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泥沼化する戦争

セシルと初めて町の外に出てから数日後、騎士団の招集がかかりおれはゼラスといつもの詰所に朝から向かう。


「どうやら、1回目の戦争が終わったらしいね。」


「はい、詳しい話は町のみんなも知らないみたいですがどうやら負け戦になったらしいです。」


おれは頷き、そのタイミングでの招集の意味を推し量る。


「おれたちの歓迎会ってわけにはいかないだろうな。」


そんな話をしながら詰所に着くと、そこにはやはりどんよりと重い空気が立ち込めていた。流石に騎士全員がこの場に集合しているわけではなさそうだったが、おれたちが着いてからも続々と人が入ってきて、その数は100人を超えていた。おれたちを見つけたグレンが手招きをする。


「お疲れ様。これだけの騎士が集まるのを見るのは初めてだろう?これでも全体の三分の一くらいだ。」


「そんなにいるんですね。」


おれたちは空気を読んで静かにしていると詰所に準備された一段高い場所に副騎士団長のグレイブが登る。その様子に気がついた周囲は今までのざわめきが嘘のようにシンと静まり返る。


グレイブはその様子を見ると話し始める。


「えーっと、今日はお集まり頂き有難うございます。もう殆どの方がご存知だと思うので単刀直入に言います。こないだの戦争はルイ団長が殺され、結果的に負けました。」


その言葉に驚くものは殆どおらず、みんなが固唾を呑みながらその先の言葉を見守っていた。当然、その中で新米のおれたちが口を出せるわけもなく、様子を伺う。その様子を察知してか、グレイブはそのまま続ける。


「そこで、まずは高い位置からになりますが、ここで皆に詫びをさせて下さい。まず、団長を守る立場としてぼくがついていながら、団長の護衛と、その失敗に伴う敗戦、本当に申し訳ありませんでした。」


グレイブは深々としばらく頭を下げる。しばらく、声が上がらない様子を確認するとグレイブは続ける。


「ただ、今回の敗戦、アーガンスの騎士として、そして、ルイ騎士団長の配下として黙ってやられたままでいるわけにはいかないと思っています。」


それを聞いていた騎士の多くが深く頷いていたり、あるいはそうだそうだ!と声を荒げている。その様子を伺いながらグレイブは涙ながらに次第に口調を強くしていく。


「ぼくたちは、偉大なる指導者であるアーガンス王、そしてルイ騎士団長を失いましたが、今一度、この愛する国を守るため、騎士団が一丸となって立ち上がろうではありませんか!」


その呼びかけに一部の人間が席から立ち上がりグレイブに拍手を送ると、それにつられていつのまにか会場にいる全員がその勢いに飲まれ立ち上がる。そして聞こえてくるのは「アーガンス」という掛け声の大合唱。グレイブはしばらくその様子を見守っていたが、会場の熱気が最高潮を迎えたところで再び声をかける。


「皆様、ありがとうございます。せっかく皆様にお集まり頂いているのでこの場で1つ打倒オスタを目指すために、大事なことを1つ決める必要があると思います。」


グレイブの声に再び会場は静まる。ひと呼吸間を開けグレイブは続ける。


「そう、戦争の指揮を取る騎士団長です。この中で、もし我こそが騎士団長に、という方がいらっしゃれば挙手頂けないでしょうか?」


その声に、全員が動揺する。今まで、こんな形で騎士団長が決められることはなく、従来は騎士団長の指名制だったがために、まさか自分が騎士団長へ立候補する機会が与えられるとは夢にも思わなかったからだ。そんな中、1人が声をあげる。


「やはり、現状でグレイブ副団長以外に適任はいないのではないでしょうか?」


グレイブは確かめるように周りを見回すが、特に反対する者も、我こそは、と言い出す者もいない。


「もちろん、今日この場にいないメンバーにも確認する必要があるので、この場で決めるわけではありません。もし立候補する方がいましたらまずはぼくのところまで、お越し願います。」


グレイブはそうそう、と思い出したかのように続ける。


「最後になりますが、この大変な時期に2人の騎士見習いが新しく仲間になりました。ゼラス=アルフレッドくんと、ショウ=フレデリックくんです。」


フレデリック、という名前を聞いた一部の人間はどよめく。おそらくタリスのことを知っている人間だろう。何か聞かれたら、タリスには申し訳ないがタリスの子ではないことにしよう。おれたちはグレンに促されその場で立ち上がり一礼すると、拍手が送られる。


「この2人には、こういった状況のせいで騎士団の中に師と呼べる人がいません。今はグレンに面倒を見てもらっていますが2人とも今年あがったばかりとは思えない実力者です。皆さんも是非2人に声をかけてどこかに連れて行ったり色々教えてあげてください。」


おれたちはグレイブの紹介に改めて礼をすると座り直した。


「それでは、今日はこれで終わりにしたいと思います。お集まり頂きありがとうございました。今後については騎士団長が決定次第ご連絡させていただきます。」


こうして、この場は滞りなく取りまとめられ、帰り際に何人かに騎士から激励の声をかけられる。どうやら選抜試験のときの試合を見てくれていたようで、次に魔物討伐の機会があれば連れてってくれる、とのことだった。おれたちの騎士団の中での活動もようやく始まりそうだ。


◇◇


それから数日後、結局騎士団長はグレイブがなったと連絡がある。せっかくの機会なんだから他の実力者もでたらよいのに、と思うが今のおれたちにそんなことは言えるわけがない。そして、オスタとはこれからも定期的に戦争を続けていくことも一緒に決まったそうだ。最初1年はおれたちは戦争に参加しないが、その後は状況次第で適宜声をかけられるらしい。


この日も、おれはゼラスとアリスでクエストから帰ってきて食事をとりながら話をしていた。


「こうやって城の見回りとクエストの達成をしていれば良いのも残り一年弱かぁ。」


「えぇ、そうですね。戦争に行くことになる前に、もう少し強くなりたいですよね。」


「でも実際、ゼラスさんとかショウの実力があればそれなりに生き残ることはできるんじゃないの?」


その問いにゼラスは首を横に振る。


「今回殺されたルイ騎士団長の実力は定かではないですが一瞬でやららてしまったそうです。仮にいくらぼくたちが強い部類に入るといっても騎士団長ほど強いっていことは流石にないでしょう?」


ゼラスの言葉におれは続ける。


「しかも、驚くことにルイ団長をやったのは、まだ幼い子供だったらしい。そう考えるとさらに実力を持つ騎士がいてもおかしくないってことなんだ。」


腑に落ちない顔をしながらもアリスは無理やり自分を納得させる。


「そっか。それじゃどう転んでも強くならないとダメってことね。」


「そうそう、備えあれば憂いなしってね。そのためにも、いろんな敵と戦って毎日の鍛錬をしなきゃね!」


こうしてしばらく、おれたちは共にクエストを周り、武器を探し、ときにはセシルと2人で出かけるなど息抜きをしながら鍛錬を積んだ。オスタとの小競り合いが各所で続く中、結局おれたちは戦争に参加することなく、アリスが騎士選抜試験に合格する2年間、ともに時間を過ごした。

敗戦の知らせの一方でグレイブを中心に戦争の体制を整える騎士団。一度振り上げた拳は落としどころを探すのがなかなか難しそうですね。


そしてショウたちに与えられた猶予は最短で1年。戦争にいかなくて済むこの期間に果たしてこの三人はどこまで強くなれるのでしょうか?


これで第6章騎士見習い編はおしまいです。次の話からは第7章成長編がスタートします。色んな人の思惑や、そしてショウたちの色恋話、そしてショウ自身の強化と、物語の核心に少しずつ迫っていきますので引き続きお楽しみいただけたら嬉しいです。


そして、2018年11月17日まではこれまでは日曜日を除くほぼ毎日更新してきていましたが、もう少ししっかりと話を練り込んでいきたいので、更新頻度を連載開始当初の基本月水金の週3回に戻したいと思います。もし、毎日更新を楽しみにしていただいている方がいらっしゃったら申し訳ありません。


それでは、引き続きよろしくお願い致します。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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