目的達成の先に待つもの
おれたちが死闘を繰り広げている中、ココはディーナの封印されている水晶の元にいた。
「マスター、ようやくお目にかかれたにゃ。ここまで本当に長かったにゃ。」
ココは本当にディーナのことを愛おしそうに水晶に頬を寄せ、スリスリしている。すると、ココの頭の中に声が聞こえる。
「おぉ、ココ、生きておったんじゃな、てっきりもう消滅したかと思っていたぞ。」
ココは突然の声に周りをキョロキョロしているが、その懐かしい声の主を見上げ、声をあげる。
「ま、マスターにゃ!?」
するとその声に反応するかのように再びココの頭に声が響く。
「そう、ワシじゃ。よくここまできたのじゃ。それに、随分と魔素を溜めているじゃないか。ショウに随分と可愛がってもらってるようじゃな。」
「マスターを救うために一生懸命魔素を送ってもらうようにこれまで努力したにゃ。」
ディーナはココの言葉に少し間を置く。
「どうかしたかにゃ、マスター?」
何も言わないディーナを疑問に思ったココは首を傾げる。
「あぁ、すまない。ちょっと考え事をしておったのじゃ。だが、道筋が思い浮かんだ。ココ、お前のその魔素、ちょっと貸してくれ、ここからでるぞ!」
思いがけないディーナの言葉に思わずココはその場で飛び跳ねる。
「マスターがそこからでられるなら、この魔素、私が消滅しない程度に使ってにゃ!」
ココの言葉に反応するようにディーナは自らの魔素を高める。それと同時にディーナはココの魔素にも同調し、その魔素をディーナが高めている高さまで高めるとディーナの魔素とココの魔素が全く同じ量になり、何かがカチリとハマった感覚をディーナは感じ取る。すると、ディーナとココの間に見えない魔素の線ができあがる。
「よし、こんなところじゃな。じゃあ、いくぞ!」
ディーナはそう言うとココと繋がった線に波を打たせるかのように、強さを強めたり、弱めたりしながらその強さの振幅をどんどん大きくしていく。
「ま、マスター、やばいにゃ、い、意識が飛びそうにゃ。」
ココは交互に迫る快感と脱力感でもう訳がわからなくなっていた。
「もう一踏ん張りじゃ、お前が意識を失ったら終わりじゃ!もう少し頑張るんじゃ!」
ディーナの言葉にココは地面に爪を立てながらなんとかその場に意識を留める。
「全く、久しぶりあったと思ったら相変わらず猫使いが荒いんにゃから。でも、そんなマスターが大好きにゃ!」
ココがディーナに産み出されたのは一重にディーナの暇つぶし兼雑用係のためである。そのため、ディーナはいつも色んなことにココを使ってきていて、何度か魔素の消耗しすぎにより消滅しそうになったことがあるくらい。ただ、もちろんディーナはそのぎりぎり持ちこたえるところを知っているからそこを調整しながら、ココを使い倒していたのだ。そして、ココもまた知っている。このぎりぎりのラインを越え、ディーナの要求を満たした先には、とびっきりのご褒美が待っていることを。
ディーナとココを繋げている線の振れ幅がどんどん大きく、そして速くなっていく。そしていつしか、繋げられた線で作られた面へと変化していく。
「よし、よく言った。だがこれで最後じゃ!」
ディーナがそう言うと、最後に高めた魔素によって、これまで不可視だったココとディーナの間の線でできた面が青白い光の壁となり具現化し、水晶をぶった斬る。
パキィィン
その大きな音にその場にいた一同は音のした方を振り向く。
大きなガラスが割れたような音が洞窟内に響き渡ったかと思うと、床に描かれた魔法陣と水晶は消えてなくなり、一人の少女がフワリと地面に降り立っていた。
「ココ、よくがんばったのじゃ。褒美は後だがとりあえず。」
ディーナが最後の最後で意識を失ったココに手を触れると青白い光がココを包む。
「な、なんとか消滅せずにすんだにゃ。流石に今回のはやばかったにゃ。」
ココはそう言いながら久しぶりに触れる本当の主の足元に自分の鼻先をスリスリと擦り寄せる。
「お、おネエ!どうやってでてきたなの!?」
ティナは先程までの余裕は全くなく、奥歯をギリギリと噛み締めていた。
「おぉ、ティナ、久しぶりじゃな。お前の封印、なかなか厄介だったぞ。中からこじ開けるのは流石に無理じゃった。だが、外と中から同時に攻めれば何とかならない訳ではなかったようじゃな。」
「そ、そんな簡単な封印じゃないなの!それこそ、サウザンドドラゴンですら封印できる術式なの!」
ティナの言葉にディーナは呆れる。
「そんなわけなかろう。あいつらはやる気がないだけじゃ。まぁそんなことより、ショウ、ようやくここまで来たな、感謝するぞ。と挨拶をしたいところだがそれどころじゃないらしいな。」
そう、ディーナが封印からでてきて一瞬気を取られたものの、コウは相変わらずティナの言いつけを守っておれを攻撃し続けている。
「ちょっと大人しくしておれ。」
ディーナはどうやって現れたかわからないが、突如おれとコウの間に現れ、コウの短剣を止めるとコウの目を見つめる。
「ほう、ティナに呼び出されたか。で、操られておるんだな。」
ディーナはその赤い瞳に魔素を込め、コウの目を覗き込むと、コウの剣を持った手から力が抜ける。
「ん?あれ?ぼくはどうなって?」
コウは正気に戻り、何が何だかわからないようだった。
「初めましてじゃな、いつも妹が世話になっとるな。」
ディーナがコウの剣を放し、改めて挨拶をするとおれに向き直る。
「と言う訳で挨拶が遅れたが、ショウ、本当にありがとう。礼を言うぞ。」
真っ白な髪に同じく真っ白なワンピースに身を包んだ赤い目をしたディーナは、おれが初めてグリズリーに殺されかけたときに見たときから全くそのままだった。
「こちらこそ、今まで色々助けてくれてありがと!あと、遅くなってごめん。でも助けられてよかった。」
そんなやり取りをティナは面白くなさそうにしている。
「おネエ!一度封印から抜けられたからっていい気になるななの!もう一度封印してやるなの!」
ティナは今まで抑えていた魔素を開放すると、ティナの周りを黒い光が覆う。
ディーナはティナの方を向き、その手を広げる。
「仕方がないのぉ、どれ、どれくらい強くなったのか見てやろうじゃないか。」
その言葉に真正面からティナは突っ込んでいこうとしたその時、
ザクッ
迫りくるティナの胸元を突如虚空から現れ、後ろから突き刺す赤い槍。突然の出来事でディーナですら驚いている。ティナは自分の胸に手を当て滲み出る血と、その槍を見るとワナワナと震えだし、叫ぶ。
「ワーグナァァー!」
その叫び声に応えるかのように、槍が出てきた虚空から、華奢な金髪の男がスルリと現れる。
「なんだい、ティナ、呼んだかい?」
ワーグナーと呼ばれた男は何事もなかったかのように地面に降り立った。
こんなところでココはディーナを救うという大金星をあげます。そしてでてくると同時にコウの洗脳を解いたりと、相変わらずやることが滅茶苦茶です。これでハッピーエンドかと思いきや、そうはいかないようですね。なんだかヤバいのが出てきました。