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バレる素性、そして

ラキカと剣術修行を始めて約2年。家を出てから3年弱が経過しようとしておれは10歳になっていた。この2年間、ラキカは週の半分をおれと過ごし、残りの半分は森を出て街にでて買い物をしたり、ラキカ自身の用事を済ましたりしていた。おれはラキカと一緒の半分の時間はほぼ毎回殺されかけ、薬草がなかったら危ないところだった。目のみを身体強化した状態でラキカに相手をしてもらってただひたすら打ち合う。序盤は目を強化した状態で。魔素が半分くらいになると今度は強化なしで、途中の休みを入れながらも日が昇り、また沈むまで続けた。日が沈む頃には、最後の仕上げとして全身を強化した状態で魔素を使いきり、その日がようやく終わる。


ラキカは人を育てるのが上手かった。おれの実力をよく見極め、おれが打ち合い続けられることができるギリギリで相手をしてくれた。そのおかげで、おれの剣技も始めた頃に比べればかなり上達してるはずだ。ただそれでもラキカの実力はまだまだ計り知れなかった。


ラキカがいない残りの週の半分は食料の確保や滝斬りの訓練など、一人で修行をしてた頃と同じことに加え、家の改装をしていた。ラキカが風呂をひどく気に入っていたが狭い、というクレームがあり、どうせなら二人で入れるような風呂を作れと指示があったため風呂を新しく作り直したり、雨の日でも入れるよう屋根を作ったりとラキカがいない日はいない日で大忙しだった。


そんな日々も明日で終わる。そう、騎士選抜試験がいよいよ始まるのだ。ラキカによると修行や移動の疲れを取り、城下町の生活に慣れるため1ヶ月ほど余裕を見て移動を始めるらしい。城下町はここから馬で1日ほどでいけるので、少し時間に余裕がありそうだ。


その日の夜は秋の風が吹く少し肌寒い夜だったが星が綺麗だった。おれとラキカは焚き火を囲みいつも通りの食事をとりながら話をする。


「いよいよ明日にはこの森からでるな。どんな気分だ?」


「んー、気分ですか。城下町の生活は楽しみですが選抜試験のことを考えると不安ですね。あと、長く暮らしたこの森から出るのはちょっと名残惜しいです。」


「ガハハハ、お前の年齢でも名残惜しいなんて言葉知ってるんだな、なんていうと思ったか?もういい加減転移者であることがバレてるぞ。」


突然の告白におれは驚きを隠せない。


「あのな、あの年齢で一人で生活をしろと言われ、泣き言も言わずほっといたら風呂まで作って悠々自適に生活できるわけないだろ?大体話し方に子供っぽさが足りなさすぎるぞ?」


生活するため必要なことだったとはいえ、たしかに不自然すぎるな。ぐうの音も出ない。まぁラキカはあの銀髪少女のことも知ってたみたいだから本当のことを話してもいいかもしれないな。


「ラキカさん、今まで黙っててすみませんでした。なんとなくあまり知られない方が良いと思って今まで誰にも言ってなかったのですが、」


おれはそう言うとこの世界とは全然違う世界で研究をしているときに事故に遭い、おそらくその事故の影響でこの世界に産まれたことを説明した。


ラキカはおれの話が面白かったらしく、前の世界がどんなだったのか、とか、どんな実験をしていたのか?とか、色んなことを根掘り葉掘り聞いてきたが、隠す必要もないので全てを素直に話をした。そしてひとしきり話終わると


「お前の判断は正しいな。おれはそれを注意しようと思ってこのタイミングでこの話を持ち出したんだ。」


「やっぱりそうなんですね。」


「あぁ、前にもちょっと話したが、この世界で転移者というのはまったくいないわけではない。ただ、そのほとんどが特殊な才能や知識をもってるから国に見つかると場合によってはその人間の人権がなくなり、国の所有物にされる可能性すらある。特にお前みたいに戦闘に役立つ才能の場合、戦争で非常に貴重な戦力となるから、各国がこぞってお前のことをあの手この手で囲い込もうとするだろう。」


「だからこそ、振る舞い方に気をつけないといけないんですね。」


「あぁそうだ。まずは話し方だな。おれといる時以外、必要以上に人と話をするな。そして敬語はやめろ。少し無愛想、失礼かもしれないと思う話し方であればお前の精神年齢の不釣り合いもばれにくいだろう。あと、魔法は命の危険が迫った時だけにしろ。目の強化魔法もだ。本当は選抜試験の間、他の参加者の動きを魔法で強化して観察させてやりたいが、今回はそれもやめておいた方がいいだろう。」


「なるほど、わかりました。それくらいならなんとかなりそうです。」


「あ、あとな、これ。今回の修行を乗り越えた褒美だ。」


ラキカは道具袋から、剣を取り出し、おれに差し出した。金属で作られた黒い鞘、柄は細かく加工がしてありどうみても安物には見えなかった。鞘から少しだけ刀身を引き出すと刀身が青白く光っておりこれまでタリスから譲り受けた剣とは素材自体が違うことが一目でわかった。


「え、これって。こんな高そうな剣、ぼくには使う資格がありません。そもそもお父さんの剣を折ってしまったのに。」


ラキカはこちらをみて笑うと、こう言った。


「だからこそだ、この剣の刀身はな、あの折れた剣の刀身を素材のベースに使って加工した剣なんだ。タリスもこの剣を大事にしてたし、お前も手入れをしっかりしてたみたいだから、このまま折れて使えなくなるのはもったいないと思ってな。」


「この剣はお父さんの剣を使って。」


おれは鞘からその刀身を抜き出しマジマジと見つめる。そして、おれが剣を折った時に、ラキカが刀身をもっていったのを思い出した。なるほど、このためにラキカは持って帰ったのか。


「でもこんな高価な剣、申し訳ないです。」


「あぁ、それなら心配するな。お前が集めた魔石を売って金に当てたから大丈夫だ。」


あ、そいえばそうだった。おそらく、おれが集めた魔石だけでは足りなかっただろうがそれを言うのは野暮ってもんだ。大人しく受け取ることにしよう。何より、おれは嬉しかった。


「そうだったんですね、ではお言葉に甘えて受け取らせていただきます。」


こうして、出発前夜の夜は更けていった。


翌朝、朝露が降りて冷え切った空気の中、おれは身支度をすると昨日ラキカから受け取った剣を構え、振ってみる。


ビュンッと勢いの良い音がなる。久しぶりの金属製の剣はやはり振りやすかった。そう、おれはあれから2年間、途中で作り直したりもしたが、ずっと石の剣を使い続けていたのだ。


しばらくその場でこの剣の感覚に慣れるため素振りをしてみる。うん、やっぱり使いやすい。これならもしかして、と思い、おれはいつもの滝の裏側に回る。そう、この剣なら滝斬りができるかもしれないと思ったのだ。石の剣でも、この2年間の修行でほぼ滝斬りは完成の域に近づいていたがあともう一歩のところだった。


剣を構えて、目を閉じ精神を集中し、周りの音に耳をすます。

轟々となる滝の音の後ろには木々が風で揺れる音、川のせせらぎ、鳥のさえずりが聞こえる。


そして次の瞬間、おれは目を見開き、剣を横に一閃する。


ズバッ


おれが振り抜いた剣は、水の勢いに押し流されることなく真横に斬り抜ける。そう、ついにやったのだ。


「やったー!ついにできるようになったぞ!間に合ってよかった!」


そう、特に深い理由はないが、なんとしてでも滝斬りは達成しておきたかったのだ。できないことができるようになるというのは自分の成長を確認できる重要な手段だ。


おれは家の前に戻り、この滝を見上げる。本当にこの滝にはお世話になった。おれはそう思うと、目の前で手を合わせ、目を瞑り、感謝した。


「3年間、ありがとうございました。」


おれが手を合わせ終わり振り返るとそこにはラキカの姿があった。どうやら後ろで終わるまで待っててくれたらしい。


「別れはすんだか?さぁ、そろそろ行くか!」


「はい!お待たせしました!行きましょう!」


こうして、長きに渡る森での修行は今度こそ幕を閉じた。

最初は半年だと思っていたこの森での修行。最初は不服そうにしていたショウですが、最後はやっぱり名残惜しいんですね。

そしてラキカから受け取った、作り直されたタリスの剣。修行を終え、この剣を使ったショウは果たしてどれ程までに強くなっているのでしょうか。この話で第2章は終わりです。次回からいよいよ第3章王宮騎士選抜試験一次試験編が始まります!



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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