新たなの決意
「だからおれたちは、テペ村で身分を隠しながらずっと生活してきてたんだ。」
タリスが、自分たちの成り行きを一通り説明すると、既に夜は更け、街も完全に眠りについている時間だった。
「そっか、じゃあ、今回みたいに人が魔物になるのは、昔にも似たようなことがあったんだね。」
ラキカは頷く。
「おそらく、今頃騎士団はなぜ、そして誰がイータをああしたのか、必死に探すだろう。ショウ、お前はもしかしたら物凄い大変なタイミングで騎士団に入ってしまったのかもしれないな。死に急ぐなよ?」
タリスは続ける。
「そうですね。ショウ、いくらお前が強いって言っても、世界中にはどう逆立ちしたって敵わない相手が五万といるからな。だから、勝負に勝つことが勝ちじゃない、最後まで生き残ったやつが勝ちなんだと、そう思うようにするといい。」
おれはラキカとタリスの方を見て礼をする。
「ありがとうございます、お父さんもありがとう。ぼくはまだまだ死ねないよ!だって、お父さんにもラキカさんにもまだ勝ってないからね!」
ラキカはエールを飲み干しながら笑う。
「ガハハハハ!んじゃ、ショウはいつまでたっても死ねないな!」
この飲んでる時は、まさかこれから長い戦争の時代になるとは、誰もが予想していなかっただろう。
◇◇
決勝戦が終わった翌日、やはりマーナは人目が気になるらしく、タリスとマーナはテペ村に帰っていった。おれもあの話を聞いたら無理強いできないし、今のおれなら行こうと思えばいつでもいける。久しぶりにタリスとマーナにあったが、やはり家族は良いものだな、としみじみ思った。
そしてタリスたちが帰った数日後、騎士団から召集された日に集合場所である城のコロシアムに行くと、そこには準決勝で当たったゼラスがいた。
「決勝戦が終わった後は大変でしたね。イータは昔から知ってるだけに残念でした。」
ゼラスは少し遠い目をする。
「そうだったんだ、ごめん。なんか悪いことしたね。」
おれは素直に謝ると、ゼラスはパタパタと手を振る。
「あぁごめんなさい。そう言う意味で言ったわけではなかったのです。ただ、こんな簡単に人って死ぬもんなんだなぁって思っただけです。」
そんなちょっとセンチな話をしていると、グレンがやってくる。
「よし、集まっているな。じゃあ、いこうか。」
グレンがおれたち2人を連れて行くところを見ると、他はダメだったようだ。そこで、ゼラスが当然の疑問を浮かべる。
「あれ、アキラは?優勝したのに騎士団候補になってないの?」
グレンはおれたちの前を歩きながら答える。
「あぁ、おれも詳しいことはわからないんだが、急遽辞退したらしい。結構上層部を含めて止めにかかったらしいんだが、結局ダメだったらしい。」
まぁ、そりゃそうだろうな。どこぞの名探偵じゃあるまいし、いつも子供の姿でいるわけにはいけない。
こうして、おれたちが連れていかれたのはコロシアムの一部にある騎士団の詰所のようなところ。しかし、そこにほとんと騎士団の騎士や兵士の姿は見られない。
ちなみに、騎士と兵士の違いは正社員とアルバイトのようなものだった。騎士は騎士選抜試験や特例的に正式に認められた人間のみが騎士であるが、兵士は応募し、ある程度の素養が認められれば比較的だれでもなることができる。兵士でも、実力が認められ、騎士団長の承認があれば騎士になることができる。
「あれ?全然人がいないんですね。」
ゼラスもおれも同じ疑問を抱いたようだ。歓迎しろとまでは言わないが、初めて騎士見習いがくるのだ、挨拶くらいはさせてもらえると思っていたがどうやらそうもいかない事情があるらしい。グレンはおれたち2人に真顔になる。
「この話はまだ王室の関係者と騎士団の中だけの話だから、絶対に他言するな。」
おれたちは頷くのを確認するとグレンは続ける。
「こないだの選抜試験の日に、魔物が現れただろ?あの混乱に乗じて王と王妃が暗殺された。」
おれとゼラスは思わず顔を見合わせる。
「すぐにグレイブ副団長がその暗殺者を捉えたお陰で、このイータの魔物化から王と王妃の暗殺がその暗殺者の仕業だってことがわかったんだ。」
「たしかに、選抜試験中は人の出入りがしやすいですものね。その機会を狙って混乱を自ら作り出し、そして騎士や兵士が騒ぎの対応をしている間に王と王妃を暗殺した、と言うことですね。」
ゼラスの言葉にグレンは頷く。なるほど、だから選抜試験の閉会式の終わりの、グレンや兵士のあの慌てっぷりだったのか。そしてグレンは続ける。
「そして、その暗殺者が、オスタからの刺客だってことがわかったんだ。」
オスタはアーガンス領のちょうど南側に位置する他国で、これまでも歴史的には何度か衝突があったが、近頃は特に大きないざこざもなかった、というのをおれはタリスの持っていた本で読んだことがあった。ゼラスも同じ認識だったらしい。
「そ、そんな!?オスタとは過去に色々あったとは言え、今はどちらかというと友好関係にあるくらいじゃないですか!それがなんで?」
グレンは首を横に降る。
「さぁな、詳しいことはよくわからん。だが、流石に一国の主人を殺しておいてごめんなさい、ではきかんだろう。それに、騎士団としての面子もある。そこで、オスタとは宣戦布告の上開戦することとなった。」
おれは思わず声を上げてしまう。
「か、開戦!?ってことは戦争を始めるってこと!?」
グレンはコクリと頷く。ゼラスも驚いているようだったが、一方で納得もしていた。
「だから、みんないないってことですね。」
「あぁ、そうだ。その準備のためにみんな出払ってる。そして、この状況は残念ながらしばらく続くと思ってる。本来であれば、選抜試験に合格したら、先輩騎士と一緒に仕事をするのが定例だが、さすがにいきなり2人を戦場に投入するわけにもいかない。」
たしかに、タリスもラキカと一緒に最初は動いていたって言ってたな。
「んじゃ、どうするの?」
「あぁ、だからしばらくは2人で王室内の護衛とあわせて、パーティを組んで魔物退治のギルドクエストをこなす事で実力を磨いてほしい。」
そりゃまた随分と放置プレイだが、まぁ有事の際だ、しのごの言っていても仕方がない。
「2人には申し訳ないと思っているし、おれ自身も今回の宣戦布告には思うところがないわけでもない。だが、国として、そして騎士団としての決定事項だから従うしかない。まぁ物は考えようで、面倒くさい先輩騎士なしで、独学で色々経験できるって、前向きにとらえてみてほしい。」
この後、騎士としての礼儀作法や受けるべきギルドの優先順位、王室の護衛に関する細かい指示事項の説明を受けると、最後にグレンはあるところに連れて行ってくれた。
城の内部をしばらく歩くと、重厚な扉の前にでる。そして、その重たい扉を開くと真っ赤な絨毯の奥に、2つの椅子が並んでいた。
おれたちは中に入ると、その足の裏から伝わる柔らかな絨毯の感触がなんとも言えない。
「本当はな、今日ここでアーガンス王と王妃に君たちを紹介する予定だったんだ。なかなか入ることができない場所だが、今日は形だけでもと思って許可を貰っておいた。」
おれはタリスから聞いていた話を思い出し、この場でマーナと再会したんだな、と思うとなんだか不思議な気持ちになった。おれはなんとなく、当時のタリスと同じように、膝をついて頭を垂れる。
「グレンさん、ありがとう。ここでこうするだけで、アーガンス王たちがみてくれてる気がするよ。」
おれが騎士になったのは、特に大義名分があったわけではない。当初は単純にコウを見つけるのに役にたつかな、というくらいだった。しかし、タリスとマーナやラキカの話を聞いて、おれもみんなの意思を継いでこの国を守る人間になりたいとあの日から少しずつ思うようになっていた。そして、その気持ちが、この場で頭を垂れることでより強くなっているのを感じた。
「おれ、この国を守るよ。父や母が守り通したのと同じように。」
このきっかけは、おれにとっても将来の方向性を決める非常に大切なきっかけとなった。
ようやく追憶編が終わり、新章が始まりました!
当面の目標だった騎士になることを達成したショウ、これからは騎士として使命を全うするために国のために戦うことを決意したようです。
ここからどんどんショウには強くなってもらいたいと思いますので乞うご期待です!