何かのご縁?
少女の平手打ちで吹き飛ばされたおれであるが、少女が危険な状況であるのにはかわりない。だが、残念ながらカエルは未だ水の中だ。この距離では手が出しようがない。とりあえずおれに気を引こうと、足元にある手頃な石を拾って投げようとした、そのとき
「氷よ!」
少女が片手で胸を隠しながら叫ぶと、掌に拳より少し大きな氷の槍がカエルに向かって飛んでいく。そして見事にカエルを串刺しにし、氷もろともカエルは消滅した。
か、かっこいい。手から氷。まさに魔法。羨ましい。そんな思いでおれは少女を見ていたが次の瞬間、同じ魔法をおれにむかって少女は顔を真っ赤にしながら放って来た。
「こっちをまじまじと見るな!この変態!氷よ!氷よ!」
次々と氷の礫がおれに迫り来る中、おれはひょいひょいと躱しながら大声で謝る。
「あぁー、いや、ごめん!あまりにも魔法がかっこいいなと思っただけで決して体を見たかったわけでは!」
「なんなの!?この私の体を見る価値がないものってこと!?この不届き者!ちょっと止まりなさい!」
「ヒャー!」
こうしておれはこの少女にしばらく追いかけ回されたが彼女の魔素が尽きるとようやく彼女も諦めてくれた。そして、彼女は川のそばに置いていた自分の脱いだ服を着ていたが、走り回りながら魔法を連発したせいかぜいぜい息をしている。
それをみたおれは持ってきた水筒に水をいれ、少女に手渡した。
「よかったら、これ飲んで。あと、さっきは咄嗟のこととは言え、ごめんなさい。」
少女はこちらを見るとひったくるように受け取る。このとき初めてその顔をしっかりとみたが、この子、可愛い。いや、決しておれはロリコンではないのだが、その金色のウェーブのかかった髪と白い肌もあわさって顔立ちに品があるのだ。向こうもこちらの顔を初めてみたようで、水を飲みながら、まじまじとこちらを見ている。
「まぁ、これくらいで許してあげるわ。そんなことより、あんた、私を庇った時のさっきのあれ、どうやってあの位置から私を庇ったの?私より歳下だわよね?あの動き、あり得ないわ。」
急に真面目な話になり、おれは咄嗟に魔法を使ってしまったことを思い出した。これくらいの年齢の子なら適当に言い訳しても通用するかなー、なんて思いながらおれは適当な言い訳を口にする。
「いや、何を、と言われても、危ない!と思ったから必死に急いだだけだよ?普段はあんな早く動けないんだけどね。あはははは。」
おれは首元に手を当てながら笑ってごまかす。
「必死に急いだって、あんたそんなスピードじゃなかったでしょ?それに、体が青白く光ってた気がするんだけど、強化魔法か何かが使えるんじゃないの?」
う、鋭すぎる。さっきの魔法と言い、この少女、魔法に関してある程度詳しいのかもしれない。所謂、魔法少女というやつか。ここは知らないフリを決め込むしかない。
「そうなのかな?詳しいことはよくわからないや。もしかしたらそうかもしれない、あはははは。」
笑って誤魔化そうとするおれを少女はジト目で睨んでいるが気にしちゃいけない。おれが話す気がないのがわかったのか、少女も諦めたらしい。
「まぁいーわ、これから敵になる可能性があるやつに自分の能力は知られたくない気持ちはわかるわ。このことは命を助けてもらったことに免じて聞かないでおいてあげる。」
「ま、まぁそんなところかな。ありがとう。」
おれはどうにか少女の勘違いにも助けられ、素性の詮索をされずにすみそうである。そうと分かればこの場から早々に立ち去るのがいいだろう。
「でも今日は本当にごめんなさい。また二次試験で会えると良いね!」
おれはそう言ってその場を立ち去ろうとすると突然少女から襟元を掴まれる。
「ちょっとあんた、待ちなさいよ。」
「は、はひ!?」
突然の出来事に思わず声が裏返る。
「あんたのせいで私、魔素が空っぽなの。こんな中で私1人でこの森を乗り切れっていうの?」
「い、いや、魔法を使ったのは君が勝手に使っただけでおれは何も、」
おれは思わず思ったことを素直に口にしてしまった。しかし、どうやら答えを間違えたようだ。
「へぇー、私の裸見ておきながら、そんな言い訳するのね。あ、そーだ。今朝試験官がなんて言ってたっけ?騎士の道に反した場合は、」
少女はあくまでも自分の正当性を押し切るつもりのようだ。まぁ、確かに魔素がカラの状態で1人にして置いて死なれたら、夢にでも出てきそうだ。やむを得まい。
「あぁー、もうわかったよ、わかった。で、おれは何をしたら良いの?」
「ようやく自分の状況がわかったみたいね。うーん、そうね、じゃあ今日一日私の護衛をお願いするわ。ただし、その間に、キメラを倒した場合はあなたに譲る。これでどう?」
あれ?思いもかけない提案におれは少し驚く。これまでの横柄さとは打って変わって思いのほかフェアな条件である。これならおれにとっても悪い話ではない。
「うん、わかった、それならこっちからお願いしたいくらいだ!是非よろしくお願いします。その代わりと言ってはなんだけど、ご飯くらいは振舞わせてもらおうかな。」
食事のことを切り出されたアリスは目の色が輝く。こいつ、お腹減ってるのだろうか?
「いいわね!それでお願いするわ!じゃあ、交渉成立ね!」
少女とおれは握手をしてお互いの顔を見つめ合う。
「あ、そう言えば、自己紹介がまだだったわね。私はアリス。魔法も多少使えるけど剣もちゃんと使えるから安心して。」
「あ、そうだった、おれはショウ。魔法は使えないから剣だけで頑張る。」
お互い取り合った手を離すと、アリスと名乗る少女は目をパチクリさせていた。
「あ、あんたがグレイブに期待されてるってショウ?てっきりもっとマッチョでいかつい感じだと思ってた!」
どんなイメージだよ、全く。おれは心の中でツッコミながらさらりと受け流す。
「なんかそうみたいだね、おれなんて大したことないのに。」
「ほんとよね、ただのエロガキなのに。」
「え、人に命拾いしてもらっておいてそんかこと言うの?」
「それはあんたがこっちを覗くからそうなっただけでそうじゃなかったらあんたに庇われる必要もなかったわよ!」
「だから覗きたくて覗いたわけじゃないって言ってるよね?」
おれらはこんなやりとりをしばらくしながら、結局まずははおれの仮拠点に戻ることにしたのであった。
なんとショウが助けたアリスは魔法が使える女の子でした。気が強くて勘違い気味の彼女ですが、根は真面目でしっかりしてそうな雰囲気です。実は彼女にはモチーフのキャラがあるので、もしよかったらこれからのストーリーの中で誰がモチーフになってるかイメージしてみて下さい(笑)