数よりも質が圧倒的にむこうは高い。」
「え!?あの北の大地に踏み込んで生きて帰ってこれるんですか!?あんなとこ、行ったら二度とこの大陸には戻ってこられないってお父様がいってたのに。」
ラキカの言葉にアリスは呆れて項垂れていた。
「まぁ生半可な人間が行ったら魔素に当てられてそれだけでおかしくなるかもしれないな。でも今のお前たちならいくことくらいは大丈夫だろう。もうちょっと強くならないとかなり危ないがな!」
ラキカは笑っているが笑い事ではない。おれはディーナを助けに行きたかったがなんだか絶望的な気がしてきた。
「そんなに心配そうな顔をするな、大丈夫だ、まだ3人とも若いしな!これからどんどん強くなる。おれがお前たちの年齢だったときはまだBランクそこそこだった。何事も経験だ。さぁ、目的の場所まであとちょっとだ、頑張っていくぞ!」
こうしておれたちはラキカに後押しされながら迫り来る魔物の群れを倒し続け、山岳を登り続ける。きっとここで倒した魔物の魔石をギルドに持っていくだけでもそれなりの報酬になるのではないだろうか。
しばらく歩くと、どこかからゴォォォォっと言う地響きが聞こえる。
「もしかして、今のって。」
おれがラキカの方を向くとラキカは頷く。
「あぁ、ドラゴンの咆哮だ。きっと欠伸でもしたんだろ?」
欠伸でこの地響きって、一体どうなってるんだ。きっと真正面で欠伸なんかされたらそれだけで気を失いそうだ。そんなことを考えているとラキカが山岳地帯に続く道から見下ろせる対岸の崖にある穴ぐらを指差す。
「あそこにこの地域のトップのサウザンドドラゴンがいる。なんなら、この大陸の主だな。おれたち人間なんて、はっきり言ってあいつらがその気になればいつでも蹂躙できる存在だ。なんなら、人の言葉もわかるからな。もし興味があるなら話をしにいってみるか?」
おれたちはフルフルと頭を振る。そんなちょっと近所のおじいちゃんに話をしにいく、的なノリでこの大陸の主と言われてるドラゴンに話をしにいくわけがない。
「まぁ、いつか気が向いたら話しかけてやってくれよ、あいつら、人間に興味がないわけではないんだ。そのときは酒でも持ってきてやると喜んでくれるかもな!」
おれたちはラキカの本気だか冗談だかわからない言葉を適当に流しながら歩いていると、遂に目的の泉がもう少しのところまで近づいたようだ。まだ泉の水面は見えないが、そこから立ち昇る湯気が見える。
「あれって、もしかして?」
おれはラキカに問いかけるとラキカは頷く。
「あぁ、温泉だ。」
しかし、その行く手を阻むかのようにおれたちの目の前には一体の獣がいた。全身を雷で身を包んだ大きな虎のような白虎だった。
「さぁ、あいつが最後の関門だ。ショウ、お前の成長を見せてくれよ!」
こうしておれたちはおれの魔道回復の最後の関門である白虎と相対するのであった。
偉人は、身近にいると頭ではその人が偉人だとわかっていても実際どれくらいすごい人なのか分からなくなったりしますよね。ショウにとってのラキカも同じようなもんだと思います。
そして話の傍らで出てきたサウザンドドラゴン。なんだか凄そうな名前ですがとりあえずしばらく出番はありません。それよりもまずは目の前の白虎ですね。なんだか強そうですがショウたちは倒すことができるのでしょうか?