スライムくん、再び
草むらからひょっこり現れたスライムくん。こいつ自身にはなんの恨みもないけども、あなたのお友達がおれを驚かせたから、その恨みを晴らさせてもらうことにしよう。
といっても、いきなりの、そして初めての魔物との対峙だ。なかなか飛び込む勇気が持てない。そして攻める躊躇をしていたら、どうやらむこうもこちらを敵として認識したらしく、ウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながら近づいてきて、残りおれまで2m近くになるとこっちにむかって飛びかかってきた。
放物線を描いて飛んで来るそいつをおれは咄嗟に後ろに飛び退いてよけた。うん、動きは単調だ、なんとかなりそうだ。そんなことを考えていると着地と同時に再びこちらに向かって飛んで来る。
よし、これならいける。
おれは再び同じ軌道で飛んで来るやつを今度は横にかわして飛んで来るであろうところに横薙ぎの一閃。
「ぴぎゅう!」
苦しそうな鳴き声が聞こえてくる。残念ながら流石に一撃では終わらないらしいが苦しそうに地面でのたうち回っていたのでおれは転がってるそいつを足で思いっきり蹴飛ばした。
「ぷぎゃ!」
と叫んだかと思うとほぼ動かなくなったので、倒したのかと思いタリスの方をちらっと見る。
「まだだ!魔物は倒すと魔石を落とすから、それまでは倒してないんだ!」
それを言われてハッとした。たしかにそうだった。そう思い再びスライムの方に向き直すと、やつは最後の力を振り絞ったのか、こちらに向かって再度飛んでくる。
ザクッ
おれの短剣が上段からダイブしてくるスライムを斬りさくと、今度こそスライムの体は小さな魔石だけを残して消えてなくなった。
カランと魔石が地面に落ちると同時におれもその場に膝をつく。
「はぁー、なんとか勝った。」
対して動いたわけでもないし、そこまで長い時間戦っていたわけではないが、やはり自分の生死がかかった状態で集中し続けるのはなかなかしんどいようである。
タリスが近づいてきて、水筒に入った水をおれに差し出し言った。
「さすがおれの子だ、最初はイマイチだったが、一度責め始めてからは綺麗な攻め方だったな!まさかいきなり足蹴りするとは思わなかったぞ。」
おれは水筒を受け取り、水を胃に流し込むと、息が落ち着いてくるのがわかる。そして応える。
「相手の背が小さいから斬るのが大変だなって思って、思わずボールみたいだったからそのまま蹴り飛ばしちゃえばよいかなって。」
そうおれが言うとタリスは笑って言う。
「初めて戦う魔物がボールみたい、か。こりゃ傑作だ。ショウは将来大物になるかもしれないな!」
そう言いながら、スライムが落とした魔石をタリスが拾うとおれに手渡してきた。
「ショウが初めて倒した魔物の魔石だ。価値の高くない魔石だが、ショウにとっては大事なものになるだろう。どうするかは任せるが、とりあえず渡しておく。」
おれは魔石を受け取ると指でつまんで空にかざしてみる。楕円形の黒紫色した、イメージ的には紫水晶のさらに色が濃いやつだ。魔石から抜け出る光が、おれの顔の一部を紫色に染めていた。
おれはこれを何に使うか決めかねていたが、しまうところもなかったのでとりあえずズボンのポケットにしまっておいた。
おれが立ち上がり、魔石をしまうのを確認するとタリスは行こうか、といって、再び森の中へと進んでいった。
◇◇
所々で休憩をとりながら2人は森を散策していた。この森は奥深くまでいけばそれこそ一日では回りきれないが、通常の見回りのために周回の道が作られており、ちょうど3分の2程度を回ってきて、森の中の探索も残すところあと少しといったところだった。
それまでの道中でも何度か魔物と遭遇した。これまででてきたスライム以外にも、大きなナメクジみたいなやつや、これまたでかいアリ、コウモリみたいにバタバタ飛びながら襲いかかってくるやつなんかもいた。初めて見る魔物はタリスが倒していたが、スライムや、大ナメクジは動きが単調か、遅いためおれが戦っていた。
大ナメクジと初めて戦った時は、あのネバネバが嫌で、しかもおれがもってるのは短剣だったからあの粘液が手に着くのを恐れてなかなか攻撃できなかったが、それに見兼ねたタリスがおれに剣を貸してくれてからと言うもの、水を得た魚のように嬉々として斬りかかっていったのだった。
「だいぶ魔物に物怖じしなくなってきたな、でもそうゆうときこそ油断しがちで大怪我をする可能性があるから、気を抜くなよ。」
タリスがそうは言うものの、おれはもう満身創痍で、集中したくてもなかなか集中できない状態だった。おれは先程倒した大ナメクジの魔石を拾おうとすると、そのままよろけて膝をついてしまった。
それを見たタリスがこちらに駆け寄り、おれから剣を預かるとそのままおれに手を向けた。
「立てるか?そりゃそうだよな、ここまでよく頑張ったな。もう少しだけ行ったところに少し道が開けたところがあるからそこでちょっと長めの休憩を取ろうか。」
タリスがそう言うのをきいて、強がりで今までなんとか歩いてきていたおれはやっと休めるとホッと一息ついていた。当時のおれには、その先で起きることを予想なんてできるわけもなかった。
初めて魔物を倒して順調に進んでいるように見えますが、、やっぱりそんな簡単に終わるわけがなさそうですね。