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ステップアップは、ある日突然やってくる

滝の落下物を動体視力向上のための練習相手と決めたおれは早速滝から流れ落ちる木や石などを目で追いかける。

ただひたすら追いかける。追いかける。


「これ、意味あるのか?」


やってるのはただ見るだけである。自分で思いついたが、なかなかの愚策である。


「だいたい、見えてるものは今でも見えてるんだから、見えないものが見えるようになる訓練しないと意味ない気がするよな。そしてそもそも今の状態では見えてないのか、そもそも流れてきてないのかすらわからん。お、そうか、流れてきてるものが流れてるかわからないんだったら、自分で流してやればいいのか。」


そう言うとおれは足元に転がっている石ころを拾い、自分の上方の滝に向かって投げる。石ころは滝に当たると同時に目にも止まらぬ速さで落ちてくる。


「うん、やっぱ見えんな。なるほど、こいつが見えるようになりたい。」


何度か滝に向かって石を投げるが結果は変わらず見えないものは見えない。


そしてここでもおれは思いつく。


「そいえば、身体強化してるときっていつも以上に速く動いてるけどちゃんと周りが見えてるよな?これってもしかして。。」


身体強化を全身にかけると、おれは再び石を滝に向かって投げつける。


意識を集中すると自分の世界が引き伸ばされたかのように水の流れが遅くなる。音が一段階低くなりおれの目は投げた石やそれ以外の滝が運ぶ大小の小石や枯れ木などを明確に捉えた。


おれは予想通り、身体強化で動体視力が向上していることがわかると一度魔法を解く。


「よし、これがいけるなら、」


おれはそう言うと今度は自分の目だけに魔素を集中し、そして同じように魔法を発動すると、おれの両目が青白く光る。


すると、先ほどと同じように滝の中を様々なものが流れ落ちていくのが見える。更にこの状態であれば魔素の使用はかなり抑えることができていることがわかった。おそらく、数時間はいけそうだ。ただし、やはりこれを使ってる時は他の魔法は使えないから使い所が難しい。また、試しにこの状態で流れてくる滝の石を掴もうとするが、自分の視覚情報処理と身体への行動命令のスピードが一致しておらず、落ちてくる石をつかむことはできなかった。実際に使用するには体とのずれをつかむ必要がありそうだった。まぁそうは言いながら、何かしらの自己強化ができるというのは良いことである。要は使いようである。


こうして、動体視力強化を得たおれは早速さっきの滝の元、動体視力と身体の情報処理をできるだけ一緒にすべく、ただひたすら滝にある小石を掴みにかかっていた。お昼過ぎから始め、日が暮れる頃までずっとやっていたが、ようやくどれくらいずれるかが感覚を掴めていて、ほぼ全ての石を掴めるようになっていた。


「ふぅー、まぁこんなところだな!」


体を酷使したわけではないが、集中してたせいか、かなり疲れを感じる。実際、視覚と身体への行動命令を一致させるというのはどの程度ずれるか、という計算も大切だが結局、神経伝達能力自身の向上に近い部分があるからある意味今のおれにもっとも必要な訓練かもしれないと感じていた。


◇◇


動体視力強化を得てから1週間、おれは採取をするときは動体視力強化を発動させるようにしていた。おかげで、意識しなくてもだいぶ身体の動きが思い通りに動くようになってきていた。このことは動体視力強化を行なっていないときにもわずかながら効果があった。敵の攻撃をほんの少しだけだが躱すのにこれまでより余裕がある。おそらく、自分が動こうと思ってから動き始めるまでのちょっとしたタイムラグが、動体視力強化にあわせるために極限まで小さくなっているのだろう、よいことである。


こうして、この日も日課の滝斬りを終えたところで一度休憩しようと穴ぐらに戻ろうかなと思ったところ、川の下流側から来客が来るのが見えた。これまでも何度かお世話になってるヤツである。そう、略奪者だ。


おれは剣をだらりと下げたままヤツが近づいて来るのを待つ。これまで何度も頭の中で反復練習してきたヤツとの戦いを頭に思い浮かべ、来るべき敵に備える。ヤツの底力がおれの思っている通りだったとしても、今の実力差で勝てる可能性は2割程度といったところだった。緊張からか、おれの背中に冷たい汗が流れると、真冬の冷たい風が背中をそっと撫でる。


そして、突然吹き荒れた強風が、木々を大きく揺らし木の葉を撒き散らすと、戦いの火蓋は切って落とされた。


ヤツはその巨体から予想できない速さでこちらに向かってくるとおれにむかって突きを放つがあっさりとおれは躱す。うん、今のところ見えてる。おれはそう判断し、まずは動体視力強化なしで戦うことにした。しかし、相手の攻撃が見えているとはいえリーチ差、経験差から現状のままおれから攻撃することは難しく、おれからは牽制程度に時折攻撃するに留まっていた。本当はもう少しこの状態で目を慣らしたかったがやむを得まい。


おれはやつの蹴りをバックステップで大きく躱すと、一瞬できた時間を使って目に魔素を集中し、動体視力強化を行う。次の瞬間にはヤツの拳がおれに向かって繰り出されているがおれはそれを躱す。さっきよりだいぶ余裕がある。しかし、おれは前回と同じ失敗をしないよう、慎重に攻めの機会を伺う。

しばらくするとさっきよりもこちらから攻撃できる機会が増えてきた。おれの攻撃をかわすタイミングが早くなってきているため、その分だけ反撃のチャンスが増えているのである。

おれはヤツの突き出された拳の軌道を先読みし、その位置に来るタイミングにあわせて躱しながら剣を振り下ろす。


このタイミングなら腕一本くらいいけるか!?


そう思った瞬間、ヤツはこれまで見たことがない動きでその腕を引っ込め、すぐさま蹴りに切り替える。


おれは既に剣を振り下ろしていたが、ヤツが腕を引っ込め蹴りを放とうとしたのがなんとか見えたので、剣はそのまま前に振り抜き、その勢いで前転するとおれの腰元をヤツの蹴りがかすめる。なるほど、前回やられた時もおそらくこのスピードでやられたんだろう。おれは起き上がりながらすぐさまヤツの方に向き直る。

立ち上がると、おれは大きく肩で息をしていた。やはり体が小さい分、疲れるのが早い。そこそこの時間、斬り結んでおり、ヤツはまだまだ余裕そうな顔をしていたがおれは大きな動きをしたこともあり、一気に疲労が溜まってきていた。それを好機とみたのか、ヤツは先ほどの超人的なスピードでおれを攻め立てる。


「クッ!」


おれも動体視力強化でなんとかヤツの攻撃は見えているが、残念ながら息が切れていることもあり、体が若干追いつかず、少しずつだが余裕がなくなりヤツの攻撃がおれをかすめ始める。完全にジリ貧だった。


この状況も想定していた。コイツの実力の底がわからないから今のおれの実力では真っ向勝負で勝てない状況。そしてその状況で出来ることは2つ。1つは今の全力をぶつけること。もう1つは全力で逃げることだ。こいつと会うのが初見だったら間違いなく後者を選んでいただろう。ただ、こいつはおれを殺そうと思えばいつでもやれたのにやらないから、おれを殺すつもりはないと踏んでいた。おれはコイツの正体におおよそあたりがついていた。だからこそ、全力でぶつかることを選択した。


今までは目に集中していた魔素を全身に巡らせ、全身に身体強化をかける。おれの体が青白い光に包まれる。制限時間は1ほんの一時。


おれはヤツに向かって足を踏み込み斬り込むとその斬撃はヤツの胸をかすめる。突然の剣速の上昇に合わせられなかったようで、当たらないことはなかった。おれはそのまま立て続けに斬り込み続けるとヤツは動きに順応してきたのか、次からはなかなか当たらない。ヤツからも攻撃を受けるが全身の反応速度が上がってるおかげでなんとか躱せる。この状態でもやはりヤツの実力よりはまだまだ劣るといったところだった。

そんな状況でおれはもう一度大きく踏み込み斬り付け、ヤツを退けた後すぐさまバックステップを踏んで少しだけ距離をあける。そしてすぐさま、腰を低くし剣を引いてじっとヤツを見つめる。そう、いつもの滝斬りの導入モーションだ。今の全身に身体強化をかけている状態であればおれは滝斬りができる。この一閃でだめだったらお手上げだ。ヤツの胴をめがけて放ったおれの一の太刀は見事にヤツを捉え、防御に回った腕を斬りとばす、はずだった。

しかし、飛ばされたのはおれの剣だった。ヤツは拳を上から下に剣の側面に向かって振り下ろし、剣を叩き折ったのである。そしておれは次の瞬間、ヤツのもう片方の手で顎先を殴られ、これで通算三度目となるノックアウトを受けた。

経験が足りない部分をどう補って行くのか、ショウと同じように作者も大いに悩んでいます(笑)そしてせっかく強くなっても、やっぱりヤツには叩きのめされるって言う、世の中の不条理を表していますね。


ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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