幸せの代償
自らの魔素を使ってマーナを魔物化から救い出したタリス。
「マーナ、本当に良かった。」
タリスは自分の羽織っていたマントで裸のマーナを覆うと、マーナは首を横に振る。
「タリス、私、もうダメかと思った。キッカが魔物だってことがわかったときに、どうせなら、私と一緒に堕ちるとこまで堕ちろ!って思ったら、私も一緒に本当に堕ちちゃったのよ。」
タリスは立ち上がり、ラキカを探す。
「でも、結果的に戻ってこれた。それはきっと、マーナの気持ちの強さだよ。」
マーナも立ち上がろうとするが、力なくよろけ、思わずタリスが抱き支える。
「あ、ごめん。うん、確かに、タリスとの約束を守らなきゃ、守りたいって気持ちがあったからなんとか意識を戻すことができたんだと思う。でも、どうやってタリスは私を?」
タリスはラキカを見つけるとゆっくりとマーナに肩を貸しながら、倒れているラキカの元へと歩みを進める。
「マーナの魔道をおれの魔素で焼き切ったんだ。だが、それをする為にはマーナが魔物化したときの魔力をおれの魔素が上回る必要があったから、マーナがキッカとの戦いである程度魔力を使い尽くしていたあの状況じゃないとできなかった。というより、あの状況でも上手くいくかどうかわからなかった。」
タリスとのマーナの話し声で、ラキカが目を覚まし、体をゆっくりと起こす。
「タリス、やってのけたんだな。」
タリスは頷くが、ラキカはタリスの方を見ると驚く。
「お前、魔法はどうした?」
タリスは申し訳なさそうにマーナを見ながら、再びコクリと頷く。しかし、マーナはラキカが何を言っているのかいまいち理解できない。
「え?魔法はどうしたって、どういうこと?」
タリスはマーナの問いに答えにくそうにしてると、代わりにラキカが答える。
「多分こいつは魔法が使えなくなった。」
マーナはタリスを見ると驚き、声を上げる。
「え!?どういうこと?もしかして、私を救う為に。」
マーナは知らされた事実で自分がタリスをそうしてしまった申し訳なさから肩を落としているが、その様子を見たタリスはマーナの肩に手を置くと首を振ってラキカに告げる。
「マーナを助ける為にはそれしかありませんでした。せっかくこれまでご指導頂いたのに、本当にすみません。」
ラキカはタリスの言葉に唖然としていたが、突然笑い出す。
「ガハハハハハ!お前、自分の魔法が使えなくなったのに、ごめんなさいって!何馬鹿なこと言ってんだよ?もちろん、お前が魔法を使えなくなったのは残念だが、おれが魔法を教えたおかげで、お前が一番守りたかったモノをちゃんと守れたんだから、それ以上何を望むって言うんだ!」
ラキカの思いがけない言葉に、今度はタリスが唖然とする。ラキカは続ける。
「それにな、そもそも論で言えば、この状況を防ごうと思えば防げた可能性もあったんだ。キッカが魔物だともっと早く確信していれば、マーナが魔物にされることもなかったわけだしな。その点では、お前が魔法を使えなくなったのは、ある意味おれのせいだ、すまん、タリス。」
ラキカは深々とタリスに向かって頭を下げる。ラキカがこんなに頭を低く下げるところを見たことがなかったタリスは慌てて辞めさせる。
「お師匠様、やめて下さい!もう、みんな生き残ったからヨシってことですね!」
タリスが無理やり丸く収めようとするのをマーナは察し、話を変える。
「それにしても、キッカはどうして魔物なんかになってしまったの?」
タリスも、確かに、と頷いていた。するとラキカが辺りで何かを探しながらウロウロとする。
「あれ、おかしいな。残ってると思ったんだが。」
タリスとマーナが頭にハテナを浮かべているとラキカは説明する。
「あぁ、すまん。多分キッカが魔物化したのは、キッカが持っていたあの剣のせいだ。あの剣そのものから微量だが魔力を感じたんだ。」
タリスも周りを見渡すが、そんな剣は残っていない。
「でも、その剣なくなっちゃいましたよね?キッカと一緒に消滅したってことでしょうか?」
ラキカは首を振る。
「さぁ、そこまではわからん。が、仮に残っていたとしてもしばらくは力を蓄える必要があるだろうから、すぐにどうこうできるわけではないだろう。さぁ、タリス、こんな話は後だ!今日はパーっと行こうぜ!」
こうして、剣の行方は結局わからずじまいだったが、表面上のマーナとキッカの王位継承権の争いは終わりを迎えた。
◇◇
結局、この一連の真実は王と王妃のみが知る極秘事項となった。表向き上は、一部で噂として魔物になってしまったと広まってしまっていたマーナが、キッカを殺し、そのマーナを騎士団のタリスが殺したことになっている。タリスは自分の愛する人を手にかけてしまった失望感から騎士団を抜け、さらに、キッカをマーナから守れなかったラキカも自らの責任を取って騎士団を退団する形となった。
マーナをその場所に残して、王への一連の報告と、後処理を終えたラキカとタリスは再び王室の避暑地へとマーナを迎えに来ていた。
「タリス、お前とはもう一度再戦するってことにしてたが、」
タリスは首を横に振る。
「今の僕ではお師匠様に全く歯が立ちませんよ。」
ラキカはそうか、と微笑む。
「で、これからどうするんだ?」
タリスはマーナと顔を見合わせながら答える。
「まだ決めてないですが、ひっそりと、少し城から離れたところで暮らそうと思います。マーナが生きていると言うのがバレると、色々問題となりそうですし。」
ラキカは少し申し訳ないんだか、残念なんだかよくわからない複雑な表情をすると、その様子を見たマーナがフォローする。
「いいのよラキカ、私は王室みたいな肩の詰まる所は懲り懲りだって、ラキカも本当はよく知ってるでしょ?これからは、2人でしばらくのんびりと過ごすわ。」
ラキカはマーナに向かって頷く。
「まぁ別れ際にこんな辛気臭い顔はよくないな!まぁまたいつでも声をかけてくれ!おれもそんなに遠くにはいかないはずだからよ!」
ラキカはタリスに向かって手を差し出すと、タリスはその手を取る。
「それでは、お師匠様もお元気で。」
ラキカは頷く。
「あぁ、またな!あ、あと、お前らに子供ができたら合わせてくれよ!」
マーナとタリスは思わず顔を見合わせる。突然のラキカの言葉に一瞬返す言葉に悩むが、マーナの満更でもなさそうな顔を見たタリスは「かならず!」と大きく手を振ってラキカが見えなくなるまで見送った。
自らの魔法と引き換えにマーナを取り戻したタリスと、王宮をでることにしたマーナ。これが今まで2人がショウに秘密にしていた出来事です。
これまで伏線として張っていた部分の回収章だったので、少し前後の繋がりや話の流れに無理矢理感があってすみません。拙い部分が多々あったと思いますが、大目に見ていただき、これからもお付き合い頂けると嬉しいです。
さて、次話から再びショウに視点が戻り、第6章騎士見習い編がスタートします。選抜試験を通ったショウが入団するのは何者かの手によって王が暗殺された直後の騎士団。その中でショウはどのように立ち振る舞っていくのでしょうか?
それでは、これまでお読み頂き、本当にありがとうございます。引き続き、ショウの成長をお楽しみ下さい。