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剣術修行のお姫様

それからしばらく、城をグルグルと回り、ゼラスとすれ違った時にアリスに稽古をつける話をすると、ゼラスは驚いていた。


「2人って、そんなに仲良かったんですね。」


ゼラスのその言葉に、おれはちょっとした腐れ縁みたいなもんだと言ったら笑っていた。そして、夕暮れ時、グレンは最初におれたちを見送ったところでおれたちの戻りを待っていた。


「今日の見回りはこれで終わりだ。ご苦労様。あと2日は同じような感じだからそのつもりでいてくれ。」


戻ってきてからのグレンの肌ツヤがなんだかよくなってる気がするが気のせいだろうか。そんなことはさておき、おれは約束通りゼラスにも断りを入れてアリスの元へ行く。おれはゼラスも一緒にどうかと誘ったが、ちょっとゆっくりしたいから、と言って先に帰って行った。少し待っててもらうことになるが、おれが稽古を終えたらゼラスを食事に呼びに行くことになった。


「それじゃあ、行きますか。」


おれは今日の見回りと以前兵士に連れられてきた記憶を頼りにアリスの部屋に辿り着く。


「こうやって部屋をみるとやっぱりアリスはお姫様なんだな。」


おれはなんだか緊張しながらドアノブに手を取り扉にコンコン、と当てる。すると少し間を置いて中から出てきたのはなんとアリスではなくセシルだった。


「あ、あれ?アリス様の稽古をと思って来たのですが。セシル様の部屋でしたか?」


おれは突然の姉の登場にドギマギしてしまう。この胸の高鳴りは驚きのためであって、決して恋心ではないと自分に言い聞かす。


「ここはアリスの部屋で間違い無くてよ?もしよければ、こんなところで立ち話もなんだから、中に入ってはいかがですか?」


セシルはおれを手招きして部屋の中に招き入れるが、紛いなりにもお姫様の部屋、ただの騎士が入って良いのだろうか。おれが戸惑っていると、セシルはおれの手首を掴み、さぁさぁ、と半ば強引に部屋の中へ連れ込まれる。


そして、入り口を入った先には、見慣れないドレスを着たお姫様が鏡に向かって座っていた。


「あれ?アリス様は?」


おれがキョロキョロとしているとセシルは手で鏡の方を示す。そして、鏡越しにその顔をみると、そこにはたしかにアリスがいた。


「あ、アリス!?」


おれは驚きのあまり思わずいつもの感じでアリスを呼んでしまうとセシルはクスクスと笑っていた。おれがしまった、と思い咄嗟に口を抑えるとセシルはおれの方を向く。


「わたくしの前では気にしなくても良いんですよ、そっちの方が、アリスも喜びます。」


そう言ったセシルからアリスに目線を移すと、先ほどまでの素振りをしていた軽装ではなく、薄紅色のドレスを着て少し化粧をし、髪はレースのあしらわれた髪留めでハーフアップに纏められていた。アリスはすっくと立ち上がると、その薄紅色のドレスはユッサユッサと揺れて布の擦れる音がする。


「あれ、アリス、稽古は?」


おれは思わず問いかけると、アリスは気まずそうにモジモジとしていたがその重い口を開く。


「ごめん、ショウ。稽古を受けるつもりだったんだけど、急遽お姉ちゃんの昔のドレスを着てみてほしいって言われちゃって。」


そう言うアリスはどこか恥ずかしそうに下を向くと、すかさずセシルがフォローをする。


「ごめんなさいね、ショウくん。親戚の子にドレスをお譲りすることになったんだけど、アリスが着れるドレスは手元に取っておきたいって思ってて、試しに1着着てもらったの。でも、これでアリスの着れるサイズ感がわかりましたわ。」


なるほど、それでドレスを着てたのか。まぁそうゆうことなら仕方がないな。そもそも、こんなお姫様2人に謝られて、どうこう言えるわけがない。


「いえいえ、全然気にしないでください。それじゃあ、今日は稽古やめておいた方が良いかな?着替えたりするのに時間かかるでしょ?」


おれはアリスに向かって言うと、アリスは首を振る。


「ううん、大丈夫、すぐ着替えられるから、ちょっとだけ部屋の外で待っててくれる?」


まぁアリスがそう言うならよしとしようか。おれは頷き部屋の外でしばらく待たせてもらうことにした。


しかし、この部屋の前で待つと言うのは小っ恥ずかしくて良くなかった。


「あら、アリス様のところにお客様?」


「アリス様にその歳で近づこうなんて、あなたもなかなか目の付け所が鋭いわね。」


ここで待っていたおかげで、待っている間に通る従者にことごとくからかわれ、おれは適当に受け答えをする羽目となった。その都度おれは自分が騎士の見習いでアリスの稽古に来たことを説明したのでこれで名前を覚えてもらいやすくなったと前向きに考えるしかないな、と割り切る。そして、しばらくするとアリスとセシルが揃って部屋から出てくる。アリスは再び軽装で、腰には帯剣していた。


「待たせたわね。それじゃあ、よろしく頼むわ!」


セシルもこちらを向いて、よろしくお願いします、と頭を下げていた。ただの騎士にそんなに頭を下げなくても良いのに。


「よし、じゃあ行こうか!」


こうして、アリスのための稽古が始まった。


◇◇


アリスが昼間に素振りをしていた中庭に着くとおれは最初にアリスに断る。


「前も言ったかもしれないけど、おれ、剣を教えたことなんてないからどれくらい教えられるかわからないからね?」


アリスはコクリと頷くと持って来ていた木刀をおれに渡す。


「大丈夫よ、まずはこれで私と打ち合ってくれれば。その代わり、手加減はしないでね。」


おれは荷物を近くに置くと、アリスに向かって木刀を構える。


「いいよ、わかった。でも、まずはおれからは攻撃しないから。」


おれが見せる余裕にアリスは少し頭にきたようで、アリスも剣を構えこちらに打ち込んでくる。


「その減らず口、すぐに叩けなくしてやるわ!」


こうして、打ち合いによるアリスの剣術稽古が始まる。


アリスの剣は型がしっかりと出来ていて、見ていて惚れ惚れする振り方だ。しかし、やはりまだ動きに無駄があるし何より遅い。これくらいの攻撃ならおれから攻撃しなくても当たることはないだろう。スルスルと攻撃を避けるおれに頭に来ていたのだろう。


「あんたは、さっきから、避けてばっかりで!ちょっとは、攻撃、してきたらどうなの!?」


タリスもおれと稽古をつけているときはこんな気分だったのだろうか。そんなことを思い出しながらただひたすらおれはアリスの攻撃を避け続けることしばらく。


「はぁ、はぁ。」


アリスは膝に手をつき、肩で大きく息をしていた。


「あんたに、攻撃を当てるだけっていうのが、これだけ難しいとは思いもしなかったわ。」


おれはアリスに水を差し出す。


「アリスの剣は綺麗な剣だからね、予測が立てやすいんだ。それに、まだまだ剣速が足りないし、無駄も多い。」


アリスはおれから水を受け取るがその水には口をつけず、悔しそうに唇を噛み締めていた。


「でもね、ちゃんとこうやって打ち合いと素振りを続けていけば、ちゃんと剣速も速くなるし、無駄もなくなっていくから大丈夫だよ。アリスもまだまだ強くなれると思う。」


アリスはおれの方を向いて水を口にする。


「ちなみに、あんたはどれだけ素振りしてるのよ?」


おれはタリスに稽古をつけてもらってからほぼ毎日続けている素振りの数をアリスに教える。


「全8方向と突きそれぞれを1日500回かな。」


おれがおもむろに口に出したその数を聞いたアリスはドン引きしていた。


「ぜ、全部で5000回弱。あんたバカなの?」


やっぱりこういう反応になるわけね。おれは予想通りの反応だったが、がっくりする。


「まぁおれの場合はそれしかやることがなかったからね。田舎だったし。まぁ同じ数じゃなくてもいいけど、毎日振るうことが大切かな。」


アリスは呆れながらも納得していた。


「要するにそれくらい努力してるからあんたはその歳でそれだけ強い訳ね。さすがに、同じだけやるのは難しいかも知れないけど、2年後の選抜試験がラストチャンスなの。そこに向けて私も努力しなきゃね。」


今のアリスが2年努力したらどれくらい強くなるのだろうか。今から楽しみだ。だが、おれも負けちゃいられない。その為にもまずは剣を取りに行かなきゃな。そんなことを思っていたら、おれはあることを思いつく。


「おれ、ふと思ったんだけど、アリス、もしよかったらおれ達と一緒にクエスト回らないか?」


アリスはおれの突然の誘いに驚いているようだった。


「どういうこと?」


おれはアリスに今の騎士団の状況と、それを理由にクエストを回ることを指示されていることを説明する。


「本当は騎士がお姫様を危険な場所に誘うっていうのは良くないと思うんだけど。でも、アリスにとってもプラスになるんじゃないかなって思ってさ。」


「それなら心配いらないわ。私も今まで何度か稽古をつけてくれる騎士に頼んでクエストに連れてってもらったりしたことがあるもの。」


まぁそりゃそうか。そうでもしない限りアリスのあの実戦感覚は説明ができない。


「そっか、まぁ無理に、とは言わないけどアリスがいてくれたらおれ達も心強い。」


アリスは誘われて嬉しい気持ちを必死に押し殺して、腕を組んで強がる。


「ふ、ふん!あんたがそこまで言うなら私にも丁度いいしついて行ってあげるわ!」


実際問題、おれたちは物理攻撃一辺倒だからアリスみたいな魔法攻撃ができる味方が1人いるだけでもだいぶクエストの達成率が安定する。それに、アリスには悪いがアリスと一緒にいればセシルに出会える機会も増えるかも知れない、なんて密かな想いはアリスには当然秘密である。


「よし、じゃあ決まりだ!改めて、よろしくね!」


おれはアリスに手を差し出すと、アリスはその手を握る。


「えぇ、こちらこそ!」


こうして、おれは翌日の見回り後にまた来ることを約束し、おれとゼラスに加えてアリスも一緒にクエストに回ることになるのであった。

剣術修行やクエストを一緒にすることになったアリスとショウ。一方でショウはセシルに心を奪われてしまいそうです。この3人の今後の関係は一体どうなるのでしょうか?


そして、アリスとショウの剣の腕前はかなりの開きがあるようです。この差をアリスはどこまで縮めることができるのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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