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初めての王都

約3年に渡る森での修行を終えたおれ。王都に向かうために森を出て馬を飛ばすこと1日弱。あたりがかなり暗くなった頃、進行方向の先に少し明るくなった場所を見つける。


「あ、あれってアーガンス城の城下町ですか?」


馬に乗りながらすぐ後ろのラキカに尋ねる。


「あぁそうだ。なんとかついたな。」


遠くからはよくわからなかったが流石城下町。近づくとその圧倒的なスケールに驚いた。後ろに山を背負い、四方を高く積まれた石の壁で囲まれていた。城壁には所々見張り役がたっており、まさにイメージ通りの城下町だった。


城壁に備えられている大型の馬車も通れるような大きな木の扉は既に閉められており、門番が2人立たされていた。こちらが馬を降り、引きながら近づくと、門番はめんどくさそうに


「今日はもう閉めちまったよ、また明日来てくれ。」


とぶっきらぼうに言う。まぁ無理もない、夜に城下町の扉を開けておくなんてできるわけないんだから。幸い、すぐそばにはおれらみたいな人のための宿野がいくつか準備されていたから寝るところには困らないだろう。


「やっぱりギリギリ間に合わなかったか、まぁしゃーないな。ショウ、ちょっと待ってろ。」


そう言うとラキカは馬の手綱をおれに持たせ、何やらコソコソと門番と話をしている。あ、今なんか道具袋からキラリと光るものを渡したな。


「よし、通っていいぞ。この時間だと街中でも変なのいるから気をつけてな!」


あれ、さっきまでのめんどくさそうな雰囲気はどこにいったんだか。人間って現金なものである。


門番が大扉の横にある小さな扉を内から開けてもらうと、おれら2人と馬に入ってくるよう促した。うーん、こーゆーことができるということはきっとこの国はまだまだ平和なんだろう。


街の中に入ると、至る所に松明が焚かれ、そして行き交う人で賑わっていた。先程通った扉から真っ直ぐに石畳が敷かれていて、かなり先に再び門があるのが見える。おそらく、あそこが城の正門なのだろう。そして城の正門の両脇には飲食店や宿屋、道具屋などが所狭しと並ぶのが見える。


ラキカはそのまま馬を引き、城壁沿いに歩き、ちょうど城壁の角にある少し開けたところにある馬の納屋に馬を預ける。


「さて、腹も減ったしとりあえず飯でも食いに行くか。」


そう言うとさっきのメイン通りに面した飲食店を横目にしながら歩く。


「この辺のご飯屋さんには入らないんですか?」


おれはそう聞くと、


「まぁ焦るな。おれがうまい店に連れてってやるから。」


と言うとメイン通りの路地に入っていく。この城下町は碁盤目状に道が整備されていて、さっきの石畳のメインストリートは幅が馬車が数台横並びになっても通れるほどの大きな通りだが、そこにある路地は幅がその半分ほどとなり、さらにもう一本路地に入ると馬車2台がすれ違えるかどうかの幅となった。メインストリートの周りには商業地域が並び、山側にある西門の近くで川が流れるところは居住地、その反対側の東側は工業地区になっているらしい。今通って来た門は正門で、城があるのは城下町の南側だと道を歩きながらラキカが教えてくれた。


すれ違う街の人たちは様々な人種の人がいてみんなが活き活きと暮らしているようで街全体が活気にあふれていた。そんな様子をマジマジと見ながらと歩いていると


「そんなにキョロキョロとするな、一緒にいるおれが恥ずかしいわ、さぁついたぞ。」


どうやら目的の店に着いたらしい。外観は大衆的な食堂の雰囲気だったが有名店なのか、これまで見てきた他の店よりも明らかに混んでいた。


ラキカが中に入ると、従業員の女性がこちらに気がついたのか近づいてくる。


「あ、ラキカさんじゃないですか!お久しぶりです!さぁどうぞどうぞ!」


「おう、久しぶりだなアイル、相変わらず元気そうだな、2人だ。」


20過ぎくらいの威勢の良いアイルと呼ばれたソバカスが印象的なお嬢ちゃん(と言っても今のおれからするとお姉さんなんだが。)がラキカのことを知っているようで挨拶をしながら奥の空いている席へ案内してくれる。適当にいつもの感じで頼む、と言うとアイルは厨房へ入っていった。


「よく来るんですか?」


おれがラキカに聞くと


「あぁ、昔からの馴染みの店で、この界隈では一二を争う旨さの店だ。普段は色んなところにいくから来る機会が少ないが、アーガンスにいるときは大体ここで飯を食うことが多いな。」


「んじゃぼくもしばらくはここのお店にお世話になるってことですね。」


そんな話をしていると、奥からエールとつまみを持ってきたアイルがやってくる。


「ぼくはジュースでいいよねー?ラキカさんに連れられて、お孫さん、なんてことはないと思うけど。」


たしかにおれとラキカが2人で歩いていると周りから見たらよくわからない組み合わせだろう。


「あぁ、こいつ、ショウって言うんだ。ショウにはジュースを頼む。あと、こいつは今修行をつけてやってるんだ。来月からの選抜試験にでるためにな。」


「ショウくん、選抜試験受けるんだ!でもまだだいぶ若そうだけど、今回は経験を積むために出るのかな?」


「いや、こいつはわからんぞ?まぁ楽しみにしててやってくれ、これからは毎日くると思うから可愛がってやってくれ。」


はぁい!と軽い返事をしながら忙しそうにアイルは仕事に戻っていった。


次から次へと運ばれてくる食事は確かに美味しかった。野菜や鶏肉、牛の肉などがメインで塩味をベースにした薄味のあっさり目の味付けは久し振りに食べるまともな食事にぴったりだった。


一通り食事を終え、ゆっくりしているとエールジョッキを片手にスキンヘッドの強面なおじさんがやってくる。これ、やばい展開?とか思っているとどうやらそんなことはないらしい。


「久しぶりじゃないかラキカ!お前が修行をつけてる子がいるってきいたから見にきたよ!」


顔に似合わず爽やかだ。


「相変わらずお前のとこの飯は美味いな、カイルよ。あぁ、こいつ、ショウっていうんだ。タリスの倅だ。」


おれは横でちょこんと頭を下げると、カイルと呼ばれたなんちゃって海坊主はこっちをマジマジと見つめる。


「なるほど、そういうことだったか。ラキカが修行をつけるなんて何事かと思ったら。ふぅーん、そうかそうか、たしかに、髪の色はタリスだが目元はマーナとそっくりだ。」


おれは色々聞いてみたいことがあるが、昨日の夜ラキカからあまり話すなと釘を刺されているからまずは黙っておくことにした。


「まぁそーゆーわけだからしばらく世話になる。」


「おう、いつでも待ってるよ。ショウくんもよろしくね。」


「そいえば、アイルにちょっと頼みがあるんだが、頼んでも良いか?」


「嫁にくれ、とかでなければ。まぁ冗談はさておき、なんだ?」


冗談はさておき、とかいいながら結構このおっちゃん、顔がマジだったぞ?アイルのこと、溺愛してるな。カイルの言葉は気にしていないラキカは続ける。


「明日から日中、アイルにこいつの相手を頼めないか?街中の案内やギルドへの登録、買い物とかだ。もちろんタダでとは言わない。アイルの好きに彼女の仕事を手伝わせても良い。」


ラキカのいきなりの発言におれは思わず声を上げそうになるが、言いつけを守りおれはダンマリを続ける。


「ちょっとアイルに聞いてみようか。」


カイルはそう言うとアイルを呼びに厨房の方へ入っていった。


カイルがいなくなったのを見計らい、おれはラキカに詰め寄り小声で話す。


「ちょっと、あんまりじゃないですか!いきなり知らない人に押し付けるなんて。」


するとラキカは答える。


「ガハハハハ、まぁそう言うな、おれもお前の相手ばかりはしてられないんだ。ちなみに、アイルとカイルは信用できるやつだから普通に話をしてもいいぞ。ただ、周りにバレないようには工夫しろ。」


「わかりました、ってそんな無茶苦茶な。言うのは簡単ですけど難易度高くないですか?だいたいギルド登録って、」


「おぉカイル、どうだったか?あ、アイルも一緒か。」


仕事がある程度落ち着いたのか、2人はグラスを片手にこちらのテーブルにやってくる。間が悪いタイミングで戻ってきたな、ニャロメ。


「是非今回の話お願いさせてもらいたいです!」


威勢の良い声でアイルが元気よく返事をする。その声は新しい小間使いをみつけたからか嬉々としていた。こうなってくると嫌な予感しかしない。まぁでもしょうがない。村でしか育ったことがないおれが街で色々動き回れるようになるっていうのは良い社会見学だ。うん、そう思うことにしよう。


そしてアイルの期待通りの返事を聞いたラキカはこれで決まりだと言わんばかりに


「おぉそうか、それは助かる、んじゃ早速だが明日からよろしく頼む!ほら、お前もちゃんと挨拶しろ。」


「明日からよろしくお願いします。」


おれはなんとなく釈然としないまま、とりあえず言われた通りに挨拶だけすることにした。そんなところに、ノリノリのアイルがさらに余計なことを言いはじめる。


「あ、もし私に面倒を見させてもらえるんだったらうちに寝泊まりしませんか?その方がなにかと楽ですし。お父さん、空いてる部屋あったよね?」


「あぁ、それが良いな、宿代はいらないし、これくらいの子なら食事もなんとかしてやる。」


「お、いいのか?それは助かる。よし、んじゃ決まりだ!」


そう言うとラキカは机の中央にグラスをドンっと置くとそれに習ってカイル、アイルも手に持ったグラスを机中央に叩きつける。


「ほら、お前もだよ。」


おれはイマイチ自体が飲み込めないでいたがラキカに促され見よう見まねでジュースの入ったジョッキを並べる。ラキカがおれのグラスが並んだのを確認すると話しはじめる。


「では、ショウのこの街の新しいスタートに、カンパーイ!」


ラキカの声に合わせておれ以外の3人がグラスを突き合わせ高々と掲げてカンパーイと言うのでおれも見様見真似で同じようにする。


こうして、おれのアーガンスでの生活がはじまっていった。

ラキカは王都に馴染みがありそうな感じですね、そして、ようやくヒロイン登場かと思いきやソバカス少女でした。残念ながらヒロインの登場はもう少しお待ちください。



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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