二次試験、開幕!
おれはステージの脇に荷物を置いて剣だけを持つと、その場で目を閉じて深呼吸をした。
「やばいな、なんかめちゃ緊張してるかも。」
自分の胸に手を当てると、いつもより鼓動を早く打っているのがわかる。そんなおれの様子を見て一回戦の相手がステージに上がってくる。
「おいおい、そんな様子で優勝なんて、寝言は寝ていえっての。」
わざとらしく大きな声で相手がそう言うと、おれの実力を見ようとしていた受験者が「違いねぇ!」とかいって騒いでいる。ふと、アリスの方を見ると青筋が立っているが気にしたら負けだ。
おれはそんな言葉を無視して、木刀を構える。相手も同じ木刀。年はおそらく14、15歳くらいだろう。
「ディノス!やっちまえー!今年こそ優勝狙えよ!」
「そんなやつ、秒殺しちゃえ!」
アリスと一緒にいたせいで、おれは完全にアウェーの中でやらないといけないらしい。まぁ、それはそれでよしとしよう。そんなことを考えているとなんだか緊張も治まってきた。さぁ、まずは第1戦、しっかり勝たないと。
「2人とも、準備はいいかな?」
グレンがステージの中央に歩み寄り、対峙したおれらの方を見て確認するので、2人ともコクリと頷く。
「それでは、第一回戦、はじめ!」
グレンの合図と同時にディノスと呼ばれた彼は一気におれに飛び込んでくる。こんな真正面からの攻撃、一体何を考えているのだろうか。何より、遅い。そんな正面から打ち込んでくるディノスの剣戟に合わせて、おれは体を捻りながら躱し、そしてディノスの木刀の腹の部分をぶっ叩く。
パッカーンッ
景気の良い音をして木刀同士があたり、そしてディノスの握力が衝撃に耐えられず木刀が吹き飛ぶ。おれはすぐさまディノスに詰め寄り、喉元に木刀を突きつける。
「ま、参った。」
ディノスと呼ばれる彼はヘナヘナと腰を崩してその場に座り込む。
「勝者、ショウ!」
グレンが様子を察して勝者を宣言すると事態を理解した周囲がどよめいていた。
「な、何が起きたんだ?」
「い、いや、よくわからないがディノスが打ち込みに行ったらたまたまあいつの躱し側に放った一閃が木刀に当たったんだろう。」
「あ、あぁ、たまたまか。そりゃそうだよな。ディノスのあの剣戟を狙いにいけるわけないよな。」
そんなことを周りは言っているが、タリス夫婦は満足そうに頷いていた。
「あいつ、流石に腕を上げたな。今のおれじゃあ勝てないかもな。」
「え、あなたより上って相当じゃないの?」
横にいたマーナが驚きながら見ている。
「もちろん、単純な剣術だけだったら多分負けはしないだろう。ただ、あいつには魔法がある。そこを加味すると命の取り合いを仮にやったら厳しいかもしれない、と言うことだ。」
「なるほど、そう言うことね。でも、今回ショウは魔法を使うつもりがないみたいよね。」
「あぁ、きっと師匠の申し伝えだろう。あの年齢であれだけ魔法が使えるのは正直異常だからな。王宮からの変な目を避けるためだろう。」
「そっか、でも魔法を使うなって言うくらいだから剣術だけでもそれくらいの実力はあるってこと?」
「まぁそうなるな。」
「じゃあ、優勝は狙える可能性が高いってことね!」
「いや、そうもいかないと思うぞ。ちょっと面白そうな奴がいたからな。まぁこればっかりは蓋を開けて見てのお楽しみだ。」
タリスはそう言うと薄ら笑いを浮かべていた。
◇◇
その後も試合は進み、この日は第2回戦まで行われ、おれもアリスも勝ち残っていた。アリスは氷魔法で相手の動きを陽動しながら、最後は木刀で追い込む、と言うスタイルだった。ここまで見た中でもやはりアリスの実力は他の連中から頭一つ抜き出ているのがよくわかる。
全員の二回戦までの試合が終わるとグレンが解散を告げる。すると、アリスが寄ってくる。
「あんた流石だわね。剣術だけであれだけあっさり勝ち進むなんて。」
そう、おれは結局二回戦も一回戦同様、簡単に決着が着いた。同じように相手の木刀を叩きとばしたのだ。
「いやいや、相手が良かっただけだよ、たまたま。アリスこそ流石だよ。魔法と剣術の融合、見事だよ。」
「魔法は相手を殺しちゃだめだから使い所が難しいのよね。それにしても、あんた本当に魔法使わないのね。」
「いやいや、魔法は使わないんじゃなくて使えないんだよ。」
「でも私を助けた時に使ってたじゃない!あれはなんだって言うの?」
「さぁ、なんのことかな?さぁて今日も疲れたし帰ろ帰ろー。」
おれは言い訳にならない言い訳をしながらその場を立ち去ろうとすると、まさかこんなところで会うと思わなかった2人がこちらに向かって歩いてくるのを見つける。
「強くなったな、ショウ。」
そう言いながら近づいてくるのはタリスとマーナだった。
「お父さん、お母さんも!」
おれが手を振り2人を呼ぶとアリスが2人の方を見る。
「あら、あんたのお父様とお母様?」
おれが紹介する前に、タリスが自分で自己紹介を始める。
「ショウの父親のタリスと、こっちはマーナ。ショウと仲良くしてくれてるみたいで嬉しいよ。」
「どうも初めまして。田舎暮らしが長いから友達ができるか心配だったけど、上手くやってるみたいね。それに、試験前はショウを庇ってくれてありがとね。」
アリスは2人を交互に見ながら、お礼を言われて照れていた。
「いえ、そんな庇うだなんて。」
照れているアリスを見るのは楽しいがまずは紹介しないとな。
「一次試験のときに一緒に回ったアリスだよ。こんなところにいるけど、本当はお姫様なんだって。」
そう言った瞬間、タリスとマーナの顔が一瞬曇った気がしたが、すぐにいつも通りの笑顔に変わっていた。
「それはそれは、失礼しました。ご無礼をお許しください。」
タリスは片膝をついて頭を下げるとアリスはパタパタと手を振る。
「ちょ、ちょっと、こんなところでやめて下さい。それにあんたも、余計なこと言わなくていいのよ!私は私なんだから!」
それをみてマーナはクスクスと笑う。
「私は私、か。じゃあ、他の子と同じように接してあげなきゃね。これからもショウをお願いしますね。」
アリスはコクリと頷く。
「さぁ、一日待ちくたびれて父さんお腹減っちゃったよ、久しぶりにご飯でも食べに行こう。」
おれはコクリと頷くとアリスに別れを告げる。
「それじゃあまた明日。」
「えぇ、また明日ね。」
こうして2次試験初日は無事終了した。
帰り道、タリスがおれにきいてくる。
「そいえばお師匠は?」
「なんか予定があるから1週間くらいここを離れるって。」
「ふーん、そっか。ところで話は全然変わるけど、お前、良いところのお嬢様に目をつけたな。」
「そうそう、お姫様だなんて、高嶺の花よ?」
2人が冗談なのか本気なのかよくわからない調子で言ってくる。
「もう、そんなんじゃないって!たまたまだよ!」
「ショウ、お前さっきも魔法使ったことをたまたまだって言ってただろ?お前のたまたまは胡散臭いんだよ!」
タリスはおれの頭をワシワシと撫でながら言う。
「ほんとだって!」
結局、おれは晩御飯を食べながら事の経緯を説明するが、いまいち信じてない、というか聞く耳をもっていない感じだった。しかし、そんな話をしながらワイワイとはしゃぐのも久しぶりだ。やっぱり家族っていうのは良いものだな、とつくづく感じた夜だった。
その日は結局、タリスとマーナは予約した宿に帰り、おれもアイルのところに戻った。
さぁ、明日から3回戦、あと5回勝てば優勝だ、がんばろう。
流石に一回戦、二回戦は余裕のようですね。それに、ショウの実力はあのタリスも認めるくらいのようです。さぁこのまま優勝!なーんて行くわけがないですよね。