連携
おれが魔法を使える話をしてから、しばらく2人はおれのことをまるで人外のものをみるかのように見ていたが、それも来た道と同じくらいの道のりを延々と歩き、扉の前に辿り着く道のりの間だけだった。おれはこんなことならこの話をしなければよかったと後悔したのは言うまでもない。
当然、その道中には魔物が出てくるがこんな酷い仕打ちにあっているのだから当然おれは魔法を使わない。アリスは横で「あんたが魔法を使えばもっと楽なのに!」とかブーブー文句を言っているが知ったことではない。
谷間を抜け、洞窟を通り扉の前に辿り着くと、今までと全く違った雰囲気におれたち3人は息を飲む。
そこはココがいた嘆きの洞窟と同じように少し広い空洞になっており、その奥に扉があるのが薄っすらと見える。しかし、嘆きの洞窟と違うのはその地面に青白い光で魔方陣が描かれていることと、扉の前には扉と同じくらいの高さで大人2人分くらいの高さがある一体の石像があることだ。その石像は吐息が聞こえそうなほど精巧にできていて今にも動き出しそうだった。
「何よこの洞窟。こんなの、見たことないわ。」
「えぇ、この魔方陣とあの石像、如何にもって感じですね。」
おれたちは魔方陣と石像を目の前にして足を止める。
「まぁいつまでもこうやってみてるわけにはいかないからな。」
おれが一歩魔方陣に足を踏み入れると、足元の魔方陣の光が強く輝く。そして次の瞬間、ゴゴゴと地鳴りのような音と共に扉の前にいた石像が動き出したと思うと、おれたちに向かって走り出す。
「くるぞ!アリス!」
「わかってるわよ!」
アリスはおれの掛け声の前からあのキメラを倒した氷の槍を準備しており動き出した石像に向かって投げつける。アリスの点攻撃であれば最強の攻撃魔法である。
パシャン!
しかし、アリスから放たれた氷の槍は石像のその手ではたき落とされ、粉々に飛散する。
「なんて動体視力なの。」
アリスはこの距離からの氷魔法が無駄と悟りすぐさま剣を構える。
こうして、おれたちと守護者の戦いの火蓋が切って落とされた。
「ショウくん、アリスさん、ぼくが正面を受けます。2人は左右から!」
おれたちはゼラスの声と同時に左右に散り正面からゼラスが魔素を拳に溜めて急所付きを石像に向かって放つ。
ゼラスの攻撃は鈍い音を立てて石像の胸あたりにあたるがどうやら失敗したようだ。攻撃を受けた石像はピンピンしており、自分のことを殴りつけたゼラスに向かって拳を振り下ろす。ゼラスはその攻撃を躱すなか、おれとアリスはその隙を突いて左右からそれぞれ斬りかかる。しかし、この攻撃を予想されていたのか、石像はその巨体を感じさせない速さでゼラスに振り下ろした腕を軸にしたままクルリと反転しながらアリスの攻撃を躱し、そしておれへと裏拳を放つ。
おれは予想だにしていなかった攻撃に思わず回避が遅れ、石像から放たれた裏拳を自分の剣で受け止め、その衝撃で吹き飛ばされる。
「ちっ!」
おれたちは慣れない連携を取りながら石像の隙を突きつつ攻撃をするが、なかなか攻撃は当たらないし、攻撃が当たっても剣戟については表面に擦り傷をつけるのみで全く致命傷に至らなかった。
しかも、傷がついても怯むこともなく、こっちは疲弊しているのに全く疲れている感じを微塵に見せない相手と戦うのは精神的に結構くる。昨日大魔法を行使したアリスはここにくる道のりを含めやはり無理をしていたようで、かなりキツそうで、顔色がみるみる悪くなっていく。
これは出し惜しみをしてる場合ではないな、おれはそう判断すると剣に斬れ味付与をかける。どうやらアリスとゼラスもおれの魔法に気がついたようでおれが攻撃しやすいよう2人とも少し間合いを開ける。よし、これならいける。おれはそう判断し、石像の突きを掻い潜り、懐に入り込むと斬れ味付与をしたまま、お決まりの横一閃を叩き込む。
「ふん!」
気合い一閃、石像は真っ二つ、になる筈だったが、おれの剣は石像の腹部に一文字の傷をつけただけで大した攻撃にはならなかった。しかも、てっきりこの攻撃で倒せると思っていたおれはその場に硬直してしまい、石像からの追撃がすぐそこに迫っていた。やばい、油断しすぎた!おれは咄嗟に拳がくる方向の身を固める。しかし、ゼラスがおれが倒せなかったのを即座に判断して追撃をしてくれたおかげで石像はバランスを崩し、おれはその隙にその場から離れる。
「ごめん!助かった!」
「これくらいお安い御用です!」
おれはちらりとゼラスの方を見るとゼラスも身体強化を使って勝負を決めに来ていた。きっと、アリスのことを心配してのことだろう。しかし、なぜおれのあの一閃できれなかったのだろうか。そして手元の剣を見ると斬れ味付与が消えかかっているのに気がつく。
「ん?ちょっと待てよ。そうか、そう言うことか。」
おれは状況を理解する。ディーナの使い魔として動いているなら、あいつはディーナの魔素で動いている。そんな相手におれの魔素で攻撃したら吸収されてしまうということだろう。
でも、だとすると面倒なことになってきた。あいつを破壊するだけの純粋な攻撃力が必要ということである。斬れ味付与のかかっていない剣でそんなことをしたらいくらラキカから貰ったこの剣でもきっと折れてしまうだろう。となると、殴りにいくしかないか。だけど、ただ殴るだけではだめだ。あの硬さを砕くためにはあの方法しかないだろう。
「ゼラス、ちょっと相談がある!」
おれは真正面にいるゼラスの横に回り込むと待っていましたと言わんばかりの鉄拳、ではなく石拳がおれに振り下ろされるがおれはその拳を手で捌きながらゼラスに方針を伝える。話をしている間、おれとゼラスはただひたすら躱す躱す。ただ躱すだけなら強化は要らないだろうと思っていたが何気にきつい。ゼラスはこの攻撃の中をよく無事でいたものだと思わず関心してしまうがそんなことを考えている場合ではない。
「なるほど、確かにそれならなんとかなりそうですね。むしろ、それに賭けるしかないです。やりましょう!」
「よし、じゃあやろう!アリス、すまないがおれたちが攻撃の準備をする間、一瞬だけやつの気を引きつけといてくれないか?」
「わかったわ!その代わり、きっちりと決めなさいよ!もしものことがあったらただじゃおかないから!」
おれとゼラスは勝負をかけるべく、身体強化の魔法をかけると全身が青白く光る。おれとゼラスは石像に詰め寄り、攻防を繰り返す。よし、リズムがつかめてきた。
「それじゃあ、ゼラス、いくよ!」
「お願いします!」
ゼラスがおれに返事をしたことを確認するとおれはカウントダウンを始める。
「3!」
石像は小蝿をはたき落とすかの如くおれをその腕で薙ぎ払うがバックステップで回避する。
「2!」
そのままおれに向かって石像は真正面から拳を繰り出すが身体強化をしているおれは余裕で躱し、おれとゼラスは石像にさらに肉薄する。
「1!」
おれとゼラスはそれぞれ石像の前と後ろから石像に踏み込んだところに、カウントを聞いていたアリスが放った氷の槍が石像に直撃する。もちろんダメージはないだろうが意識の外からの攻撃で一瞬アリスの方に石像の意識が向く。
「ここだぁ!」
おれとゼラスは石像のみぞおちと背中の中心あたりに全く同時に拳を叩きつける。
ガシッ!
おれとゼラスの拳は寸分違わず石像の体を挟んで一直線上に並んでいた。
「やったか?」
おれとゼラスはその場を離れ、様子を見る。すると、おれたちが拳を当てたところから石像にヒビが入り、全身に伝播すると石像はガラガラと音を立てながら崩れ去った。
「な、なんとかやりましたね。」
ゼラスはその場で膝をつき、アリスも座り込んで肩で息をしている。おれもなんとか立っていられる状態だった。
やはり石像は魔物ではないようでその場には魔石は残らなかった。しかし、その代わりに真っ黒な拳大の石が落ちている。きっと、これがこの守護者の核として働いていたのだろう。何に使えるかわからないが、とりあえずおれが預かっておくことにした。
「それにしても、こんな倒し方もあるんですね。」
「上手くいくかどうかは分からなかったんだけどね。単純に片方から殴っただけだと攻撃の勢いが後ろに逃げて殺されちゃうから、それなら両側から同時に一点突破できないかって思ったんだ。なんとか上手くいってよかったよ。」
「えぇ、ほんとになんとかね。あんた、なんであの何でも斬れる剣で斬らなかったのよ?」
「いや、斬りたかったんだけど斬れなかったんだ。魔法そのものを吸収されたような感じでね。」
とりあえずディーナのことは伏せておきたいからそれ以上のことは何も言わず、おれたちはその場で一休みすると、いよいよ目的の扉の前に来ていた。
「さぁ、ようやくお待ちかねの扉を開けれるぞ。」
こうして、おれたちはディーナの剣を手に入れるため、その扉を開くのであった。
やっぱりディーナの準備した守護者はなかなかの強さでしたね。なんといってもショウの強みである斬れ味付与が使えないのはだいぶ痛手だったと思います。
さて、ようやくお待ちかねのディーナの剣との遭遇です。一体どれほどのものなのでしょうか?