約束
ブクマ、ご評価の御礼とちょうどキリが良かったので本日投稿3話目です。いよいよ第4章クライマックスです!
アーガンス領から少し離れたところに、王と王妃を暗殺したそいつはいた。
「うん、まだ城の外には情報は漏れていないけど、城の中はパニックだよ。何せ突然の王族暗殺だからね。平和ボケした彼らにはショックが大きすぎたかもしれないね。」
そう言うと影の中から低くよく響く声が聞こえる。
「オスタと紛争には持ち込めそうか?」
聞こえる声にそいつは答える。
「うん、少しずつだけど、情報を操作してオスタが暗殺を企てたことにするよ。」
その影から「ならば良い」と聞こえると、その影はフッとどこかへ消えた。
「さぁ、さっさと戻らないと怪しまれてしまうからね。お仕事お仕事。」
こうして、そいつも暗闇の中に溶け込むように消えていった。
◇◇
選抜試験が終わり、帰宅する途中、アキラは予定があると言ってどこかに行ってしまい、おれはタリスとマーナの3人でそれぞれの帰路に着いていた。すると後ろから誰かが走ってくる音がする。
「ちょっとショウ、待ちなさいよ。」
あ、そいえば、おれアキラに負けたんだ。しかも、魔法も見られたし。おれはアリスの方を振り返ると、どんな気の利かせ方か、タリスがおれに向かって伝える。
「ショウ、悪いけど先に一回宿に帰ってから、カイルさんのとこ行くから、ちょっと時間かかると思うから先、行くわ。アリスちゃんも、またね。」
そう言ったタリスとマーナはアリスに向かって手を振って、そそくさとその場からいなくなる。アリスも2人に頭を下げ、いなくなったかと思ったら早速本題をぶちかましてきた。
「あんた、魔法使えないって言ってたのに、使えるじゃない!しかも、私を助けた時に使った魔法とは違う魔法だったわよね!?どう言うつもりなの?」
うーん、適当に誤魔化しながら少しは本当のことを言った方が良さそうだ。
「今まで騙しててごめん、実は、魔法使えるんだけど、師匠からの言いつけで、今は剣術だけでなんとかしろって言われてるんだ。魔法が使えると、どうしても魔法に頼っちゃって、剣術が疎かになるからって。」
アリスはおれの話を聞いて腕を組みながら考える。
「うーん、たしかに、あんたの師匠、的を射ているわね。私も、今回の選抜試験でそれは痛感したわ。」
お、なんかたまたま良い方向に転がったぞ?よし、この話に乗っかろう。
「でも、アリスはあれだけ魔法が使えるんだから、魔法に頼ってもいいんじゃないの?」
しかし、アリスは首を横に振る。
「更に上を目指すなら、剣術だけでも十分戦える実力が欲しいと今回思ったわ。」
まぁたしかに、アリスの魔法の実力と更なる剣術の実力があればかなり強くなれるだろう。
「そっか、たしかに、それはあるかもね。」
しかし、ここに来ておれはこの話の流れが根本的にまずかったことを思い知らされる。少し間があったと思うと、アリスは何かを決心したようだった。
「だからショウ、私に剣術の指導をつけてくれないかしら?」
少し頬を赤らめて見えるのは夕陽のせいだろうか?しかし、まっすぐにおれを見据える瞳には覚悟の火が灯っている。
「し、指導!?そ、そんなおれにできるわけないよ!」
おれが慌てふためいていると向こうもどうやら意地のようだ。
「あんた、もしアキラに負けたら私の言うことなんでも聞くって言ったわよね!?これが私のあんたへの願いよ!」
「うぐっ!?」
おれは痛いところをつかる。
「だ、だって、あのアキラ、実はおれの師匠が扮してたから、実際は師匠と戦ってるのと同じだったんだよ?そんなの、勝てるわけないよ!」
そんなことがあるの?とアリスは一瞬驚いた顔をしていたがどうやらそんなこと御構い無しだ。
「それでも、あんたは私と約束したでしょ?」
おれはそれに対してゴニョゴニョと言い訳をするとアリスは少し寂しそうな顔をする。
「本当に嫌なら、断っても良いわよ。」
突然の引き手におれは動揺してしまう。
「い、嫌ってわけじゃないけど。おれ、指導なんてしたことないから何をしたら良いのかわからないし、アリスの役に立てるかわからないから。」
おれの言葉を聞いたアリスはフッと鼻で笑う。
「あんた、今嫌じゃないって言ったわね。じゃあ決定よ!はい決まりー!」
あれ、さっきの寂しそうな顔のアリスはどこに行った?
「え、え!?ちょっと待ってよ、おれの話、聞いてる?」
アリスは用は済んだと言わんばかりにくるりと踵を返し、来た道を戻り始める。
「聞いてるわよ。大丈夫、あんたと打ち合ってるだけで強くなれる気がするわ。時間がある時に付き合ってくれれば良いから。あんたの都合が良い時に声をかけて。」
それじゃあ、と言いながらアリスは来た道を歩き出す。おれは呆気にとられ唖然としていると、そう言えば、とアリスは再びその場でこちらに振り返る。
「とりあえず、騎士に慣れてよかったわね。おめでとう。」
なんだかなぁ、と頭を掻くおれを、とても心地よい風が抜けていった。
そしてその日の夜、タリスとマーナ、そしてアキラではなくラキカがカイルの店に集まって祝宴を上げてくれた。おそらく、ラキカは少年化の魔法を解いてもらったのだろう。
タリスとマーナはカイルと顔見知りのようだったし、アイルは2人の話をカイルからよく聞かされていたようで、おれたち6人はあっという間に打ち解けた。
今日はカイルが気を利かせて店を閉めてくれたらしく、客はおれたちだけだった。それぞれの飲み物が手元に揃うと、お互いの顔を見合うが最終的にラキカに視線が集まる。ラキカはしゃーないな、と言わんばかりにふぅと一息ため息を吐くとエールを片手に話始める。
「まぁ、なんだ。最後はおれに負けてしまったがショウは本当によくやった。このおれにあそこまで実力を出させることができるのは騎士団の中でもそう多くはない。その歳でその実力だ。これからも色んな敵、味方に合うだろうがそいつらと切磋琢磨して、おれとか、タリスを超えていってくれ。お前ならそれができると信じている。まぁ堅苦しい話はこれで終わりだ!今日は飲もうぜ!乾杯!」
ラキカの乾杯の声に合わせて全員がかんぱーい!と言いながらグラスをガチャンと合わせる。
「プハァ、やっぱり戦った後のエールは最高だな!いやぁそれにしてもまさかショウ相手に第二門を開けさせられるとは思いもしなかったぜ!」
その言葉にタリスも頷く。
「えぇ、お師匠が第二門開けるなんて、あの地底の谷でドラゴンと戦った時以来じゃないですか?」
それを聞いたカイルが驚きを隠せない様子で口をあんぐり開けていた。
「地底の谷のドラゴンってアースドラゴンのことかい?」
ラキカが酒を煽りながら頷く。
「あぁ、なんでもあのアースドラゴンの卵からつくる目玉焼きが絶品だっていうからタリスに取りに行かせたら見事に母親に見つかりやがってな!」
タリスはその時のことを思い出すとガックリと俯いていた。
「あのときお師匠はあの卵がアースドラゴンの卵だなんて一言も言ってくれなかったじゃないですか!もうあの母ドラゴンと目があった時の気まずさといったら、今思い出しても震えますよ。」
「がはははは!そんな昔のことよく覚えているな、だいたいお前はな、」
ラキカとタリスの昔話を聞いていると、この2人が本当に仲が良く、良い師弟関係だと言うのがわかる。2人の会話とカイルの作る料理をアテに男性陣のグラスがどんどん空になっていく。おれはラキカとタリスの話を耳にしながら、なんとなくボーッとしていると、マーナがおれに声をかける。
「そんなボーッとしちゃって、今日の主役の顔じゃないわよ?」
マーナが取り分けてくれた料理に手をつけながらおれは答える。
「お父さんとお師匠の話を聞いてると、やっぱり2人は仲がいいんだなぁって思って。ぼくも2人に並べるくらい強くならなきゃなって思ってたの。」
それを聞いたマーナは驚いた顔をしている。
「ショウは十分強いじゃない。ショウの試合を見ながら、お父さん言ってたわよ?今のおれでは勝てないかもなって。」
タリスがそんな風に思ってるなんて微塵も感じていなかったため思わず確認する。
「え、そうなの?でも今回も一緒に修行してるときはそんなこと一言も言ってなかったし、やっぱり負けてたよ?」
マーナは首を横に振って諭すようにおれに話をする。
「父親なんてそんなもんよ、いくつになっても息子は息子だし、自分は父親面してたいの。だからショウもそれに付き合ってあげて。」
それを聞いていたのか、酔っ払ったタリスがおれに向かって絡んでくる。
「強くなったとは言え、ショウは騎士団に入ったばかりだ、騎士団で色んなことを経験してようやくおれ見たいな一人前になれるからな!」
この発言を聞いておれは忘れていたことを思い出す。
「そいえば、お父さん騎士団にいたんだよね?なんで今まで教えてくれなかったの?それにラキカさんも、実はめちゃくちゃ有名で、昔は騎士団長だったんでしょ?」
おれはラキカとタリスを交互に見るとラキカは大きく息を吐いて話を始める。
「そうだな、ショウが選抜試験を合格したら色々教えるって話だったからな。そろそろいいよな、2人とも。」
ラキカはそう言ってタリスとマーナの方を見ると、珍しくマーナが答える。
「えぇ、元から、いつかは話をしなければいけないと思っていました。丁度良い機会です。まずね、ショウ。お父さんとお母さんのこと、これまで秘密にしていてごめんなさい。これから話すことは、王家の中でも一部の人しか知らない話。もしかしたら、ショウが騎士団に入って私たちの色んな噂を聞くかもしれないけど、今から言う話が真実だから。」
こうして、これまで口にされることがなかったタリスとマーナ、そしてラキカやカイルを巻き込んだ昔話が始まった。
アーガンス王を殺したのは隣国のオスタと戦争を始めるために何者かが仕組んでいるようですね。そして、アリスとの約束、こんなことになるとはショウは思っていなかったのでしょうが、果たしてショウはアリスの気持ちに気がついているのでしょうか?
さて、これで第4章王宮騎士選抜2次試験編も終わりです。次からは第5章回想編がスタートします。
この第5章、ショウが産まれる前のタリスとマーナ、ラキカを中心にストーリーが進みます。ストーリーとしては前に進まないので外伝的に別小説で出すことも考えたのですが、やはりできるだけ多くの人に読んで欲しいと思い、一つの章としてこの話の中に入れました。
ただ、基本的には次の5章を読み飛ばしても大凡は第6章につながる構成にしていますので、第4章のあとに第6章を読んでいただくことも可能です。
(ただ、もちろん第5章の中にもこの後の本編に関連する話もでてきますが。)