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予想外の敵、そして邂逅

森を探索し、終盤に差し掛かった頃、おれの体力が限界に近づいていたため、少し開けたところで長めの休憩を取っていた。


タリスは、狩りで採ったウサギの血抜きを少し離れたところでしており、おれはゆらゆらと揺れる焚き火をぼーっと眺めていた。


タリスが血抜きから戻ってくると、捌いたウサギの肉に塩胡椒で味付けをし、焚き火の側で焼き始めるとほぼ同時に、肉の焼ける香ばしい匂いがしておれの食欲を刺激した。しばらくして焼きあがると、タリスはどこかで拾ってきた草を千切って焼きあがった肉の上に細かくちぎってまぶすと、おれに差し出してきた。


「どうだ、食えるか?」


おれはだまって頷きタリスから肉を受け取るとおもわずむしゃぶりついた。


「それだけ食べれるならなんとか家には帰れそうだな!」


タリスはおれの方を向いて自分の分の肉を取ろうとした、次の瞬間、


「ショウ!避けろ!」


そう叫ぶと、タリスはおれのほうに向かって走りだし、おれを横に突き飛ばした。


ザクッ!


鈍い音がするとおれが今さっきまでいたところに、鼠色の毛皮をまとった太い腕とその先から伸びていた黒い爪があり、地面を大きく抉っていた。

そしてそのすぐ横を見ると、右腕をだらんと垂らし、その右腕の二の腕あたりを左手で必死に抑えるタリスの姿がみえた。


「お父さん!」


おれは思わずタリスの元へ駆けつけようとタリスはこちらを見て叫ぶ。


「来るな!」


おれは慌ててその場に止まるが、時すでに遅し、鼠色の毛皮の持ち主、大きな熊の魔物、グリズリーがおれの目の前に迫っていた。


おれはどうしたらよいかもよくわからず、咄嗟に短剣だけ取り出し構えていたが、勢いよくおれにむかって振り回される腕の前に攻撃する間もなく逃げる他なかった。


グリズリーがおれを追い詰めている間、タリスは動かせる左手で、焚き火の中から先端だけが燃えている木を取り出しグリズリーにむかって投げつけ、なんとか気を引こうとする。


グリズリーの毛皮に当たった焚き木は、その鼠色の毛皮を黒く煤けさすことは出来たが、致命傷には程遠かった。しかしながらタリスの思惑通り、グリズリーは意識をおれからタリスに向けると、今度はタリスのほうに向かって腕を振って突っ込んでいた。


タリスは焦っていた。このグリズリー、この森の中でもたまに発生することがあり、その時はもちろん倒すことができるのだが、それもこいつを確認した後に安全を見て大体2、3人のパーティで討伐することが多い相手だった。しかしながら今回は2人とはいえ、1人は初めて狩りに連れて来る自分の子供でもう1人の自分は、最初の一撃で利き腕をやられており、動かせる状態ではなかった。出血量的にも、本来であればそんなに動いてよい状態ではなかったが、子供が狙われているのに指をくわえて見てるわけにもいかず、焚き木の投擲は止むを得ずの判断だった。


「ちっ、全くついてないな。さぁどうしたものか。」


タリスは悪態を吐くと腕を抑えながらグリズリーの剛腕を紙一重でかわし続けながらおれに向かって叫ぶ。


「ショウ、おれはなんとか時間を稼ぐから、このまま道を進んで森を抜けて、門番のところで増援を呼んできてくれ!」

そうは言うもののタリスは満身創痍だ。動きが鈍くなってきているのが側から見ててもわかる。

「でもお父さんがっ!」

「バカ!このまま一緒に死にたいのか!」

言われておれは唇を噛みしめる。このまま父親を置いて助けを呼びに行くのが正解なのか?ただ、多分往復でどれだけ急いでも30分以上かかる。それだけの間、タリスは持ちこたえることができるのか?

そんなことを考えていると、グリズリーは攻撃が当たらないことに腹を立てたのか、その場に仁王立ちして雄叫びをあげる。


「グォォォォォォォォォォ!」


その声に、森全体が震えているようだった。森から鳥たちが逃げ出していくのがわかる。


「さぁ、早く行け!今ので村も森の異変に気がついたはずだ!」


タリスはこちらを見て再度叫ぶと、おれは助けを呼びにいくのが一番全員の生存率が高い方法だと判断し、これから進もうとしていた森の出口に向かって走りだした。


その次の瞬間、


ドガッ!


何かが木に打ち付けられる鈍い音がしたので、その方向を見ると、タリスがグッタリと木のそばに倒れていた。

タリスは頭だけを動かし、おれのほうを見ると最後に一言


「逃げろ。」


とだけ言うと、タリスの体から力が抜けていくのが見えた。


「ちっくしょー!」


おれは完全に頭にきていた。タリスに逃げろと言われたことや、相手が自分にどうしようもない相手だと言うことも忘れて、タリスからもらった短剣を片手に、タリスに向かって歩みを進めるグリズリーに突っ込んでいった。


「この野郎!」


そんなことを叫びながら、グリズリーに突っ込んだおれは、やつはおれをほとんど見ないまま、腕を横薙ぎし、横から突っ込んだおれの脇腹にやつの腕が直撃すると、肋骨がメシメシっと音を立て口の中に血の味が広がり、吹き飛ばされた。


あー、これ、転移前にスノボで派手にこけて肋骨折った時のさらに酷いやつだ。


殴られた衝撃で吹き飛ばされながら、周りの景色がスローモーションになる中でそんなことを心の中で思っていると、背中に地面に当たった強い衝撃を感じおれの意識は刈り取られていった。


◇◇


次におれが気がつくと、そこは真っ暗だった。あぁ、おれ死んだのね。せっかくワームホール抜けて別次元に来たのに、6年間で終わりか。まぁ、あそこで人生終わったと思えば、まぁサービスタイムみたいなもんだったのかな。


そんなことを考えていると、フワリと、青白い直径50センチほどの球がおれの目の前に頭上から現れるとそこから声がする。


「次元を渡りし者よ。」


突然の出来事におれは目を丸くする。


「我、次元神なり。」


次元神?なんだそりゃ。おれに何か用なのか?一体なんなんだ?そしておれは死んだのか?そんな疑問が頭に浮かぶと、どうやらここでは頭に思い描いたことも全て相手に伝わるらしい。


「あー、もう、めんどくさいのう。ちょっとそれっぽく振る舞って見たかったからそーゆー演出してみたが面倒くさい!」


そう言うと、青白い球は人の形に変わっていき、そこから140センチほどの白髪の少女が現れる。腰元まで伸びる白銀の髪と白い肌、白のワンピースで全身真っ白。その赤い瞳の色だけが色づいており特徴的だったが、総じて可愛い女の子だった。


「人のこと可愛い女の子だなんて、私はお主よりずっと年上だぞ?」


そんなことまで筒抜けなのか。んじゃ、ワンピースの下はどうなってるんだ、とか胸がないな、とか邪なことを考えるとこれもバレるということか。


「お主、自分の状況理解してるのか?誰が貧乳じゃ?」


まぁ冗談はこれくらいにして、たしかに今の状況整理をしたいので、口に出して見る、


「ここはどこですか?あなたは誰ですか?ぼくは、いや、おれはどうなったんですか?」


自分の全身はわからないが、どうもこの世界にいる間は転移前の体のようだったので、それに合わせた口調にかえる。第一、この子の前では全てが筒抜けだからおれ自身の経緯も全て知っているだろうと思っての判断だった。


「お主の質問に答えてやりたいのは山々だがこの世界にいれる時間も少ない、用件だけ伝える。お主は死にそうじゃ。ただ、お主には生きていて欲しいから、少しの間だけ力を貸してやる。あと、もう1人同じタイミングで転移してきたやつはもっとうまく力を使ってるぞ。お前も私の与えた力をもっとうまく使うのじゃ。さぁもう時間切れじゃ。私を見つけ出せたら、もっと色々話をしようぞ。」


な、なんと自分勝手な。でも、なんだかとっても重要なことをいくつか言っていた気がするが、そんなことを気にしている間に意識がどんどん遠のいていく。


◇◇

意識が戻ると、おれは再び森の中にいて、地面に転がっていた。

ふと、周りをキョロキョロと見回すとおれをぶっ飛ばしたグリズリーと、その向こうにはグッタリしてピクリとも動かないタリスの姿が見えた。


おれが殴り飛ばされてからどれくらい時間が経っていたかわからないが、グリズリーは突き飛ばしたおれが動いたのをみると、すぐさま追いかけてきたのでおれが意識を飛ばしていたのはおそらくほんの一瞬だったんだろう。


不幸中の幸い、吹き飛ばされてもおれは短剣を手放していなかったようで、向かってくるグリズリーに対し対峙しようと立ち上がり、短剣を構えると、その声が頭の中に聞こえた。


「さぁ、イッツショータイムじゃ!今回は特別じゃ、こんなことは2度とないからな。私の動きをその体でよく覚えておくんだぞ!」


トーントーンとその場で軽く跳躍をすると、生まれた時についた傷が青白く光り、そしておれの顔がニヤリと笑っていた。


さあ不思議な銀髪少女の登場。そして光る傷跡。ようやくショウがただの子供じゃないっぽい感じになってきましたね。

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新作、始めました!

人として大切なことは全て異世界で学んだ!-大切なのはスキルでも境遇でもない、心だ!-

社畜サラリーマンが転成先で超絶魔力量を手に入れたものの、悩み、そして人として成長するお話です。是非お読みいただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
突然現れた次元神、展開の変わり方から文章の構成や、見やすい書き方。ここまで気づいたら読んでしまっていました! 続きを読むのがすごく楽しみです!!
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