初めての共同作業
アリスと出会い、探索の最中、敵に襲われて疲弊した最悪のタイミングで今回の標的、アーガンスキメラが現れた。
おれは身を起こしアリスとふわふわと飛んでいるヤツの攻撃に備える。飛んでいるといっても地上から1mくらいの位置にいるから攻撃が届かない位置ではない。ただ、これまで戦ったことがないから向こうから仕掛けてくるのを待っていると、キメラはどうやらおれを最初の敵とみなしたようで、こちらに向かって飛び込んでくる。アリスにはちょっと休んでいてもらった方がよさそうだったからちょうど良かった。
キメラはおれのわずか頭上からその鉤爪でおれを引き裂こうとする。うん、たしかにこれまでこの森で闘った魔物より飛んでいるから戦いにくいし、スピードが速い。だが、捉えられない相手ではない。空からの何度かの襲撃を躱しながらおれはキメラの攻撃に慣れてくるとこちらからも攻撃を仕掛ける。やはりこれまでの相手とは逃げる軌道が違うから攻撃を当てにくい。絶対数の少なさとこの攻撃の当てにくさから、試験の対象としてはたしかにもってこいだ。
攻撃が当てにくいからといって、相手もおれに触らないと攻撃できないわけだから、逆にそのタイミングさえ掴めれば攻撃はいくらでもできるわけである。しばらく戦っているうちにおれの攻撃は致命傷には至らないが少しずつ当たるようになってきていた。
よし、タイミングが掴めてきた。
そう思い、おれはこれまでより半歩踏み込んでキメラを斬りつけるとこれまでより深く、キメラの胴を切り裂く。
このままいけか?
おれはそう思ったが、残念ながらそうはいかない。キメラはおれから逃げるようにた少し高い位置に飛ぶと物凄い勢いで息を吸い始める。
ん?なんだ?と思い、おれはその場で剣を身構えている。するとその口からカチッと音が鳴ると同時に目の前が真っ赤な炎で包まれる。
ま、まずい!
そう思った次の瞬間、後方からアリスの詠唱が聞こえる。
「氷よ!」
降りかかる炎が目の前に突如現れた氷の膜によって一時的に遮られる。続けてアリスの声がする。
「私の魔素、長く続かないけどこの炎も長く続かないわ!炎が尽きたらチャンスよ!」
「ありがとう!わかった!」
おれはそれだけ伝えると、剣の柄をしっかりと握りしめる。氷の膜が徐々に炎に耐えれなくなって所々から炎が吹き込み始め、おれの皮膚を焼き始める。だが、おれはアリスを信じて来たるべき時に備え、そのまま耐える。
じわじわと無くなっていく氷の膜が完全に消滅し、おれは炎をもろに受けるが、その炎も程なく消滅した。
「今よ!」
アリスがそう叫ぶのを聞きながらキメラをみると、体力を使い切ったのか、フラフラとなんとか体勢を維持しながら下降してくる。
「ウォォォォ!」
これまで何度も練習してきた横一閃をキメラに向かって放つ。剣の鋒が作った一筋の光の上下には綺麗に二つに切り裂かれたキメラが一瞬残る。
そして、程なく青白い光の粒となって消滅すると、光の中からコロンとキメラの黄色い魔石が地面に転がり落ちる。
「はぁ、や、やったぞ!」
おれはすぐさま後ろを振り返りアリスを探すとアリスも膝をつきながらだが大丈夫と言わんばかりに手を振って応えた。よかった、2人とも無事だ。
アリスの無事が確認できるとおれは回復薬を飲み、火傷を治し、アリスの元へ駆けつけた。
「やっぱりあんた、只者じゃないわね。最後の一閃、見事だったわ。」
おれはパタパタと手を振り答える。
「いやいや、アリスのお陰だよ。あのとき魔法を使ってくれなかったらおれは今頃黒焦げだよ。」
そう言うと、アリスは顔を背けぶっきらぼうに言い放つ。
「あ、当たり前よ!魔素がちゃんとあればあんな相手、私1人でも余裕な相手だもの。」
「そっか、確かにそうかもね。何にせよ助かったよ、ありがと。」
おれは素直な気持ちでお礼を言うと
「な、何よ!そんな改まってお礼を言われると照れるじゃない!まぁでも歳下の面倒を見るのは当たり前よ!ふん!」
アリスは立ち上がり、その顔を背けたまま来た道に向かって歩き出す。
「さぁ、とっとと魔石拾って今日は帰るわよ!」
そう言ってズカズカと歩いていくアリスの背中をおれは魔石を拾いながら微笑ましく後ろから眺めていた。
◇◇
キメラは倒したが、2人とも満身創痍のためとりあえず今日は一度仮拠点に戻ることにした。戻る間も何度か魔物に襲われたがこれまでも相手にして来ているし実力差が圧倒的なため特に問題なく戻ることができた。
仮拠点に戻る前に川によって水を補給し、戻る頃には日が少し沈み始めていた。おれたちは少し早めの夕食をしながら他愛もない話をしていた。
「そいえば、ショウって出身どこなのよ?見たところかなり昔から修行を積んでるみたいだけどあんたの友達はみんなそんな感じわけ?」
「おれはテペ村出身なんだけどわかる?お父さんが行く狩りによく連れてってもらったり、剣術の稽古もつけてもらったから周りがみんなおれみたいってことはないかな。」
それを聞いたアリスは安心で胸をなでおろすのがおれにはわかった。きっと、同年代でアリス自身の実力と並ぶ人間がいることに不安感を抱いていたのだろう。目の前の焚き火をいじりながらアリスは続ける。
「あんたのお父さん、そこまでの実力のあんたに教えることができるんだから相当な実力者ね。」
おれはその問いに首を傾げながら答える。
「たしかに、お父さんも凄かったけど、その後に修行をつけてもらった人がまたすごい人だったんだよ。修行をしてやるって言われてついてったら最初の半年間は森に放置されたんだよ、信じられる?」
「半年間放置って、それ虐待じゃない!」
アリスは冗談混じりに手を打って笑いながら言う。おれは半年の森のことやその後のラキカとの2年の修行を掻い摘んで話をする。するとアリスは何かに納得したようで
「そのお師匠は本当に今回の選抜試験のことをよく知り抜いている方なのね。」
おれはアリスの言っていることがよくわからず、はてなを頭に浮かべていると続けてアリスが説明を始める。
「森での修行はこの一次試験を、そしてその後の剣術指導は二次試験を想定してるんじゃないの?考えすぎかもしれないけど。」
なるほど、たしかに言われて見るとそうかも知れない。
「そうかも!良い師匠に巡り会えてよかったよ、ほんと。ところで、アリスはどこで魔法とか剣術を習ったの?」
「私?私は近所おじさんとおばさんにたまたまできる人がいたから教わっただけよ!城下町には魔法や剣術がしっかりできる人がたくさんいるわ!」
ふーん、そーゆーもんなのか。あまりここの常識がわからないからきっとそうなのだろう。
「ともかく、今日一日だけだったけど、楽しかったわ!二次試験であったときは、お互い恨みっこなしよ!」
おれはキョトンとした顔でアリスを見返す。こいつは一体何を言っているんだか。
「うん、恨みっこなしなのは当然だよ。でも、今日一日だけだなんて言わないでよ。おれはアリスに助けてもらったおかげでキメラを倒すことができた。だから、アリスがキメラを倒すまでは、アリスを手伝わせてほしい。それとも、一緒にいたら邪魔かな?」
そう、道中で一緒にいるうちに最初はめんどくさいと思っていたアリスに対する印象も親しみを持てるようになっていた。そしてアリスはおれの発言に驚いた顔をしていたがすぐに答える。
「私に着いて来たいなら着いてくるといいわ。その代わり、足を引っ張ったら承知しないんだから。」
そう言うと、アリスは手に持っていたウサギ肉にガブリとかぶりついた。
「うん、じゃあありがたくお供させて頂きます。」
それを聞いたアリスはクスリと笑うのを見ると、おれも笑ってしまい、しばらく2人で笑いあったのだった。
「さぁ、明日はアリスのためにがんばってキメラを探さなきゃだ!そろそろ寝ようか。」
「えぇ、後まだ5日あるけど、油断は禁物ね。じゃあまた明日。」
2人はそう言って別々に準備したテントでそれぞれの夜を過ごした。
なんとかキメラを倒すことができた2人。やっぱり魔物の討伐はみんなで協力しあって、と言うのが良いですよね、ちなみに、ショウは仮にアリスがいなくても、炎のブレスで一瞬焼け焦げはしましたが、すぐに回避してその後倒しています。