強くなるための道筋
おれたちが騎士選抜試験を合格した2年後、アリスは騎士選抜試験にこの年の受験者の中で唯一合格し、それからさらに2年の月日が流れていた。
この間、オスタとの戦争はまだ続いており頻度こそ少ないものの小競り合いが続いていた。アリスが騎士見習いとなったときもこの状況は続いていて、騎士団もおれたちとアリスが一緒にクエストに行っていたことは把握していたため、結局そのままおれたちが騎士団のことを色々教えることとなった。
この日も、Aランクの魔物であるサンドワームの討伐に3人でやってきている。
アーガンス城から西にいった砂漠地帯で時折発生する魔物で砂漠の中に身を隠し、突如現れそこを通っている馬車を丸呑みにするほど大きく、そして動きが早いため、そこらの人に討伐できる魔物ではなかった。それらの理由からこいつが発生すると物流が滞るリスクが高く、即座に対応しなければならないため、サンドワームは被害が発生すると即座に高ランクの魔物として討伐指定が入る。
おれたちはギルドから指定された過去積荷を運んでいたキャラバンが襲われた場所にたどり着くと砂漠のなかには馬車の歯車や布切れ、金属などが転がっている。
「ここで被害にあったんだな。」
おれたちは被害に遭った今は亡き者たちに手を合わせると、気を引き締めなおす。
「じゃあ、ちょっと待って下さいね。」
ゼラスはそう言うと目を瞑り、胸の前に手を合わせると、ゼラスの体を中心として白い球が広がっていく。
「居ました!こちらにも気がついたようで南西から近づいてきます。」
この4年でおれを含めゼラスもアリスも本当に色んなことができるようになった。今のは敵を索敵する魔法である。
おれたちはゼラスの指定した方向に向き直し身構える。すると微かだが、地面に振動を感じる。アリスは次第に大きくなる振動に合わせて胸の前で手を組むと、無数の氷の槍がアリスの目の前に現れ、ゼラスの指定した方向に氷の槍を宙に浮かした状態で留める。
「来ます!」
ゼラスが声を上げると同時にアリスはでかいミミズのようなサンドワームに向かって準備した氷の槍を発射する。
やっと獲物にありつけると思って地中から飛び出し、大きな口を開けて迫り来るサンドワームだったが、用意されたのは獲物ではなく氷の槍。いくつかの槍がヒットするとサンドワームが大声で喚き叫ぶ。
「ギュゥァァァァ!」
サンドワームはおれたちを倒すことを諦めたのか、再び砂に潜ろうと頭を地面に近づける。そう、この危機回避能力の高さもこのデザートワームの厄介なところだ。しかし、ゼラスがすぐさまサンドワームの腹部の下に潜り込むと、身体強化の魔法を付与したその足で逃すまいとサンドワームを空へ蹴り上げる。
「ショウくん!」
ゼラスの呼び声におれは応えるかのようにディーナの剣を極限まで軽くした状態に斬れ味付与を乗せ、そして空に向かってその剣を抜き放つ。
すると斬れ味付与の赤い魔法の光がその剣から解き放たれ、空に打ち上げられたサンドワームを真っ二つにする。
そして、ちょうど半分にされた頭の部分か落ちてくるのに合わせておれは落下点に入り、再び斬れ味付与を剣にかけると落下までの数秒でその頭部を微塵切りにする。
アリスも同様に落下する尻尾の方を切り刻む。一瞬、そこにはサンドワームの緑色の体液とが残されるがすぐに青白い光の粒となってその場に魔石だけが残った。
「ふぅー、まぁ今の私たちにかかればこんなものね。」
アリスはサンドワームの体液で汚れた剣を振り、綺麗にしながらなんてこともないような口調で話をする。おれたちはこの4年間で本当に強くなった。今回出番がなかったがゼラスの付けている爪はおれの斬れ味付与に劣らない斬れ味をもっている爪だし、アリスの剣はその斬れ味もさることながら持ち主の魔素を一定量ストックすることができるため、いざという時に役に立つ。これらの武器はこの4年間で見つけたもので、これを売るだけでもおそらく一生を質素であれば暮らせるであろう価値がある代物だった。
もちろん、武器だけではなく技術、魔素の量などを含めても以前とは比べものにならないほど成長しており、いつのまにかおれたちのギルドランクはAランクまで上がっていた。幸い、おれたちはオスタとの戦争には参戦しなくてもよかったため、それもあって技術の向上に専念できた、というのもこの急成長の一因である。
おれたちはアーガンスに戻りギルドに討伐の報告をすると、いつもならこの後食事にいくのだが、今日はラキカと会うことにしていたため、2人に先に帰ることを伝える。おれが誰に会いにいくのか言わないでいると、どうやらゼラスが何か勘違いしたらしい。
「あれ、今日もお姉様とデートですか?」
「いいわね、幸せそうで!さっさと行きなさいよね!」
アリスは相変わらずセシルの話になると不機嫌になるが、あまり気にしないようにしていた。
「いや、違うよ、っていうか、セシルさんと会うのも、そもそもデートなんかじゃないしね!」
「えー?そうなんですか?デートでもないのにそんな頻繁に会うって2人は一体どんな関係なんですか?」
たしかに、セシルとはある程度の頻度であっているが、セシルが外を見たいって言ってくれるからおれは連れて行くだけで、向こうにはデートとかそんな気は全くないだろう。
「何って言われても困るんだけど。まぁ、護衛?ともかく、今回はセシルさんと会うわけではないから!」
おれはこれ以上ここにいても状況は悪くなるばかりと判断し、ラキカが待っているカイルの店に急ぐ。
カイルの店に入ると、そこには選抜試験の時によく見かけた、同じテーブルに同じように座り、同じようにエールを煽っているラキカがいた。
「ショウくん久しぶりね!」
おれが入るとすぐにアイルが気がつきこちらにやってきてラキカの席に案内される。
「お久しぶりです。お元気そうですね。」
おれがラキカと会うのはほぼ一年ぶり。おれの背が伸びたせいか、いつもよりラキカの背中は小さく見てた。
「おお、来たか、ショウよ。まぁ座れ。」
おれはラキカに勧められ座るとエールを頼む。おれもなんだかんだ14歳。この国では立派な成人で法律的には酒も飲める。アイルが持ってきたエールを受け取るとおれとラキカはグラスを交わす。
「とうとうお前とこうして酒を飲む日がきてしまったんだな。歳を取るのはやはり怖いもんだな。どんどん時間の流れが早くなる。」
おれにとってラキカと出会ってから今までは非常に濃厚な時間で初めてあった日のことなんて遥か昔のことのようだが、きっとラキカにとってはつい先日のことのように感じるのだろう。おれたちはこの1年間の話をそれぞれする。どうやらラキカはタリスとマーナにはついこないだ会ったらしく、今のこの戦争に巻き込まれていないかと心配していたそうだ。おれが2人にあったのは前回ラキカとあった前で、ちょうど戦争に召集をかけられる可能性がある時期だったため、2人にはその印象が強く残っているのかもしれない。そしてラキカはおれ自身の活躍を色んなところで耳にしているらしかった。
「それにしてもお前その歳でギルドランクがAランクってとんでもないな。しかも、そのAランクの魔物も最近は余裕らしいな。」
おれは久しぶりのカイルの店の料理をエールで流し込む。
「ぼく一人の力ではなくて、ゼラスやアリスのお陰ですよ。」
「まぁ自分ではなかなか言いにくいだろうが、それでもやっぱりお前の実力は頭一つ抜けてるって噂だぞ。特にその剣な。」
ラキカは近くに立てかけてあったディーナの剣を顎で指す。
「たしかに、この剣と、斬れ味付与の組み合わせは我ながら出来過ぎだと思います。ただ、アリスを見ていて思うんですが、やっぱり攻撃魔法が使いたいなって気持ちも強くありますね。」
ラキカは手に持ったグラスを置くと真剣な眼差しになる。
「今日はな、その件でお前に提案があって誘ったんだ。」
おれはラキカの久しぶりに見る真剣な眼差しに思わず身構える。
「お前と初めて会った時に話をした魔道の話、覚えてるか?」
「えぇ、ぼくの魔道はぐちゃぐちゃだから魔法が使えないとか。」
「あぁ、そうだ。その後に、その魔道を回復できる泉があるって話もしたのも覚えてるか?」
おれはここまで聞いてようやくピンとくる。
「もしかして、今のぼくならそこに行けるかもしれないってことですか?」
ラキカはコクリと頷く。
「最近、この国の周辺のことを色々調べてるんだがな、どうもここ数年のオスタとアーガンスの戦争を含めたこの地域がきな臭いんだ。これから先、何が起きるかわからない。そんな中でお前が力を持っていてくれればおれとしては安心だ。」
たしかに、おれが選抜試験を受けてからイータが魔物になったり、王が殺されたり、戦争が起きたりと物騒なことが続いてる気がする。それに、魔物の数が少しずつ多く、そして強くなってきている気がするのだ。そして、この国を守るために力が必要であることはわかる。
「もちろん、力があるのは助かります。でも、それならラキカさんも一緒に戦ってください!騎士のみんなも喜ぶと思います!」
しかしラキカは首を振る。
「おれが国を守る時代はとっくの昔に終わってるんだよ。本当ならタリスにおれの代わりをして欲しかったが、あいつはあいつで国の危機を己の力で守ったんだ。お前にこの荷を任せるにはちょっとまだ早いと思っていたが、最近の活躍を聞いていたら大丈夫だと思ってな。」
たしかに、いつまでも先人に守ってもらってばかりではよくない。それに、おれの中で魔法はロマンだ。やっぱりちゃんと使えるようになりたい。
「わかりました。それでは、是非お願いします!」
「あぁ、せっかくだからいつも一緒にクエスト回ってる2人も付いてきてもらえ。2人は特に泉には用はないと思うが、あそこは良い修行になるたろう。」
こうしておれはラキカとゼラス、アリスの4人で回復の泉へ行くことが決まった。
戦争が終わってから約4年、みんなかなり強くなったようですね。そしていよいよ、ショウがもう少し魔法を使えるようになるかもしれません。今でさえそこそこ強い位置づけなのにこれ以上強くなったらどうなるのか、これから楽しみです。
それでは第7章成長編をお楽しみ下さい!