表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/129

得意げな彼女

アリスに助けられてキメラを倒した次の日の朝、おれはアリスを手伝うことにしたため、まだ森に残っていた。


「覗いたら、殺すわよ。」


川辺におれたちはいたが、アリスはおれの後ろで川で濡らしたタオルを使って体を拭いていた。冬だと言うのに寒くないのだろうか。そう考えると、おれの森での修行はお風呂もあって充実してたなぁ、と思い返す。あぁ、お風呂に入りたい。そんなことを思っているとアリスが体を拭き終わったらしく、こちらに近づいてくる。


「待たせたわね。助かったわ。それじゃあ、今日も張り切って行くわよ!」


どうやら体を拭いたことでリフレッシュしたようで、アリスはやる気に満ち溢れていた。


この日も昨日と同様おれたちは山を登ることにした。時々、おれたちと同じような受験者のグループを見かけたが、お互いが姿を見つけると遠く離れる道を選んだため、結果的に他の受験者を見かけることはあまりなかった。


しばらく山を登るが残念ながら昨日キメラに襲われた場所まで行ってもキメラと遭遇することはなかった。魔物が全くいないわけではなかったが、昨日よりも遭遇する数が少ない。きっと、受験者の大多数がこの辺りまできているからだろう。その後も半日ほど森の中をうろついたがキメラにはあえず、結局おれたちは日が暮れる少し前に仮拠点に戻って来ていた。


夕食をとりながらアリスと今後の方針を考える。


「うん、やっぱり二日連続でキメラに会うのは難しいね。」


「えぇ、そうね。同じところにいてもダメな気がするし、試しにここから場所を移してみない?」


「うん、いいね!でも、どこを目指して進むか考えてある?」


「もちろん。いつも行く川があるでしょ?あの川沿いに上流へ歩いて行ってみない?そうすれば水の入手にも困らないでしょ?」


「そうだね!じゃあそうしよう!」


こうしておれたちは翌朝から仮拠点を移すことをきめた。


◇◇


翌朝、身支度を終えるとおれたちは早速川に向かい、さらに上流に歩みを進める。川沿いを歩くと、突如あのカエルくんが川の中から水鉄砲を仕掛けてくるが、今日はアリスの魔法があるから随分楽だった。魔物との戦いも、やはりアリスは魔法を上手く使って戦っていたため昨日よりかなり安定感のある戦い方だった。


「アリスって、いつも氷の魔法を使ってるけどほかにどんな魔法が使えるの?」


おれは前を歩きながらアリスに聞くと


「わかってるのは氷以外は風魔法よ。だけど風魔法は攻撃力としてはそこまで高くないから普段魔物を倒すときは氷魔法を使うの。でも、風魔法は風魔法で良いところもあるのよ?もう少し魔素が増えて使える魔法の威力が増えてくれば自分を浮かせたりできるからマスターできればとても便利よ。」


二属性か、しかも風と氷って相性良さそうだな。おれもいつかは攻撃魔法覚えたいなぁ、なんて思いながら先に進む。そして、ふと自分の中で気になっていたことを思い出す。


「その二つの属性を同時に使うことってできるの?」


アリスの方を振り返って聞いてみるとアリスは首を横に振る。


「少なくとも今の私には無理。でも、世の中には複合魔法っていって、違う魔法を同時に使うことで追加効果が発動することがあるらしいの。こればっかりはそもそも魔法を二つ同時に発動させる技術力と、使える魔法の組み合わせが合わないと効果がないからかなり運が良くないと複合魔法の発動は難しいわね。」


ふ、複合魔法!?ろ、ロマンが詰まってる名前だ!ん、ちょと待てよ?


「単純に二つの魔法を組み合わせるだけだったら、二人で別々の魔法を使ったら複合魔法発動できないの?」


おれは前の木の枝を振り払いながら気になったことを聞いてみる。


「それがね、魔法の波長とか威力とかが合わないとちゃんと複合魔法にはならないらしいの。でも、複合魔法をするために魔法を合わせたりする訓練を積めば、できることもあるんだって。」


なるほどなぁ、双子ならやりやすい、とかそんな感じかな。いつかお目にかかってみたいものである。もちろん、見たいのはその魔法がおれに向けられて放たれていないときだが。


そんなことを話しながら歩いていると、少し開けたところに出る。よし、あそこで一休みしようか、そんなことを思い、その開けたところに辿り着くと、思わず立ち止まる。なんと、おれたちのターゲットであるキメラがウサギか何かを捉えていたのだ。


おれはアリスの方を見て、攻撃にいこうかと合図したとのろ、アリスはおれを手で制した。


「私がやるわ。」


アリスが両手を胸の前であわせると、みるみる手に青白い魔素が溜まっていくのがわかる。すると、魔素の溜まった両手をゆっくりと広げると、その掌の間に青白い一本の氷の槍が現れ、宙に浮いていた。アリスはそのまま、まるで体操の投擲選手のように右手を大きく振りかぶると、思いっきりキメラに向かってその槍を投げ込んだ。しかも、投げるときに少し回転がかけられており、シューっと高速で風を切る音がする。


キメラは音に気がつき一瞬飛んで来た方向に振り返る。しかし、その時には決着がついていた。


ザクッ!


超高速で投げられた氷の槍はあっという間に振り向いたキメラを貫通していった。


おれはアリスが槍を投げると同時に、キメラに追い打ちをかけるべくキメラに向かって走り出していたが残念ながらそんな必要はなかった。キメラはぼとりと地面に落ちるとそのまま青い光となって魔石だけを残して消滅した。


「さ、さすがアリスさんです。一撃で仕留めるなんて。」


おれはキメラの魔石を拾い、アリスに渡しながら、感想を述べる。驚きと恐怖に思わず敬語になってしまった。それを聞いたアリスはまんざらでもなさそうで、手をパンパンとはたきながら、


「ふん、魔法が使えればこんなもんよ。」


と少し得意げになっていた。


こうしておれたちは目標通り二個のキメラの魔石を手に入れた。アリスとの楽しい時間は宴もたけなわ、もうこの森ともお別れである。流石にこの日に森を出るのは時間的に少し厳しかったため、結局今朝までいた仮拠点に戻り、一夜を過ごしてから森を出た。もちろん、こんなお子様同士だ、キメラを一緒に倒したからといって夜に何かあるわけがない。


◇◇


翌朝、森を出たところに試験官が立っていた。こちらを見つけると大きく手を振って歓迎してくれた。


「おぉーい!こっちこっち!お疲れ様!」


おれたちもそれに合わせて手を振る。お互いの顔が見える位置までくると、試験官は何やら慌てた様子で急に片膝をついて謝りだした。


「これはアリス様、大変失礼致しました。どうかご無礼をお許し下さい。」


おれは何が起きたかわからずキョトンとしていたが、アリスはバツの悪そうに明後日の方向をむいて返事をする。


「いいのよ、あんなところからじゃ気がつきようがないんだし。」


アリスがそう言うと、ホッと安心している様子だったが、すぐに真剣な表情に戻り


「して、お戻りになられたと言うことは、」


試験官が聞くとアリスはキメラの黄色い魔石を取り出しながら答える。


「えぇ、もちろん。」


試験官は大きく頷きながら満足そうに続ける。


「流石はアリス様。いつも稽古をつけさせて頂いている騎士団としても嬉しい限りです。」


おれがアリスの後ろで不服そうに見えたのか、試験官はこちらを向いて取り繕ったように話し始める。


「あ、君、待たせてごめんね。君もキメラ倒してきたのかな?」


おれもアリスと同様に魔石を見せると試験官はうんうん、と頷きながらおれに言う。


「アリス様と一緒にいれてよかったね。君1人じゃ難しかっただろう?」


まぁなんともならないわけではなかったかもしれないが、確かにアリスに助けてもらったのは事実だ。それに、この場は空気を読んだ方が良さそうだ。


「うん、アリス様のお陰でなんとかキメラを倒せたよ!」


ノリノリで答えるおれをアリスがジト目で睨んでいるが放置しておこう。


「それはよかったな、でも、2次試験はそうはいかないからな。さぁ、お疲れのところ引き止めて悪かったな!2次試験は5日後に説明をするからそれまではゆっくり休んでくれ。アリス様も、お疲れ様でした。」


試験官はそう言うと、2次試験の説明が書かれた紙をおれたちに渡してきた。おれとアリスは説明を流し読みしながら帰り道の途中の城まで一緒に歩いて向かう。


「アリス様なんて、これからはそう読んだ方がいいかな?」


おれは出来るだけ場の雰囲気が重くならないように少しふざけた口調でアリスに問いかけると、アリスは小さく頭を横に振って話し始める。


「その、なんて言うか、騙してたみたいでごめん。」


おれはアリスの突然の謝罪に驚き、アリスの方を見ると、どこか落ち込んだ顔をしていた。


「2次試験の会場に行けばわかると思うから言っておくけど、私、自分で言うのも変なんだけど、いわゆるお姫様なんだよね。」


「やっぱりそうだったんだね。」


今度はアリスが驚いた顔をしてこっちを見る。


「だって、こんな試験の最中に体を綺麗にしたり、装備も一級品だったり、仕草とか、やっぱりちょっと普通の子とは違うなって思ってたよ。」


「気がついてたならなんで、」


アリスはおれの発言に少し困惑した様子で聞いてくる。


「さぁ、なんでかな?」


笑ってごまかすと、アリスもそれにつられて笑う。


「あんたって、やっぱりおかしな奴ね。でも、いい奴だわ。」


「あはは、でも、いい奴に見せかけて、実はアリスの地位と名誉を狙ってるのかもよ?」


そんなことを冗談で言うと、アリスもバカじゃないの?と言いながらおれの背中を叩き、そしておれの少し前を歩く。


「でも、ありがと。私、同年代の友達っていなくて、いつもお姫様扱いされるから、その、ね。だから、あんたが嫌じゃなければ、これまでの感じで話してほしいの。」


アリスの顔は見えなかったが、その声色は気品があるがどこか落ち着いた、寂しげな声だった。


「あぁ、もちろん。だって、機嫌を損ねて今度はおれがあの氷の槍で突かれたら嫌だし!」


そうおれが言うと、アリスは掌を胸の前で合わせて魔素を腕に溜めながら言う。


「へぇ、そんなにこれくらってみたいなら、今すぐに味わってみる?」


おれが笑いながら走って逃げるとアリスは負けじと追いかけてくる。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!冗談に決まってるじゃない!」


「あはは、こうやってるとまるで最初にあったときみたいだ。」


おれが立ち止まり、振り返りながら言うとアリスも、そうね、と遠い目をしながら答える。


「あっという間だったけど楽しかったわ。でも、次当たるときは敵同士かもしれないわね、そのときは容赦しないから。」


アリスは拳を前に突き出す。


「うん、そうだね、そのときは、正々堂々戦おう。」


アリスの拳におれの拳を合わせて応える。


「じゃあ、帰りましょうか。」


おれは大きく頷き、それじゃあ、と手をあげ、何日かぶりの家路に着いた。

なんとアリス一人でキメラを倒してしまいました。そしてなんとアリスはお姫様。所謂高嶺の花というやつですね。予想通りの展開、と言った感じでしょうか?


そして、ショウも同世代の友達ができて楽しそうですが、今後この2人の関係はどうなっていくのでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ