選抜試験、開始!
アイルにギルド登録や城下町の案内をしてもらった翌日から、なんとか朝の素振りはできているものの、おれはアイルにこき使われていた。アイルの日中の仕事は所謂何でも屋で、届け物や伝言、買い物の荷物持ちや買い物代行、迷い猫探しなど、日によるがかなりの仕事量をこなしていた。
最初は流石におれ1人に任せることはなかったが、依頼を受ける相手が2回目、3回目となり、同じような仕事の内容だとおれ1人で回ることも増えてきていた。お陰でおれのことを覚えてくれる人も少しずつ増えてきており、最初にアイルがおれのことを「騎士選抜試験を受けるショウくん」と紹介することもあり、おれのことを応援してくれる人もちらほらいた。まさか街中でこんなに顔を覚えられると思ってなかったので少し驚いたが、いろんな人に応援してもらったり、頼りにしてもらったりしてもらえるのは純粋に嬉しかった。そんなこんなでバタバタしているとあっという間に選抜試験まで残り1週間を切っていた。
その日の夜、いつも通りにやってきたラキカはおれに告げる。
「3日後に選抜試験の説明会があるからアイルに言って予定をあけてもらえ。いよいよだな。」
「はい、ここまで長い道のりでした。でも、最近全然打ち合ってないんですが大丈夫ですか?」
「あぁ、その件か。まぁ多分大丈夫だ。選抜試験の序盤は例年宝探しみたいなもんだからな。そこで十分感覚は取り戻せる。」
「え、そうなんですか、わかりました。まぁあまり気負わずにやるしかないってことですね。」
「あぁ、そーゆーことだ。まぁせいぜい今のうちに街中を楽しんでおくことだ。詳しい話は3日後を楽しみにしておけ。」
◇◇
そして選抜試験説明会の当日、おれは説明を聞くため城内にあるコロシアムのようなところに1人できていた。今回来るときは、てっきりラキカがついてくるのかとおもったらそんなことはないらしい。コロシアムは観客席の中央に大きな丸いステージがあり、まさに見世物のような感じだったが、ステージの周りには訓練用の器具がおいてあるから、普段はここで騎士のみんなは訓練を積んでいるのだろう。
そして集合時刻の時点で周りをざっと見た感じ、参加者は200人くらいはきているだろうか。こいつ本当に15歳以下なのか?というくらい大人びたやつから女の子まで様々な参加者がいたが、おれより少し上の年齢がほとんどで、おれと同じくらいの歳のやつは流石にほとんどいなかった。
集合時刻になると、コロシアムの脇にある控え室のようなところからぞろぞろと数人の兵士らしき装いをした人間がでてくる。そして、参加者の集まったステージに登ってくるといよいよ説明が始まった。
「騎士への志願者のみんな、今回はよく集まってくれた。今回の選抜試験の運営を担当するグレンだ、長い付き合いになる者もいるだろう、よろしく頼む。さぁ早速だが、知ってるやつも多いかもしれないがこの試験に定員はない。もしかしたら全員合格になるかもしれないし、あるいは全員不合格かもしれない。是非、出来るだけここにいる多くの者が合格できるように祈っている。それじゃ、具体的な試験方法をこれから説明する。まずは一次試験として、この裏山にしかいないアーガンスキメラを倒してその魔石を開始から1週間後の日没までに持ち帰ってくること。キメラの討伐は1人で行ってもいいし選抜試験参加者の誰かと協力してもいい。ただし、キメラはそんなに数がいないし、一個の魔石で一次試験の通過者は1つだから要注意だ。まず、この一次試験を通過できない者は残念ながらここで試験終了だ。あ、あともう一つ。あからさまに他人への合格妨害を目的としたキメラの乱獲は発見した時点で即失格とする。もちろん、正当防衛の場合はこの限りではないがな。あと、他で入手したキメラの魔石をここで狩ったキメラの魔石だと偽っていたことがわかった場合、今後選抜試験の受験資格を永久に剥奪するからそのつもりでいてほしい。
次の二次試験は一次試験の合格者によるトーナメントの模擬戦だ。ただし、勝ったら合格、負けたら不合格というわけではなく戦術や今後の伸びしろなどをみて総合的に判断する。ただし、もちろん勝ち残った者が有利なのは言うまでもないだろう。模擬戦の細かいルールは開始前に連絡させてもらうからそのつもりでいてくれ。この二次試験を受けた者は全員面接も行う。この面接の内容と二次試験の模擬戦の評価で最終的な合格者の選抜を行う。以上だ。何か質問がある者はいるか?」
周りに大きな動揺などがないことからおそらく例年通りなのだろう。ただ、おれはラキカに騙されていたことに気がついた。この大会にでて優勝しないと騎士になれないのだと思っていたが、認められれば問題ないってことか。まぁ明確な目標があった方が努力しやすいからよしとしよう。グレンは特に質問がない様子を確認すると最後に、と一言添えて
「試験終了後に皆が無事生きて、そして1人でも多くの参加者が合格していることを願う。みんな、がんばってくれ。本日は以上だ、解散。」
グレンの掛け声とともに参加者が帰宅していく中、おれも帰ろうとするとおれの名前を呼ぶ声が聞こえる。呼ばれた方へ振り返るとそこには先ほどのグレンがいた。
「君がショウくんだね、グレイブ副団長から話を聞いている。君の活躍、楽しみにしているよ。ただ、気をつけてね。事前に名前が知られていると参加妨害をされる危険もある。それじゃ、また試験日当日にね。」
なるほど、試験参加者で障害となりそうな人間は金で雇った人間で潰すってとこか。たしかに、ここ最近やたら誰かに見られている気がしていたが狙われていたってことか。逆に考えれば妨害をするだけの価値がこの試験にはあるってことだな。だんだん楽しみになってきた。
◇◇
その日の夜、店にやってきたラキカに試験のこと、狙われないよう忠告を受けたことを伝えると、案の定大笑いしていた。
「ガハハハハ!すまんすまん、たしかに優勝しないと騎士になれないわけではないな。ただな、試験官はやる気を削がないために言わないが、実際採用されるのは上位2人くらいだ。まぁ準優勝、優勝候補者のような実力者が初回でお互い当たった場合の救済事項みたいなもんだと思っておけばいい。」
なるほど、そういうことか。そういう意味ではラキカに言われたことは正しくはないが間違ってもいないってところか。おれが妙に納得しているとラキカは続ける。
「あとな、道中で狙われるのは優勝候補者の宿命だ。お前がグレイブに気に入られたっていうのはその筋では今はそれなりに有名な情報だ。」
「え、そうなんですか?それ、ちょっとやらかしちゃいましたね。」
「あぁ、できればこういう状況にはさせたくなかったんだがおれの配慮不足だ、すまん。あとな、お前を狙いにやってくるやつはそれなりの手練れだ。だが殺すな。殺すと色々面倒なことになる。あと、出来るだけ手の内を見せるな。だから、狙われたら基本的には即逃げろ。そしてどうしようもないときだけ、こいつを使え。」
ラキカはおれに拳より少し小さいくらいの球を渡す。
「これは?」
「煙玉だ。こいつがあればおまえなら多少格上の相手が来てもなんとか逃げ切れるだろう。」
「ありがとうございます。あとは最終手段ですね。」
「あぁそうだ。とりあえず、3日後の開始までは十分用心しろ。今までは顔と名前が一致しないからお前を狙えなかったが、今日説明を聞きに行ったことで多くのやつがお前の顔と名前を覚えたはずだ。本当はおれも出来るだけそばにいてやりたいんだが、おれが側にいるとそれはそれでなおさら問題が大きくなりそうだから1人でなんとかしてくれ。」
「そうなんですね、わかりました。」
「なぁに、気にするな!お前ならなんとか出来るさ!ガハハハハ!」
あぁあー、なんだか嫌な予感がするなーほんと。こんなことならグレイブにあったときにもう少し適当に手を抜いておくんだったなー。そんな思いを胸に秘めながらもおれは3日に迫る試験を嬉々として待ち望んでいた。
いよいよ始まる騎士選抜試験。なんと一次試験は魔物討伐だったのですね!そして気になる有力者暗殺の話。まぁ、ここまで来たらこの後どうなるかは、皆さまご想像に難しくないですね(笑)