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必殺技の習得

石の剣を作ってから約1ヶ月ほどすると、昼間もめっきり冷え込み、剣を持ちかじかむ手をお風呂用に溜めているお湯で温めながら剣の稽古をしていた。山の中腹あたりから上の白く雪化粧をした山々を見ると自然の壮大さを感じる。


おれは石の剣を作ってからはいつも斬れ味付与を使いながら魔物や動物を倒し生活していた。この生活で培った魔法の厚みコントロール技術と根本的な魔素量の増加によってだいぶ扱える時間が長くなっていた。


ただ、使える時間が長くなったからと言っても、戦ってる間ずっと魔法をかけっぱなしにできるほどではなかった。一方で、そのおかげで斬る直前に魔法を込めて戦うようにしており、魔法の発動までの時間も短くなってきていた。発動までの時間が短くなることで、逆に集中的に魔素を使えるからか、少しずつだが斬れ味付与の長くできる長さも長くなってきており、斬れ味付与による滝斬りまであと一歩のところだ。


この日もおれは滝に向かって斬れ味付与の滝斬りを目指す。しかしながらあと一歩のところで滝の全幅をぶった斬ることができない。


「んー、あともう一歩なんだけどなー。」


おれは成長の実感を掴みながらも、最後の何かが足りないと感じていた。


おれはその場にどかっと座り込み、岩肌を背もたれにしうなだれる。冬の冷たい岩肌がおれの火照った体を冷やしていく。そこに座ったからと言って何かあるわけではない。技能の習得なんていうのは一朝一夕でできるものではなく鍛錬によって身につく部分が多いから考えたところでどうしようもないものはどうしよもない。ただ、魔法はイメージだから、何かきっかけが掴めればあと少しのことであればちょっとしたことでなんとかなるのではないかと思っていた。


結局この日はその後しばらく剣を振った後、毎日の日課になっているお風呂に入って空を見上げる。立ち上る湯気の先に覗く、凛とした冬の空に輝く星々は風で揺らす木々の音に合わせてまるで歌っているようだった。


「ふぅー、生き返るー!」


おれはこのお風呂に入る時間がもっともリラックスできて、色々考えるのに重宝していた。大自然の寒空の下で入る風呂はまた格別である。しばらくおれは風呂を堪能し、湯船から上るため水を抜こうと、排水栓を外すと、水がチョロチョロと流れる。


「あれ?」


いつもは比較的ドォーっと流れるが今日はイマイチ流れが悪い。次第に弱くなっていき、最終的には水の流れが止まってしまった。


おれは近くから木の枝を探してきて、排水口に突っ込むと、お風呂にいれていた薬草が詰まっていたようで、詰まっていた薬草が抜けるとドバッと勢いよく流れ始めた。


「これでよしっと。ん?ちょと待てよ。」


おれはふとあることを思いつく。


「これって、もしかして。」


おれは早速その場で手に持った木の枝を剣に見立てて試してみる。


イメージは手の拳から腕にかけて魔法を溜めておきながら振り始めと同時に遠心力で剣先に魔法が放出される感じだ。


おれは直ぐに服を着て滝の前に立ち、腰を落としてぐっと魔素を拳に溜める。拳の魔素許容量が限界となる手前で今度は前腕を、次は上腕をと、少しずつ魔素の溜める部分を胴に向かって広げていく。


おれは魔素を溜めたその状態で魔法を発動させるといつもの魔法の光が拳から腕全体を紅く光らせる。溜めた魔法の全てを拳を伝って剣に流れ込むよう押し込み、そのまま一気に剣に見立てた木の枝を振り抜いた。


ズッパーンッ!


真っ赤な一閃が幅方向に滝を完全に真っ二つにし、おれの手元から放たれた魔法の赤い光は振った枝先の軌跡に合わせた括弧型をしたまま、遥か彼方へ消えていった。遠くで木が倒れる音が聞こえるが、気にしちゃダメだ。


「なんだこりゃ。」


おれは膨大な魔素を消費した疲労感と、目標を達成した満足感と、何かとんでもない力を身につけてしまったような不安感でその場に寝転んでしまった。せっかくお風呂に入っていたのに汚れてしまったおれは再びお風呂に浸かり直す羽目になったのはここだけの話だ。


◇◇


しかしながら、次の日の朝おれは激痛で目を冷ますことになる。そう、昨日魔法を使った反動で右腕が痛いのである。これは初めて銀髪少女に乗っ取られた後のような状態で、おそらく急激な魔素の流れでおれの右腕の中がズタボロになっているのだろう。幸い、全く魔法が使えなくなったわけではなさそうで、魔素を流したりすることはできたから、筋肉痛のようなものだろう。


この筋肉痛擬きも翌日にはすっかり治っていたので朝から素振りと狩り、滝斬りに身体強化など、一連の日課をこなすことができていた。

滝斬りは剣に斬れ味付与をするだけの滝斬りと、腕に魔素を溜めて発動させる、所謂飛ぶ滝斬りを両方やっていた。流石にこないだの威力を見てびびったので初めて成功したときは腕全体に魔素を溜めたが、この日は溜める魔素の量を少しずつ調整しながら試していた。


魔素の溜める箇所を拳だけにすると、幅が10cmほどの飛ぶ剣撃となるが、剣を振るタイミングと飛ばすタイミングがなかなか一致せず、どうしても振り始めの方で飛んでいってしまい、狙ったところに飛んでいかなかった。ある程度狙ったところに飛ばそうと思うと、剣撃に幅をつけるしかなく、前腕くらいまで魔素を溜めることで幅を広げるとようやく目標の箇所にも剣撃がかかった。このあたりは、もう少し繰り返し練習してタイミングを掴むしかない。


そして寝る前には身体強化魔法と薬草による筋トレ。これのおかげでだいぶおれの身体能力全般が向上してきている気がする。継続は力なりである。なんだかんだ、約半年のこの森の生活は確実におれを強くしていた。


「うぅー、今日は冷えるな。そろそろこの辺にも雪が降り始めてもおかしくないかもしれないな。」


身体強化魔法による筋トレを終えたおれは両腕を抱えてブルブル震えながら、穴ぐらへ帰っていった。


そしておれの予感は数日後に的中するのであった。

あまりの寒さに目を覚まし、ふと穴ぐらの外を見るとやけに眩しい。もしや、と思い外へ出るとやはり一面が雪で覆われていた。白銀の世界の中で轟々と流れ落ちる滝はなんとも風情がある光景だった。


「そっかー、もうそんな時期になったんだな。んじゃそろそろラキカ迎えに来るかねー?」


そんなことを思いながらおれは身支度を整え、狩りに出かけようとすると外から雪を踏みしめ近づいて来る足音が聞こえる。


「いよいよ最終決戦だな。」


おれはそう言うと石の剣を手に取り、いつもおれに挫折と進歩を与えてくれるヤツと相対すべく、表に出るのであった。

出ました、飛ぶ斬撃!ちょっと必殺技っぽい感じですが、なかなか使い勝手は悪そうですね。でも、本当にショウは強くなりました。作者としても嬉しい限りです。

そして現れたヤツ。最終決戦とショウは読んでいますがそこにはどんな意図が隠されているのでしょうか。



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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