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呼び止める声

赤い光の中から現れたのは、完全に人の形ではなくなった4足歩行の狼と、もう一匹は、真っ黒な体に赤黒い模様が入った大蛇だった。


その様子を見たラキカはタリスに言う。


「タリス、続きはまた今度だ。ただし、続きができたらな。ようやく尻尾を表したと思ったら、ほんとに尻尾が生えてるじゃねぇか、キッカよ!」


何が起きたかわからないタリスは、走り出すラキカに自らも走りながら問いただす。


「ど、どういう事ですか!?何がどうなって、」


問いただすタリスに対し、ラキカは大蛇を睨みつける。


「おれがずっと追ってたのはキッカに扮した魔物だったんだよ!だから裏ギルドを使って調査をしてた。マーナと戦わせて、キッカを瀕死にさせれば尻尾が掴めるかもしれないと思って連れてきたが、正にビンゴだったぜ。」


タリスはラキカの後を追いながらしばらく無言で追いかける。しかし、いきなりキッカが魔物だったと言われてもいまいち状況が素直に理解できない。だが、この場は何よりもマーナの安全が先決だ。


「お師匠様、すみません、ちょっと事態がよく理解できませんがどうやらぼく、勘違いしていたみたいですね。」


ラキカは笑いながら答える。


「あぁ、そうゆうことだ、だが、詳しい話は全てが終わってからだ!キッカを倒せてマーナを救えたらそれから色々説明してやる。だから、マーナのこと、よろしく頼むぞ!おれはあの蛇をなんとかする。タリス、悪いがあの蛇をマーナから引き離してくれるか?」


タリスは頷くと、魔素をその腕に溜めながら2匹に向かって走り、近くまで寄ると、風魔法で大蛇と化したキッカを吹き飛ばす。


「よし、タリス、上出来だ!んじゃ、マーナを頼んだぞ!」


ラキカはそう言うと大蛇が飛ばされた方向に走っていった。


「お師匠様!」


タリスがラキカを呼ぶと、ラキカは一瞬立ち止まる。


「後で、絶対に続きをしましょう!」


タリスの言葉にラキカは片手を大きくあげると、再び走り出した。


「さぁて、タリスの手前格好つけたものの、果たして奴の実力がどの程度かな?」


ラキカは大蛇に辿り着くと、手始めにその首元を気で作った剣で斬りつける。


ザシュ!


鋭い音と共に、大蛇の首筋に傷を付けるが、すぐさまその傷跡はなくなり、元に戻ってしまう。


「ったく、なんて言う再生能力だよ。」


ラキカは悪態を吐くが攻撃をしてきたラキカを敵とみなし、大蛇はその大きな口でラキカを飲み込もうとする。ラキカはそれを躱しながら、今度は迫り来る口を斬るが、そんな斬撃は全く意味がなく、再びシュルシュルと再生してしまう。


「はぁ、これは骨が折れるぜ。」


今度はラキカの持っている気の剣を、最大限まで伸ばし、大蛇を分断できる大きさにして、その剣で大蛇をぶった斬ろうとする。しかし、大蛇もバカではないらしい。ラキカの剣をクネクネと肢体を曲げて綺麗に回避する。そして、その口から液体をラキカを中心に広範囲にわたって吐き出す。全く予想していなかった大蛇の攻撃に、ラキカは一瞬回避が遅れ、そしてその足に液体を浴びると、服と皮膚の一部を溶解させる。


「ぐぅぁぁぁ!」


ラキカは移動の要の足の自由を奪われ、その隙に大蛇はラキカの周りにグルグルと胴体を回すと、一気に締め付けた。しかし、締め付けられたその瞬間にラキカは自分の体と大蛇の体の間に剣を入れ、大蛇の締め付ける勢いを利用してそのまま大蛇の胴をぶった斬る。


大蛇の拘束が緩んだその隙にラキカはそこから抜け出すが、斬られた胴は、斬られた場所からニュルニュルと触手が生えてきて、再び斬れたところが元通りになる。


ラキカは自分の足に回復薬を掛けながら振り返り、その様子を確認する。


「はぁ、やっぱ切り放すだけじゃダメか。しゃーない。ちょっと本気だすか。」


そう言ったラキカは、これまでの白い気に変わり、全身を真っ赤な気で包み込む。


「これでだめなら後は騎士団長の役職をつけて全てをタリスに任せるしかないな!」


ラキカはこれまでの速さとは比べ物にならない速さで踏み込み、大蛇の後ろ側に回り込むと、そのまま大蛇の頭を目掛けて跳躍し、振り返る間も無くその後頭部を目掛けて斬撃というより斬膜といった方がよいくらい、眼にも映らぬ速さで大蛇の頭部を細切りにする。


「や、やったか?」


ラキカは地面に着地すると、その失われた大蛇の頭部に向かって振り返る。


すると、大蛇の大きな体はそのままバランスを崩し、地面に横たわると地響きが起きる。そして、その体はそこにキッカが持っていた一本の剣を残して、青白い光の粒となって消えていった。


「ふぅ、なんとかこっちはやったぜ、タリスよ。後は頼んだぞ。」


ラキカはその剣の存在に気がつかないまま、その場で気を失ってしまった。そして、その剣は誰にも気がつかれることなく、その場からいつのまにか消え去っていた。


一方タリスは完全な狼の魔物と化したマーナと対峙していた。


「マーナ、マーナ、おれだ、タリスだ!」


しかし、その呼びかけも虚しく、狼はこれまでよりも更に早い俊敏性でタリスを攻撃し続ける。その前脚の鉤爪から繰り出される斬撃は空気を斬り裂く真空波となってタリスを襲った。タリスは、自分の目の前に風の障壁を作り、その真空波を消滅させるが、その直後には狼がタリスに噛み付こうと頭を突っ込んでくる。


「前回はまだ意識が残っていたようだったが、今は全く呼びかけに反応しないな。なんとか、マーナに触れることができれば。」


タリスは狼の攻撃を躱しながら、なんとか近づく機会を伺うが、なかなかタイミングが掴めない。

しかし、そんな時、ラキカが大蛇と化したキッカを倒し、その地響きが狼の動きを一瞬止める。そして、その一瞬の隙をつき、タリスは狼の首元に飛び乗った。


「さぁマーナ、あと少しの辛抱だからな。」


何かを覚悟したタリスのその眼には希望の光が満ち溢れていた。


「さぁ、我慢比べだ!」


そう言うと、タリスはありったけの自分の魔素を、掴んだ狼の首元に流し込む。


「うぉぉぉぉぉ!」


その魔素に反抗するように狼から赤い魔力が押し寄せ、魔力同士がせめぎ合い、その衝撃で2人を中心として眩い光の塊となる。


その光は、キッカの魔物としての覚醒を引き起こして以来失っていた、マーナの意識を引き寄せる。


マーナは、暗い闇の中にいた。右も左もわからない、ただただどこまでも続く闇。


(ここは、どこ?)


フワフワと闇の中を当てもなく漂う。時間の感覚もなく、自分がどれくらいそうしているのかわからない。そして、出てくるのは脱力感、無力感。


(なんだか、もう疲れたわ。ゆっくりと休みたい。)


そんな目を瞑ろうとするマーナを執拗に呼ぶ声が遠くで聞こえる。


(誰?もういいよ、私、疲れたの。放っておいて。)


しかし、その声は強く、少しずつだが近づいてくる。


(何?何をいっているの?もう精一杯やったわ。)


マーナの気持ちとは裏腹に、それでもその声は執拗にマーナの名を遠くで呼び続ける。


(誰なの?え?約束?)


随分昔に停止してしまっていたマーナの思考が、少しずつ記憶を探り始める。


(私、誰かと大切な約束をした気がする。何の約束をしたんだっけ?)


マーナは少しずつ、その記憶を手繰り寄せるが、あと一歩のところで思い出せない。


(あとちょっと、あとちょっとなんだけど。)


そこに今まで見えなかった一筋の光が、ほんのわずかな光がマーナの遥か彼方に見える。


(あそこから、私を呼んでる声がする気がする。とても懐かしくて、そして愛おしい声。)


マーナは一生懸命、暗闇の中を漂い、その光に向かって進む。少しずつ、少しずつだが光が大きく、近くなってくる。


(あと少し、あと少しよ。)


マーナがその光に近づくと、その光の中に人影があるのがわかる。その人影が、マーナのことを呼び続けていた。しかし、次第にその光は弱く、そして見える人影も小さくなってくる。


(あぁ、待って、あと少しだから。行かないで、待って!)


光の大きさが、遂にその人影の腕だけがようやく見えるくらいの大きさになってしまう。そこから見える手は、何とかしてマーナを呼んでいるが、限界まで伸ばしたその腕からは大きな疲労を感じる。しかし、その腕を、そして指先を見てマーナは思い出す。


(私、思い出した、あぁ、タリス!約束を守ろうとしてくれているのね!あとちょっと、あとちょっとだから!)


光の中のタリスの腕は、最後の力を振り絞って必死にマーナを呼び続ける。そして、それに答えてマーナも精一杯腕を伸ばす。そして、遂にその手と手が結び合う。


すると、タリスの腕があった光から一気に光が膨れ上がり、マーナの周りを光で満たす。


「マーナ!マーナ!」


その眩しさから、目をしかめるマーナであったが、やがてゆっくり目を開ける。するとそこにはやつれ、疲れ果てたタリスの姿があった。


「タリス、タリス。」


マーナはその疲れた顔で安堵の表情を示すタリスの首元に腕を回すと、自分の方へ抱き寄せ、そっと口づけするのであった。

魔物化したキッカを倒すラキカですが、キッカの使っていた剣はどこにいったのでしょうか?そして魔素で魔力を押し流すという荒業をやってなんとかマーナを助け出したタリス。ここからは回想編フィナーレです!

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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