父親に隠された真実
ラキカと南門から村を出ると、馬に乗り南に伸びるアーガンス城へと向かう街道を突き進んだ。アーガンス城までは馬で約2日ほど。ちょうど中間地点には宿屋街のトメリアがある。村を出る前にどこに行くつもりなのか聞いてみたが、ラキカは教えてくれず、着いてからのお楽しみだ、と言っていたからおそらくトメリアに行くつもりはないのだろう。
時折休憩を挟みながら、馬に乗り移動を始めてしばらくすると、東側には小高い山と大きな森が広がっていた。
やっぱり村の外は全然雰囲気が違うんだなぁ
そんなことを思いながらただひたすら移動を続ける。しかし、感動することばかりではない。馬に乗り始めた始めの頃は、向かいくる風に感動したが、慣れてしまうとお尻が痛くて苦痛だった。休憩をしながらそんなことをラキカに言うと、これも慣れの問題らしく、そのうちなんともなくなるそうだ。
馬に乗っている間は、魔物に全く出会わなかったが、おそらく気がつかなかっただけで、休憩していると毎度お馴染みのスライムやらツノが生えたウサギの魔物がひょっこり現れては瞬殺されていた。
ラキカは最初こそ戦っていたが、おれがある程度やれるとなると、後は頼んだと完全放置であった。人使いが荒い人である。
休憩しながらラキカは水を飲むとおれの方を見て聞いてくる。
「なぁショウよ。お前、グリズリーにやられそうになったときに本当は何がおきた?」
ラキカはおれの嘘を見逃すまいと鋭く黒い瞳で瞳を覗き込まれる。おれが答えづらそうにしていると、
「あのな、お前が言ってたようにカッときて魔法が使えるって話、あの話自体はないわけでもないんだがな、お前の魔素の通る道、これを魔道っていうんだが、こいつがめちゃくちゃなんだわ。不自然に止まってたり、かと思ったら無理やりこじ開けたように広がってるところもあったり。」
おれが何のことだからよくわからないような顔をしているとラキカは続ける。
「そうだな、おれが受けた印象としてはな、無理矢理誰かに魔法を行使させられたようなイメージだ。普通に鍛錬してればもちろん魔道は広がっていくし、パスも繋がっていくんだが、お前の魔道はそういうのとは違う通り方をしてる。」
なるほど、あの頭に手を乗せられて魔法を流していたのはそんなことを調べていたのか。おれは少しだけ考え込む。そして結局、ある程度正直に話をしてしまうことにした。後は野となれ山となれ、だ。
「ラキカさん、実はお父さんたちにも話をしてないんだけど、あの日、気を失ってるはずなのに頭の中で銀髪の女の子に助けてやるって言われて、体を操られたら魔法を使えるようになったんです。ぼくも死にそうで、その子からするとぼくは死なせたくない人間らしく、力を貸してやるっていわれて。」
おれは自分が転移者だっていう部分だけ伏せて、ありのままを伝えた。ラキカには何か思い当たるところがあるようだった。
「その銀髪の女の子って、ほかに何か特徴はないか?」
「うーん、背はそんなに高くなくて、ぼくより少し高いくらいで、見た目は若いんだけど話し方がおばあちゃんみたいな話し方だったと思います。あ、あと、真っ赤な瞳をしてました。真っ白なワンピースで髪も銀色だったから目の赤色がすごい印象的だったのを覚えてます。」
おれの応えに、なるほどな、というような顔をしてラキカは応える。
「次元の番神、ディーナだな。」
「あ、そんなようなこと言ってた気がします。我は次元神、とか。」
「それ、重要な情報だろうよ、なぜ言わなかった?」
「いや、本当なのか全然わからなかったので、言われるまですっかり忘れてました。」
「そうか、まぁ細かい話はさておき、お前は随分大層なやつに認められてしまったな。何でそんなやつに生き残って欲しいとか思われてるんだ?心当たりあるか?」
「うーん、なんかあったかな?」
おれは体操座りをしながら足元に顔を埋め、考えるフリをする。次元神に認められるとしたら、転移してきたからだろうが、さすがにそこまでまではいう必要ないだろう。何か適当な言い訳がないだろうか。そう考えているうちにふと良い言い訳を思いつく。
「あ、そういえば、ぼく自身は覚えていないんですけど、生まれてくるときにぼく一度死んじゃってたらしいんですが、青い光が家の中に集まったらぼくが生き返ったらしいんですよ。これって関係ありますか?」
ラキカもそれを聞くと同時に手をポンっと叩いて、そう言えばそんなことをタリスが手紙で書いてた、とか言っている。
「直接関係あるかはわからないが、もしかしたらお前はもしかしたら転移者なのかもしれないな。実は隣の国のオスタにもショウと同じように光の中から産まれたやつがいるらしくて、そいつは自分のことを転移者だって言ってるって噂だ。」
「ふーん、転移なんてそんなことあるんですね。」
おれは自分のことを棚に上げて知らないフリを決め込んだ。一方で、その転移者のことが気になるが、これ以上詮索するとおれ自身が転移者であることがバレそうな気がしたから迂闊に詮索するのはやめておこう。
「何言ってんだ?転移なんてそこそこあるし、転移者はいろんな能力を持ってる可能性が高いからこの世界ではそこそこ有名になるやつが多いんだ。まぁ転移者がみんな転移前の記憶があるってわけでもないから、もしかするとショウは転移者だけど転移前の記憶がないってだけかもしれないな。」
なるほど、なんかそんな話聞いてたら別に転移してきたっていってもよかったのかもしれないな、なんて思えてきたがまぁここまでしらばっくれてきたから、もう知らないフリをしておこう。
「そうなんですね!ぼくの能力も転移によるものだったら、何か特殊な能力の可能性もあるってことですね!」
そう聞くと、ラキカはかぶりを振った。
「いや、お前の場合は、さっき言った通り魔道がグチャグチャだからそれをなんとかしないことには仮に潜在能力があったとしても今は使えないだろう。多分、ディーナがお前の体を乗っ取ったときに、その場をしのぐために本来であればしっかり時間をかけて魔道を開いていくところを、無理矢理短時間で開いたから、逆に使わなかった魔道は自己防衛本能が働いて閉じたんだろう。」
なるほど、まぁやむを得なかったとは言え難儀なことをしてくれたものである。
「そうなんですね、それって治るんですか?」
おれが落ち込みながら聞くと、ラキカは応える。
「安心しろ、回復させる手立てがないわけではない。ただ、今はまだ無理だな。とある秘境にある湧き水に浸かると魔道を回復させることができると聞いたことがあるが、そこにいくには今のショウでは実力不足だ。」
「そうなんですね。ではしばらくは今のままなんとかするしかないですね。」
少し残念そうな声でおれが言うと、ラキカはその様子を察してかおれを宥めるように言う。
「残念そうにしてるが、1つ言っておくぞ?感づいてると思うがはっきり言って、お前の今の魔素や魔法の実力は一般的な人からすると現状でも異常だ。だからしばらく魔法は現状でやりくりして、剣術とか体力を上げることを考えろ。お前の父さんを見てみろ。魔法を全く使えないであの強さだからな。」
たしかに、全てを魔法に頼るのはよくないな。出来ないことをしのごの言っても仕方がない。
「あと、これからお前がまず目指すのは2年に一度開催される王宮騎士選抜試験で行われる試合で優勝することだな。」
「王宮騎士選抜試験なんてあるんですね。それって、どんな試験なんですか?」
「まぁ例年通りだったら、一次試験と二次試験があって、二次試験がトーナメント形式の試合なんだ。」
「なるほど、じゃあ一次試験をパスして、さらに二次試験で最後まで勝ち残ればいいってことですね。って、それ簡単に言いますけど、そんなところで優勝なんて気の遠くなりそうな話です。」
「あぁ、まぁ簡単ではないな。だがな、選抜試験は誰でも出場できるわけではない。目的が騎士候補の選抜だから年齢制限があって15歳までしかでれない。あとな、そこで選抜された騎士や騎士候補は出場できないから、なんとかならない訳ではないぞ?ちなみにタリスはおれと修行を始めた5年目の13歳で優勝してる。」
「なるほど、年齢制限あるならなんとかなるかもしれませんね、って、お父さん選抜大会で優勝してるんですか?」
おれが驚いた顔をして聞くと、ラキカはおれが知らなかったことに逆に驚いていた。
「あ、なんだ、タリスから聞いてなかったのか?タリスはそこで実力を認められて騎士になって、昔は王宮内でも有名な騎士だったんだぞ?」
おれの中ではやっぱりか、という思いが強かった。でもそうであるならやはり疑問が残るので口にする。
「なんで王宮騎士になったのに辞めちゃったんだろ?周りにも秘密にしてるような雰囲気だったし。」
「大人の事情があるんだよ、本人達がお前にも話をしてないならまだ秘密だ。今度帰ったときにでも直接聞いてみろ?さぁお喋りは終わりだ、そろそろ行くか。」
ラキカはこれ以上何も言わないと態度で示すかのようにそそくさと片付けをして移動の準備を始めた。それを見ておれも諦め、再び馬に乗り南へと移動を始めた。
ここから第2部スタートです。テペ村を出てラキカと修行をして騎士選抜試験に向けて少しずつ強くなるショウ。そして、少し前にショウの体を乗っ取った銀髪少女が次元神だということが明らかになりましたね。ショウはラキカの修行でどこまで強くなれるのでしょうか。
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2018.10.13
すみません、修正前はここの記載でオスタと戦争してるってことになってましたが間違いです。オスタはただの隣国、なんなら友好国ですので修正しました。