アリスの協力
アリスは3回戦で負けてしまったがおれは4回戦も難なく勝利した。4回戦の相手は槍使い。槍といっても今回は刃がついていないため、言ってみれば棍を相手にしているようなものだ。相手のリーチは長いが、間合いに入ってしまえばなんてことはない相手。今回も結局相手の武器を吹き飛ばして相手を降参させた。
試合が終わり、タリス達の元に戻ると、なんとそこにアリスが一緒になって座っていた。
「まぁ、アリスちゃんたら、お上手なんだから。」
マーナが照れながら手をパタパタと振っている。さらに追い討ちをかけるようにアリスはマーナを褒めちぎる。
「どうしたらお母様みたいに綺麗な大人になれるのかしら。是非その秘訣を教えて欲しいですわ。」
「そんなこと言って、お城には綺麗な方たくさんいらっしゃるでしょう?あ、ショウ、試合終わったのね。」
いやいや、終わったのねって、一体何をしにきてるんだ、この母ちゃんは。
「うん、何とか今日も勝ち残ったよ。」
そう言うと、タリスが会話に割り込んでくる。
「お前、アリスちゃんが負けた相手に絶対に勝つって約束したらしいな、勝算、あると思ってるのか?」
このアリスめ、一体どーゆーつもりで親にそんな話してるんだ。それに、タリス。勝算あると思ってるのかって、あまりにも酷くないか?まぁでも痛いところをついてくるな。
「まぁ世の中やってみないとわからないよね。」
おれが誤魔化しながらそう答えると、タリスが身もふたもないことを言う。
「ショウ、わかってないわけではないと思うし、お前がどれだけ実力を隠し持ってるかわからないけど、はっきり言ってあの相手はかなり強いぞ。」
「そんなことわかってるよ!」
「いや、わかってないな。あいつは多分おれより強い。それでも勝てると思うか?」
タリスよりも強い、か。正直、今タリスとやって魔法抜きだったらどっちが勝つかはわからない。どっちが勝ってもおかしくないと思ってる。そのタリスよりも強いか。おれが返答に困っているとタリスは続ける。
「だからな、アリスちゃんはおれたちのところにきてくれたんだ。少しでもあいつに勝てる可能性を高くするために。」
ん?言っていることがよくわからない。おれが頭にハテナを浮かべているとアリスが代わりに説明を始める。
「あんたのお父様に稽古をつけてもらうのよ。決勝戦前のこの2日で。」
「え、2日間?そりゃ多少は効果があるかもしれないけど、流石に2日間じゃそんなに変わらないでしょ?それに、お父さんも知ってるでしょ?これまで散々ラキカさんに絞られてることを。」
アリスがラキカの名前に反応しているがタリスは首を縦に振りながらおれの質問に答える。
「あぁ、知ってる。だがな、アリスちゃんが提案してくれたのは普通の稽古じゃないんだ。おれがお前を一つの精神世界の中で稽古をつける。こうすることで、肉体の稽古では得られない経験が得られて短時間だが格段と効果がある。」
なるほど、そんなことができるのか。たしかにそれはちょっと興味がある。そんなことを思っているとアリスが聞いてくる。
「今ラキカさんって言ったけど、そのラキカさんって元騎士団長のラキカ=クルニコワさんのこと?」
おれが首を傾げているとタリスが代わりに答える。
「いや、そのラキカさんではない。」
ん?待てよ、タリスは昔騎士団にいて、そこに入る前にはラキカに育ててもらってるんだよな?ということは、おれたちが知ってるラキカはやっぱり元騎士団長のラキカである可能性が高い気がする。やっぱりタリスとラキカ、昔何かがあったんだな。タリスは何事もなかったように話を続ける。
「それでな、ショウ。話を元に戻すとさっきの稽古を今晩できるようにアリスちゃんが準備を進めてくれたらしい。精神世界の稽古は王宮に伝わる秘伝の魔法で実現できるらしいがアリスちゃんの頼みってことでショウが特別に受けれるようにしてくれたんだとさ。」
「そっか、ありがと。」
おれはアリスに向かって礼を言う。
「ふ、ふん!私は私を負かした相手が誰かに打ちのめされてるのを見たいだけよ。それじゃあ、私は先に行くわ!夜に城の門番を訪ねてきたら案内するように伝えておくから。」
そしてアリスはタリスとマーナに向かって話を続ける。
「それではお父様、お母様、突然失礼致しました。」
タリスとマーナはパタパタと手を振り返事をする。
「そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、アリスちゃん。本来ならこちらが頭を下げるべきだ。」
「そうよ、それに、私本当は娘が欲しかったの。アリスちゃんみたいな可愛い子、いつでも歓迎するわ!」
こらこら、息子の前でそれはないだろう、母よ。しかしアリスは何だか嬉しそうにしているからまぁ良いのであろう。
「それでは、また。お父様は後ほど。」
アリスはペコリと頭を下げるとどこかへ歩いていった。そしてアリスを見送るとおれはとても気になることを聞いた。
「お父さんたち、アリスお姫様だって知ってるよね?なんでそんな普通の女の子相手みたいに振る舞うの?」
それを聞いたら、思いのほかマーナから答えが返ってきた。
「それはね、アリスちゃんがそれを望んでいるからよ。」
そんなもんなのか、子供ならまだしも、大人がそれでも良いのか、と思ったがまぁ良しとしようか。
こうしておれはこの日の夜、タリスと精神世界での修行をすることとなった。
◇◇
この日の夜、おれはタリスと一緒に城を訪れていた。門番にアリスを訪ねてきたことを告げると、城の内部に通された。初めて入る城は、正に城!っていうのがおれの感想。メインの廊下には赤色の絨毯が敷かれ、その両脇には装飾された松明が掲げられている。古くから伝わる城なのだろう、年季は感じられるがそれでもよく手入れされているのがわかった。
門番に誘導されながら城の中にある応接間のようなところに通される。
「ここでしばらく待たれよ。」
そう言うと、門番はどこかに消えていった。
「お城の中ってやっぱり凄いね。」
おれが小声でタリスに言うと、そうだな、と相槌をうつタリス。そうか、ラキカ曰くタリスは元々騎士だったからこの場所はおそらく久しぶりなのだろう。そしてしばらくすると、簡易的なドレスを着たアリスがやってくる。普段は冒険家っぽいラフな服装のためドレスを着飾ったアリスは新鮮で、こう見るとやっぱりお姫様なんだな、というのがよくわかった。どうやらアリスはおれのその視線に気がついたようで顔を少し赤らめながら言う。
「待たせたわね。お父様も、お待たせしました。な、何よ、見慣れないからってあんまりジロジロ見ないでくれる?」
「あぁアリスちゃん、ごめんな、うちの息子が。アリスちゃんがあまりにも綺麗だから見惚れてたんだよ、きっと。」
タリスが余計なことを言う。それを受けておれはボソリと呟く。
「うん、そうだね、馬子にも衣装とはこのことだね。」
それを聞いたタリスは聞き返す。
「うん?馬子にも衣装?どう言う意味だ?」
あ、そうか、こっちの世界ではこんな諺がないんだな、きっと。
「綺麗な人にさらに綺麗なものを着せると、尚更綺麗に見えるってことだよ。」
適当に口から出まかせだったが、アリスは満足そうにふんっと鼻で息をして胸を張っていた。
「さぁ、じゃあ行きましょうか。」
おれたちは先を歩くアリスの後ろについていく。どうやら修行をするのはここではないらしい。アリスの後ろをついていくと地下に続く階段を降りる。地下特有のカビっぽい匂いが充満しているなか、さらにしばらく歩くと五芒星がかかれた扉のある部屋に行き着く。そこに向かってアリスは手をかざし魔素を込めると、描かれた五芒星が光り、自然に扉が開く。
「さぁ、着いたわよ。」
目の前には大きな円の中に描かれ、青白く光っている五芒星と、その頂点位置に老婆が座っているのが見えた。思わずおれは生唾を飲む。
「ここが、修行の場所か。」
こうしてこの場所でのタリスによる修行が始まるのであった。
やっぱりタリスとラキカは何かがありそうですね。そして、精神世界での修行。なんだか1日が1年になりそうな修行ですね。ここでの久しぶりのタリスとの修行、一体どんな修行になるのでしょうか?