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落ち込むからこそ、初めてわかることもある

暗闇の中ただひたすら走るおれ。走っても走っても周りの風景が変わらない。そんな中でどんどんヤツがおれを追い詰めてくる。おれはヤツに捕まるくらいなら立ち向かおうと、走って追いかけてくるヤツに剣を振るう。すると、ヤツに当たった瞬間、剣は根元からポッキリと折れてしまう。


暗闇の中でおれはがっくりとうなだれていると、どこからともなくタリスが現れておれに向かって呆れた顔をしながら言い放つ。


「あぁあ、おれがせっかく師匠と一緒に修行してたときに使ってた大事な剣をやったのに、こんな風に折っちまうなんてな。お前にやるんじゃなかったよ。」


タリスに気を取られているとラキカがどこからともなく現れ、追い討ちをかけるように言い放つ。


「お前みたいな道具を大切にしない甘ったれたヤツは修行なんて辞めちまえ!やるだけ時間の無駄だ。」


それを聞いたタリスはさらに続ける。


「お師匠、こんなヤツはもう息子でもなんでもないです。師匠との思い出の剣を折ったコイツには、この剣の痛みを知ってもらいましょう。」


そう言うと折れた剣先をタリスは拾い、その刀身を素手でタリスは握りしめるとその手から刀身をつたって血が滴り落ちる。


「死ね!」


タリスがそう言葉をかけると、血で真っ赤になった刀身をがっくりと膝をついてるおれの背中を目掛けて振り下ろされる。


「うわぁぁぁぁ!!!」


おれは自分の声に驚き目が醒める。思わず背中に手を当てるが、感じるのはベッタリとかいた嫌な汗だけだった。そう、夢だったのだ。嫌な夢だった。


おれはゆっくりと上半身だけ起こすと周りの様子を確認する。周りは日が落ちてすっかり暗くなり、そして案の定、ヤツはおれの魔石やら目ぼしいものを全部持ち逃げしていなくなっていた。


おれは最後に折られた剣の柄を握りしめながら周りを見渡すが、あるはずのものがない。そう、剣の刀身部分だ。それがあったところでどうできるかわからないが、物があればもしかしたら鍛冶屋とかにいけば直せるのではないかと考えていただけに、刀身がなくなっているのはショックだった。


「きっとヤツが持って行っちゃったんだな。」


おれは空を仰ぎみると、さっきの夢が蘇り、涙で星が滲んで見えた。


◇◇


ヤツと遭遇した夜は疲れ果て穴ぐらに戻り眠り落ちてしまっていたので、翌朝おれは気分転換のためにお風呂を溜めて入っていた。


「あぁあー、まったくどうしたもんかねー、剣はおられるしヤツには勝てないし。これからラキカが迎えに来てくれるまでどうするかね、そもそも、ヤツは迎えにくる気あるんかね。」


この森に入ってからというもの、強くなったと思ってはヤツに意識を飛ばされ自信をなくす、という繰り返しだった。更におれは昨日意識を飛ばされた時にみた変な夢のせいか、自信もやる気も無くなっていた。


大きく溜息をつくと、おれは腕を風呂の縁にのせ空を見上げる。湯船から立ち上がる煙から見上げる空はまるで雲の上で空を眺めているようだった。


それから数日間、結局何もせず、ぼーっとしたり、たまにこれまで溜め込んでいた保存食を食べたりと自堕落な生活をしていた。


しかしながら、そんな生活も3日で飽きて加えて、いい加減まともなものが食べたいと思いおれは再び活動を開始すべく、森に採取にでていた。


「ったく、やっぱ弓は使いにくいな。」


夏場に比べてだいぶ減った魔物や動物を弓矢で狩りながら森の中を突き進む。森の草木も葉が落ちていたのでだいぶ歩きやすく、敵とも戦いやすかったが、それでも飛び道具単独で戦うのは動きが素早い相手とはやりにくかった。


「やっぱり剣で戦いたい。」


これまでも剣の鍛錬は毎日続けていたし、ここにきてからはより剣と時間を共にする時間が長かったから、3日間も剣を振るわなかったのは剣を握り始めてから初めてかもしれない。知らない間に剣はおれの生活の一部となっていたのである。無くなって気がつく大切さ、正にそんな感じだった。


おれは穴ぐらに戻り、焚き火の前で座り込むと折れた剣の柄を握りしめ、見つめた。


無くした大切さに気がついてからこの剣に向き合うと、より一層自分のしたことの愚かさに気がつく。タリスやラキカには使い始める前に折れるリスクを言われていた。にも関わらずおれは斬れ味付与を行わないで無理に剣速を上げようとしてしまった。冷静に考えれば当たり前である。


折れた剣を目の高さまで上げると残された刀身部分に自分の顔が映る。薄汚れた酷い顔をしていたが何より、表情がぐちゃぐちゃだった。自分への失望、剣が折れた悲しさ、これからの不安、タリスへの申し訳なさ、様々な負の感情がおれの顔から滲み出ていた。その顔を見たおれは、これまでは出来るだけ物事を前向きに考え、負の感情を押し殺していたが、今の自分の抑えきれない感情を客観的に見てしまったことで一気にこれまで留めていた何かが決壊し、その場で大声で泣き崩れた。


穴ぐらの外には秋の終わりを告げる冷たい雨が静かに降り注がれていた。


◇◇


おれはしばらくその場で泣き尽くしていたが、小一時間もするとどこかモヤモヤが晴れてすっきりとした気分になっていた。もちろん、泣いて何かが解決したわけではないが今の自分の気持ちを受け入れる余裕ができたような気がしている。


おれは食事を終え、ぼーっと火を眺めこれからのことを考える。おれはこの修行の期間で自力での滝斬りと斬れ味付与による滝斬りを目指していたが、どちらも習得できないまま今に至っていた。身体強化をかければなんとか滝斬りはできるが、当初の目標からするとそれはちょっとインチキだろう。いろんなことがあったが、迷った時こそやっぱり当初立てた目標を到達する方法を模索することにした。そのためにも、まずは剣の入手が必須だった。


斬れ味付与をかければなんでも斬れるから最初は木で剣を作ることを考えた。しかし、斬れ味付与なしで滝斬りをする上ではある程度強度がないとそもそも滝の勢いで折れてしまうことが容易に想像されたため木刀の作成は諦めた。


「となるとまぁ、その辺の岩で作るしかないわなぁ。」


お風呂を作った要領で岩を削り剣にする。不可能ではない。しかしある程度強度を持たせようと思うとどうしても重くなるからそこがネックだった。また、重量のバランスもあるからその点の調整も必要だ。だがやるしかない。おれは翌日から早速石の剣の製作を開始した。


◇◇


「とりあえずこんなもんか。」


翌朝、早速おれは手頃な岩から飾り気のない1本の剣を作る。斬れ味付与を使った切削加工は慣れたものでだいぶ精度があがってきていた。出来上がった剣は、持ち手が岩のままでは滑るので鞄の中にストックされている余り布を柄の部分に巻きつける。剣というより石の棒に近い。多少薄っぺらく、先端に向かって幅を細くしていたが、やはり剣と呼ぶには程遠い仕上がりだった。早速おれは手に持ち素振りをしてみると


ブンッ


「っ重!」


振れないことはない、だが重い。そこでおれはもうすこし長さを短く、厚みを薄くする。そして剣を振ってみる。まだ重い。更に薄くする。振ってみる。こんなことを何度か試しているうちにまだ多少重いが、ようやくある程度扱えるだろう重さの剣になった。見た目はイマイチだが、刀身は普通の剣よりすこし短く、すこし厚いくらいだった。


「よーし、これでとりあえず剣はできたぞ!と言いたいところだが、この剣では絶対に滝は斬れないな。間違いなく折れる。」


そう、強度上、一般的に考えれば重さを揃えた時に岩と金属ではほぼ間違いなく金属が強い。多少厚みを厚くしているとは言え、今回作った剣の厚みで滝を斬るのは自殺行為な気がしていた。


「うーん、折角作ったからこれは斬れ味付与をして使うことにしよう。とりあえず、これで斬れ味付与状態の滝斬りは練習できるから、まずはそれを目指すか。」


早速おれは滝に向かい、斬れ味付与をかけながら滝をぶった斬る。


ジャバッ!


轟音とともに滝の勢いに負けながら斜めに落ちていくおれの一閃が滝を切り裂く。


「よし、とりあえず練習はできそうだ!んじゃ次はっと。」


いつもの斬れ味付与より、長く大きく形をイメージして再びおれは滝を斬りつける。


ジャババーン!


これまた斜め下に落ちながらの一閃だったが、一瞬だけ両手を広げたくらいの幅で滝がなくなる。これまでの鍛錬のおかげでだいぶ斬れる幅が長くなってきており、あともうちょっとで滝全体を斬れるレベルまできていた。


「うん、あともうちょっとだ!とりあえずこっちはなんとしてでもできるようになろう!」


こうしておれは今できる最善策として、まず斬れ味付与の滝斬りを目指すことにしたのであった。

ショウの中でも剣が折れてしまったのはいろんな意味で大きかったみたいですね。そして作り上げた石の剣。まさにロープレの初期武器的な勢いですね。



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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