表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/129

兄弟の攻防

マーナの部屋から二度目の咆哮が聞こえると、突然部屋が静かになる。タリスはドアを開けようとするが鍵がかかっていて開かなかった。


「ちくしょう、お代はおれの安い給料から払うから、ゴメン!」


そう言うと、タリスは右手を前に突き出し、魔素を高めると叫ぶ。


「風よ!」


すると爆風とともに扉を吹き飛ばし、中に入ると驚くべき光景が広がっていた。


部屋中は嵐が過ぎ去ったかのようにボロボロになり、壁のいたるところには大きな爪で引っ掻いた後が残っている。そして、オルバは壁に打ち付けられ、今まさに大きな二足歩行の人狼に食われようとしていた。やばい、オルバを助けなければ。そう思うと同時に、マーナの姿がないことに気がつく。ま、まさか。タリスの脳裏に先ほどのマーナの言葉とともに不安がよぎるが、何よりもまずはオルバを救わなければ。そう決心したタリスは瞬時にオルバと人狼の間に割って入り、風魔法で人狼を吹き飛ばす。


「オルバさん、大丈夫ですか?」


タリスはオルバを揺すると、オルバはタリスに気がつく。


「へへっ、さっきあんな啖呵切ったのにこのザマだ、情けねぇ。」


もちろん、人狼はこんなことで死んだりはしないが、壁際まで吹き飛ばされ、何が起きたかよくわからない様子だった。


「オルバさん、あれってもしかして。」


オルバはコクリと頷く。


「あぁ、残念ながら、マーナ様だ。」


タリスは自分の悪い予想が当たったことに苛立つ。


「な、何であんな姿に!?」


オルバは立ち上がり、回避の準備をする。


「なんでも、誰かに呪われた、とか言ってたがよ、それはともかく、この状況、なんとかしないとまずいぜ!」


人狼と化したマーナはタリスとオルバに向かって走り出す。


「オルバさん、ぼくが時間を稼ぐのであれをお願いします。」


タリスは剣を構えながらオルバに頼むと、オルバはコクリと頷き、胸の前に手を組み、魔素を組んだ手に集め始める。


そして人狼は、鉤爪の生えた巨大なその腕でタリスに殴りかかるが、タリスはその鉤爪を剣でしっかりと受け止める。


「マーナ、おれだ、タリスだ!わかるか!?」


人狼はタリスの呼びかけに一瞬止まる素振りを見せるが、今度は反対の手でタリスを襲う。


「チッ!」


タリスは流石にどうしよもないと判断し、バックステップで人狼の攻撃を回避する。


すると、すぐ近くの寝室で寝ていたキッカが騒ぎを聞きつけ現れる。そして人狼を見ると同時に、人狼に向かって吠える。


「何でこんなところに魔物がいる!?」


すると、その声に反応するように、人狼がキッカの方を向き、吠える。


「ワォォーン!」


そしてキッカはその声に反応し、自分が攻撃されそうなことを察知すると剣を構え、人狼に向かって走り出した。


「この魔物、おれが成敗してくれるぞ!」


タリスは人狼とキッカの間に割り込みたかったが、残念ながらキッカがいるのは人狼を挟んでちょうど反対側で間に合いそうもない。だが、このままでは何も知らないまま殺しあってしまう、そう思ったタリスはキッカに向かって叫ぶ。


「キッカ様、その人狼はマーナ様です!」


それを聞いたキッカは驚いた様子で剣を構えたままその場で固まってしまう。しかし、それでも人狼は止まることなくキッカに向かってその鉤爪を振り下ろす。


ザクッ


肉を切り裂く音が部屋に響く。そして、膝をついたのはキッカだった。


「キッカ様!」


タリスは風魔法で人狼を吹き飛ばすとキッカの元に駆けつける。キッカは即死ではないものの、傷口は深く、このまま放っておけば間違いなく死んでしまう状態だった。


「キッカ様、今、助けます。」


タリスは傷薬をキッカにぶっかけると、傷が少しずつ修復されていく。


「よし、これで一命はとりとめた。」


しかし、その安堵も束の間、タリスのその背中には吹き飛ばされた人狼が再び襲いかかっていた。その振り下ろされた腕をタリスは剣で受け止めると、人狼に向かって再び話しかける。


「マーナ、どうしちゃったんだよ。おれのことを忘れちゃったのか?」


すると、今度はその声にしっかりと反応し、腕を引く。頭に手を当てて何かを思い出そうとしているようだった。しかし、突如その頭を抱えると叫び出す。


「ウォォォォォー!」


そこに、オルバの詠唱が聞こえる。


「盾よ!」


オルバは胸の前で組んだ手を広げ、人狼に向けると、手から広がった白い光が人狼の周りを包み込む。そして、さらにそこからその手をまるでボールを包むかのように丸くすると、それに従って人狼を白く、丸い球体が覆った。


突然現れた白い球体を人狼はその鉤爪で引っ掻いたり、叩いたりしているがびくともしていない。


「流石オルバさんの盾魔法、びくともしてないですね。」


オルバはタリスからの尊敬の言葉に失笑する。


「まぁ持って朝までだがな。それに、やはり発動までに時間がかかりすぎる。お前がいなかったら危なかった。」


タリスはオルバの話を聞きながら、気を失っているキッカを抱きかかえる。


「まぁ結果論ですね。それでは、ぼくはキッカ様を医務室に連れて行きます。」


こうして、この夜の騒ぎはなんとか収まったかのように思えたが、そうはいかなかった。


医務室で処置をしてもらうと、キッカが目を覚ます。


「お、おれは?あ、あの魔物は、マーナはどうなった?」


横で一連のことを考えていたタリスはキッカの声に驚くが、オルバが一時的に封じ込めていることを知らせると、思いがけないことを言う。


「おれをこんな風にしたあいつを、人狼を殺してくれ。」


タリスは一瞬自分の耳を疑う。血は繋がっていないとは言え、姉を殺せなんて。


「で、ですが、マーナ様はキッカ様のお姉様ですよね?何とかマーナ様を元に戻す方法を考えませんか?それに、マーナ様を殺すなんて、いくらキッカ様の指示だとは言え、簡単に騎士団も動けません。」


タリスの言葉に、なんだ、そんなことか、と言わんばかりにあっさりと言い放つ。


「あぁ、姉だがなんだ?それでもこのおれを殺そうとした魔物だ。仮に元に戻ったとしても、いつ襲われるかわからん姉など、もう姉でもなんでもない。それに、この件は王に正式に第三王子として依頼をする。最終的に王から騎士団に依頼があれば問題ないのだろう?」


タリスはキッカの言葉に頷くことしかできなかったが状況が理解できた。第三王子のキッカは、これを機会にマーナをどうにかして殺したいのだ、と言うことを。

なんとマーナはキッカの魔法を受け人狼と化してしまったようです。タリスのことを辛うじて覚えていそうですがタリスはマーナを救うことができるのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ