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剣を振るということ

町を出て真正面を見ると、右手に伸びる村の塀に沿って続いている2mくらいの幅の土が剥き出しになった部分以外は一面が草まみれのだだっ広い草原にでた。遠くには山が見え、所々に木々や大きな岩が突き出していたが、それ以外は本当に何もない草原だった。少し右手に目をやると、これから目指す森が鬱蒼と茂っており、広い草原を少しずつ森が侵食しているようにも見えた。


「正面に真っ直ぐ進んでいくと、大きな山が繋がっていて、さらにその山を越えた向こうには海がある。山の麓に村もあるが、人の出入りがおれたちの村より少ないから、おれたちの村よりさらに小さいんだ。で、今回いくのは右手に見える森だ。村に沿って歩くとすぐに着くと思うがちゃんと歩けそうか?」


タリスが目の前をおれの歩調に合わせてゆっくり歩きながら聞いてきた。


「うん!大丈夫だよ!全然平気!」


おれがそう応えると、タリスは安心したようで続けた。


「そうか、ならよかった、なら、もう少しだけ歩いて、森に入る少し手前で休もうか。」


これくらい歩くだけだったら平気である。いつも近所の子供達と走り回っていたからだ。子供達といっても自分と同じ年代の子達で、最初は何が悲しくてこんなジャリンコどもと遊ばないといけないんだ、なんて思っていたが、マーナがあまりにも遊んでこいと言うので最初は仕方なく遊んでいた。しかしながら、子供の遊びも、いざやって見ると面白いもので、川の幅をどこまで飛び越えられるかとか、虫を捕まえて見たりとか、その辺になってる木苺なんかを食べて見たりとか、現代にいるときには経験できないことが多く、まるで山にキャンプをしている気分のようで次第に楽しくなってきたから、ある程度はついていくようになっていた。

当然、周りの子供に比べると知識のレベルは圧倒的におれの方が高く、比較的何をしても上手くできたから、知らない間におれは所謂ガキ大将的なポディションになっていた。

そんな生活を毎日送っていたから、体力はもしかすると現代にいるときの何も運動をしてなかったときの自分よりあったくらいかもしれない。あの頃は昼夜逆転が当たり前、一日寝てる日もあれば全く寝ない日もあるくらい、不健康極まりない生活を送っていたのだから。


そんなことを考えながら歩いていると、カサカサっと10mほど離れた草むらが不自然な動きをしたかと思うと、タリスは流れるような動作で弓を構え、一射。


「ぴぎゅー!」


悲鳴と共に現れたのは、青く透き通った大人の頭より少し大きいくらいのプニプニしたやつ。所謂スライムだ。この世界でも呼び名は変わらないらしい。


矢が刺さっていたが動きは変わらずウサギのようにぴょんぴょんと飛び跳ねながらこちらに近づいてくる。なんだか某ゲームのゾンビみたいで怖い。


おれは突然の出来事に驚き、固まっているとどうやらその行動が相手にわかったらしく、攻撃をしてきたタリスではなくおれを標的にしたようだ。


いろんな出来事が衝撃的すぎておれは思わず後ろに後ずさると、腰が抜けてしまったのかそのままぺたりと尻餅をついてしまった。


スライムはそんなおれを見て自分の体と同じくらいの口を開けておれにダイブしてきた。いっただっきまーすとでも聞こえてくるかのようだった。


あれに噛まれたら痛いのかなー、いや、むしろ痛いで済むのかなー?なんてことを考えながら自分の目の前で腕をクロスさせて身を固くしていると、次の瞬間


バシュっ


鋭い音がしたと思ってゆっくりと目を開けて見ると、横からタリスの短剣がプニュプニュのやつをぶった切っていた。


「ふぅー、驚かせて悪かったな、立てるか?」


呆気にとられているおれに、出来るだけなんでもないように振る舞うために、尻餅をつくおれにタリスは手を差し出す。おれの膝はカタカタ震えていた。当たり前だ、こんなことこれまで経験したことがない。


その様子を見たタリスは、おれの脇の下を抱え、ぐっと抱きかかえると、持ち上げ、おれに自分の足で立つように促した。


「もう大丈夫だ、大丈夫。ちょっと驚いただけで怪我もしてない。」


そう言っておれの正面にしゃがみ込むとおれのお尻についた砂埃をパンパンと叩くと、ほら、綺麗になった、とか言っている。そして、おれの顔を見て続ける。


「これが狩りってやつだ。いつ、どこで、どんなことがわかるかわからない。安全なんてないんだ。でも、おれが一緒にいるから大丈夫だ。お前も知っているだろ?おれがどれだけここにきているのか。そのおれが一緒にいるんだ、だから大丈夫だ、そんなに心配するな。」


おれはタリスの行動を、言葉を、恐怖と驚きではっきりしない意識の中で聞いていたが、ようやく実感が戻ってくると、口をへの字に曲げて、涙を必死に堪えていた。

体は子供だけど頭は大人である。恐怖のせいというよりも、あんな何でもなさそうな魔物に驚き、尻餅をつかされ、腰を抜かして何もできない自分の不甲斐なさと、悔しさから溢れた涙だった。


「ぼく、絶対強くなる。」


おれは溢れ出た涙を肩で擦ってなかったかのように誤魔化しそう言うと、タリスは立ち上がり、おれの頭をクシャクシャっと撫でて言った。


「うん、ショウは強い子だ。大丈夫、絶対に強くなるよ。」


タリスの無骨で大きな手は、おれの心をそっと撫でるかのように、癒してくれた。


そしてタリスは、自分が倒したスライムの倒れた辺りに行くと、何やら半透明の黒紫色の石ころのようなものを拾い上げた。そう、所謂魔石というやつである。


魔物は魔素から産まれるが、その魔素の結晶が魔石である。粉末にしてポーションや解毒剤の材料にしたり、武器や防具に効果を持たせたり、発熱させたりなど、魔石の種類や使用方法によって様々なものに使用されているため、お金と同じように流通していた。

魔物の強さや種族、年齢などで魔石の価値が変わり、ギルドでその魔石の価値に合わせたお金と交換してくれ、テペ村にもギルドは小さいながらもあるためタリスも狩に出かけて魔物を倒してはギルドにちょこちょこと持ってきていた。

この世界のお金は銅貨、銀貨、金貨が主流で、10000枚の銅貨、100枚の銀貨、1枚の金貨が同じ価値で扱われていたが、今回のスライムの魔石は銅貨2枚分で、物価的にはパン1個で銅貨30枚分程度のため、まぁその程度の価値ということである。


タリスは拾った魔石を腰につけている小さな麻袋に入れると、再びおれの方を向いて声をかけた。


「さぁまだ狩りは始まったばかりだ、森の入り口まで行ったら強くなるための第一歩で、少し剣の使い方を教えよう。」


そう言うとおれはうん!と頷き、森の方へ歩き始めたタリスの後ろを遅れまいとがんばってついて行った。


◇◇

しばらく歩くと、森の入り口付近まで近づいていた。いつも狩りにきた人がここを休憩場所として使っているのだろう、ここは直径10m近く草木がなく、土がむき出しになっていて、真ん中には石を積み上げた囲炉裏のようなものが組み上げられており、その中には黒く炭化した木々が残っていた。


「よし、ここで一休みだな。」


タリスはそう言うと、囲炉裏の近くに荷物を降ろしておれの方を向いて言った。


「ショウ、まずは剣を抜いて構えてみろ。」


おれもバックルを外そうかと思った瞬間に言われたので、慌てて外すのをやめてバックルのホルダーから短剣を取り出し、両手で柄を握り、タリスの方に向かって構えた。


「うん、なるほど、んじゃ、今度は上から下に素振りをしてみろ。」


おれは言われるがまま、一歩踏み込んで斜めに斬り下ろす。タリスはその様子をニコニコしながら見て言った。


「どんな感じだ?」


「んー、どうって言われても。」


「まぁそうだよな、んじゃ今度はそのままおれに斬りかかってみろ。」


「え!?」


何言ってんだこの親父は、と思いながら戸惑っていると


「お前の剣がおれに当たると思うか?」


とニヤついている。


少し頭にきたおれは


「怪我してもぼくは悪くないからね!」


というと同時にタリスの懐へ飛び込み、さっきと同じように右上から振りかぶってタリスに斬りかかる。タリスがおれから向かって右に動き、おれはすかさずそのまま横切りに切り替えると、タリスは一歩下がってかわす。そしてそれを追いかけるかのようにおれは足をさらに踏み込んで今度は突きを繰り出すがやっぱりスルリと今度はおれの背中側に回り込むかのようにおれの突きをかわし、そのままタリスは踏み込んだ足を軸にしてクルリと半身を翻し、再びおれと距離をとった。


「逃げてばっかりで父さんズルイ!」


とおれが叫ぶと、


「んじゃおれから攻撃してもよいのか?」


とまたニヤついているので、いい加減頭にきたおれはがむしゃらに斬りかかっていった。しかし斬っても斬ってもタリスに当たる気配は全くなく、おれが疲れて肩で息をし始めると


「まぁこんなとこだな。どうだ、剣を振るっていうのはなかなか楽しいだろ?」


とタリスが聞いてくる。


「楽しくないよ!だって全然当たらないんだもん!」

おれは思わず叫んでしまった。


あはは、と笑いながらタリスは応える。


「最初からそんな上手くいったら何も面白くないだろ?でも、自分の技術と相手の技術を見ながらの駆け引きは何事にも代え難いスリルがあるんだよ。よく剣は型だ、とかなんだとか言う奴はいるし、その理屈もわからなくはないんだが、やっぱり実践で体動かす方が飲み込みも早いし、応用力もつく。だからショウも、まずはおれの駆け引きを味わって欲しいと思ってた。でも、そのおかげで変な力が抜けただろ?ほら、もう一度構えてみろ。」


そう言われておれは構え直すと、たしかに先ほどよりも力が抜けていた気がする。


「剣を抜くっていうのは、誰だって初めての時は身構えるし、だからこそ力んでしまっていざって時にちゃんと身を守れない。だから、ショウにはこうやって剣を抜くことに対する変な意識を持たないようにしてもらいたかったんだ。」


おれは構えていた剣を降ろすとタリスの方を見返し


「うん、わかった気がするよ!ありがとう、お父さん!」


元気いっぱいに応えると、タリスは満足そうにしていた。

魔物がベタですみません。。

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