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襲撃

おれとグレンの目線の先に居たのは、何やら筒状の物を手に持ったイータだった。しかし、その様子は虚ろで、何やらブツブツ一人いっている。


「あいつさえ、あいつさえいなければ。」


「自分の実力が足りないからって、努力したやつを逆恨みするのはお門違いなんじゃねぇか?」


アキラがイータに問いかけるが、イータは返事をしない。その代わり、イータはグッと身を屈めたと思うと驚異的な跳躍力でおれとアキラがいるステージまで跳んでくる。


「ここでおれがこいつらを倒せたら、倒せたら。」


「大概にしないか、イータ。もう君はこのステージに立つ資格すらないんだ、見苦しいぞ。」


グレンが言葉を放つがその言葉は耳に届いていないらしい。ステージ上に跳んできたイータの表皮が次第にドス黒い赤紫色に変色し、その目と口は大きく見開かれ、指先の爪は黒く硬化し、そして黒い靄がイータの全身を覆い始めるとその体は大人の大男よりも大きく膨れ上がっていく。


「おいおい、こいつはとんでもないことになってきたな。グレン、ショウを連れて観客を全員避難させろ。」


「い、一体何が起きてるんだ?それに君は?」


アキラに命令されたグレンは何が起きているのか理解できないでいた。


「誰かがイータを魔物に育て上げたんだ!おれはこいつをなんとかする。だからグレンはショウを回復させて、観客を避難させてくれ。」


グレンはアキラ一人残すかどうか悩んでいたが、おれを回復させるのが先決だと判断したのだろう。おれに肩を貸すとステージから離れる。


「よし、わかった。死ぬなよ。」


ステージから降りてこの場を離れようとするおれに向かってイータが飛びかかろうとしてくる。しかし、アキラはそれを見過ごさなかった。


「おまえはおれの相手をしてろよ。」


アキラはおれたちとイータの間に割って入るが、心許なさそうに木刀を構えながら、眺める。


「だが、これでどこまでできるか、だな。」


◇◇


その頃、観客席はパニックに包まれていた。


「こんな城の中に魔物が!」


「こんなの聞いてねぇぞ!どうなってんだ!」


みんなが好き勝手に動くため逃げるに逃げれない。試合を観戦していた騎士団のメンバーは避難経路の誘導を行っていた。


「皆さん、大丈夫ですから、落ち着いて下さい!」


「こちらに二列に並んで下さい!」


一方タリスたち。突然様子が変わったイータに対しアリスは驚きたじろぐ。


「な、なんなの、あれ。どうなってるのよ。」


タリスとマーナも驚いているが、思いのほか冷静だった。そしてタリスは手元の自分の剣を取り、アリスに問いかける。


「アリスちゃん、剣を貸してくれないかな?」


アリスはタリスが剣を既に持っているだろう、と一瞬戸惑う。そもそも、剣などこの状況で何に使うのか、とも思った。しかし、タリスが何をしようとしているか理解する。


「も、もしかしてお父様、あれを倒しに行くんですか?」


タリスはコクリと頷く。


「アキラも流石に木刀ではあれ相手にどうしよもない。」


「た、確かにそうかもしれないけど、騎士団のメンバーに任せておいたらよいのではないですか?」


タリスは首を横に振る。


「いや、この状況では彼らは思うように動けないだろう。それに、きっと実力的にも厳しい。」


アリスはタリスの実力を知らないが、タリスの意思が固そうな様子を見て、恐る恐る自分の剣を渡す。


「うん、やっぱりいい剣だ。大切に使うよ。何かあったら、マーナを守ってやってくれ。」


アリスは頷く。


「あなた、終わったらショウの準優勝の祝いを兼ねて美味しいご飯を食べましょうね。」


マーナに見送られたタリスは片手を上げて返事をすると、避難者の集団に紛れ込むかのように姿を消した。


◇◇


舞台は再びステージ上へと戻る。イータは自分の行く手を阻むアキラに威嚇する。


「グォォォォォ!」


当然、アキラに対してそんな脅しは聞くわけがなかったが、この咆哮を聞いた観客が更に慌てふためく様子がアキラにも届いていた。


「どぅどう、まぁ落ち着けよ。そんなに怒ったって良いことないぜ。」


残念ながら今のイータにそんなことを言っても聞くわけがない。アキラは咆哮が効かない敵と見なされ、アキラに向かって太く、鋭い前腕の爪で引っ掻く。


大きく、ずんぐりとした全身から繰り出される攻撃はそこまで早くない。アキラはあっさりとその攻撃を躱す。しかし、アキラが避けた後の地面には鋭い爪痕が残る。


「まったく、せっかちなやつだな。まぁしゃーない、ちょっと遊んでやるか。」


アキラは何も考えずに振るわれるその豪腕を軽やかに避けながらイータの懐に迫ると、手に持った木刀に力を込め、ゴーレムを砕いた一撃をイータのみぞおちに叩き込む。


ボゴォ


木で肉を叩く鈍い音が聞こえ、木刀は中程で叩き折れる。しかし、イータは一瞬その手でみぞおちを押さえるものの、何事もなかったかのように再びアキラに向かってその腕を振り回して暴れ始める。


「ちっ、やっぱり木刀じゃ拉致があかないな。」


アキラはその手に残った木刀をイータに向かって八つ当たりのように投げつけ、再び迫り来る腕を避け続けるのであった。


◇◇


おれはグレンに医務室に連れてこられる。そこでアキラに膝蹴りを受けたところを見ると、見事に真っ黒に内出血していた。


「こっ酷くやられたな。でも、凄い試合だった。」


グレンは医務室でゴソゴソと回復薬を探していた。


「いや、師匠には優勝してこいと言われたから帰ってからが怖いよ。」


「あはは、そうなのか。でも、君をそこまで育てる師匠、さぞかし有名な方なんだろう?」


グレンはこれだ、と言いながら小瓶に入った液体を取り出す。


「どうなんだろ。ラキカさんって人なんだけど、おれが田舎から出てきてるからよくわからなくて。」


「ら、ラキカさんって、あのラキカ様か?」


グレンはせっかく見つけた傷薬を驚きのあまりおれに渡し損ねそうになる。


「うーん、アリスもラキカって名前を出した時に驚いてたけど、多分違うと思う。ちなみに、そんなに凄い人なの?そのラキカ様は。」


「そうだな、とんでもなく凄い。元王宮騎士団長だ。その強さは歴代団長の中でも最強だと言われている。」


「へぇ、そんなに凄い人なんだ。どんな戦い方するの?」


「おれも実際戦ってるのは見たことないから知らないが、純粋な剣術と、自分の力を高める気の力で戦うらしい。ほかの団長は魔法を併用する人が多かったが、ラキカ様はそうでなかったらしい。」


おれは相槌を打ちながら受け取った傷薬を飲み干す。うん、苦い。しかし、少しずつ傷の痛みが引いていくのがわかる。


「だが、昔王宮内であったとある事件をきっかけに騎士団を抜けて、今は色んなところを転々としながら生活してるらしい。そいえば、ついこないだこの城にも来てたって言ってたな。」


「へぇそうなんだ。」


なんだか話を聞いていると、どうやらおれのお師匠のラキカはみんなが言うラキカ様と同一人物な気がして来た。そして気になることがもう一つ。


「そいえばさっきそのラキカ様は気を使って戦うって言ってたけど、それって今日おれが戦ったアキラみたいな感じ?」


「あぁそうそう!きっとそんな感じだろうと思う!もしかすると、アキラはラキカ様に修行をつけてもらってるのかもしれないな。」


うん、ようやく謎は全て解けた。さぁ、傷もよくなったところだし、アキラのところにいって真実を聞き出そう。


こうしておれは再びアキラとイータが戦っているステージへと戻るのであった。

再度現れたイータがいきなり魔物化してしまいました。この魔物、そこまで強くはなさそうですが場内はパニックです。そして、徐々に明らかになるラキカの素性。目まぐるしく変わる場面ですが少しずつ物語の中心に近づいて行っています。そして、この第4章もクライマックスが近いです。引き続き、お楽しみ下さい!

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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