浮き足立つ二次試験会場
遂に待ちに待ったこの日がやってきた。そう、二次試験の日だ。おれはいつもの時間に起きて日課の素振りを行い一汗かいてから集合時間の少し前に王宮のコロシアムに来ていた。
「ちょっと早くきすぎたか。」
この日も、朝はラキカが見送ってくれた。なんでも、これから1週間近くは用事があるらしく、おれの試合を見ることができないと言っていた。これまでお世話になった人に自分の出来栄えを見てもらえないのは残念だが、逆にそれだけ信頼されているのだろうと割り切ることにした。
おれはコロシアムの入り口で持ち物のチェックをされ、木刀を渡された。そう、この試験、剣の使用は禁止されており原則木刀か、それ以外の武器を使用する場合は自分で剣に対する木刀のような、同様の形状をした、いわゆる殺傷能力の低い武器を準備し、受付でチェックを受けるよう指示がされていた。
しばらくすると続々と受験者が現れ、開始時間には100人ほどがコロシアムの中央にあるステージに集まっていた。元々200人ほどいた参加者が約半分くらいになった計算だ。そして、時間になるとステージの前で立っていた試験監督のグレンが話し始める。
「一次試験を通過したみんな、まずはおめでとう。そして、今日から2次試験を始める。事前に渡した紙に記載のあった通り、相手が気を失うか、相手に降参させるかしたら勝ちだ。場外判定はない。ちなみに、相手を殺してしまった場合失格。道具の使用は禁止。魔法の使用はありだ。事前に持ち物の検査を受けたと思うがあれは出場前にもう一度受けてもらうからそのつもりでいてくれ。あと、負けた人から面接を受けてもらうからそのつもりでいてくれ。では早速だが、トーナメントのためのくじ引きを行う。ここに二列で並んでくれ。」
そう言うと、グレンの横にいた大きな箱を抱えた試験官がステージの中央へ歩み出ると、受験者はそこに並び始める。すると、見知った顔が目に入った。そう、アリスだ。向こうもどうやらこちらに気がついたようでおれが手を挙げて合図するとおれのほうに寄ってくる。
「いよいよこの日が来たわね。私以外に負けるんじゃないわよ。」
「そっくりその言葉をお返しするよ!」
おれたちがそんな話をしていると遠くで話をするのが耳に入る。
「あいつ、アリス様にタメ口きいてるぜ、頭おかしいんじゃないのか?」
「そいえば、アリス様が一緒に森で戦ってたのって一緒にいるあいつらしいぜ、きっとアリス様が助けたから試験に通ったに違いないぜ。」
「でも、あいつグレイブ様に認められたって言ってたよな、実はあれもアリス様のおかげか?」
全く、噂話は聞こえないようにしてほしいものである。有る事無い事好き勝手に言っているが、おれは無視をしていると、くじを引く順番が回って来た。
「何が出るかなっと。」
おもむろに引いた紙を取り出すと、そこには1、と大きく書かれていた。その紙をアリスに見せると、アリスは72と書かれてある。トーナメント表は既に貼り出されていて、1から順に並んでいたためおれとアリスはほぼ反対の位置にいた。
「残念ながら当たるのは決勝戦だ。」
おれがそう言うと、アリスは頷き
「私と当たる前にたくさん試合ができてよかったわね。それじゃあ決勝戦で会いましょう。」
その会話を聞いていた周りから、おれのことを冷やかす声が聞こえる。
「へ、あいつアリス様と決勝戦で当たるんだとよ、身の程知らずも甚だしいぜ。」
「坊やはさっさと身の程わきまえて家に帰れっつぅんだ。」
おれは全く気にしていなかったが、おれ以上に同じように聞こえていたアリスの方がおれより頭にきていたらしい。
「こいつをバカにしたやつ、今に見てなさい、きっとあっと驚くから。そこら辺のやつらには負けないんだから。」
顔を真っ赤にしながら怒っているアリスを見ると、まるで弱いものいじめから守ってくれるお姉ちゃんのような勢いだ。それを聞いたさっきまでおれのことを話ししてたやつらはすっかりと黙った。おれはどうしたもんかと呆気にとられていると、アリスの怒りの火の粉はおれにまで降りかかってきた。
「あんたもあんたよ、なんでこれだけ言われて何も言い返さないわけ?ガツンと何か言ってやりなさいよ!」
こんなやりとりをしていると次第におれたちに注目が集まってくる。うーん、別にどうでもいいんだけどなぁ。まぁでも一言だけ言っておくか。
「えぇーっと、初めまして、ショウって言います。どうせ出るんだから、優勝目指したいと思います。どうぞお手柔らかに。」
おれの発言を聞いて罵声をあげるやつ、全く見向きもしないやつ、メラメラと殺気を燃やしているやつなど、色々いたが、その中で1人だけ、じっとおれを観察している奴がいた。黒髪で、深くフードを被っているから年齢はよくわからないが、おれより少し背が高いくらいだから歳はおれとあまり変わらないくらいだろう。おれがその視線に気がつき、そいつを見るとフッと軽く笑ったように見えたがすぐに人影に隠れて見えなくなった。
おれの発言に満足したのかアリスがうんうんと腰に手を当て大きく頷いていたところ、グレンがやってくる。
「さぁ盛り上がってるところ申し訳ないんだけども、対戦表ができたみたいだから、10分後から早速一回戦を始めよう。」
その掛け声とともに群衆はステージから離れ、コロシアムの客席の方へ登っていった。そして、そのコロシアムの客席にいる受験者の親の中には、おれの一連のやりとりを心配そうに見守っている2人組がいた。そう、タリスとマーナである。
「ショウ、お前大きくなったなぁ、おれは嬉しいよ。絶対に優勝してくれ!」
タリスは涙を流しながらおれを応援していた。マーナも、久しぶりに見た我が子に目頭が熱くなっているようで、何度も目元にハンカチを当てていた。気分は運動会を見守る両親といったとこだろうか。一試合目から久しぶりに親に見られると緊張するかもしれないという2人なりの配慮で、この時はまだおれに声をかけずにいたのだ。
見事に一試合目を引き当てたおれは、少し緊張していたがそんなところにグレンが声をかけにくる。
「君の実力は分かる人には分かっているよ。だから、雰囲気に飲まれず、精一杯やればいい。あ、ただ、殺すなよ。あはははは!」
そう言ったグレンを横目にアリスも去り際に声をかけてくれた。
「んじゃ、私はそろそろいくわね。あんたの試合、楽しみにさせてもらうわ。」
おれは大きく頷きながら、第一試合が始まるまでの時間を胸を高ぶらせて待っていた。
いよいよ始まりました騎士選抜試験の二次試験。この章までは物語はゆっくりゆっくり進んでいましたが、ここからメインストーリーに向けて少しずつ話が加速していきます。皆さま、お楽しみ頂けると嬉しいです。