目標を見つける
ラキカに森へ放り出されてから数時間、水源と寝床の確保は完了し、おれは食料を探すために森の中を進んでいた。幸い、タリスと狩りに出てた時に食べれる木の実やキノコは聞いていたので、歩きながら探しつつ、主食となるであろう、ウサギやイノシシなどを探すため、見つけた穴ぐらの周囲を散策しながら歩いていた。
まだ日は暮れていないものの、だいぶ薄暗くなってきている。空の片側はもう真っ暗で、全面が暗くなるまでそれほど時間はかからなそうだった。そんなとき、森の中でカサカサっと自分の足音以外がするのにおれは気がつき、足音を止め、音のする方向に神経を集中し、手に持っていた弓を構えた。
するとそこから出てきたのはおれが待ってた晩御飯ではなく、なんだか森の精霊のようなモフモフの緑色の魔物だった。体の3分の1ほどある大きな1つ目で、緑色で球体に足が生えてるこいつは、ネズミの国にいたらマスコットでもいけるくらい愛くるしさがあった。
しかし残念ながら、夢の国にいるマスコットのように愛想よく手を振ってくれるわけもなく、一度おれを敵と認識するとその小さな体からは想像できないような俊敏さで走ってこちらに近づき、その手に生えた爪でおれを引き裂こうとする。
思いがけない攻撃におれは咄嗟に上半身を捻り躱すと、息もつかない速さで次の攻撃が繰り出される。
「ちっくしょー、こんな速かったら弓は無理だな。」
そう思っておれは飛びついてきた毛むくじゃらを避けながら飛んできた側面に体当たりをしかけ、吹っ飛ばすと、転がってる隙に弓からいつもの大剣に持ち替え、改めて緑色の毛むくじゃらと対峙する。
こちらが武器を持ち替えたのを気にしてか、少し警戒しているようでこちらをキッと睨みつけていた。おれは、いつでも斬れ味強化ができるよう掌に魔素を込める。そして、おれは一突きすると、そこから毛むくじゃらに向かって剣を振り回す。しばらく攻撃を続けるとおれは毛むくじゃらをようやく木の幹を背負わせるように追い込んだ。おれは後ろの木に気がつかれないよう、続けて突きを繰り出すとやつはバックステップを踏んで避けるが、後ろの木にぶつかり一瞬バランスを崩す。おれはその隙を見計らって斬れ味強化を発動させ、一気に袈裟斬りで斬りつける。
「ウギャャー」
斬りつけた剣が斜めに大きな傷をつけるとその可愛らしい顔から似合わない断末魔の叫び声を上げ、おれは返す剣で突き刺すと、光となって消えていった。
「うーん、まずまず。」
おれは緑色の魔物から落ちた緑色の魔石を拾うと、腰の袋にしまい、自分の戦闘の振り返りを行なっていた。最近おれは戦いが終わった後に特に初めて出会った魔物相手の場合はその時の戦いを振り返るようにしていた。そうすることで、同じ魔物が出てきた時にある程度自然に体が動くようになるからだ。
おれは一人反省会が終え、一口水を飲むとその後も、しばらく散策を続けた。結局この日はウサギが一羽捕まえられたのとカラフルなニワトリのような形をした鳥の魔物を倒しただけとなった。
カラフルな鳥は最初見たとき魔物ではなくふつうの生き物かと思ったら倒すと残ったのは魔石だったからきっと魔物だったのだろう。イマイチ魔物と生き物の区別がわからないが、今おれが欲しいのは魔石ではなく食料だったから、魔石になった瞬間がっかりした。
「まぁとりあえずウサギと木の実が少し手に入ったからよしとするか。」
おれはこうして無理やり自分を納得させると元来た道を引き返した。この時、あたりはすっかり暗くなっていた。
◇◇
穴ぐらに戻るとおれは近くの枯れ技を集め、おそらくタリスが作ったであろう簡易囲炉裏に集め、手元に魔素を集中させると枯れ技に火を放った。おれは火打石で火を起こすこともできたが、斬れ味補正以外の魔法ももしかしたら何かのきっかけで使えるようになるかもしれないと密かな希望をもっており、しばらくは魔法で火を起こすことにしていた。
おれはタリスの見様見真似でウサギをさばき、麻袋に入っていた塩で味を整える。そして、今夜の食事用と保存用で火のあたる位置を少し変えて焼き上げると、肉の焼ける香ばしい香りがしてくる。焼けるのを待つ間、おれは狩りに使う矢を作ったり、剣の手入れをしていると危うく丸焦げにするところだった。
焼きあがったウサギ肉にかぶりつくと、おれは思わず固まる。
「うん、やっぱり美味しい。」
おれはどうやらウサギ肉が好きらしい。この臭みがない淡白な味はオーソドックスな塩胡椒で充分美味しい。塩分はやはり味を締めるのに重要な要素で、且つ人間の体内では形成できないミネラルのためどちらの意味においても冒険者にとっては貴重な資源だったから本当によく考えてくれている。
こうしておれは、初めて自分で捌いたウサギ肉を堪能しながら夜営初日を終えた。
◇◇
昨日の夜は移動の疲れもあり食事をするとすぐ眠ってしまったが、朝になり目が醒めるとおれはこれからの計画を考えた。
「さて、なんとか最低限の生活はできるようになりそうだけど、これから先どうしようか。何もしないでなんとなく生活するのも良いけどそれじゃ張り合いがない。何か半年間の目標を決めなきゃな。」
おれは昨日のウサギ肉の残りを頬張りながらあぐらを組んで考える。
「まずは強さが欲しいな。ラキカが久し振りに会った時にあっと驚くような強さが。剣術の上達も必要だけど、やっぱりこーゆー世界だ、必殺技的なものが欲しいな。ある意味今の斬れ味付与は必殺技に近いけど、やってることはただ斬ってるだけだからな、ラキカが言ってた騎士選抜大会のことも考えると純粋な剣術による必殺技が欲しい。」
こうしておれはどんな必殺技がよいか、必死に頭を思い巡らすと、1つのイメージが湧いてきた。うん、取り敢えず厨二病的な感じだけど、これにしよう、これしかない。
なんとなく必殺技の完成イメージが生まれたところで、おれは別のことを考え始める。
「流石に必殺技の習得だけじゃ面白くないからな。なんか生活の中に楽しさがほしいよな。んー、なんかないかな。この半年間で実現できそうで、且つワクワクできるもの。」
おれは顎に手を当て考えるがイマイチ何も浮かんでこない。
「んー、巨大ブランコでも作るとか?いやいや、何が楽しいんだ、そんなの。うーん、こっちはなかなか難しいな。」
しばらく考えてみたが、結局これといって何も思いつかなかったから、気分転換に取り敢えずはタリスから教えてもらっていた素振りをして、狩りに行くことにした。
「まぁ、そのうち何かやりたいこと見つかるでしょ。」
そんな楽天的なことを思いながらおれは森へと歩みを進め、その日の狩りを始めた。
昨日の場所から少し仮の場所を広げようと、昨日は川沿いに向かって歩いていたが今日は山の崖沿いに歩いた。理由はもちろん特にない。どちらかというと崖沿いの方が草よりも木が多く、歩くのが大変で、そのせいか動物も魔物も少なかったからしばらくは川沿いに歩こうとおれは決めた。うん、失敗も大切だ。
そうは言っても、全く何も収穫がなかったわけではなくて、多少は動物もいて、この日は鳥の巣を見つけたので可愛そうだが巣にあった3つの卵のうちの1つをもらった。そして、今度は鳥さんがいたので弓矢で仕留め、晩御飯としてストックさせて頂いた。うん、さっきの巣の親鳥でないことを祈ろう。そして大地の恵みに感謝である。さらに、崖沿いに歩くと上に登ることができそうな道を見つけることもできた。
こうしてお昼過ぎに穴ぐらに帰ってきたおれは、今朝見つけていた滝の裏にある小道を回って滝の裏側に来ていた。
人が2人すれ違えるくらいの道が、穴ぐらの手前にある開けた場所から滝の幅方向中央部くらいまで繋がっている。そこから滝の外側を見ると轟々と水のカーテンが自分の目の前に広がっていた。
おれは目の前にある水のカーテンに向かって深く腰を落とし剣を構えると、
「うりゃぁ!」
構えた剣を横一閃!と思ったが残念ながら水の勢いが強すぎて、剣筋は大きく斜め下に斬り下がる。危うく勢いに飲まれておれも滝に落ちるとこだった。
「うん、今のおれでは斬れないんだな。」
おれは予想通りの結果に安心すると今度はいつもの斬れ味付与の魔法をかけて同じことをする。
「とりゃぁ!」
うん、さっきとあまり変わらず、斬れ味付与しても水流に押し負け真横の斬撃にはならない。だが、一瞬、剣筋よりも掌分くらい先の水流までが斬れていることに気がつく。
「ん?もしかしたら、これ使ってる時は斬れる範囲が変わるのか?」
おれは思わぬ発見に必殺技のイメージを2つ設定することにした。
1つ目は付与無しの状態でこの滝を真横に斬り抜くことができるようになる、剣撃スピードの向上。もともとはこのことだけでも充分なハードルの高さがあると思ったからこれをこの半年間の目標にするつもりだったが、今のこの発見で2つ目の目標を見つけた。2つ目の目標は、単に斬り抜くだけではなく、斬れ味付与により、それなりに幅があるこの滝を真っ二つにすることだ。さっきの、付与した時に斬れる範囲が広くなったことを見て思ったのだが、原理的に考えれば今と同じ魔法で付与するサイズを大きくできればこの滝を斬ることができると考えたわけである。
こうして、おれの必殺技習得に向けた血の滲むような鍛錬が始まったのだった。
少しずつ森での生活には適応しつつあるショウ。そして何やら目標を見つけたようですね。この目標、果たしてどこまで達成できるのでしょうか。
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