潜在能力
精神世界での修行が終わった後はそれぞれ帰って休んだ。精神世界におれたちがいる間、どれくらい時間が経っていたのかと聞くとほんのひと時だったらしい。中にいるときはかなり長い時間を過ごしている気がしたがやはり現実世界とのギャップがあるらしい。
そして次の日の相手は二人ともなかなか強かったが、なんとか倒すことができた。やはりここまでくる受験者はそれなりの実力者だ。あっさりと倒す、というわけにはいかなかったが、まぁ10回やれば9回は勝てる相手だろう。こうして精神世界での修行も2日目に入っていた。
「実戦で戦って見て、どうだった?」
タリスが昨日の成果の確認をするかのように聞いてくる。
「うん、もっと体の動かし方にギャップがでるかなと思ったんだけど、ほぼイメージ通りに体が動いたからびっくりしちゃった。」
「あぁ、ワシがお前の体を使ってやっているのは身体強化ではないからな。体の使い方や意識を変えているだけだから現実世界との乖離はほぼない。」
まぁたしかに。そうでなかったら意味がないな。おれが納得しているとディーナは続ける。
「あ、そう言えばな、今後のためにやってみるが、お前が使ってる身体強化の魔法を最大限フル活用するとこうなる。ちょっと体借りるぞ。」
ディーナがその手をかざすとその場に大きな岩山が盛り上がって来る。その岩山の高さが5mほどになると手をかざすのをやめ、おれの中に入る。そして、最近使ってなかった全身強化魔法をおれ自身にかけると青白くおれの体が光る。そこまではいつもと同じだ。ただ、その光り方がいつもおれが使っているときより数倍強い。さらにそこからおもむろに手を広げ、力を込めるとその手に不思議な金属でできた剣を生み出し、先ほど作った岩山に向かって数回空を斬る。
「ん?」
おれは一体何をしたのかよくわからなかったが、その数秒後、斬った回数だけ岩山に斬撃が広がり、そしてその斬り口に沿って岩山が崩れる。そう、見事に剣圧だけで真空波を巻き起こし、岩を叩き切ったのだ。
「な!?」
おれとタリスは二人揃って驚きの声をあげる。タリスはおれから剣を取り上げ、岩山に向かって同じことをやってみる。が、残念ながら何も起きない。
「おい、ショウ、お前どれだけの潜在能力持ってるんだよ。そもそも、こんな強化魔法使えるなんて初耳だぞ?」
するりとおれからディーナが抜けていくのを横目にみながらおれは答える。
「いや、実はラキカさんに鍛えられてたときになんとかラキカさんの扮した略奪者を倒す方法がないかと思って色々試行錯誤してたらこの方法を見つけたんだ。どうやら付与系の魔法は使えそうだったから。」
ディーナは腕組みをしながらコクコクと頷く。
「んじゃなんで試験の時に使わないんだ?って、こんな魔法使ってたら目つけられるわな。なるほど。わかった。わかったが、これハンパないな。」
「うん、ぼくもまさかここまでの威力がでるようになるとは思わなかった。まぁ今回の試験には関係ないけど、今のディーナのお陰でちょっと感覚もつかめたよ。」
おれはタリスからディーナの作った剣を受け取ると、ディーナのやったことを真似するように身体強化をして空を斬る。
流石に同じようにはいかないらしいが、衝撃で岩肌に斬撃の後をつけることはできたようだ。それをみたタリスが呆れている。
「もうここまで来ると人間を半分やめてる気がするな。まぁお師匠だったら同じことができそうだけど。しかも強化なしで。」
タリスが笑うとたしかに!といっておれも釣られて笑う。
「まぁ今は無理でも、お前もあのラキカと同じくらいの境地にはいつかはたどり着けるじゃろ。まぁそれくらいになってもらわないとワシに会うのは無理だからな。」
やはりディーナを救うのはそこまで大変なのか。まぁそんな先のことは心配しても仕方あるまい。まずは目の前のアキラをなんとかするために残り少ない時間でしっかり鍛錬を積もう。
「うん、ぼく頑張って強くなるよ。そのためにもまずはアキラとの試合までの時間、大切に使わないとだね!」
おれの言葉にタリスは頷き、残りの時間、昨日に引き続きディーナがやっていた攻撃の繋ぎ方や二刀流の習得を目指した。
◇◇
精神世界での修行も終わり、遂にアキラと戦う日がきた。しかし、その試験会場の入り口付近で人集りができていた。
「おれを、おれをあのショウとか言うガキと戦わせてくれ!直接やれば絶対負けることなんてないんだ!」
確かあいつは、一次試験の前に失格になってたやつだ。確か名前はギリオス=イータ。イータは二人の兵士に道を閉ざされ、わめき散らしている。
「だめだ、残念ながら君は永久に受験資格を剥奪されたんだ。どんな事情があっても君がここに足を踏み入れることはできない。」
「そんな、あんまりじゃないか!おれが一体何をしたって言うんだ!こんなことをして、ギリオス家が黙ってると思っているのか!?」
何をしたって言うんだ、と言う割にはおれを目の敵にしてる時点で怪しすぎる。おれを殺せなかったからイータが失格になったんだ、といわんばかりだ。そして、騒ぎを聞きつけたグレンが試験場のコロシアムから出てくる。
「そんなにショウとやりたかったら、一回やってみるか。それで気がすむのだろう?」
グレンがイータを横目に見ながら外にいたおれに声をかける。
「なぁ、彼が君と試合をしたいと言っているが、受けてやってはくれないかな?」
「え、おれは大丈夫だけど。」
「よし、じゃあ決まりだ。早速やろう、今やろう。できるな?」
この人、めちゃくちゃだなぁ、まぁいっか。面倒だしちゃちゃっと終わらそう。こうしておれはイータと一戦交えることになった。
二人はステージの正面で向き合う。イータはおれを親の仇のように睨みつける。いやいや、睨みたいのは殺されかけたこっちなんだが。まぁでも結果を見れば睨みたくなるのもわかる。かたや準決勝戦まで出場、かたや永久に受験資格剥奪。まぁでもだからと言って負けてやる義理はない。できることなら圧倒的な実力差でどの道無理だったとわからせてあげたほうがよいかもしれない。
「それでは、はじめ!」
グレンの開始の合図とともに、イータはおれにむかって斬りかかってくる。が、実力は昨日戦った相手と同じくらい。まぁ筋は悪くないがおれが負ける相手ではない。このくらいの斬撃、あの精神世界で受けたタリスの攻撃に比べれば本当に止まって見えるくらいだった。
おれはイータの攻撃を適当に躱しながら戦っていると、魔法も交えた戦術に切り替えてくる。ほう、魔法も使えるのか。使ってる魔法はおそらく雷の魔法。木刀が緑色にバチバチと音を立てて光っている。おそらく当たるとビリリとするのだろう。きっと木刀で受けても痺れるやつだ。うん、ならちょっとその誘いに乗ってみるか。
イータが正面から斬りかかってくるのに対し、おれはまともに木刀で受ける。おれは受ける瞬間に木刀を離したが、きっとイータや周りはイータの魔法でおれが木刀を落としたように見えただろう。
イータはいやらしい笑いを浮かべながら丸腰になったおれにむかって返す木刀を振り上げる。が、残念。おれはそこにはおらずバックステップでイータから距離を離していた。それを好機とみたのか、さらにイータは突っ込んでくるが、今まで剣を持ってても当たらなかった攻撃がおれが剣を離したからと言って当たるわけがない。むしろ、おれの間合いとイータの間合いが異なることで、イータはおれに間合いを取られれば簡単に攻撃をできなくなる。
おれは突っ込んでくるイータから放たれる横一閃を躱し深く体を沈み込ませて懐に入ると、今度は地面を大きく蹴り上げながら肘打ちをイータのみぞおちにいれる。おれの突然の反撃にたたらを踏むイータだが、その直後、自分の首に回る腕に気がついた時には時すでに遅しだった。
おれは肘打ちを決めた直後に背後に回り込み、腕で首をホールドする。完全におれを見失ったイータの首におれの腕は完全に決まっていた。このまま締め落とそうと思えばいつでもできるが、おれは流石にそれは気の毒だと思い、降参の言葉を待つ。側から見たら誰がみても勝負は決していた。しかし、当の本人はその自覚がなかったらしい。
「こんなの、こうしてしまえば、」
イータは手に持った帯電した木刀をイータの脇越しにおれに振りかざす。思いもしなかった反撃だが、おれは即座にイータの首に組んだ腕を離し、迫り来る木刀を迎撃するためその木刀を持った腕を蹴り飛ばす。こいつはこの期に及んでまだ勝てると思ってるのか。せっかく人が親切心で降参のチャンスをあげたのに、それすらしないなんてもうこいつに情状酌量の余地を残すのはやめよう。おれは少し頭に来ていた。
腕を蹴り飛ばした反動でおれとイータは少し距離があくが、イータから攻撃をされる前に今度はおれの最速で再びイータの懐に入り込み、そして顎に掌底を食らわす。おそらく本人からすると何が起きたかわからない状態だろう。
その衝撃でイータの体は宙に飛び、そしてステージに叩きつけられるが動かない。会場にドヨメキが走る。
「え、今何が起きたんだ?一度二人が離れたと思ったのに次の瞬間にはイータが吹き飛ばされて動かない。」
しかし、会場にいるおれと後半で戦った人間たちは何が起きたのか見てわかったらしい。
「おれたち、あんな相手と戦ってたのか?誰だよ、アリス様のお陰で一次を突破できたなんて言ってたやつ。」
「あぁ、剣を持たなくてあれだからな。本気でやられたら手も足も出ない。上手いこと意識を刈り取ったな。」
グレンがイータに近づき脈を確認するとおれの方を見てコクリと頷き、勝者を告げる。
「勝者、ショウ!」
これでイータからの難癖を解決できたとこのときは思っていた。
ディーナが操るショウはもうチートですね。でも、最終的にはそこまで辿り着ける、ということを書きたくて本筋のストーリーからちょっと脱線してみました。
そして因縁を付けに来たイータ。こいつもいってること無茶苦茶ですみません。でも、こいつの登場が後々重要になってくるとかこないとか。