ヤバイ副騎士団長、登場
アイルにグレイブ副団長と呼ばれた彼は腰に帯剣こそしてるものの、所謂ただの優男。とてもじゃないがぱっと見は副団長と呼ばれるような屈強な男には見えない。ただ、歩き方や佇まいから只者ではない感じがヒシヒシと伝わる。
「せっかくの午後のティータイムを邪魔しないでくれるかな?それとも、ぼくもその遊びに混ぜてくれるのかな?やるなら、外に出ようか。せっかく入れてくれたお茶に埃が入ったら台無しだ。」
グレイブの名前を聞いた途端、チンピラどもの顔色が変わり、静まりかえると、チンピラ親分は掌を返したように
「グレイブさんのいるところで失礼しました。どうか穏便に。この場は失礼させて頂きます。」
と言って、取り巻きどもに顎で指図しそそくさとその場を後にした。いまいちおれにはこのグレイブがどこまですごいのかよくわからないがどうやらかなりすごい人らしい。何はともあれ、自体が丸く収まってよかった、と安心していたのも束の間、そうはいかなかったらしい。
「ちょっと君、そう、今度選抜試験を受ける君だよ。」
そう言っておれのほうを指差し、こっちにこいと手招きをしている。
おれは大人しく言うことに従い近寄ると
「ちょっと表でよっか。剣、抜いて見せて。」
おれが唖然としているとアイルがおれに向かって
「とりあえず表に出ておきなよ、もしかしてら剣術教えてくれるのかもよ?」
とか耳打ちしてくる。うーん、まぁとりあえず言うことに従うか。
おれはコクリと頷いて表に出て剣を抜いてみる。
「ふーん、良い剣持ってるね。その剣に相応しい実力だと良いけど。さぁ、打ち込んでみて。」
只でさえチンピラとのやりとりで注目が集まっていたのにグレイブの突然の言い出したことに周りも大盛りあがりだった。
「グレイブさんがあの小僧に稽古をつけるっぽいぞ!」
「お、さすがグレイブさんだ、それにしても、それだけあの小僧はすごいのか?」
「小僧、頑張れよ!」
なんだかみんな好き勝手なこと言っているがあんまり注目されるのはよくない。適当に手を抜こう。おれは適当に剣を振ると周りはどよめく。
「お、おい、今の剣筋見えたか?」
「なんだありゃ、これが選抜試験を狙う子供の実力ってことか?」
「いや、あの程度ならまだまだ、、おれにも真似できると思うぞ。」
そんな周りを無視して
「ねぇ君、ぼくの前で手加減してバレないとでも思ったの?」
あ、やっぱりだめだったらしい。しゃーない。いつものあれ、いくか。おれは目を瞑って全神経を剣に集中する。そして目を開いた次の瞬間、
ビュッ
風を切る音が聞こえるとそこには満足そうな顔をしたグレイブがいた。
「うん、やっぱりそうだ。君、いいね、気に入ったよ。名前、教えてくれるかな?」
「ショウ=フレデリックです。」
グレイブはふーん、とおれの方をまじまじとみるが何か気になったのだろうか?
「ショウくん、ね。今度の選抜試験、楽しみにしてるよ。あ、いいもの見せてくれたお礼に、お礼をしようか。」
グレイブが適当にその辺にある小石を拾い上空に投げたかと思うとおもむろに剣を抜き、落ちてくる小石を一閃する。
ポトリ
落ちてくる石はその場で綺麗に真っ二つになり落ちてくる。それだけでも凄いが、適当に抜いた一閃の剣速があきらかにおれより早かった。そう、おれの渾身の一太刀よりもである。
唖然としているおれの方を見るとグレイブは「それじゃ、またね。」と言い残して何処かに行ってしまった。
◇◇
その後ギルド内はその場にいた全員がお祭り騒ぎである。グレイブの実力はギルド内でも有名だそうだが、実際にその剣筋をみたことがない人がほとんどだったようでグレイブの剣技を見ることができるのはとてもラッキーだったらしい。そして、そんなグレイブに声をかけられたおれは先ほどまでのアウェイ感とは打って変わって一気にウェルカムムードとなり、アイルを含めたその場にいる全員がおれの登録を祝福してくれた。
ちなみに、ギルドはランク制でFランクからスタートし、最高でSランクまであるらしい。魔石の換金数やクエスト達成数、王国からの褒賞数などによって変動するそうだ。この中には騎士団に登録となった時点である程度の実力が認められ、Cランクまで上がるらしい。このギルド登録があれば身分証の代わりとなり王国内の街や村の出入りがしやすくなる。さらに、ある一定以上のランクになれば様々な面で優遇されるらしい。そう考えると、ラキカやタリスはどれくらいのランクなのだろうか。ふと気になった。
そんなこんなでゴタゴタもありながらなんとかギルド登録を済ませて買い物と観光を始める頃には昼前になっていた。買い物はメイン通りを通り城の門前付近で主に服の購入がメインだった。アイル御用達の服屋さんにいくと、少しゆったり目の動きやすい服を何着か購入した。これまで着ていた服は修行中にきていたためかなりボロボロだったし汚れがひどかったからちょうど良い機会だった。また、アイルのおススメで1着だけ余所行きの服を仕立ててもらうことにした。これには1週間ほどかかるそうだが、今後の選抜試験時の面接時やパーティで着る機会があるのだそうだ。幸い、手持ちのお金にはある程度余裕があったので言われた通り仕立ててもらうことにしたのだ。自分のために服を仕立ててもらうなんて、転移前を含めて初めてだったから仕上がりが楽しみだ。
そして、買い物が済むとそのまま城の門を前にぐるっと城壁を回るような形で城下町を一周した。城下町は非常に広く、居住区の一部には川や山の自然が豊かな地区もあった。どちらかと言うと居住区は農村的な色が多少残っていて、商業地区が近代的な街並みといった印象だがどちらも上手く共存していた。
城下町を一周回り、全てを見終わる頃には日が暮れ始めていた。アイルは満足そうに頷きながら
「うんうん、これでショウくんの頼み事は終わったから明日からはしっかり私の仕事手伝ってもらえるね!何、大丈夫だよ、簡単簡単!」
と上機嫌だった。おれはその様子を見て明日からのアイルの手伝いに恐怖するのであった。
いざこざから副団長のグレイブに目をつけられることになってしまいましたね。これが吉と出るのか凶とでるのか、果たしてどうなることやら。
そして、小間使いをみつけたアイルは嬉しそうですね。