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最強の師匠、登場

タリスと稽古を始めてもうすぐ一年が経とうとしていたある夏の日の夜、夜ご飯を食べ終わるとタリスはおれに座るように促す。


「ずっと連絡がきてなかったが、師匠から連絡があった。ちょうど今この辺りにいるから近いうちに迎えに行く、とのことだ。」


「え?いきなりだね。」


「いつものことだ、気にしたら負けだ。むしろ連絡がきてホッとしてるくらいだよ。いつもなら、何も言わずに突然くることもあるくらいだからな。」


そんなやりとりをしてるとマーナが言った。


「じゃあ、ショウの出発に向けて盛大にお祝いしないといけないわね!」


これまでおれが修行に出ることに対して文句も言わず、気丈に振る舞っているマーナだったが、やはり寂しいのか、その声は強がっているのがわかった。おれも寂しくないわけではない。やっぱりこの家族はおれのことを大切にしてくれるのがわかるし、居心地もいい。だが、居心地が良いからと言って現状に甘んじるのは良くない。少し家から巣立つのが早いだけで、いつまでも親元で甘えているわけには行かないのだ。それに、どうせならおれも男だからか、持ってる技能で上を目指してみたい。この感覚は、スポーツをやってる人が純粋に高みに近づきたいと思う気持ちと同じだろう。


マーナのそんな様子を見てタリスはマーナをなだめるようにいう。


「まぁそんな寂しそうな顔するな、もう2度と会えないわけじゃないし、それにおれはこいつの才能を親として最大限に育てる義務があると思っている。こいつは、とんでもない才能を持っている。それをおれらの手元で腐らせてしまうのは勿体ない気がするんだ。」


「それはわかるんだけど、」


と言いながらマーナは目尻を指で拭うと、その様子を悟られないようにするためか、


「あ、お茶がないわね、お茶淹れてくるわ。」


と言って台所へ向かってしまった。この歳で母親を泣かせるなんて、おれは罪な男である。


◇◇


タリスの師匠から連絡があった数日間、おれはいつくるのかとソワソワしながらいつもの稽古をしていた。まるで遠足に行く前の子供のような気持ちが何日も続いたようなものである。


この日も、タリスとの稽古が終わり、おれは一人で魔素の移動の訓練を行っていた。そしていつもと同じルーチンの訓練が終わると最後におれは掌に魔素を集中させ、剣に斬れ味付与の魔法をかける。ようやく15秒ほどはこの状態で動ける状態になってきたので、その状態でしばらく空想の敵と斬り合う。そして、おれが上段から斬りおろした瞬間だった。


ガキンッ


「え!?」


おれは一瞬戸惑うと、振り下ろした先には見知らぬ初老の男性がおれの剣を下段からのうち払いで吹き飛ばし、次の瞬間にはおれの首元にその鋒を突きつけていた。


「今おまえは一回死んだな。」


そう言うと、男性はその剣を鞘にしまうと、その深く被っていたフードをあげ、こちらを向いていった。


「おまえがショウだな、驚かせて悪かった。おれがタリスから呼ばれたラキカだ。」


その大部分が白髪となった長い髪の毛は後ろで束ねられており、深い彫りから覗く鋭い眼光は鷹をイメージさせるように鋭かった。


「ラ、ラキカさん。」


おれはあまりの突然の出来事に思わず聞いた名前を呟いてしまったが、ふと我に返って改めて挨拶をする。


「あ、すみません!あまりの突然の出来事で。はい、ぼくがこれからお世話になるショウです。よろしくお願いします。」


そう挨拶をするとラキカはニッカリ白い歯を見せて豪快に笑う。


「ガハハハッ!タリスのやつ、随分と丁寧に子供を育てたな!結構結構、礼儀も大切だ。まぁこれからみっちり鍛えてやるから覚悟しておけよ!」


そう言うとおれの肩をガンガン叩いてくる。その勢いだけで思わずよろけてしまうほどだ。


「はい!よろしくお願いします!」


おれもその勢いに負けじと元気に挨拶をしてみせた。


◇◇


こうして、ラキカを家に案内した。


「ただいまー!お母さん、お客様連れてきたよー!」


おれが呑気な声で言うと、おかえりなさい、とおれに声をかけながら奥からでてきたマーナはラキカの顔を見て驚く。


「ラキカさん、いらっしゃったのですね。」


そう言われたラキカは、マーナに向かって少し遠慮しながら応える。


「おう、今さっきついておめえんのとこの子供とちょっとじゃれあってきたとこだ。」


それを聞いたマーナはふふっと笑うと言った。


「そうですか、是非強い子にしてやってくださいね。」


「あぁ、必ずタリスを超える大物にしてやるよ、こいつは。」


ラキカはそう言うと少し遠い目をしていた。


マーナがお茶を出すとラキカはおれに向かって話を始める。


「それにしてもショウよ、お前なかなか面白いことやってたな。あれ、なかなかできるもんじゃねぇぞ。」


「ぼく、使える魔法があれくらいしか知らなくて。」


そう言うとラキカは少し驚いた顔をしていた。


「ふーん、そうなんか、ちょっとこっちきてみ?」


言われるがまま、おれはラキカの側に立つと、おれの頭に手を乗せ、魔素をその手に集め始めた。そして魔素をベースにした魔法がおれの全身を巡る。痛くはないんだが、体の中にお湯が流れ込んで動いているような不思議な感覚だった。


しばらくそうしていたかと思うと、ラキカはおれの頭から手を離し、こちらを見て聞いてくる。


「ショウよ、お前、魔法をどうやって使えるようになったのか、きっかけは覚えているか?」


「うーん、ちゃんとしたことはあんまり覚えてないんだけど、グリズリーにお父さんがやられて、カッときたら使えるようになったって感じだったと思います。」


おれはタリスに説明した内容とあまり齟齬がないように当時話をした話を思い出しながら話をしていた。


「ふーん、まぁそんなもんか。なるほどな。」


ラキカはおれのついている嘘を見透かすかのようにその黒い瞳でおれの目を見つめふーん、と頷いていた。まずい、なんだかこの人には嘘がバレてる気がする。


そんなやりとりをしていると、ガチャリと扉が開き、タリスが帰ってきた。うん、父ちゃんグッドタイミング!


「ただいまー、あ、お師匠!いらっしゃってたんですね。ご無沙汰しております。」


「おう、今しがたきたところよ。お前のところの倅、なかなか面白い感じに育ってるな、こいつはおれが育てればきっと大物になるぞ。」


「私もそう思い、ご隠居の身のお師匠にお願いさせて頂いたのです。是非、我が子、ショウのことをよろしくお願いします。」


そう言うと、タリスは掌に拳をあてたスタイル、この師弟関係の礼の作法なのだろうか、そんな格好で改めて一礼していた。


◇◇


タリスが着替え、食卓に戻る頃にはマーナが腕によりをかけた料理を机に並べていた。ラキカがいつくるかわからなかったため、仕込みでとめておいて、出す前に仕上げた料理が多かったが、だからこそ仕込みで寝かしただけの時間による旨味の濃縮が程よく、美味しかった。


マーナの作った料理に舌鼓を打ちつつ、ラキカは最初はおれに聞かせるようにタリスの修行がおれの1個上の8歳から開始したことや、その頃はお漏らしをしたこともあったこと、辛くて逃げ出したことなど、親としてはあまり聞かれたくないだろう話をおれに聞かせてくれた。そんな人並みの子供だったタリスの話を聞くと、親になるとこうも変わるものなのだな、なんて思わされていた。おれも転移前に結婚して子供がいたらもうちょっと落ち着いてたのかもしれないな、なんてことも思ったりしてみていた。転移前、おれは勉強、仕事と実益の伴うことにエネルギーを費やしてきた所為で、色恋沙汰とは無縁な生活を送っていた。興味がなかった訳ではなかったが、優先順位を下げていたらいつのまにか恋愛とは無縁の人生を送っていたのだ。こっちの世界では恋愛をちゃんとしてみるのも良いかもしれないな、なんて思ったりもしていた。ませたガキである。


しばらくして食卓に並んだ食事が綺麗に片付き、オヤジ二人が酔っ払い始めた頃、マーナはおれに言う。


「ショウ、そろそろ寝る時間よ?明日家を出るんだから、今日は早く寝て起きなさい。」


そう、ラキカは今日来たのだが、明日にはもうおれを連れてでていくそうだ。これにはマーナも「もう少しゆっくりしては?」と食い下がっていたが、あまり長居してもよくない、と言うラキカに押し切られ、結局明日の朝に出て行くことになった。


そして、おれに寝るように言ったマーナに、酔っ払ったラキカは


「まぁそんな堅苦しいこと言うなよ、こっちにきて一緒に飲もうぜ!」


なんてふざけたことを言っている。それを聞いたマーナは


「そう言う御誘いは10年後くらいにしてくださいね。ショウ、さぁ寝ますよ。」


あ、酔っ払い2人にマーナちょっと怒ってるな、そんなことを思いながらおれはマーナに寝室に連れていかれた。


「ショウが寝るまで一緒に横にいてあげるからね。」


マーナはそう言うとおれのベットに腰掛け、そしておれの直ぐ脇に横たわる。


「いいよ、ぼく一人で寝れるし、お母さんはラキカさんたちの相手してきなよ。」


そう言うとマーナはこちらを向いて応える。


「ショウ、あなたは小さい頃から本当になんでもできて、大人っぽいけど、しばらく会えなくなる最後の夜くらい、お母さんに甘えていいのよ?」


そんなことをいうとマーナはおれをぎゅっと抱きしめた。


おれは思わずハッとさせられた。今までマーナはタリスの言うことに文句も言わずおれが修行にいくことをなんとも言わなかったが、やはり一番心配で寂しいのは母親のマーナなのかもしれない。おれは体が小さくても甘えたりしなかったから、マーナは余計に寂しかったのかもしれない。自分が腹を痛めて産んだ子なのに甘えてもくれない、というのは少々酷なことをしたかもしれないな、と今更ながら反省した。そして明日には旅立ってしまう。そんなことを思いながらおれは言った。


「お母さん、今まで本当にありがとうね。ぼく、お母さんがいつも待っててくれたからお父さんの厳しい稽古にもついていけたし、グリズリーに襲われても帰ってこれたんだと思うんだ。だから、またちょっと修行でいなくなるけど、ぼくのこと待っててほしいな。今度はいっぱいお土産もって、ぼくももっも強くなって絶対帰ってくるから。」


そう言うと、マーナは何も言わずにおれの後頭部をその手で包み込み、おれの顔を胸の中に押し付ける。


「そうね、また美味しいご飯作って待ってるからちゃんと帰ってくるのよ。無理だと思ったらいつでも逃げ出しちゃいなさい!」


そう言うと、マーナが鼻をすする音が一瞬した気もするが、しばらくするとおれが寝たと思ったのか、マーナはおれのベッドから出て行き、タリスたちの元に戻っていった。


しばらくすると、ラキカが何かを言うと、マーナが珍しく大きな声で否定する声が聞こえた。おそらく、その赤く腫れた目のことをラキカに言われたのだろう。その後もしばらく賑やかな声が遠くで聞こえていたが、気がつくとおれはそのまま眠りについていた。

ついにやってきました最強師匠。とにかく強すぎなイメージで書いたので、もしかしたら後からちょっと修正いれるかもしれません。。


ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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