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一筋縄ではいかない

2次試験二日目、試験はトーナメント形式で1人当たり1日最大で2試合だから残すところあと3日だ。


第3回戦のおれの相手は狩人的なスタイルで、弓矢と火の魔法をベースに仕掛けてきた。おれにとっては初めて戦うスタイルだったからやりにくい。


相手は開始早々拳大の火の玉をこちらに投げつけ、おれが一歩下がるとその隙にさらに距離を開けられ完全に相手の間合いになる。おれはなかなか攻めに出れないように見せかけるため、最初は距離を保ったまま避けに徹していた。


しばらく観察していると、どうやら相手は矢を4本までしか持てないようで、4本打つと一瞬だが次の矢を放つまで時間があった。また、魔法も手元が赤色に光ってから発動するため、撃ってくるタイミングは丸わかりだし連射はできないようなので攻撃する隙は十分にある。もしかしたら、これまでの攻撃のリズムももしかしたらおれの隙を誘うための罠かもしれない、とも考えたが、いくらおれが相手の隙に合わせて攻撃を仕掛けようとしても反応する気配がなかったため、おれは敢えてこの誘いかもしれない相手の隙に乗っかって見ることにした。


おれの胸元に放たれた一本目の矢をサイドステップでよけると躱した先に2本目、3本目の矢が迫り来る。おれはその矢に対し、一歩、二歩と正面に突っ込みながらこれまで剣戟を薙ぎ払うのと同じ要領で木刀を使って弾き飛ばす。


「な!?」


相手は驚いている様だったが更に手元が赤く光ったと思うとさらに正面に向かって火の礫が向かってくる。おれは斜め前に向かいながらギリギリで躱すと、相手まであと2歩。そう思った瞬間、最後の4本目の矢がおれにむかって放たれていた。


「んにゃろめ!」


おれは前に踏み込みながら大きく身を屈め、その矢を避けるとしゃがんだ反動を利用してそのまま木刀で相手の胴を下から上に斬り上げた


「ぐぉっ!」


おれの剣戟がクリーンヒットすると、相手はステージの端まで吹き飛ばされ、その場で悶絶していた。グレンが吹き飛ばされた相手の脈を取ると、ホッとした顔をして勝者を告げる。


「勝者、ショウ!」


ふぅ、これでようやく3勝。やっぱりこの辺りになってくるとそこそこヤる相手がでてくる。足元をすくわれない様に気を付けないとな、そんなことを思っているとやっぱり予想外の出来事が起きた。なんとアリスが負けたのである。


相手は2次試験開始時におれのことをみていた黒髮のあいつ。黒っぽい服に黒い髪、黒いマントはまるでコウモリのヒーローみたいだ。


アリスは試合開始と同時に相手の強さに気がついたらしい。出し惜しみはしないと言わんばかりに氷魔法を5本まとめて相手に飛ばす。すると相手は氷の礫を木刀で目にも留まらぬ速さで叩き落とす。しかしアリスはこうなることを読んでいたのか、その礫に合わせて自分自身も突っ込み、相手が礫を落とすために木刀を振るった隙に相手の脇を狙って木刀を叩き込む。すると、相手はアリスに向かって一歩踏み込み、木刀を持っていない手でアリスの腕を掴み体の自由を奪う。そして、アリスは相手の予想外の動きに戸惑い、隙を見せた瞬間、相手はアリスの胸元を大きく蹴り飛ばす。


ドガッ!


アリスは蹴られた瞬間、咄嗟に後ろに飛んで勢いを殺すが、あまりの衝撃にむせ返ると苛立ちを露わにしていた。


「よくもレディを足蹴にしてくれたわね。」


アリスは手の甲で口元を拭いながら強がってみる。


「本当は決勝まで取っておきたかったんだけど仕方がないわ。」


そう言うと、アリスは両手を大きく広げながら相手から距離を置くと、アリスの全身が青白く光りだし、それと同時にステージ全体に白い霧がかかった。


相手はそんなことを御構い無しと言わんばかりにアリスに迫り、木刀で打ち抜きにかかるが、アリスが詠唱とともにその広げた両の手を閉じ、目の前で手を組む。


「氷よ!」


すると白い霧の中に無数の氷の礫が現れ、そして相手に向かって四方八方から襲いかかる。さすがにこの数、全て撃ち落とすのは無理だ。


ガガガガガガガガッ


氷の礫が地面にあたり砕ける音がする。ステージ周りの白い霧は晴れたが、その代わりに中央が氷の礫で真っ白になる。流石にこの攻撃は躱せないだろう、と誰もが予想していた。


しかし、残念ながらその予想は外れる。


ステージ中央の霧が晴れてくると、相手に背後を取られ、アリスは首元に木刀を当てられていた。


「ま、参ったわ。」


アリスは唇を噛み締めながら、降参を告げるとそれを聞き届けたグレンは勝敗を告げる。


「勝者、アキラ!」


あ、あきら?まるで日本人だな。それにしてもこいつ、とんでもない技量だ。あのアリスの魔法、ほぼ全方位からの一斉攻撃で初手で避けるのは簡単ではない。


だが、外から見ていると少なくとも一つは抜け道があることに気がつく。それを今回アキラと呼ばれた奴はあの状況でやってのけたのだ。


その抜け道とは、相手との距離が近い場合、どうしても攻撃対象と術者の間の弾幕が薄くなってしまうから、そこを突破するのだ。その瞬時の判断力と最初の氷の礫を撃ち落とす技術を加味すると、決勝までおれが進んだ時にあたる相手の候補の1人になりそうだ。これからの試合、よく見ておこう。


一方で、アリスのあの魔法にも感服する。本来はこんな至近距離で使う魔法ではないのだろうし、もう少し対象との距離が離れればさっきの逃げ道も使いにくくなる。それに、一対多においては更に効果を発揮するだろう。そう考えるとやはり攻撃魔法はロマンである。おれもいつかは身につけたいものだと、今回のアリスを見てつくづく思い知らされた。


ただ、やはりあれだけの魔法、ノーリスクというわけにはいかない様で、アリスは試合が終わってステージから降りると魔素の枯渇から少し青白い顔をしていた。その様子を見ていた従者がアリスに手を貸そうとしていたが負けた悔しさもあってかその手を払いのけていた。今はそっとしておくのがいいだろう。


そして、隣で見ていたタリスがボソリと呟く。


「ありゃあ反則的な強さだな。うん、卑怯だろ。」


タリスを以ってしてもそこまで言わせるか。どう戦うか、しっかりと考えないと。そんなことを考えているとマーナがおれに声をかける。


「ショウ、アリスちゃんのところに行かなくていいの?」


おれは頭を横に振る。


「今はそっとして置いた方がいいと思うんだ。さっきの従者みたいな人も手を払われてたし。」


そんなことを言ってるとタリスがおれの背中をバーンと叩く。


「何言ってんだ、弱った時にこそ声をかけてやるのが男だろ?同世代、同じ試験を受けた人間としか共有できない感情ってもんがあるんだよ!そしてこの心の共有が後々に恋心になって、」


タリスが大声で熱弁を振るい始めるのでおれは恥ずかしさのあまり声で制する。


「わ、わかった、わかったからお父さん、落ち着いてよ。んじゃちょっと様子見てくるし、もうすぐ次の試合だからそのまま行くね。」


そう言うと、おれはそそくさとその場を後にし、アリスがいるであろうコロシアムの内側に向かう。すると、ちょうどアキラとすれ違う。一瞬、おれは戸惑ったが特に後ろめたいことも何もないからそのまま通り過ぎようとする。そのとき、


「お前との試合、楽しみにしている。」


とアキラはこちらを見てほくそ笑みながらつぶやく。その声は低く、落ち着いているが、冷たさを感じさせる声ではなかった。おれは慌てて振り返ると、アキラは既に通路を出て角を曲がったようで、振り返った先から姿を消していた。


「なんかキザな野郎だな。まぁいーや、アリスのところに行こう。」


おれは気を取り直しアリスを探していると、階段を上がった先の広場でアリスは1人でステージを眺めていた。おれは一瞬声をかけるのをためらったが、ここまできたら声をかけるしかないだろう。


「アリス、惜しかったね。」


おれの声に気がつき、こちらを振り返る。てっきり泣いているかと思ったらそんなことはなかったらしい。


「惜しかった?正直に言いなさいよ。私もバカじゃないわ、あの相手がかなり格上だったことくらいわかるわよ。」


そうか、やっぱり気がついていたか。ある程度自分に実力がついてくると、相手との実力差がわかるようになる。


「そうだね、ごめん。たしかに、あいつ、とんでもなく強いね。」


アリスは再びステージに顔を見ながら少し遠い目をしていた。


「まぁいいわ、もし今回ダメでも、また2年後に受ければ良いだけだし。」


そういったアリスは再びこちらを向き、意味がわからないことを言っていた。


「でも、あんたが負けたら承知しないから。」


それ、どんな理屈だよ、と思ったが今回はアリスを慰めに来たんだ。


「わかった。あいつと当たることになったら絶対に勝つ。」


それを聞いたアリスがニヤリと笑う。これ、間違えたかもしれない。


「言ったわね。じゃあ、もし万が一あいつに勝てなかったら私の言うことは何でも聞いてもらうわ!」


う、な、なんて理不尽な。まぁでもしょうがない、最初から負けることを想定してたらだめだ。


「よし、わかった。おれの出来る限りのことをするよ。」


おれがそう言うとアリスは満足そうに笑い、おれの元に走ってくる。おれが何かと思い呆けていると、アリスの唇がおれの頬に当たる。そしてアリスはそのままおれが上がって来た階段を降りながらいう。


「そんな隙だらけじゃあいつには勝てないわよ!でも、私がおまじない掛けたんだから絶対負けるんじゃないわよ!」


おれは自分の頬を撫でながら唖然としているとさらにアリスは続ける。


「でも、ありがと!来てくれて嬉しかったわ!」


そう言い残すとアリスはドタバタと階段を降りていき、その背中は見えなくなった。


おれはその場で1人立ち尽くし、呟く。


「おまじない、か。」


おれはアリスの唇の感触が残る頬を撫でながら、次の試合に向け歩くのであった。

少しずつ、相手も強くなってきましたね。そして、なんとアリスは負けてしまいました。このアキラ、一体何者なのでしょうか?はっきり言って強すぎですね。それにしてもアリスはショウが負けたら何をお願いするつもりなのでしょうか。そして、ショウはこのアキラに勝てるのでしょうか?

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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