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旅立ち

ラキカがきておれが旅立つ日の朝、相変わらずマーナは朝一番に起きて家族とラキカの分の朝食を準備して待っていた。本当にこのマーナの献身ぶりには頭が下がる。容姿端麗で家事もできて、しっかりと夫を立てる妻、こんなことを言うとマザコンかと言われるかもしれないが、自分が嫁にするならこんな人だといいのにな、なんて思ってしまう。


マーナは昨日のベッドでの様子が嘘のように、今日は飄々としていた。女性って、本当に外見だけでは全然わからないもんなんだな、とつくづく思った瞬間である。一方でタリスは口でこそ何も言わないが、その様子は少し落ち込んでいるかのように不安げで、物静かな感じだった。もう、世話がやける親父だなぁまったく。できる息子を演じるおれはタリスに声をかける。


「お父さん、最後に家を出る前に稽古、つけてくれない?これでしばらくはお父さんと打ち合うこともなくなっちゃうし。」


その言葉に、タリスの顔がパッと明るくなる。ただ、今日出発する手前、ラキカの方をちらりと見るとその様子を察してかラキカは


「おう、軽くだったらいいぞ。親父思いの息子でよかったな、タリスよ。」


とかなんとか言って、ガハガハ笑っている。


タリスは、ラキカのオーケーをもらうといつもの木刀を二本持っておれに表に出るように促す。


おれとタリスは軽く準備運動をすると、木刀を持ってお互い正面で対峙した。


「さぁ、始めようか。」


タリスのその言葉と同時に、おれはタリスに斬り込むと、そこを起点におれとタリスの攻防が始まった。


タリスと約一年斬り合いをしていて気がついたのが、人間、足元への攻撃は避けにくい、ということである。上半身の攻撃であれば、体を捻るとか、反らすとかで回避する方法がいくつかあるが、下半身への攻撃はステップを踏んで躱すしかなく、どうしても動きが大きくなりやすい。上手く躱されると上半身が自由な分カウンターを食らってしまうが、おれの場合は身長が低いことが下半身への攻撃のアドバンテージになっており、タリスからするとやりにくそうだった。


おれはできるだけ身を沈め、タリスの下半身を執拗に狙う。タリスももちろん攻撃をしてくるがおれはそれを躱しながらしばらくの間打ち合っていた。そして、しばらくするといい加減嫌気がさしてきたのか、おれに向かって上段から斬り下ろす。


おれはこの瞬間を待っていた。一か八かになるから今までは使ってこなかったが、銀髪少女の戦い方をふと思い出した時に一回タリス相手にもやってみたかったのだ。


タリスから迫り来る剣戟をギリギリの位置で後ろに避けると、タリスの木刀が地面に触れそうになる。それと同時におれはその木刀を踏み台にして地面に押さえつけると、鋒だけが地面につき、一方で刀身部分はグニっとしなると足元の木刀はロイター板のような役割でおれを高く跳ねさせた。


「うぉぉぉ!」


おれは叫びながらタリスを上段から斬りつけ、決まった、と思った瞬間、


バキンッ


今まで見たこともないタリスの背中側に一回転しながら放たれた超高速の剣戟がおれの上段からの攻撃を横から弾き、おれの木刀はその衝撃で手から離れ、クルクルと回りながらあさっての方向に飛んでいった。まともに握ってたら、おれの手がポッキリいっていただろう。


「おれの勝ちだな。」


タリスが着地に失敗し、転がってるおれにむかって木刀を突きつけながらそう呟くと、おれに手を差し出した。


「あとちょっとだったのになぁ、ちぇっ。」


おれはタリスの手を掴みながら立ち上がり、ついた土埃を手でパンパンと叩きながら言う。


「いや、まさかあそこまでやらされるとは思ってなかったよ。1年間でよくここまで成長したな。おれは嬉しいよ。」


「うん、1年間、いや、産まれてからこれまで、ありがとうございました。」


おれは改めてタリスに礼を言う。するとタリスは感極まったのか、おれをその無骨な手で強く抱きしめた。


「ちょっとお父さん、痛いよ。」


おれがそう呟くと、そっと体を離してタリスは言った。


「絶対に生きて帰ってこい。」


おれがコクリと頷く。ラキカは恥ずかしくて見てられないといった感じだったが、マーナはやっぱり涙を必死に堪えていた。


「さぁ、準備をしたらいくか!」


「はい!」


この場の湿った雰囲気を吹き飛ばすかのような威勢の良い声でラキカがいうとおれも大きく返事をした。


◇◇


こうしたやりとりの後、ラキカは馬を納屋に取りに行くと言って家族だけにしてくれた。きっと、最後に家族だけの時間を作ってくれたのであろう。タリスからは無茶苦茶な人と聞いていて、たしかに言動は荒いしぶっ飛んでるところもある気がするが、人のことをよく見てるし、思いやりがある人だなとここ丸一日弱一緒にいておれは感じていた。


マーナはあれは持ったか、これは持ったか、とうるさく、まるで遠足に出かける前の小学生のようだった。おれはおれで、あまり大荷物にならないようにしながらもタリスから譲り受けたバックルと長剣、メンテナンスのセットや服をいくつか麻袋に詰める。


しばらくすると、ドンドンとドアをノックする音がする。馬を引いてラキカが帰ってきたのだ。おれが表に出ると、真っ黒なタテガミを持ったタテガミと同じ黒い色をした立派な馬がラキカに引かれていた。


「ショウよ、準備はできたか?」


「うん!いつでも行けるよ!」


ラキカはおれに確認すると、ちょうどタリスとマーナがラキカの到着に気がついたのか外に出てきた。


マーナがおれの方に近寄ってくると


「ショウ、これね、翡翠石を使ったペンダントよ。翡翠石には昔から人の命を守る効果があると言われているの。だからこれは肌身離さずつけておいて。」


と言いながら、おれの首元に紐の部分が革でできたペンダントをかける。翡翠石は半透明の緑色をした綺麗な結晶で、細長い12面体の形に綺麗に研磨してあり、手の込んだ品であることがわかる。おれはペンダントトップを手に持ちながら言う。


「うん!ありがと!いつもつけておくね!大切にするよ!」


するとタリスもその手に持った剣をおれに渡す。


「この剣は残念ながらマーナの物ほど高価なものではないんだが、おれが最初に師匠に面倒を見てもらった時の剣なんだ。こいつと一緒にがんばってきたから今のおれがあると思ってる。験担ぎではないが、もしよかったら、こいつで師匠の修行を受けてくれないか?」


おれは剣を革で拵えた鞘から抜くと刃を何度も研ぎ直して使っているせいで刀身自身が薄くなっていて、かなり使い込まれている様子がわかった。


「まぁこいつの能力からするとちょうどいいかもしらねーな。」


ラキカが薄くなった刀身を見て言う。そう、おれの魔法を使えば刀身で斬るというよりも、刀身はただの魔法を保持するための棒だから、軽く、薄ければ薄いほど振りやすいのだ。おれはラキカのその言葉を聞いて


「うん、今は魔物と戦ってる間ずっと魔法をかけ続けることはできないけど、この剣でがんばってみる!」


そう言って、今持っている剣と差し替えた。


「これだけ疲弊してると、いつ折れてもおかしくないから、よく考えて使えよ?」


ラキカの言葉におれはコクリと頷いた。


「さぁ、じゃあそろそろいくか!」


ラキカは黒馬の口元を撫でながらおれに声をかける。


「はい!お父さん、お母さん、強くなって戻ってきて2人をびっくりさせるから!」


「おう、また打ち合いをしに帰ってこい!次もまけないからな!」

「戻ってきた時にはまたみんなでご飯を食べようね。」


「うん、わかった!楽しみにしておくよ!んじゃ、そろそろいくね!」


そう言い、おれはラキカの方を見ると、ラキカもこちらを向いて頷き言った。


「んじゃ、おたくの息子、ちょっと預かるわ。まぁ成長を楽しみにしててくれ!」


「はい、お師匠、よろしくお願いします。」

「ショウ、ちゃんとラキカさんの言うこと聞くのよ!」


「はーい、またねー!お父さん、お母さんいってくるね!」

「よし、行くぞ!んじゃ2人ともまたな!」


そう言いながらおれはくるりと踵を返し、黒馬の手綱を引き歩くラキカの横に一緒になって、村の出口に向かって歩き出す。ふと振り返ると、2人が手を振って見送るのが見えたので、おれも精一杯腕を伸ばして大きく手を振った。


「さぁて、んじゃこれからよろしくな!」


そう言うラキカの目は、どこか不敵な目をしながら笑っていた。


はい、これで第1部まで完了です。

第1部はちょっとほのぼのした雰囲気で間延び感があったのでここからはもう少しメリハリを意識していきたいとおもいます。何より、早くショウを強くさせたい、というのが何気に作者の願いです(笑)


ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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