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騎士の誓い

マーナが人狼化したその夜、キッカが王と相談した結果、マーナが人狼化したままだった場合、直ちに殺すこと、また次に人狼化した場合も同様に殺すことが決定された。


キッカは王と話が終わり封印されたマーナのところに戻ってくるとタリスとオルガは万が一マーナが人狼化したままだった場合、2人でマーナを殺すことができるか確認された。正直なところ、人狼化した魔物なんて戦ったことがないから、タリスは実際にやってみないとわからないと思っていた。しかし、なんとかマーナを救う手立てを考えたいタリスはこれ以上人が増えるのを避け、殺せる、と断言した。


そしてオルガの魔法が解ける翌朝、マーナを封印した部屋で待機するタリスとオルガ。そして外の一部が薄暗く明るみ始めると遂に封印が解ける時がやってくる。固唾を飲んで2人が見守る中、少しずつ球体の壁面が薄くなり、中の様子が透けて見えてくる。


「出るぞ!」


オルガの声と同時に、白い球体はなくなり、その場にドサッと産まれたままの姿をした人型のマーナが落ちる。2人はすぐにマーナを殺す必要がなくなり安堵する。しかし、マーナに駆け寄ると、全身についた傷跡がマーナの普段綺麗な肌には目立ち、痛々しかった。


タリスは手持ちの傷薬でマーナの傷を治すとマーナに近くにあったシーツを掛け、頭を抱き上げ、声をかける。


「マーナ、おれだ、タリスだ。わかるか?」


タリスの呼びかけに反応するマーナ。顔をしかめながらゆっくりと目を開ける。


「あぁタリス。あれ、私、何が起きて?」


ゆっくりと体を起こすと、変わり果てた自分の部屋を見て自体を理解する。


「ごめんなさい。私、私。」


横にいたオルガが当時の状況を説明する。


「夜、私がマーナ様の部屋に入ると、突然頭が痛いと頭を抑え始め、すると次の瞬間には人狼の姿に。」


マーナは立ち上がりシーツを纏ったままの姿で変わり果てた自分の部屋を見て回る。そして、壁についた爪痕を見てポツリと呟く。


「可愛そう。」


すると突然、マーナは頭を抑えてその場でしゃがむ。


「マーナ様、大丈夫ですか?」


オルバがマーナに駆け寄るとマーナはすっくと立ち上がる。


「何が可愛そう、だ。自分の立場をよく考えてみよ。もうすぐこの体を乗っ取られるというのに。」


オルバはすぐにマーナの方を向くと、その目には赤色の魔性の光が灯っているのに気がつく。


「お、お前、誰だ?マーナ様はどこにやった!」


オルバはマーナの腕を掴み揺する。


「何を言っているんだ、私はマーナそのものだぞ?どうだ、この体、抱いてみるか?お前いい男だからな、今だったら抱かせてやるぞ。」


マーナが纏っていたショーツを両手で広げると美しい肢体が露わになる。


オルバは目のやり場に困りながらたじろいでしまう。しかし、タリスはマーナに近づき、平手打ちをする。


「いい加減にしろ。お前が誰であろうが関係ない。だが、自分を犠牲にするようなそんな真似はやめろ。」


タリスは、赤く光が灯ったマーナの目を見つめると、今度はマーナがたじろぐ。


「やめろ、そんな目でみるな。その全てを見透かすような目でみるのはやめてくれ。」


マーナは数歩後ろに下がると、再び頭を抱える。


「う、うぅ、私の邪魔をするな。お前も心の奥底では望んでいるではないか。私の好きにさせてくれ。」


タリスは頭を抱えるマーナをそっと抱きしめる。


「やめてくれ、この私に優しくしないでくれ。でないと、でないと。」


マーナはそこまで言うと、頭から手を離し、いつも通りの瞳でタリスの顔を見る。


「ありがとう、もう大丈夫だわ。」


そして、その瞳には何か強い決意が混じっていた。そして、その決意を言葉に込める。


「オルバ、私のわがままを聞いてくれてありがとう。でも、もう大丈夫。」


唖然としていたオルバだったが、元に戻ったマーナの一言を聞いてハッと我に返ると、マーナの言いたいことを理解する。


「やっぱり、タリスに守ってほしいんですね。」


マーナはコクリと頷く。実は、オルバはマーナをこれまで護衛をしている間、幾度となくタリスの話を聞いていた。そして、2人に直接的な関わりこそないものの、マーナが好きなのはタリスだと言うことに気がついていたのだ。


タリスは何が言いたいのかわからないと言った様子で、マーナとオルバを交互に見る。すると、オルバは呆れた顔をして、タリスをポーンとマーナに押し付ける。


「皆まで言わすな、要するにおれは邪魔者ってことだ。」


そして、そのままオルバはその場を後にした。


改めて2人きりになった2人は、お互い顔を見合うと笑ってしまった。そんな中、タリスが最初に口を開く。


「とりあえず、服着よっか。」


タリスのその言葉にマーナは自分が服を着ていないことを思い出し、顔を赤らめる。マーナが服を着ている間、ポツリ、ポツリとマーナがこれまであったことを話し始める。


「キッカとの王位継承権の争いが起きることは、誰が見ても明らかだった。それに、騎士団がキッカの味方をすることも。」


タリスはマーナの方を見ないように、壁に向かって話しかける。


「だから、随分前に誓いを忘れてほしい、と言ったわけだ。」


「そう。だって、あんな子供の頃の約束に縛られて、人生を棒に振らせるかもしれない、なんて思ったらタリスが気の毒だったから。」


タリスは当時のマーナからの言葉を思い出すと、今でも胸が締め付けられる思いだった。


「でも、だから、外交の帰りにタリスが助けに来てくれたときは本当に嬉しかった。やっぱりこの人は私の騎士なんだって思った。」


タリスは思わずマーナの方に振り返るとマーナは既に服を着ていた。


「じゃあ、なんでそれからも避けるような素振りを。」


マーナは首を横に振る。


「だからこそよ。そんな大切な人をみすみす危険に犯すような真似をしたくない。そう思ってたの。」


マーナはその後、キッカに唆されたアイナの部屋で魔法をかけられ、今の状態にあることを説明する。すると、タリスの中で何かが引っかかったようだ。


「んじゃキッカはマーナがこうなることを知ってたってことか。」


マーナは頷く。


「でも、なんで?それがどうかした?」


タリスは顎の下に手を置きながら、考える。


「マーナは覚えていないかもしれないが、キッカはマーナに斬りかかり、そして返り討ちにあったんだ。それはもう、おれたちが放っておいたら死んでしまうくらい。」


マーナは近くのベッドに腰を下ろしながら答える。


「それは、私を殺すための口実が欲しかったんでしょ?自分が殺されかけたって言ったら、王も魔物になった私を殺さざるを得ないでしょう。」


「あぁ、最初はそう思っていたんだが、それにしても、あんなに深手を負ったら一歩間違ったら死んでいた。むしろ、即死しなかった方が不思議なくらいだ。」


2人は黙り色々と考えるが、タリスはどうも何かが足りない気がしていた。


「まぁ、それはそうと、今はマーナの魔法をどう解くか、考えなきゃな。」


マーナもコクリと頷く。


「タリスは気がついてるかもしれないけど、もう1人の自分は、私が人から見られる上でこうあるべき、という感情で押し殺されていた部分が増幅されて別人格になっているようなの。」


タリスは目に赤い光を灯らせたマーナを思い浮かべる。すると、興奮気味にマーナに詰め寄る。


「ってことは、オルバを誘ったあれもマーナの隠れた本心ってことか?」


マーナは自分の言った言葉を思い出す。


「うん?何のことかな?別人格の時って記憶が曖昧だから。」


マーナは左上を仰ぎ見る。ちなみに、人が左上を仰ぎ見る時はなにかを思い出している時だから、本当はマーナは自分がなにを言ったのか覚えているようだった。その証拠に少し顔が赤くなっている。しかし、その様子に気がつかないタリスは残念そうに質問を変える。


「でも確かに、昔のお転婆のマーナ様はどっかに言っちゃったみたいだからな。まぁお姫様っていろんなプレッシャーがありそうだし。」


「プレッシャーというか、やっぱりいい子にしてなきゃ、みたいなのはあるわよね。だから、タリスにお願いがあるの。」


タリスはマーナの突然のお願いにドキッとする。


「い、いきなりお願いって言われると身構えるな。でも、いいよ、何でも言って。」


タリスの返事にマーナは顔を輝かせる。


「私を昔の私のように周りに気を使わずに自由にいられるようにどこかに連れてってくれないかしら?もちろん、ずっと、とは言わない。次回の満月まで。多分、次回の満月で私があぁなったら、戻ってこれないと思うから。」


マーナは顔を輝かせていたと思ったら遠い目をしていた。きっと、徐々に自分の体が蝕まれていっているのがわかるのだろう。そして、遠い目をしたかと思ったら、タリスの方を力強く見つめる。


「だから、もし私が戻ってこれなかったら、タリス、あなたの剣で私の生涯を終わらせて。あなたの剣で、私が他の人を殺さないように守って。」


タリスは戸惑うが、マーナがここまでいっているのだ。ここでこの願いを聞かなければ、どこでマーナの騎士として役に立てるのだ、と自問自答する。そして、決心したタリスはマーナの前に膝をつき、自らの剣をマーナの前に両手で水平に掲げる。


「このタリス、マーナ様のご意思を尊重し、どこまでもお供しましょう。」


マーナは一瞬驚くが、タリスの掲げたその剣を受け取り、タリスの頭上へかざす。


「ではタリス、この私のために、その生涯を捧げよ。」


窓際から朝日が差し込むその部屋は、見た目こそ荒れていたが、どこか神聖な雰囲気を醸し出していた。


しかし、その雰囲気を壊すかのように2人は吹き出してしまう。


「あっはっはっは!一回はやって見たかったんだよな、これ。」


タリスが言うと、マーナも膝を叩いて頷く。


「私も、私も!でも、これからよろしくね、タリス。」


そしてマーナは膝をつくタリスの頭を抱き寄せ、タリスの額にキスをする。


「これは、おまじないよ。」


そう言うと、マーナはベッドを立ち照れ隠しのように窓辺へ歩いていった。タリスはそのマーナの後ろ姿を見て、再びマーナを守り続けることを固く心に決めるのであった。

長い年月を経て、ようやくお互いの気持ちが通じ合い、愛し合うことを許された2人に残された時間は次の満月まで。タリスは、マーナを守ることができるのでしょうか?そして、ラキカやキッカは何をどこまで予測しているのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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