反省会
おれたちが目的のキングスライムを討伐し、嘆きの洞窟を出ると辺りは薄暗くなり始めていたのでおれたちは翌朝にアーガンス城へ戻ることにした。その日の夜、ココはおれに撫でろ撫でろと強要してくるので仕方なく首筋を撫でてやると、ゴロゴロ喉を気持ちよさそうに鳴らし、おれの足の上で寛いでいた。大人しく黙っていればかわいいものを、口を開いたかと思えば思いもしないことを言われる。
「キミたち、ちょっと弱すぎじゃにゃい?あんな相手に手間取ってたらマスターを助けに行く前に何十年かかるかわからにゃいにゃ。」
おれは思わずこの撫でてる首をそのまま握りつぶしてやりたい衝動にかられるが、流石にそれは思いとどまった。
「そうは言うけど、この歳であればこの実力でもそこそこ出来る方なんだけどね。」
ココはもっと撫でろと言わんばかりに首をうーんと上に伸ばす。
「それとこれとは関係ないにゃ。同世代の中でどれだけ強くても、結局マスターを助けられなかったら意味がないにゃ。」
この猫、ただのツンデレ猫かと思ったら時々核心をついてくる。たしかに、周りの中で自分が強いかどうかは関係ない。結局その強さで何ができるか、自分がやりたいと思うことができるのか、というのが重要な点であるのは間違いない。
「たしかに、それはココの言う通りだね。でも、これでも精一杯強くなるための努力はしてるから今すぐにとてつもなく強くなれって言われたら、それはやっぱりちょっと難しいと思うんだよね。」
ココは何言ってるの?といわんばかりの大アクビをすると、おれが考えもしなかったことを言ってくる。
「強い武器を使ったら良いじゃにゃい。強い武器を持ってるってことも、強さの1つだと思うにゃ。」
な、なるほど。たしかに一理ある。
「たしかに強い武器持ったら今よりも強くなれるかも!でも、そもそも強い武器って何?それに、そんな武器あったらみんな欲しがるよ。」
ココはおれの方を向いて座りなおす。
「ほとんどの武器はたしかにそうだけど、世の中みんなが欲しがらにゃいけど強い武器もあるにゃ。」
この猫、ひどくもったいぶった言い方をするな。しょうぁない、ちょっと魔素を多めにやるか。おれはココの首筋を撫でながら意識的に撫でる手に魔素を集める。
「ふにゃぁ、その魔素、いいにゃぁ。」
惚けてるココにおれは問いかける。
「そんな武器、どこにあるの?それに、なんでその強い武器を欲しがらないの?」
ココはトロンとしたまどろんだ目でおれを見る。
「しょうがないにゃ、キミにだけ特別に教えるにゃ。実は、マスターが自分用に作った剣があって、その剣がちょっと不思議な力を持ってるからその剣がキミにどうかな?って思ったんだにゃ。その剣の力はマスターが魔素を込めた時に初めて発動するから、そうじゃにゃい人が使ってもただの剣で、誰も見向きもしないにゃ。」
なるほど、確かにディーナが自分用に作った剣であれば何かしら面白い力を持ってそうだし、他の人が興味を示さないのもわかる。その後、ココにいろいろ聞くとその剣自体の効果はよくわからないそうだが、トメリアの街から東に行った洞窟の中にその剣は隠されていることがわかった。
「よし、んじゃちょっと時間見て取りに行くかな!ココ、ありがと!」
こうしておれは次の目標が見つかった。
◇◇
翌朝、嘆きの洞窟を出ておれたちはアーガンスに戻り、ギルドに討伐報告をすると受付のマロンは驚いていた。
「まさか本当にキングスライムをちゃんと倒してくるなんて驚いたよぉ。最初はギルドクエストの厳しさを身をもって体験してもらうつもりだったのにぃ。」
こいつ、おれたちが死んだらどうするつもりだったのだろうか?そんなおれの思いを無視してマロンは納めた魔石を見ながら更に続ける。
「しかも、これメタルスライムの魔石ですねぇ。出会えたのも珍しい上に、散々人をおちょくった挙句逃げてしまうのでなかなか倒すのが難しいんだよねぇ。」
ゼラスはたまたまですよ、なんて謙遜していたが、名前からして確かに倒すのは難しそうだ。
おれたちはマロンからクエスト報酬を受け取ると既にあたりは薄暗くなり始めていた。おれたちは、一度汗を流しに家に戻ると、初めてのクエスト達成を記念して今回の報酬を元手に食事をする事にした。
「かんぱーい!」
おれはジュース、ゼラスはエールをそれぞれ掲げ、お互いの無事と今回のクエスト達成を祝福した。ちなみに、ココを家に置いてきたと言ったらゼラスはひどく残念がっていた。
アーガンスでは14歳から飲酒を許され、まさにゼラスは今年で14歳らしい。おれはそこまで酒に興味があるわけではないが、やはり何かを成し遂げた後に飲む酒はその雰囲気だけでも味わう価値があると転移前から思っていた。
次々と運ばれてくる温かい料理はクエスト中は保存食ばかりだったおれたちの舌を癒してくれる。メイン料理の牛肉はもちろん美味しいが、寒い季節はこちらの世界でもやはり根菜類が旬なようで、柔らかく煮込まれ味がしみた根菜類も負けないくらい美味しかった。
「それにしてもゼラスはやっぱり強いんだね!メタルスライムなんて倒しにくい魔物を倒しちゃうなんて。」
ゼラスは首を振って否定する。
「いえ、たまたま運が良かっただけです。」
その顔には謙遜ではなくむしろ自分の実力の低さを痛感したような悲痛な面持ちがあった。なんでも、今回ゼラスが放った急所突きは当たるも当たらないもある意味運次第。もちろん、狙うだけの技術が必要なので理論的には技量が高ければ急所をほぼ確実につけるのだろうが、それでも絶対成功するわけではないようだ。
一方、おれの方もたまたま無我の演武と呼ばれる特殊状態になれたから勝てたものの、毎回あの状態で勝てるかと聞かれると疑問である。もちろん、おれは魔法を使えば良いのだからある程度余力はあるのだが。そろそろ、ゼラスくらいには魔法のことを話しても良いのかもしれない。
そんなお互いの今回の反省を話しながら、結局出た結論。
「やっぱりまだまだおれたちは弱いんだね。頑張って強くなろう。」
そして、おれはココに聞いた話を元に全ては話さずに、強い剣を探すためにトメリアの東にある洞窟に行きたいことを伝える、
「良いですね、強い剣。それでは、次のクエストでもしそのあたりのクエストがあればそのクエストを消化しながらその剣も一緒に探しましょう。」
こうして、おれたちは次なる目標を見据えるのであった。
翌朝、おれたちは予定通り騎士団の詰所にいくとグレンが待っていてくれていた。
「早速キングスライムの討伐クエストにいってクエスト達成したらしいじゃないか。流石だな。」
既にマロンあたりがグレンに報告したのであろう。あの受付嬢、おっとりしているように見えてやることはしっかりやる。そして時折怖いことを言うから人は見かけで判断してはいけない。
「うん、なんとかね。でも、今のおれたちだとBランクくらいのクエストが精一杯みたい。」
残念がるおれたちを宥めるかのようなグレン。
「まぁそう言うな。騎士になったばかりでBランクのクエストなんて普通達成できないんだからな。まぁそんな2人には今日の仕事は丁度良い休憩みたいなものかもしれないな。」
まぁ昨日戻ってきたばかりだったし、確かにちょっとゆっくりしても良いかもしれない。ゼラスも同じ気持ちだったようだ。
「それは助かります。それで、今日はなんのお仕事ですか?」
ゼラスは初めての王宮での仕事に意気揚々としているのが声でわかる。
「あぁ、なんて事はない、城内の見回りだ。まぁ今日は見回りと言う名の挨拶回りのようなものだな。城の中をウロウロして、不審人物がいないことをチェックする。まずは一周おれが案内するから、後は2人で手分けして城内を見回ってくれ。あ、適当に休憩してもらって良いし、日が暮れたら終わりだ。」
なるほど、確かにこれは良い息抜きかもしれない。こうしておれたちはグレンに連れられて見回りと言う名の城内探索に出かけるのであった。
なんとかクエストを達成した2人ですが、お互い危機感はもっているようですね。でも、この向上心がきっと2人の強さの源なのでしょう。
騎士の仕事や自分の強化など、色々とやることはありますが、少しずつ成長していってほしいですね。