弟子のミス
雪の降る中、おれを迎えに来たラキカと一戦を交えてついにおれの森の中の修行は終わりだと思っていたが、どうやら考えが甘かった。というかどうやらおれはミスをしてしまったようだ。
「ショウよ、この風呂最高だな!お前、修行中におれがもし来なかったら住むところを作るつもりだったとかいってたよな?それ、これからここに作れ!」
風呂から出たラキカは突然意味不明なことを言い出したからおれはポカンと口を開けて唖然としているとラキカは続ける。
「おれはここの風呂が気に入った!なに、食い物とか必要なものは定期的に街に買いに行けば良い。どのみちお前とはどこかでしばらくみっちり修行をつけなければいけなかったんだ、その場所がここになっただけだ。」
ようやく自体が飲み込めて来たおれは生返事をする。
「は、はぁ。。」
「さぁ、さっさとしないと雪がやばくなってくるぞ!とりあえず今日から1週間おれも手伝ってやるから建物をなんとかしろ!あと、必要なものを言え、おれが街で買ってくる。」
こうしておれは残念ながらこの森を出ることができずもうしばらく、いや、かなり?の時間、この森に居座ることになったのであった。
◇◇
ラキカの登場で家を作ることになったおれ。ラキカがきた次の日の朝からまずは家の基本構想を固める。おれが元々一人で作ろうとおもってたのは木を適当に切って、寄り添わせて作った竪穴式住居的な家が精一杯かなと考えていた。当時は木が簡単に加工できるとは思わなかったからだ。ただ、今となっては斬れ味付与であれだけのことが出来るんだから木の加工くらいお茶の子さいさいだ。それに街に買いにでることができれば釘や金具などいろんなものが手に入る。これらの資材があれば比較的まともな木の家が出来そうだ。
おれは基本構想を決めると早速ラキカに釘や蝶番などの消耗品と、斧や金槌などの加工のために使う備品を頼んだ。加工自体は何を使ってもできるが、やはり使用に適したものを使うのが効率が良い。
ラキカに一通り買い物を頼むと、明日には戻るといってそのまま買い物に出かけていった。このまま再び放置されたらどうしようか、とか少し不安がよぎったが、その時はその時だ。買い物を頼んだおれはできるところをやっておこうと、石の剣を持って滝の近くにある、出来るだけ真っ直ぐに生えた木を切り倒し始める。ちょうど家の周りの見渡しが良くなるので一石二鳥だ。木の切り方は至ってシンプル、斬れ味付与をした石の剣で根元あたりを横に切り抜けば簡単に木は倒れた。それなりに高さがある木は当然簡単に運ぶことはできないから、切り倒したその場所で長さが運べるような板になるよう、薄くスライスしていく。これがなかなか難しく、スライスするにも最初は厚みがなかなか均一にならなかったが、慣れてくればそこそこの均一さで加工できるようになっていた。こうしておれはひたすら木を切っては板や、一部は柱にしていく。
こうして得られた木の板や、柱用に少し太めに準備した木の柱は虫がつきにくいようにおれが住んでる穴ぐらに切った板と薪を入れて、板が燃えないように注意しながら近くの落ち葉を集め、火を入れた。こうすることで穴ぐらの中を煙で充満させて殺虫、防虫するのだ。
家づくりとしては、そこそこ広い範囲の草を抜き、草を抜いた長方形の辺に、土台として切り出した丸太の向かい合う辺を切り取り、転がらないようにしたものを等間隔においていき、この家の基礎をつくる。次にこの基礎の外側に柱を地面に打ち付ける。柱は長方形の四隅と先ほどの土台の間隔に合わせ等間隔で地面に埋め込んでいく。ここまでくれば、あとはこの柱に板をラキカが買ってきた釘で固定していけば外枠の完成だ。
外枠が済んだら土台の半分に板を張って床とし、そして足場を組んだ後は天井を張った。土台の半分しか床にしなかったのは、半分は火を使ったりしたかったからだ。なんともないただの四角い箱だが、まぁ穴ぐらよりかは幾分かマシな住処がラキカの協力もあり2週間ほどで完成した。断熱とか、雨漏り対策とか、窓をつけたりとか色々やりたいことはあるがそれは後々やっていくことにしよう。まずは家が出来たことに満足だ。
家が完成したその日、ラキカとおれは夕食で準備した鶏肉を頬張りながら話をする。
「ショウ、これからしばらくお前にはしっかり剣技を身につけてもらう。お前が修行してるときに戦ってみて感じたのは、魔法の力に頼りすぎだ。」
おれはラキカの言葉に頷き答える。
「そうですね、それはぼく自身も感じてました。あのときはなんとかラキカさんに勝ちたいと言う思いが強かったのでやむを得ない部分はあったのですが、魔法の重複使用ができない以上自身の剣術向上というのは必須だと思ってます。」
「もちろん、最終的な強さは魔法も含めた総合力で決まるが、まずは剣術の強化が優先だ。お前の魔法は目につく。選抜試験では使用を控えた方が良いだろう。」
「わかりました、ではそうします。ちなみに、次の選抜試験はいつなんですか?」
「まさについこないだやったから、次回はちょうど2年後だ。」
「なるほど、ではまずは2年後に一度試験を受けて実力を確認した後、4年後の試験で合格を目指す感じですね。」
「いや、お前には2年後の試験で合格を目指してもらう。」
ラキカはそう言うとニヤリと笑った。
「え!?だってお父さんも5年かかったって言ってましたよね?それを2年って流石に無理じゃないですか?」
「まぁおれも最初は4年目で合格することを考えてたが、今回お前も戦って鍛え方次第では2年でなんとかなるかもしれないと思ったんだ。まぁその代わり、死ぬ気でやらないといけないがな、ガハハハ!」
ラキカは天を仰ぎ大声で笑っているが、おれは思わずゾッとする。この人が死ぬ気でする修行って、一歩間違ったら本当に死ぬんじゃないかな。そして人の気も知らないでラキカは続ける。
「だからしばらくは魔法は基礎力の向上のために部分的に使うが基本的には剣術のみを向上していくことを目標にすからそのつもりでよろしくな!」
おれが怪訝な顔で回答に困っているとラキカはおれの様子を察したのか、つづける。
「心配なのは無理もない。親父を超えるんだからな。だが、おれはお前ならできると思ってる。お前、おれと戦ってる時に動体視力の強化を行ってたんだろ?」
「はい、たしかにその通りです。」
「それがお前とタリスの決定的な違いだ。お前には自覚がないかもしれないが、あの目のお陰で魔法付与してない状態でもお前の地力はここ数ヶ月で飛躍的に向上してる。その要因で一番大きいのはおれの動きをその目で捉えてるところだ。まずは相手の動きを見ることができるようになる。そうすることで相手の攻撃を躱せるし、相手に攻撃が当てることができるようになる。普通なら少しずつ見ることができるようになり、それに合わせて身体の動きもついてくるようになる。」
おれは頷きながら聞いている。
「それを、おそらく今のお前の強化した状態の動体視力があれば、かなり上のレベルの相手の動きも捉えることができるはずだ。つまり、今の身体強化の魔法付与したお前は目だけが達人レベルで反応のレベルは一般人ってことだ。だが、さっき言った通り見ることができる能力があれば身体は慣れれば目についてくるようになる。これが、お前がタリスより早く強くなれると思ってる根拠だ。」
「つまり、この目の実力に追いつくような反応を手に入れることでなんとかなる、と。」
ラキカは大きく頷く。
「そう言うことだ。あと、相手の動きを見ることができると言うことはそれだけ相手の剣技を正確に把握できるということだ。これがどういうことかわかるか?」
「相手が次に何をしてくるか予測が立てやすい、とかですか?」
「あぁ、それもたしかにあるな。ただおれが言いたかったのは、見た剣技を正確にトレースできる、ということだ。」
ほ、なるほど。おれがそんな顔をしているとラキカは笑いながら言う。
「そう、おれの持ってる技術を盗みやすいってことだ。もちろん、完璧に見えたからと言ってそれを真似しようとしても簡単には真似できないが、やはり見えてるのと見えてないのでは真似しやすさが全然違う。」
「たしかにその通りですね。なんだか2年でなんとかなる気がしてきました!」
「おう、その調子だ!お前のその能力と、おれの指導があればなんとかなるはずだ。正直おれはお前がどこまで強くなれるのかかなり楽しみにしている。いつになるかわからないが、間違いなくおれ以上になるはずだし、その後どこまで高みに行き着くのか、おれはそこに興味がある。」
ラキカを超える。簡単に言うが多分それはかなり先の話だろう。でも、何とかなる気もしてきた。そのためにもまずは2年後をマイルストーンにして、といった感じだな。
「はい!期待に応えられるように頑張ります!これからよろしくお願いします!」
こうして、ラキカによる剣術修行が始まったのだった。
家づくりのところは少しわかりにくくてすみません。この森での生活は何気にマインクラフトをイメージしながら書いていました。
そしてなんと次の選抜試験で合格することを目指すことになってしまいましたね。ラキカの修行、どこまで厳しいのでしょうか。。
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