嘆きの洞窟
キングスライムの討伐を決定した翌日、おれたちは騎士団にクエスト受注の報告をすると、3日ほどはおれたちが城を空けても問題ないらしく、早速その日におれたちはクエストに出ることにした。嘆きの洞窟は、アーガンス城から西へ少し行ったオスタへ向かう街道を少しそれたところにあるらしく、半日ほどでたどり着くらしい。
おれとゼラスは出発の準備を終えると、馬に乗って嘆きの洞窟へ向かう。道中は街道を馬で走ってるせいか殆ど魔物にも会わず唯一休憩中に襲われただけだった。その時に初めて気がついたが、ゼラスは通常爪を装備しているため、おれと戦った時とは攻撃力が段違いだった。これなら、1人でもキングスライム倒せるのではないだろうか。
そして、おれたちは予定通り移動を始めた夕方には連なっている山の一部がぽっかりと口を開けているのが見えてきた。そう、これこそが嘆きの洞窟の入り口だった。そして、そこにたどり着いて、嘆きの洞窟の名の由来がわかる。
ウォーン
時折吹く風に合わせて、嘆かわしい声のような音が聞こえる。山や洞窟を抜ける風が反響して、きっとこのような音が聞こえているのだろう。
「ちょっと気味が悪いけど、今日はここで野営して、キングスライムの討伐は明日だね!」
おれたちは各々テントを広げると簡単な食事をとり、この日は少し早いが眠りについた。
◇◇
ふとおれは気がつくと、何やら岩場の中にぽっかりと空いた空間にいた。
「あれ、ここ、どこだ?」
見覚えのない場所だったが、普段着で剣や道具も持っていた。
「ゼラスとたしか一緒にいたよな?」
キョロキョロとしていると、空間の奥の方に巨人が通るのか、というほど大きな金属製の門があるのを見つける。
「ん?なんだこれ?なんかいかにも何かありそうな扉だな。触らぬ神に祟りなしって言うが。」
おれは自分がどこにいるかわからないような状況で、何が出てくるかわからない扉を開く勇気はない。だが、そこ以外にどうやら出口もないようだった。
「ったく、どうやらあの扉を開けないといけないってことらしいな。」
おれは息を潜めながら、剣を抜き、ゆっくりと扉を押す。しかし、残念ながらビクともしない。
「なんだ、開かないんだ。」
そう思って引き返そうとすると、扉の中央に扉を引くための輪っかが見える。
「あ、押す扉じゃなくて引く扉なんだね。」
そして、おれはその輪っかを握ると、おれが産まれたときからずっと消えていない、左手の甲の痣が青白く光り、そのまま扉を引くと、中からも同じような青白い光が漏れ溢れる。
「う、うわぁ、なんだこれぇ!?」
おれは思わず叫ぶと、その叫んだ声で目が覚める。
「え!?あ、なんだ、夢か。」
ため息を吐くと、外は寒いと言うのに、その背中が汗でべったり濡れているのがわかる。夢にしては妙にリアルな夢だったな。ふと、手の痣を見ると、なんだか痣が疼いているような気がした。
おれは近くの水を一飲みすると、何事もなかったように再び眠りに落ちた。
翌朝、おれたちは日が昇ると早速嘆きの洞窟に入る。さすがキングスライムが巣食ってるだけあって、至る所に地底湖や川が流れていて、全体的に湿気っていた。その影響で、現れる魔物は色取り取りのスライムの他、両生類系のカエルやらトカゲやらを大きく、グロくしたのが多かった。
しばらく洞窟を突き進み、おれはこの日何度目かの赤いスライムをぶった斬ると悪態を吐く。
「やっぱジメジメしたところは気持ち悪いのが多いな。これでどれくらい進んだんだろう?」
ゼラスは事前にギルドから供給された地図を見ると、目的のキングスライムがいるところまで、大凡半分くらいは進んだようだ。ギルドは通常、討伐対象の情報がかかれた地図を渡しており、その地図を使うことで少しでもクエストの達成率をあげるよう心がけている。逆に言えば、初めて入るダンジョンはそれだけでAランク以上が確定する。
「ちょっとずつ、奥に進むにつれて魔物も強くなってきましたね。気を引き締めていかないと。」
確かに、おれは魔素の雰囲気も少しずつ濃くなっていくのを肌で感じていた。ゼラスは水を軽く口に含みながら2人はさらに奥へと進む。
おれとゼラスはあまり休みもせず、奥に進み続けていたため、それぞれ疲労が溜まってきていた。そろそろ休もうか、そう声をかけようと思ったその時に、今まで見慣れない敵が現れる。大型のコウモリのような格好をしていたが、その色は黄緑色でこの場にまったく相応しくない色をしていた。
「チッそろそろ休もうってときに。申し訳ないが、サクッとやらせて」
おれがそこまで言いかかると、その緑色のコウモリ擬きはおれの方を向きながら大きく息を吸っていた。おれは、キメラと戦った時のことを瞬間的に思い出し、咄嗟にバックステップを踏む。
すると、予想的中、そのコウモリ擬きは口から広範囲に氷の礫を吐き出しながらおれに向かって迫ってくる。おれはそのまま後ずさると、後ろに出した足が地面に着かない。そう、おれが足を踏み出したところは、ちょうど岩肌の切れ目だったのだ。周りの岩の陰でそこに穴が空いていることはなかなか気がつかないだろう。
「あ、あれ?」
おれはバランスを崩しながら、ゼラスがコウモリ擬きを引き裂くのが見える。よし、魔物は倒した、が、おれは大丈夫か?そう思うのも束の間、おれは何度か背中やら足やら打ちながら岩の壁を転げ落ちるが、少し落ちるとすぐに地面に辿り着いた。幸い、軽い全身打撲で済みそうだ。
おれが上を見上げるとゼラスが松明を掲げてこちらを覗き込んでいる。
「大丈夫でしたか?」
ゼラスの問いにおれは体を起こしておかしなところがないか確認してみるがどうやら大丈夫そうだった。
「うん、大丈夫!」
その言葉に、ゼラスは安心した様子で、道具袋からロープを取り出す。
「それにしても、こんなところに落ちるなんて、まだまだ注意が足りないな。」
おれはゼラスのロープが降りてくるのを待ちながら、自分が落ちた辺りを見渡す。すると、その目の前には、思いがけない光景が広がっていた。
「あれ?ここ、夢で見たところだ。」
洞窟の中に不自然に空いた空間の奥には、夢と同じ大きな謎の門がおれのことを呼んでいるような気がした。
何故か夢に出てきた場所と同じ場所にたどり着くショウ。そして、夢の中ではこれまで序盤から全く話に出てこなかった手のアザが光りますが、現実も同じようにいくのでしょうか?そして、扉の待ち受ける先には一体何があるのでしょう?