3度目の正直!?
雪の降った冬の日に奴はまた現れた。おれが表に出ると待ってたとばかりに指先をくいくいと折り曲げおれを挑発する。
「言われなくても、おれから仕掛けてやるよ!」
穴ぐらから出る前から魔素を溜めてた前腕に魔法を行使すると拳から腕が赤く光る。そしてそのまま構えた剣を横一閃すると、ヤツは流石に驚いたのか一瞬同様したような素振りを見せたが、剣撃が当たらないギリギリの位置に横に躱すとその勢いを殺さずそのままおれの方に向かってくる。すぐさまおれは次の一手を打つべく、近づいてくるヤツに向かって再び赤い斬撃を飛ばす。
不意をつけばもしかしたらと思ったがそんなヌルい相手ではないようだ。すぐさまヤツは2度目の斬撃をスルリと避けるとこっちに走りこんできて、その拳がおれに向かって振り下ろされる。
「クッ、早い!」
おれは2度目の斬撃を放った後すぐに目に身体強化の付与を行い、動体視力をあげていたから避けられたものの、そうでなければこの時点で終わっていただろう。ヤツはいきなり二段階目のスピードで攻めてきてるようだ。そっちがそのつもりなら、こちらも初っ端から全力である。おれは全身に身体強化の付与を行い、ヤツを攻め立てる。とてもじゃないが、ヤツは余力を残して戦える相手ではない。なんなら実力で言えば全力でもはるか遠い存在である。
身体強化の効果だけではなく、毎日の鍛錬により元々のおれの自力が向上しているからか、これまで以上にスムーズに体が動く。そのおかげで、今のヤツの動きであれば制限時間付きではあるがこちらの方が若干攻めている。しかしながら、流石にそう簡単には攻撃は当たらない。
しばらく攻防が続いていたが、おれは攻めあぐねていた。そして、そろそろ強化魔法の維持に限界が見えてきたので、おれは最後の賭けに出ることにした。
ヤツと斬り合う中で最後の余力を振り絞り、おれは怒涛のラッシュをかける。こちらの全力の攻撃を、ヤツはギリギリのところでかわし続ける。そんな中、おれの魔法が切れる気配が刻一刻と近づいてきていた。
おれは最後のひと足掻きでラッシュをかけながら、これまで何度か仕掛けている、ヤツの胴を狙った横薙ぎを放つ。これまで同様にヤツは避けようとするが、次の瞬間、おれはヤツに向かって振り抜いた剣の柄から手を手放すと、バックステップで躱すヤツの胴を目掛けて飛んでいく。
ヤツはすぐさまバックステップをしながら体を捻るが、胴の中心を目掛けて放ったおれの剣は、そう簡単には避けられない。おれはついに攻撃が当たったと思ったが、次の瞬間、あり得ない光景が目の前で起こっていた。ヤツの体が一瞬白い靄で覆われたと思ったら、先ほどまでいた位置から1mほど離れた位置に移動していた。全く無傷と言うわけにはいかなかったらしく、剣を通った部分に血が滲んでいたが、致命傷には至らなかったらしい。
「ちくしょう、万事休すか。」
おれは避けられたのをみた直後大きくバックステップをして回避体勢をとっていた。そして、それと同時に、ヤツはこちらに向かって走り始める。
おれの魔素は既に空っぽで魔法は切れており、ヤツからしたら回避のうちに入らないだろう。ヤツは回避体勢から立て直ると、おれに一気に近づき殴りかかってくる。一発、二発、三発と繰り広げられるヤツの攻撃をなんとか受け流しつつ後退するとおれはあっという間に崖の壁に追い込まれ、逃げ道がなくなっていた。そして、一連の攻撃の中でトドメの一撃と言わんばかりの避けようのない正拳突きをヤツは放つとおれは反射的に目を閉じてしまう。
ドガッ
物凄い音とともに拳による風圧がおれの頬をかすめる。
「へ?」
ふと横を見るとヤツの拳が後ろの崖に突き立てられていた。
おれは何が起きたのかよくわからず思わず間の抜けた声を上げるとヤツは言った。
「強くなったな、ショウよ。」
ヤツはつけていた仮面を外しながらそう言うと、やっぱりか、と思いながらそのおれは聞き覚えのある声と見覚えのある顔を目と耳で認識する。
「これまで何度も死ぬかと思いましたよ、ラキカさん。」
そう、ラキカである。2度目くらいにあったときからそうでないかと思い、3度目にあったときはヤツの正体がラキカであることが確信にかわっていた。殺そうと思えばいつでも殺せた。そして、何より戦い方に指導的な範疇が垣間見えたからだ。なんだかんだラキカはおれのことを心配して時折様子を見に来るついでにおれと戦うことでおれの修行の進行具合を見に来ていたのだろう。
「いやぁまさかお前に一太刀浴びせられるとはな、半年前には思いもしなかったぞ。ここでどんなことをしてたんだ?まぁ立ち話も何だ、折角だからこの風呂にも入らせてくれよ。一度味わって見たかったんだよな!」
ラキカは麻袋から取り出した薬草を傷口に塗りたくりながらおれに風呂を沸かすように促す。
「ここのお風呂は格別ですよ!ちょっと待っててくださいね。」
おれはそう言うとそそくさと風呂を溜める準備をするのであった。
◇◇
風呂の準備が終わり、後は湯が温まるのを待つだけの状態にすると、おれは穴ぐらで待つラキカのところへ向かう。
するとラキカはおれの方を興味深そうに見返し、話し始める。
「それにしてもお前、いろんな意味でこの短期間でよくこれだけのことをできるようになったな。」
「はい、この半年間本当に毎日が充実してました。」
そう言うと、おれはこの半年間のあったことを要点を掻い摘んで説明する。お風呂の製作で魔法の厚み調整ができるようになったこと、2つの滝斬りを目指していたこと、魔法による身体強化とさらにその効果を活用した身体能力自身の向上トレーニングのことなど、たしかに思い返すと濃厚な半年間だった。
「なるほどな、まぁお前がこれだけ成長できたのは、あのタイミングでおれがお前をぶちのめしたからかもしれないな。」
「そうですね、たしかに言われてみればそうかも知れません。ラキカさんに半殺しにされたお陰で何とかしなきゃって思ったところはありますね。そうじゃなかったらもう少しゆったりとした生活を送っていたかも知れません。」
おれが笑いながら言うと、ラキカはガハガハ笑いながら続ける。
「この森の生活をゆったりとした生活というとはな、流石タリスの子だ。」
「あ、お父さんの名前を聞いて思い出したんですが、お父さんもここで修行してましたか?この穴ってもしかしたらお父さんが作った穴かな?とか思ったんですが。」
「おぉさすがだな。その通りだ。ラキカはお前ほど色々できなかったから、もう少し色々手ほどきをしてやってな。その流れでこの穴を作るようにタリスに話をしたんだ。まさか親子二代でこの穴の世話になるとはな。」
「やっぱりそうだったんですね、この穴ぐらにはだいぶ助けられました。お陰で住むところを作る手間が省けましたし。あ、でもラキカさんに襲われてなかったら簡単な家でも作ろうかなーなんて当初は思ってたんですよ?」
「まぁたしかにそれもそれで良い経験だがな。だがお前には折角能力があるんだから強くなってほしいと思ってる。だからこそかなり強引な手だったがお前に挫折を味わってもらいたかった。さぁ積もる話は後だ。そろそろ風呂が湧いただろう?お前の作った風呂を堪能させてくれ。」
おれは湯加減を確かめに行くとたしかにそろそろ良い湯加減になっていた。滝の中で深々と降り続く雪の中で入る露天風呂はきっと最高だろう。
「ラキカさん、お風呂、入れますよ!」
おれはそう告げるとラキカに入浴を促した。
ヤツの正体は実はラキカでした。ベタな展開ですみません。お気付きの方も多かったのではないでしょうか?それにしてもラキカ、強すぎますね。でも、まだまだ余力はありそうです。この第2章もそろそろクライマックスです!
ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。