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限界突破

格上の相手、アキラに勝つべく、精神世界でタリスと修行を始める。


目の前で木刀を持って構えるタリスに向かって、おれは踏み込み上段斬りを放つ。うん、体の動きは精神世界でも同じように動くようだ。


しかしタリスはおれの一閃を、おれがこれまで何度も選抜試験でやってきたようにタリスの木刀で弾き飛ばす。弾き飛ばされた木刀はクルクルと明後日の方向に飛んでいった。


「ま、まじか。」


おれが驚いていると、タリス自身も少し驚いていた。実はこの打ち込まれた剣を真横から叩き飛ばすというのは相当な実力差がないとできない。相手の剣速を予測しながら、振り下ろされる剣より早く相手の剣に当てないといけないからだ。おれの一閃は確かに全力ではなかったが、それでも8割程度の速度は出ていたと思う。それをタリスは平然とやってのけたのだ。


「この強化、ハンパないな。」


タリスがボソリと呟く。そしてタリス自身が驚いているのはこれだ。おれの修行のためにはおれ以上の実力で相手をする必要があるため、タリスはこの世界に入るときに強化魔法をかけられている。その効果が思いの外すごかったらしい。


おれがトボトボと剣を取りに行くと、再びタリスに向かって剣を構え、そして飛びかかる。今度はおれの実力を正確に把握しようと、タリスはおれの攻撃をヒラヒラと躱しながらおれの様子を見ていた。この実力差、まるで稽古をつけてもらった最初の頃を思い出す。さて、このまま攻めてても拉致があかないな、と思っていると頭の中に声が響く。


(まぁお前の今の実力だとこのタリスには当たらんだろう。どれ、ワシが代わりにやるからよく感じておくのじゃ。)


するとおれの体が勝手に動き出す。そう、ディーナが体を操り始めたのだ。


(まずは小手調べじゃ。)


今までと剣速は変わらない。だが、剣戟と剣戟の隙間が少ない。剣の打ち方には極論を言えば全8方位と突きを合わせた9方向しかない。その9方向のそれぞれの技量と繋ぎ方で攻撃全体の質が決まってくるのだが、実は純粋な体術として考えればこの考え方は少し違う。剣戟の9方向と、脚、拳、あるいは肘など、人間の体を使った攻撃も当然ある。もちろん、間合いの関係で剣を使う場合は剣のみで考えた方が効率は良いが、更にバリエーションを増やそうと思うと体術も絡めた方が圧倒的に幅が広がる。おれみたいに背が低く、リーチが短い場合はこうやって相手の懐に飛び込んだ方が相手にとっては嫌だろう。


「くっ!?」


タリスがちょこまかと近くで動くおれに攻めあぐねて苦痛の声を上げる。もちろん、攻撃は躱したり、打ち払ったりしてるからおれからの攻撃を受けているわけではないが、明らかに守りに入っていた。


(すごい、ここまで攻めきれるもんなのか。)


おれが感嘆していると、ディーナは得意げに答える。


(小さいなら小さいなりの戦い方があるんじゃ。さぁ、ここからもう一歩攻めるぞ。)


そう言うと、今度は全身をバネのように活かしてこれまで以上の剣速でタリスを追い詰める。こ、こんな動きがおれにできるのか。正に怒涛の攻めであった。脱力をしながら力を入れるところは力を入れる。そうすることで体は鞭のようにしなり、そして動きの反動を利用してさらに次の攻撃へ繋がる。これまでも、素振りをする中で脱力をして剣速を速くするイメージは持っていたが、こんなところまであがらとは思っていなかった。きっとこの剣速は本来おれが何年も先に鍛錬をする中で到達できる領域なのだろうが、それを今体感できている。人間、知らないうちに今の姿が当たり前だと思い、そしてそこが上限と思い込んでしまう。本来はもっと先を目指せるのに、である。本来はこの精神空間はその固定観念を取っ払って自分の底力を示すためのものだろうが、おれにはこの効果はディーナのお陰で普通の人の何倍にもなりそうだ。


(さぁ、そろそろ決めるぞ。)


そうディーナが言うと、飛び斬りから着地した反動でタリスに向かって跳躍しながらおれの得意技、横一閃をさらに強化した斬撃でタリスの胴を斬りにかかる。


よし、これで決まった。


おれはそう思った瞬間、その思いとは裏腹に、おれの木刀はタリスの胴ではなく、おれの脇腹を守るように立てられていた。そしてその立てた木刀が物凄い衝撃を受け止め、その勢いでおれは吹き飛ばされる。


「ほぅ、これを受けるか。」


そう、おれはタリスの斬撃を受けたのである。これまで見たこともない剣速。いや、過去に一度だけこれと同じような体験をした。そう、家を出るときにタリスと打ち合った最後の時だ。もちろん、あのときとは比べものにならないほど速い。


「んじゃ、これならどうだ!」


今度はタリスが先ほどの最後に放った剣戟と同じ剣速で起き上がるおれを追い詰める。一度間合いを離され、そしてこの剣速。おれは思うように距離が詰めれず、今度はおれが防戦一方になる。状況が変わらず、苦戦していると、おれは手に持った木刀をタリスに向かって投げつけ、そのままその勢いでタリスに向かって突っ込む。


(お、おい、何やってるんだ、おれ?)


自らの予想外の動きに思わず自問自答する。流石にこの剣速のタリス相手に武器無しで突っ込むのは自殺行為だ。何を考えているのか、と思ったら次の瞬間、両手に小太刀ほどの木刀を産み出したおれは、向かいくるタリスの剣戟を片方の小太刀で払いながら逆手に持ったもう片方の小太刀でタリスに向かって飛びつく。そして首元にその小太刀を突きつけると、その位置でお互いがピタリと静止した。


「引き分けだな。」


そう、おれが小太刀で払ったタリスの剣がおれの背中のあと僅かの位置で止められていたのだ。


タリスは剣を引くと、おれの方をまじまじと見る。


「お前、誰だ?」


タリスはおれの方を見て何かを感じたのだろう。それに、おそらく剣術自体もいつもとは比べものにならない内容だった。それもあって不思議と思っているのだろう。おれは素直にディーナのことやおれが転移者であることを知らせるべきか悩んでいた。真実を知られること自体に不安はない。他の人と違って間違いなくタリスやマーナはそのことで悪いようにはしないだろう。ただ話をしてしまうとタリスとマーナの子ではなくなってしまうような申し訳なさがおれの中であったため言うのを躊躇っていた。しかしそんなことを無視して、ディーナはおれの体から抜け出し、そしてタリスの前に姿を現わす。


「ワシは次元神、ディーナ。こいつの才能を見込んで今回の修行にちょっとだけ協力してやったのじゃ。」


タリスはあまりの突然の出来事に目を丸く見開き、口をあんぐり開けている。あまりの衝撃でタリスが喋ることができないと判断したのか、ディーナは続ける。


「まぁ突然のことで驚くのは無理もない。ワシは北の大地に幽閉されておるから、いつか助けに来てもらうための恩を売っておきたくてな。だからこの精神世界だけだが協力することにしたのじゃ。」


そう言われてもタリスはなかなか状況の理解ができないようだが、なんとか返事をする。


「あ、あぁ、そうか。北の大地に幽閉、か。そりゃ助けに行ってやらなきゃな、ショウ。」


上の空で答えるタリスだったがだんだん自体が飲み込めて来たらしい。


「ってちょっと待て、次元神?北の大地に幽閉?それって、おとぎ話に出てくるような話じゃねぇか!お前、本物か?って、あの実力だったらあり得ない話じゃないか。」


驚いて、怒ったと思ったら納得している。全く忙しい奴である。そして最後には笑い出した。


「あはははは、こりゃ傑作だ。おれの息子が次元神を助けに行くなんて、そんな面白いことがないわけがない!おう、ショウよ、絶対助けにいってやれ!こんな可愛らしい女の子、放っておいたら男が廃るぞ!」


父親よ、見るポイントそこか。おれは半ば呆れてしまう。


「お父さん、助けに行くのはいいんだけど、ディーナはお婆ちゃんだよ?」


そんなおれのツッコミにディーナは反論する。


「お主、さっきあれだけ色々教えてやったのにその言い分はないじゃろう。」


「だって、その喋り方はお婆ちゃんでしょ!」


何気にこのコメントはディーナの心を抉ったらしく、うぐぐ、と黙ってしまった。うん、何だかちょっと申し訳ないことをした気がする。ちょっとフォローしておこう。


「あ、でもディーナはたしかに可愛い女だよね、見た目は!」


つかさずタリスがおれに言う。


「いや、ショウ、それフォローのつもりかもしれないけど、全然フォローになってないから。」


おかしいなぁフォローのつもりだったんだけど。そんなやりとりをしていると、ディーナが口を開く。


「まぁよい。そんな悠長なことを言ってる余裕がお前にあるのか?」


タリスが頷く。


「ディーナの補助があるあの状態だったら、おそらくあのアキラとも悪い勝負にはならないはずだ。あの動き全てを真似することはできないだろうが、少しでも身につけておいたほうがいい。」


「そうだね、でもやっぱりいきなり二刀流でやるよりも、今までの剣術の方がいいんだよね?」


ディーナが答える。


「いや、どうじゃろうか。どっちもやって見たらいい。アキラとの最終戦でいきなり二刀流になったらヤツも面食らうじゃろう。」


「うん、わかった!んじゃちょっと二刀流やってみる!」


こうして、おれは二刀流の動きを自分自身で再現したり、ディーナに入ってもらいながら習得していった。そしてしばらくすると老婆の声が頭に響く。


(そろそろ今日のところは終わりじゃ。また明日来るがよい。)


そう言われおれたちは返事をしてしばらくすると意識が遠のき、そして意識が戻った時にはおれのタリスは向かい合って座っていた。


「どうだった?」


アリスが心配そうにおれたちの方を見ているのに気がついたおれは、親指を立ててアリスの方に突き出した。

遂にディーナとタリスが顔を合わせましたがなんとなくさらっとながれましたね。それにしてもおとぎ話の話って、やはりディーナは只者ではないですね。まぁなんて言っても神様ですから。そんな修行も随分身を結びそうな雰囲気です。かなりのレベルアップ、間違いなさそうですね。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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