決着
コウとティナがその他大勢の魔物を蹴散らす中、おれは赤竜の放つ赤い雷をぎりぎり躱し、その口にディーナの剣を突き刺した。
「ングォォォォ!」
口が開かず叫び声にならない声をあげる赤竜に、おれは光の剣を作り出すと赤竜の首元を一刀両断した。
切り落とされた頭部分は床に向かって自由落下をしかかるが、双方の切断面からうにょうにょと触手が伸びてきて繋ぎ合わさり、元通りに戻ろうとしている。しかし、おれはオルバやボグイッドとの戦いである一定以上の魔物や魔族は再生することを学習済みである。首を切断した瞬間におれは魔素を溜めて片手に水魔法の水色の光を、もう片方の手には風魔法の緑色の光を光らせ、魔素の量を調整する。
ちょうどおれの中で何かがカチリとハマったときには赤竜の首元は綺麗に接合され、こちらを向いていたが、時既に遅し。おれの手から緑と青の2色の光が放たれ、交わると白い光を放ちながら微細な水流が風を受け、散弾銃のように赤竜に向かって降り注ぐ。
「いっけぇー!」
おれはしばらく魔素を放出し続けるがどうやらその必要はなかったようだ。魔法を発動させて少しすると赤竜とぶつかった勢いでできた水煙はすぐに後ろから来た水と風で掻き消され、そしてそこに残っていたのは地面に転がったディーナの剣だけだった。赤竜を突き抜けた水流と風は、更に直進し、コウとティナが張っている障壁にぶつかるとようやく止まるが、障壁は元の虹色に輝く状態から白く光る状態に変わってしまう。どうやらこれがティナを驚かせてしまったようだ。
「ちょ、ちょっと!何するなの!?むやみやたらに高出力の魔法をこの障壁に当てるななの!」
土魔法で作った岩の塊を迫り来る魔物に向かって落としたティナはすぐに障壁へ手を当て、魔素を補充している。すると、おれの魔法が当たったところは元通りの虹色の輝きを取り戻していった。なるほど、あの障壁はああやって使うんだな。だが、ティナたちにあまり無理をさせないようにしなければ。
そしてワーグナーはディーナから放たれた4つの火球を避けながらおれの魔法を目のあたりにして感心していた。
「確かに、彼、なかなかすごいね。彼はスカウトしたら部下になってくれないかな?」
「さぁ、どうじゃろうな!そんなことより、余所見をしながらわしと戦うなんて随分と余裕じゃのう!」
ワーグナーがよけたと思った火球は、そのまま直進しどこかで消滅するかと思ったら、ふわふわとワーグナーの周りに漂い、そして四方からワーグナーに襲いかかる。
「相変わらず面白い魔法を使うね。」
ワーグナーは手に漆黒の剣を携えるとその剣で迫り来る火球を振り落とそうとする。しかし、火球はヒラヒラとワーグナーの剣を避け、そこにディーナ自身も攻撃に加わる。
「ほれ、だいぶ余裕が無くなってきたんじゃないか?」
更に、おれは一度魔素を補給すると赤竜に串刺した剣を拾い上げ、ディーナに加勢する。おれはディーナと火球をかいくぐりながらワーグナーへ剣を振るう。これまで余裕を見せていたワーグナーだったが、流石に苛立ってきたようだ。
「2対1なんて卑怯だと思わないのかい?」
ワーグナーはそう言うと、自らの周りに黒い障壁を築き、一時的におれたちをワーグナー本人から遠ざける。もちろん、その隙におれは斬れ味付与をかけ、その障壁ごと叩き斬ろうとするが、全てが無に還される。ディーナの火球も障壁に突っ込んだが、何の効果もなくただ火球は消えてなくたった。そしてその障壁が消えたと思うと、なんと障壁の中から現れたのは2人に増えたワーグナーだった。正にイリュージョンであるがそんな冗談を言っている場合ではない。
「これでイーブンだね。」
ワーグナーはおれとディーナの方を向くとそれぞれに向かって先ほど繰り出した無の剣を構える。
「さぁ、第二ラウンドといこうか。」
おれとディーナは改めて剣を握りしめ、長く、そしてこれまでで最も激しい戦いを繰り広げた。
◇◇
「君たち、本当にしつこいね、いい加減やられたらどうかな?」
どれくらい戦っていただろうか、さすがにワーグナーはだいぶ魔力が枯渇してきているようで、おれたちの攻撃をかわすのにこれまでのようにあの黒い固まりをだすのをできるだけ抑えているようだった。一方でおれたちは、隙さえあれば魔素を回復し、魔素枯渇の心配はほぼなかったため、ワーグナーは精神的にも相当きつかっただろう。
おれはワーグナーを風魔法で吹き飛ばし、この日何度目かの魔素回復をすると頭の中にディーナの声が響く。
(そろそろいけるぞ。とりあえず、そっちのワーグナーを倒すのじゃ!)
おれはその声に言葉を返す代わりに、これまで一度も使ってこなかった身体強化魔法を使う。すると、左手の古傷は青白く輝きながら全身に纏う光の色が普通の青白い色から白に代わり、そしてその光がさらに七色に光り輝き始める。ここまでの身体強化は時間制約と終わった後のリスクが高いのでこれまではほぼ実践ではつかってこなかったがディーナとのパスや、魔素の回復を考えれば何とかなるだろう。
その様子を見たワーグナーは、どうやらおれの意図に気がついたようだ。
「そろそろ勝負を決めようっていうのかい?良いだろう、受けて立とう。」
ワーグナーは漆黒の無の剣を正面に構えるがその時既におれはワーグナーの背後に回っていた。おれは光の剣を生み出し、そして背後から斬りつけるがワーグナーも流石にこれでは終わらない。咄嗟にワーグナーは構えた剣を背中に回しおれの剣を受け、消滅させようとする。これまでに何度もワーグナーのこの剣には光の剣を消滅させられていたため、ワーグナーもおれの太刀は消えるものと思っていただろう。
「何!?」
動揺したのはワーグナーだった。ワーグナーは背中越しにおれの剣を受けていたが、ワーグナーの想定ではおれの剣は決してワーグナーと押し合いをするものではなく、当たった瞬間に消滅し、おれに一瞬隙ができるだろうと考えていたのだ。ところが、おれの剣は消滅せず、逆に不意をつかれる形となったワーグナーはおれの剣に押し込まれる。やむを得ずワーグナーはおれの剣を受けたまま器用に半身を翻し俺と正面で対峙する。交錯するおれとワーグナーの剣はバチバチと黒と黄色の火花を散らしていた。
「なるほど、そういうことか。つくづく面白いね、君は。」
どうやらどうやっておれがこの状態を維持しているのか謎が解けたらしい。そう、おれはワーグナーに光の剣を消滅させられると同時に魔素を注ぎ込みその場所に剣を生み出し続けていたのだ。しかし、もちろん魔素は消費するためいつまでもこの状態をつづけるわせにはいかないが、きっとワーグナーにも同じことが言えるだろう。
「我慢比べだよ!」
おれたちの目的はワーグナーを倒すことではない、封印することだ。だからこそ、少しずつだが魔素を削る。しかし、この消耗戦から先に降りたのはワーグナーだった。
「ちっ!」
ワーグナーは舌打ちをし、おれの剣をいなしながらバックステップで後ろに下がる。
「逃がすか!」
おれが逃げるワーグナーを追い詰めると、ワーグナーはおれにむかって牽制のために剣を振るうが、この状態まで身体強化したおれには牽制のための一振りでできた隙で十分だった。おれは身を屈め、ワーグナーの懐に入ると地面を蹴り上げながらワーグナーの胴を横に斬り捨てる。
「なっ!?」
上半身と下半身を二分にされたワーグナーは驚きの声を上げるがこれくらいで終わらないのは百も承知である。おれは立て続けに全神経を集中して光の剣と体を一体化させる。おれの左手の古傷がこれまで以上に光り輝く。
「これで終わりだ!」
おれは叫びながらワーグナーに向かってその剣を目に映らない速さで振るい続けると、その剣に為すすべも無く、片方のワーグナーは言葉通り跡形も無くなった。
おれが片方のワーグナーを倒すと同時に、ディーナが戦っていたワーグナーも突然膝を付く。やはり、別々に戦っていても、大元は同じなのだろう。半身がやられてかなり疲弊して見えた。ワーグナーはディーナを苦しそうに見上げる。
「な、なんなんだい、君たちは。なぜそれだけの力があってその手で世界を統一しようと考えない?」
ディーナはその両手に青白い光を灯らせながらワーグナーにゆっくりと近づく。
「なぜ自分で統一しないかって?そんなの決まっているではないか。めんどくさいからじゃ。それに、全てが自分の思い通りになる世界なんて面白くもなんともない。」
「めんどくさいし面白くない、か。僕のすべてを全否定された気分だ。まぁいいや、しょうがない。君たちにはどうあがいたってこうなったら勝ちようがない。好きにするといいよ。」
膝を付くワーグナーの目の前にディーナは立ち、頷く。
「あぁ、それじゃ、そうさせてもらおう。」
ディーナはその両手の光を更に広げるとワーグナーに向けかざす。すると、2つの光はワーグナーの頭上で交わり一つの大きな光となってワーグナーを包み込むと、ワーグナーの体に吸い込まれていく。
「時空反転!」
ディーナがそう言葉を放つと、光を放つワーグナーの体がみるみる縮み、小さな子供の大きさまで巻き戻っていく。
「ふぅー、やれやれじゃ、何とかうまくいったな。」
ディーナは大きな溜息を吐くと、そのまま気を失ってしまった。
最早人間とは言えない強さになってしまったショウは激闘を装いワーグナーの封印に成功しました。
次話で最終話です!