真実は何処に?
山賊と交戦中のドラムは苦戦していた。多少人数が減ったとはいえ、多数を相手取るのが苦手なドラム。素早い身のこなしで攻撃が当たらないとはいえ、疲労の色が見え隠れしていた。そこにマーナたちを襲っていた山賊たちを倒して颯爽と現れるタリス。
「お、おまえ、なんでこんなところにいやがる?キラーエイプの討伐はどうした?」
タリスの突然の登場に驚くドラムが、敵の攻撃を躱しながら吠える。
「あぁ、あれはドラムさんを助けるためにチャチャっと片付けてきましたよ。まだやりたいことが残ってるんでさくっとやっちゃいますね。ドラムさん、下がっててください。」
ドラムはタリスの言葉の意図を理解したらしく、バックステップで敵の攻撃を躱しながら敵の群衆から離れて行く。タリスは、ドラムについていこうとする山賊を上手く足止めするが1人だけ足止めを掻い潜る。
「チッ、1人逃したか。まぁちょうど良いか。んじゃ、ちょっくらいってみますか!」
タリスは胸の前で手を組み、魔素を高めると両腕を広げ、一気に風魔法を発動すると、残っていた5人の山賊の前に風の障壁が出来上がる。土埃が立ち込める風の障壁のせいで、山賊たちは目の前が真っ白になっていた。
「よっこらせっと。」
タリスが掛け声と同時に広げた腕を少しずつ狭めて行くと、その風の障壁が徐々に弧を描き、山賊たちを囲う風のオリとなる。
「な、なんだこれは、どうなってやがるんだ!?」
山賊たちの悲痛な叫びが聞こえるがタリスは全く聞いていない。ある山賊はその風の障壁に突っ込み、天高く吹き上げられるとただの肉の塊と化して遥か彼方に落ちてきた。
「お前ら、マーナに手を出したことを大いに後悔してもらうぜ。」
タリスがその伸ばした腕を目の前で合わせると、自然に山賊たちを取り囲む風の輪が小さくなっていく。そしてそこにさらに、タリスは新たに魔素を込め直すと今度は両手の拳が赤く光る。
「燃えろ!」
タリスの声と同時に、その拳から炎が迸ると、山賊たちを取り囲む風と組み合わさり、その炎は業火となって山賊たちを襲う。
「ぎゃぁぁぁぁー!」
凄まじい悲鳴が炎の中から聞こえるが、すぐにその声も聞こえなくなり、後には金属や骨などが黒く煤けて残るだけだった。その頃ドラムはタリスが逃した1人を動けなく拘束していた。
無事戦い終わったタリスとドラムは縛り上げた山賊2人とともにマーナとカンナの元へ行く。
新米騎士は少し青白い顔をしていたが、タリスが渡した回復薬で一命をとりとめていた。
「た、タリスさん、何でこんなところに。」
カンナはドラムと同じことを言っている。師弟関係って面白いもんだな、と思うとタリスの代わりにマーナが答える。
「たまたま通りがかったらしいわ。」
マーナはきっと、この件にカンナを巻き込むのは可哀想だと考えたんだろう。ドラムはカンナのそれなりに元気そうな様子を見て、頼みごとをする。
「なぁカンナ。この山賊たちに聞きたいことがるから、ここら辺でマーナ様とちょっと待っててくれないか?」
カンナは頷くと、その場で火を起こし、時間を潰す準備を始める。マーナがキョトンとしていると、カンナは自分の行動を説明する。
「ドラムさんのちょっとは全然ちょっとじゃないんですよ。私も少し体力を回復させていただきたいので、少しゆっくりしませんか?」
こうして、プチ女子会が開催されている間、タリスはドラムに連れられて山賊に話を聞きにきていた。
「この辺なら良いだろう。」
マーナとカンナからは見えないよう、森の中に来ていた。
山賊たちにつけていた猿ぐつわを外し、ドラムは質問をする。
「お前たちは、あの方が誰かわかってて狙ったのか?」
当然答えない。
「もう一回きくぞ、あの方が誰だかわかってて狙ったのか?」
やっぱり答えない。タリスは苛立ちを露わにしていたが、ドラムに任せていた。
「しゃあないな。んじゃ手の爪からいくか。どこまで耐えられるかな?」
◇◇
それから小一時間、ドラムと山賊による我慢比べが続いた。ここでタリスが手を出さなかった理由はただひとつ。もしやり始めたら情報を聞き出す前に間違いなく殺してしまっていたから。自分の守るべき相手を襲った敵に対して抱く憎しみの感情は強い。タリスはドラムの拷問を見守っていたが、流石この道のプロ。手の爪、足の爪を剥がした後は歯を抜き、指の骨を折るなど、散々責め続けた挙句、吐かなかったら回復薬で元通りにして、今度は神経を過敏にする薬を使って同じことを繰り返す。その間、もう1人の山賊はそれを見ているだけ。1人目が痛がる姿を見せて、恐怖心を煽る。1人目が話せなくなるまで壊れた時点で、2人目を他のところに連れて行き、1人目には内緒にしてやるから、と言って聞きたい情報を吐かせる。
普通の山賊相手なら間違いなくこんなことしない。ただ単に、金目のものを積んでいたから襲っただけだろう。しかし、タリスはこの場所にいるくらいだからもちろん黒幕に心当たりがあったし、ドラム自身も今回マーナが狙われたことで、この任務前に抱いていた疑心が確信に変わっていた。
本来、マーナの護衛は別の担当がいて、そいつは守るのが得意な人間だからこそ護衛に選ばれている。しかし、今回は何故かマーナの護衛より優先な任務があると、上からの指示で本来の護衛が別の任務に当たっている時期に、マーナの外交が後から決まった。そして、護衛任務がどちらかと言うと苦手なドラムと、まだ戦力としては不十分な新人騎士の組み合わせの選出。もちろん、ドラムとカンナは師弟関係にはあったが、もう少し適任の候補がいくつかあったことにドラムは違和感を感じていた。ドラム自身は襲われる前まではたまたまだと思っていたが、この襲撃を機に考えが変わったわけである。そんな事情があったため、マーナを襲った山賊をしつこく拷問し続けた。
一方タリスは、マーナの護衛とは情報を入手するため親しくしており、護衛から外れているのを知っていた。そこに今回のマーナの外交の護衛の任務が本来不適切なドラムとカンナだったことがわかったため、何かあると踏んで急遽自分自身の任務を早く終え、マーナ達を探しに来ていたわけである。
そして山賊への拷問で得られた情報から、タリスが思い描いていた最悪の予想と的中する。
「マーナは誰かの差し金で殺されかけた。そしてこの件、騎士団が絡んでるとみて間違いないと思います。」
ドラムはタリスの考察に頷く。
「あぁ、マーナ様の普段の護衛の別任務と、そのタイミングのマーナ様の外交。これは王宮側と騎士団側、双方に協力者がいないと達成できない。」
タリスは自分のこれまでの情報をドラムに伝える。
「第一王女のアイナ様は残念ながら病気のため王宮側の指示者とは考えにくいでしょう。やはり一番怪しいのは、マーナ様の弟である、」
ここまで言うとドラムが続ける。
「あぁ、第三王子のキッカ様だな。他の王子もいるが、ちょっと年齢が離れているしな。」
第四王子以下王位継承権を有する人物は少し歳が離れており、余程のことがない限りマーナとこのキッカの一騎打ちだと見ているわけである。
「では、騎士団側は、」
タリスが口を開くと、ドラムはタリスがこの場で聞きたくなかった名前を口に出す。
「一番怪しいのは、全ての指揮権を持つラキカ団長だな。マーナ様の護衛は騎士団の中においても重要な任務の一つだ。少なくとも、騎士団長の合意がない限りそう簡単に動かせない。」
タリスもその話は調べた上で把握していた。しかし、過去護衛した当本人がいくら王宮のためとは言え暗殺に協力するだろうか。ただ、先輩騎士の言うことを無下に否定するわけにはいかない。
「確かに、その線は濃厚ですね。自分を育ててくれた先輩を疑いたくないですが、騎士団長の周辺をぼくのほうでもう少し調べて見たいと思います。」
残念ながら先ほどの山賊たちの依頼者は裏ギルド経由の依頼であって結局細かい依頼の経緯は判らずじまいだった。ただ、そのギルドにツテがある騎士団のメンバーを洗い出していけば、そのうち足取りは掴めるだろう。
こうして、一通り現状の理解ができたタリスとドラムはマーナとカンナが待つ場所へ戻るのだった。
マーナが言っていたタリスにとってマーナを守っていると不都合な事態が発生しつつありますね。そしてなんとその関係者に自分の師であるラキカの名前が。まだ確定していないとは言え、この後タリスはどう動くのでしょうか?