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転生

のどかな農村地帯にある一軒で、まさに新たな命が誕生しようとしていた。


「マーナ、あと少しだ、がんばれ!」


そう心配そうに声を上げる男性は、ベッドに膝を立てて脚を広げ、まさに我が子を産まんとしているマーナと呼ばれた女性の額に光る汗を拭った。

マーナは整った顔立ちをしているが今は額に浮かべた汗で持ち前の綺麗な金色の髪を額に貼り付けさせ、苦痛に顔を歪めている。


マーナの足元には乳母が桶にためたお湯と、真っさらな布を手に持ち、産まれてくる子を支えようとしていた。


マーナの悲痛な声が、家の壁を軽く超え、夜の農村に響き渡る。


外は涼しい風が収穫を目前にした小麦畑を揺らしていた。


マーナを襲う痛みの波がどんどん短くなってきていて、それに伴い痛みも酷くなっていた。


心配そうにマーナの顔を見つめる男性は、今はマーナの手を握り、本人もとても辛そうな顔をしていた。

その顔を見た乳母は、


「タリスさん、そんな顔をしていたら産まれてくるお子さんがびっくりしますよ。」


と少しでもその場を和ます言葉をかけた。タリスとは、マーナの隣であたふたしている男性のことだ。彼はこげ茶の髪の色をした、サッパリとした顔立ちをしていたが優男という感じではなく日に焼けた肌から屈強な男を彷彿とさせた男だったが、この時はさすがにアタフタしていたようだった。

タリスは「そうだな。」と返事をしてまたすぐ同じ顔に戻ってしまっていた。


そうこうしているうちに、乳母が声を上げる。


「さぁマーナさん、もうすぐですよ!もうすぐお子さんが産まれますからね!力まずに、力を抜いて。」


コクリとマーナは頷くと一瞬微笑んだが次の瞬間、最大級の痛みが彼女を襲った。


「クゥー、痛ーい!」


その直後、乳母の手元に産まれてくる子の頭がみえ、一呼吸するとさらに腰まで見えた。


「さぁマーナさんあと一踏ん張り!」

「マーナ、あとちょっとだ!」


2人の合図を待ったかのように、その子はマーナの体から飛び出した。


大きく息をするマーナと、固唾を飲んで2人を見守る2人。

ほんの一瞬だったが、かなり長い時間が経ったように本人たちは感じていた。

そう、おかしいのだ。本来であれば自ら息を吸うための産声が、いつまで経っても始まらない。


乳母は恐る恐る産まれてきた子の口に手を、胸に耳をあてた。


10秒ほど時間が経つと、乳母は顔を上げ、ワナワナと震え、静かに頭を横に振った。


「そ、そんな。」


マーナは青ざめた顔をその華奢な両手で覆い「嘘でしょ」と呟いた。

マーナの枕元にいたタリスはおぼつかない足取りで、乳母の抱き抱える我が子に近づき、じっと我が子を見つめていたが、微動だにしないのを見ると、がっくり膝を落とし、その場にへたり込んでしまった。


「なんでだよ。」


タリスの悲痛な言葉がその場を更に重くした。


その次の瞬間、カァァァァーと青白い粒子が、何処からともなく現れ、タリスの家に向かって集まりだした。

その数秒後、その光はさらに集まり、虹色に変化する真っ白な光となってその家を完全に包み込むと、家の中にいる全員がその眩しさに窓の外に目を向けた。


「ん!?」


突然純白の世界に放り出されたかのような眩しさは、その場にいる全員が目を細めさせた。


そして次の瞬間、その虹色に変化する白い光が乳母に抱かれる子にまるで導かれるように吸い込まれ、一呼吸後。


「オギャー、オギャー!」


数分前に聞こえなかったその子は、その空白を埋めるかのように烈火の如く顔を真っ赤にしながら村全体に響き渡る勢いで産声をあげた。


3人はすっかり元の暗さに戻った部屋に目を戻すと、何が起きたのか全く理解できない様子でそれぞれの顔を見渡すが、次第に何が起きたかはどうでもよくなり、我が子が息を吹き返した興奮から次第に全員の目には涙があふれていた。


なんとか平常心を保たなければいけないと思った乳母はへその緒を切り、処置をするとその子を綺麗な布に包み、マーナの手元にそっと手渡した。


マーナは、両手に少し余る程度の大きさの我が子を抱きかかえ、涙ぐんだ目で愛おしそうに見つめると自然に笑みが溢れた。

タリスはその様子を枕元に近づき、膝をつくとマーナを正面から眺め、自分と同じ焦げ茶色の髪をして産まれた我が子の頭を撫で、そして思い出したように言った。


「そうだ、名前、どうしよっか?」


この世界では産まれてくるまで性別がわからないため、多くの親が産まれてくる子を見てから名前をつけることが多く、2人もまさにそのパターンだった。そして、マーナが返す。


「この子、ショウでどうかしら?今まで考えたことなかったけど、この子の顔を見たらショウがいいと思ったの。」


あまりの唐突さにタリスは少し驚いていた。元々、2人はいくつか名前の候補を考えていて、タリスはその中から名前が上がると思っていたからだ。ただ、ショウという名前を聞いた瞬間、なぜかタリスもこの子にはその名前しかないと感じてきた。


「うん、ショウ、確かに今まで思いつかなかったけど、いい名前だね。うん、ショウにしよう。」



タリスは名前を確かめるかのように何度か呟きながらショウの頭を撫でたり、手を握ったりしていたが、乳母はその様子を少し離れたところから微笑ましそうに見ながら、申し訳なさそうに言った。


「タリスさん、マーナさんもショウくんもお疲れだと思うので少し休ませてあげて下さいね。ショウくん、綺麗にしてあげないとですよ。」


言われてタリスははっとし、マーナと乳母の顔を交互に見て恥ずかしそうに「すまない。」と笑って立ち上がり、2人から少し離れた。


乳母はショウを預かるとお湯を溜めた桶にゆっくりと首下まで沈め、綺麗に血糊を洗い流していく。この間もショウは非常におとなしかった。


そして、綺麗になっていくのを見ていると、タリスはあることに気がついた。

ショウの左手の甲に、少し黒っぽい、古傷のような跡があるのだ。


タリスは乳母に近づき、ショウの手をよく見ると、やっぱり何か跡があることを確認できた。


疑問に思ったタリスは乳母に聞いてみる。

「この左手の跡、なんでしょうか?」


言われて乳母も気がつきまじまじと跡を見つめる。


「確かに、産まれたばかりなのにこの古傷のような跡、なんでしょうね?さっきの光と関係があるのでしょうか?」


乳母もどうやらよくわからないようだったが、大人になれば消えるだろう、と特に気にしないことにした。


こうして、ショウはタリスとマーナの子として、新たな生を受けたのであった。


◇◇


少しずつ明確になってくる意識の中で、おれは自分の状況を理解しようとしていた。


ブラックホールの実験をしていて、うまくいったと思ったら暴走して、一か八かでブラックホールに飛び込んでワームホールを通ることを目指し、上手くワームホールに入ったと思ったら意識を失い、今に至っていた。

時間感覚がおかしい。今さっきの出来事のような気もするが、もう何年も昔の、もっと言うならば子供の頃の記憶のように古い記憶のような気もする。


そしてもっとおかしいのは、なぜか体の自由が全く効かず、全身の感覚がひどく鈍い。

全くもって動けないし、感覚がないわけではないのだが、まず目がほぼ見えていない。手足もなんとか動くがそれも辛うじて、と言った感じだった。頭を触られてる感覚がうっすらとある。誰かが自分の頭を触っているのだ。そんな感覚を感じていると、しばらくして、抱きかかえられ、どこかに移動してる感覚がしたかと思うと、どうやらお湯につけられたみたいで、全身が温くて、水に浮いているような感じで、とても心地よかった。


ここまできて、おれはなんとなく自分の状況が理解できた。


ああ、おれは生まれ変わったんだ。


そう心の中で呟くと、なんだかどっと疲れがでてそのまま眠りに落ちてしまった。


眠りに落ちる瞬間、ふと見えた自分の左手の甲の傷は、目があまり見えないはずなのに妙に鮮明に感じた。

こうしてショウの新しい人生が始まりましたよー!さてさて、この先どうなっていくのでしょうか。

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新作、始めました!

人として大切なことは全て異世界で学んだ!-大切なのはスキルでも境遇でもない、心だ!-

社畜サラリーマンが転成先で超絶魔力量を手に入れたものの、悩み、そして人として成長するお話です。是非お読みいただけると嬉しいです。
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