開戦
ディーナの剣を手に入れるため、おれたちは洞窟を進み、3人の連携でなんとか守護者である石像を倒すと、おれたちは嘆きの洞窟にあったのと同じような扉の前まで来ていた。
おれは前回の扉同様、扉の取っ手の部分に魔素を流し込むと青白い光が両開きの扉の隙間から漏れ出る。
「な、なによ、この光!?」
アリスは驚きの声を上げているがゼラスも同様に一瞬体を強張らせ、警戒態勢をとる。
しかし、扉が開き、中を見ると驚きの声をあげる。
「わぁー!」
その部屋はココが居た場所と同じように真っ白な部屋だったが、その真ん中には如何にもと言わんばかりの木箱が置いてある。おれの傍でココがゴロゴロと床に体を擦り付けている。どうやらディーナの魔素が多少残っているようで、久しぶりの本物の主人の魔素を堪能しているようだ。
そこには見たこともない本や壊れた武器、鎧などがいくつか置いてあったが既に使い物になるようなものは見たところなさそうだった。
「この辺にあるのは使えそうなものはなさそうですが。」
「あとはこの中ね。」
おれたちは周りを見渡しながら如何にも大切そうな木箱に近づく。ディーナのことだ、何かこの箱にすら仕掛けがないとも限らない。おれたちは少し離れて、剣の先っぽで器用に木箱を開ける。すると、特に何事もなく、その中には一振りの剣が入っていた。
「これが、聞いてた剣?」
おれは誰に聞くでもなく一人で呟くとココが「それ以外、なにがあるっていうにゃ。」とか言っている。
「ちょっと見た目は変わってるけど、そんなに凄い剣なのかしら?」
アリスがおれの持つ剣をジロジロと見つめる。刀身は真っ黒で両刃のそこまで大きく無い剣。柄の中心には赤い宝石が埋め込まれているがそれ以外はなんてことは無い剣だ。
おれは恐る恐るその場で振ってみるが振ってみても特になんてことはない。そんなおれの様子を見てココはボソリと呟く。
「キミはバカにゃ?魔素に反応するって最初に言ったにゃ。」
いや、もちろん覚えているがいきなりバカはないだろう。ものには順序ってものがあるではないか。しかし、いつまでもこうしてても仕方がないのでおれは剣に魔素を込めてみる。すると、埋め込まれた赤い宝石が赤く光るのがわかる。
「ん?魔素を使ってる気はするが、何が変わったんだ?」
その状態で剣を振ってみるが違いがよくわからない。
「もう、鈍チンにゃ!その剣はマスターの魔素に反応して、重量を変えることができるにゃ。重いと思えば重く、軽いと思えば軽くできるのにゃ。」
アリス達からはココがにゃあにゃあおれに何か言ってるようにしか見えないため、アリスが邪魔にならないようにとココを抱える。
「ココちゃん、ショウのことが好きなのはわかったけど、今はちょっと我慢してね。」
そんなアリスの宥める言葉に「あんなやつ好きじゃないにゃ、ただのマッサージ師にゃ。」とか言ってる。しばらくあいつに魔素をあげるのはやめても良いだろうか。
そんなことを思いながらおれはココに言われた通り、イメージをしてみる。
「重く、か。」
再び魔素を込め宝石を光らせその状態で剣が重いというイメージを持つと、まさに思ったその通りに重くなる。
「お、おぉ!?」
おれは調子に乗って更に重くすると鋒が重すぎて地面に付き、地面は剣の重みで跡がつく。そして今度はおれは軽いイメージをすると、さっきの反動もあるがこれまでと打って変わって重さを全く感じない。更に軽いイメージをすると、まるで刀身部がどこかに飛んでなくなったしまったような感触だった。
「この剣、面白い。」
試しに斬れ味付与をつけた上で重量を変えてみる。その黒い刀身に赤い光を纏う姿はとってもイカしていた。この剣の使用、魔素を流すだけで魔法としては行使しなくてもよいため、魔素を消費することもなければこうして重量を変えながら魔法の行使も出来るようだ。
おれは軽くなった剣を暗闇の中で赤い光を纏わせながらビュンビュン振っているとゼラスとアリスは唖然としている。
「斬れ味がとんでも無いのにあの剣速で振ることができるとか、反則じゃない。」
「えぇ、あれはたしかに凄いですね。ちょっと嫉妬しちゃいます。」
しかし弱点もなくはない。斬れ味付与を使ってる時は軽くすれば良いが、普通に使ってる時は軽くすると斬りにくい。剣はその刃を引くときに始めて当たってる部分が切れていくが、やはりある程度重みがあったほうが斬る対象の表面にしっかりと入り込み、綺麗に斬ることができる。この観点から考えると斬り始めは軽く、動き始めたら重くなる、というのが一番剣速が上がるし対象へのダメージも大きい。だからこの剣を振るう時はこの辺りの重量操作をしながらいつも通り剣を振るう必要があるのだ。しっかりと練習しないとこの剣の性能は発揮できないな、とそんなことを考えているとアリスがこちらに近寄る。
「ほんとにその剣私では使えないの?」
たしかに、アリスの言うことはもっともだ。実は誰でも使える可能性もある。おれはアリスに剣を渡すとまずはビュンビュン振ってみる。
「ちょっと見た目は変わってるけど振ると普通の剣ね。」
次は魔素を込めているようだが、特に何の反応もない。
「何なのよこの剣!ショウの言うことは聞けるって言うのに私の言うことは聞けないって言うの!?」
アリスは剣に対して怒りを露わにしているがそんなことを言ってもどうしようもない。おれはアリスから剣を返してもらうとマジマジと見つめる。
「ちょっと不思議な剣だけど、でもこの剣を使えばたしかにおれは強くなれる気がする!2人ともありがとう!」
ゼラスは満足そうに頷く。
「いえいえ、ショウくんが強くなってくれればこれからのクエストが楽になります。あ、それと、もしぼくが同じように武器を取りに行く時には是非力をお貸ししてくれると嬉しいです。」
「あ、それなら私も!」
「もちろん!んじゃまずは2人の欲しい武器の情報を集めなきゃだね!」
こうしておれたちは、今後2人の新たな武器を探しに行くことを約束し、ディーナの洞窟を後にするのであった。
◇◇
その頃、オスタに対し戦線布告をしていた騎士団がオスタといよいよ戦争を始める。この世界の戦争は決められた場所と時間でお互いが兵力を出し合って行われ、勝敗は降伏か大将の討伐で決まる。戦争前に事前にお互いの要求を出し合い、本来は今回のアーガンス側の要求としてはオスタ王の命だろうが流石にそれは難しく、まずは国境近くの小さな村をアーガンス領に含めることを要求とした。アーガンス側は少しずつ領土を広げ、最終的にはオスタを乗っ取り王を処刑するというストーリーを立てていた。
両陣営の間で開始の合図として決めていた火魔法が空高く打ち上げられるといよいよ戦争が始まる。両国ともに数万人規模の大軍で、その中を100人くらいの隊に分けて動かしていた。
クレイブは今回の大将である騎士団長がいる高台の陣営最後部に陣取っていた。
「いよいよ始まりましたね。相手はどれくらい持つでしょうかね。」
グレイブは余裕そうに敵陣営を見つめるがその手には余裕の表れか紅茶のカップが握られていた。話しかけられた顎口ひげを短く切りそろえた騎士団長であるルイはその口ひげを触りながら相手の戦力を分析する。
「うむ、相手もそれなりにやりおるな。この分だと、2日ほどだろうか。」
しかしそんな分析はある1人の相手の魔法使いによってあっさり覆される。
前線では魔法による援護射撃と近接攻撃による戦闘が入り混じっていた。そんな中、雷を纏いながら一直線に本陣へ向かってくる1人のオスタ兵に気がつく。
「な、なんだ、こいつ!?」
「なんて言う速さ、ぐぉ!」
「だ、だれか、こいつを止めてくれ!」
アーガンスの兵士が次々と抜かれていく中、その雷を纏った人物はどんどん加速する。
「へぇ、なんか面白いのがいるね。」
グレイブは高台から真っ直ぐに突っ込んでくる敵兵を見て興味深そうに呟く。
「ちょっと遊んでやろうかな。」
グレイブはその光を目掛けてゆっくりと歩みを進めると、あっという間に加速してきたそいつはグレイブの目の前に現れる。
「ちょっとお痛が過ぎるんじゃないんかい?」
通り過ぎ様に合わせてグレイブはショウにギルドで見せた時より更に速い剣速でそいつを斬りつける。
ヴィン
一瞬当たったかのように見えたグレイブの剣はその残像を捉えたのみで、本体はグレイブの存在を避けるかのように急遽進路変更をして、グレイブの剣戟を避けながら本陣へ向かって加速を続けていった。
「あぁあ、逃げられちゃった。まぁいっか。」
そして次の瞬間にはその光はルイの元に届き、ルイが剣を構える間も無く、その首を落とす。ルイの護衛でいた周りの兵士はルイを殺した張本人を取り囲むが、その幼さに驚く。
「こ、こんな若い子供にルイ騎士団長が。」
硬直する兵士を横目にその少年は終戦の狼煙をあげるが如く空高く雷を撃ち出すと、再び雷となって取り囲む兵士の間を縫って自陣へと戻っていく。
余りにも突然の出来事過ぎて、残された兵士の脳裏には、少年のその幼さと、青白く光る額の傷跡だけが焼き付いていた。
ディーナの剣の実力は重量操作でした。ゼラスとアリスが言うように、ショウは一体どこまで強くなったら気が済むのでしょうか?
しかし、そうは言いながらも戦場に現れたぶっ飛んだ強さのオスタの兵士。さて、これは誰でしょうか?そしてあっさり殺される騎士団長とそれを止められなかったグレイブ。初戦は敗戦で迎えた戦争、今後どうなっていくのでしょうか?