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成長

森への探索が終わったとある日の午後、タリスは状況が理解できないとおれの脇で今にも頭を抱えそうだった。


「何がどうなったらこの地面に刀身が全て埋まるんだ?」


タリスは怒っているわけではなかったが、少し詰問口調でおれに問いただしていた。


「いや、ちょっと疲れてよろけそうになったから剣で体を支えようとしたら剣が地面に埋まっちゃった。」


おれはそのあとにテヘペロとか付け加えたかったのは言うまでもない。


「いや、埋まっちゃったって、まず、剣を杖代わりに使うな、刃がこぼれるだろう。まぁそれはさておき、こんなの今まで見たことないぞ。」


「はい、ごめんなさい。実は、ちょっと魔法の練習をしてて、剣の切れ味が増す魔法をかけてみたらいきなり疲れちゃって、倒れそうになったから。」


おれがそう言うと、タリスはなんとなく想像してたみたいで「やっぱりか。」とか口にしていたが、顔が少しあきれていた。


「あのな、色々突っ込みどころが満載なんだが、1つずつ確認していこうか。」


タリスはそう言うと魔素のコントロールをどういったイメージでおこなっているのか、とか、魔素のコントロールがどこまでできるのか、とか、魔法のイメージをどうしたのか、とか、他の魔法はどうなのか、などなど、根掘り葉掘り聞いてくるのでおれはどこまで話をして良いかもよくわからず、一方で魔法が発動し、地面に剣がめり込んだ事実はかわらないから大人しく全てを白状することにした。

一通り質問が終わると


「天才か。」


とだけ呟き、タリスはおれに正面から向き合うと、


「とりあえずご飯にしようか。」


と言うと、寝転んでいたおれに手を差し出したのでおれはその手を取って立ち上がると、タリスと並んで家に帰った。


◇◇


食事が終わり、寝る準備をしているとタリスがおれにこっちに来い、と呼び止める。

今日の夕方以降、タリスはずっと何かを考えているようで、元気がないわけではなかったが、いつもより口数が少なかった。

おれはタリスに呼ばれるがまま、近くにあった椅子に腰掛けると、タリスが話し始めた。


「ショウがおれをグリズリーから守ってくれたあの日以降、もしかするとその日がくるかもしれない、と思っていたが今日の「あれ」をみて、確信に変わった。ショウ、おれの師匠のところで修行をしてみないか?」


突然の言葉に唖然とするおれ。マーナはすぐ近くに座り話を聞いていたが、少し遠い目をするだけで特にタリスを止める様子がないことから、グリズリーの一件からタリスとマーナの中である程度話がされていたのだろう。

状況が理解できないおれを落ち着かせるようにタリスは続ける。

「修行しにいくといっても今すぐというわけではない、もう少し鍛錬をして基礎を積んでからだ。今行くと、きっとショウは殺されてしまう。あ、いやなんでもないんだ。とにかく、もう少しおれから学べる部分は学んでもらいたいと思っているが、そうだな、一年後くらいからでどうかなとおれは思っている。」


今何気にこの親父、おっかないことを言わなかったか?タリスの師匠がどんな人なのかとても気になる。


「お父さんのお師匠様ってどんな人なの?」


タリスがそう聞かれるとうーん、と唸りながら応える。


「一言で言えば色々滅茶苦茶だ。ただ、実力は折紙付きでおれと違って魔法の指導もできる。あの人の元で修行を積めば王国騎士団にも入ることができると思う。」


王国騎士団、か。まぁ転移前の勝手なイメージでいえば王国の犬で、色んなところで無茶苦茶やってる割に対して強くない、そんな良くないイメージだったが、こっちの世界ではどうなんだろうか?


「王国騎士団に入るって凄いこと?」


「そうだな、王国騎士団は本当に優秀な人が多いから入るのは本当に難しい。単純な強さだけではなくて、正義感とか物の考え方も試されるからな。だからこそ、この王国では王国の騎士団に所属しているというだけで周りの見る目が大きく変わるんだ。」


「そーなんだ、んじゃお父さんも王国騎士団に入れなかったの?」


「え?うん、そーだな、おれも王国騎士団に入りたかったんだが残念ながら入れなかった。」


この話を聞いていたマーナが隣でクスリと笑っていたのをおれは見逃さなかったが、スルーすることにした。


タリスの主観が多分に含まれているから全てを鵜呑みにするわけにはいかないが、強さだけで選ばれているわけではないのであれば、もしかするとそれなりに王国騎士団の人間は本当に優秀な人間が多いのかもしれないな。ある意味国家公務員みたいなものか。おれはそんなイメージを王国騎士団に持つと少し考えて応える。


「そーなんだ、んじゃぼくお父さんのお師匠様のところで頑張って、王国騎士団を目指したい!」


おれは無邪気を装いそう応えるが、実際は断りたい気持ちもあった。王国騎士団自体への懸念もあるが、それ以上に気にしていたのはタリスの師匠のこと。おそらく、このタリスの師匠は、相当おっかない人だろう。それでも、おれはその人に学んでもっと魔法をちゃんと操れるようになりたいと思っていた。あの銀髪少女がおれの体で使っていた魔法、あれくらいのことができるようになりたいし、王国騎士団に入れば色んな情報が手に入るようになるだろう。あの銀髪少女とあってから気になっていたのだが、彼女が言ってたことが本当であればコウがどこかで生きている。もしそれが本当であればコウとはまた会いたいと思っていた。

この村でのんびり毎日狩りをしながら人生を送るっていうのもゆったりとしていてありかもしれないが、やはりせっかくだから色々経験したい。そのためには、まずは村を出るきっかけが重要だと思ったのも修行を受けることを決めた要素の1つだった。


「よし、んじゃそうと決まれば、明日からはもっと厳しく稽古をつけるからな!覚悟しておけよ!」


タリスはそう言うと、嬉しそうに笑っていた。やっぱりこの親父、ドSだな。そんなことを思いながら、ショウは一年後の修行開始まで必死に鍛錬を積むことを決心したのであった。


◇◇


修行にいくことが決まった後、おれはタリスにみっちり鍛えられていた。おれの斬れ味補正の魔法は持続力がない上に当たらなければ意味がないから、剣術の技術力自体の向上は必須だった。ちなみに、おれの斬れ味補正の魔法は木刀をベースにしても同じ効果が得られることがわかった。これが実はある意味反則で、極端なことを言うとその辺りの小石に魔法をかけて投げればそれがとんでもない斬れ味で飛んでいくし、矢にかけた場合も同様だ。これはこれでなにかと使えそうだが、魔法をかけたものを飛ばすと、その都度魔素を消費していくので、剣に魔法をかけ続けるよりもさらに魔素の使用効率が悪く、やはり純粋な攻撃力でいけば剣が最も高いので、弓矢の使い方も習得しながら剣術の鍛錬を続けていた。

タリスと稽古を続けていると、少しずつだがタリスと実力の差が埋まってきていた。稽古を始めた当初は、タリスが攻撃せず、おれが攻めるだけでもおれの攻撃はカスリすらしなかったが、半年ほど経つと、攻撃がされない前提であれば、タリスにも攻撃を当てられるようになってきた。タリスはおれが修行にいくまで避け続けるつもりでいたようで、攻撃を当てられた時は大層悔しそうにしていたが、一方で我が子の予想外の成長の早さを喜んでもいた。親心っていうのはなかなか難しいものである。

もちろん、こちらから攻撃をするだけと、相手の攻撃を意識しながら攻撃を仕掛けるのでは難しさに雲泥の差があり、おれが攻撃を当てた以降、タリスからも打ち込むようになったため、そこからは相変わらず攻撃が当たらない日々が続いていた。


また、剣術の稽古だけではなく並行しておれは独学で魔法の鍛錬もしていた。一番最初にやっていた魔素の集中と移動を繰り返したり、1日の最後には実際に魔法として剣に斬れ味付与をしていた。これも最初は発動時間が数秒と非常に短い時間だったが、少しずつ発動時間が伸びてきていて10秒くらいはなんとか付与できるようになっていた。


もちろん、家にいるだけではなく狩りにでて魔物を倒したり、教えてもらった弓矢の使い方を習得するため野ウサギを狩ったりもしていた。

そして、冬が終わり、春にかけて少しずつ暖かくなってきたある日、いつもと同じように狩りをしているとかつておれたち親子が瀕死に追い込まれたグリズリーと遭遇した。その時は向こうはまだこちらに気がついていなかったため、おれたちは目配せをするとタリスの弓矢による先制攻撃から、戦闘が始まった。


攻撃を仕掛けたタリスの元にグリズリーが向かうと同時におれはタリスから少し離れた場所でタリスとグリズリーの攻防を見守る。やはりタリスは一人でも充分こいつを倒せるだけの実力があった。少しずつタリスの攻撃がグリズリーを追い詰めていく。そしてグリズリーが大きく振りかぶってタリスに腕を振るった次の瞬間、


ザクッ


タリスの躱しながらの横薙ぎの一閃がグリズリーの腕をボトリと落とす。


「今だ!」


そうタリスが叫ぶと、おれは溜めていた魔素を剣に乗せ、必殺の一撃を腕を落とされて一瞬止まったグリズリーに向かって袈裟斬りに振り下ろす。


シュゥ


おれの青白く光り輝く刀身がグリズリーの肉を分解しながら斬り進む。


「まだだ!」


これで決まったと思っていたらまだだったらしい、そのタリスの声を聞いておれはさらに一歩グリズリーにむかって踏み込み、返す刀で横薙ぎにする。


上下真っ二つにされたグリズリーが後ろに倒れこむと同時にその体が消滅し、後には魔石だけが残されていた。


当時はあれだけ苦労したグリズリーをこれだけあっさり倒すことができると成長を感じる。もちろん、タリスがまともに動けるからというのはあるが、それでもとどめを刺したのが自分だと思うと悪い気はしなかった。


「ちゃんと強くなってるな、あれだけ手こずったグリズリーをこんな簡単に倒すなんて。」

「いや、お父さんが元気だったらこれくらい簡単でしょ?」


おれがそう聞くとタリスは応える。


「いや、さすがにもう少し時間がかかる。何ともならない相手ではないが、胴をぶった斬るなんてことはおれにもできない。お前のその攻撃力の高さはかなりのものだ。」


「そっか、でも、当たらないと意味がないからね。ぼくも一人で戦えるくらいもう少し剣術を上達しなきゃね!」


そんなこともありつつ、修行に行く日が刻々と近づいてきていた。

テペ村を出て修行に出ることが決まりましたね。少しずつですが、世界観を広げていきたいと思います。そしてようやくプロローグで出てきたコウの名前が出てきました。作品中ではコウの視点は書かないつもりですが、場合によっては番外編などで描くかもしれません。



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。


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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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