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魔法の素質

いつしか、おれの日課は朝のタリスとの稽古、そしてそれが終わると一人で魔素のコントロールの練習をするようになっていた。まだ子供だと言うのに熱心なことである。


タリスとの稽古は行き詰まりをおれ自身が感じていた。ある程度木刀が振れるようになってきたからこそわかる、タリスとの圧倒的な実力差。ほかの人と打ち合いをしたことがないからわからないが、おれの中のイメージでは野球で、プロ野球の投手が小学生のバッターと相手をしているようなもんである。今まではおれを持ち上げるために手を抜いて、緩いボールを投げていたが、おれの実力向上とともに徐々にタリスもレベルを上げてきていることから、タリスの実力が全然わからなくなっていた。


そんなおれの内心を見透かしてか、素振りが終わったおれにタリスが声をかける。


「ショウ、だいぶ良くなってきてるな。そろそろ、もう一度狩りに行ってみようか。そうすれば自分の実力の向上が掴めると思うぞ。」


そう言われ、半ば自信喪失から自暴自棄に入りかかっていたので思わず、「こんな弱いぼくと行かない方がいいよ!」なんて言いかけたが、タリスの言葉を信じて狩りに行くことにした。


◇◇

タリスと話をして、狩りに行く日の朝稽古はやらない方がいい、と言われたので狩りに行くのは明日になった。結局この日の稽古でも、タリスには一太刀も浴びせることができず、疲労感だけが残っていた。何かきっかけがあれば、と思いながらもそのきっかけが掴めずにいる、いわゆるスランプのような状況なのだろう。どんよりとした気持ちになりながら、今日は気分転換に魔素のコントロールの訓練を外で行なっていた。


「せっかく外にいるんだし、ここならそんなに人目につかないからちょっと魔法でも使ってみるか。」


これまでの自主練で、魔素のコントロールは少しずつだが上手くなってきていて、日を増すことに、魔素が弾けるまでの量が増えてきていた。この弾ける時点というのが、どうやら今の自分が扱える魔素の量のようだ。そして今日は家の中では怖くてできない魔法の行使をしてみようと心に決めていた。


「家の外とは言え、火の魔法は火事になったりすると嫌だからな。」


どれくらい自分の魔法に対する適性があるかわからないから、まずは最も被害が少なそうな水の魔法から試みる。

イメージは、空気中の水分を一点に集めて放出するイメージだ。これまで最も許容量が多い右手に魔素を集中し、まずは今の自分の最大量の半分くらいの魔素で、その右の掌に水が溢れるイメージを持つ。

すると、銀髪少女が光の剣を出した時と似たような感覚で掌から力が抜けて行く感じと同時に、掌から少し離れたところに、チョロチョロと水が流れる。


「お、おぉー!」


何もないところから水が出る、ただそれだけだったが、今まで自分が経験したことのないことだから、何気に感動していた。


「よし、半分でこれくらいなら、全力でやったらどうなるんだ?」


先ほどと同じように今度は魔素を最大量まで溜め込んで、同じように水が出るイメージをする。


チョロチョロチョロ、、


うん、さっきと変わらない。


「あ、あはは、まぁ最初から上手く行くわけないよね。まだ水だけだし。」


さっきまでの喜びとは打って変わって、なんだかとっても愕然とした自分を自分で慰める。


「よし、じゃあ次は火の魔法でもいってみるか!」


こうしておれは水、火に続き、風、氷、土など、なんとなく思いつく魔法を片っ端から使ってみたが、どれも発動こそするがおまけ程度。まぁ水とか火は、一人で狩りにいった時は重宝するだろうが、実践で使うのはおそらく不可能なレベルだった。


いろんな魔法を、中くらい、最大限と使ったため、効果はなくても魔素をかなり使ったみたいでおれの体はかなりへとへとだった。銀髪少女に操られた時ほどでもないが、魔素を集めていた右腕の神経がなんとなく痛い。


「まぁ今日はこんなとこにしておくか。今日はどっと疲れたな。」


タリスには全く勝てないし、魔法も上手く使えない、ダメダメなおれはトボトボとすぐ横にある家に帰っていった。


◇◇


次の日の朝、前回の狩りと同様にタリスとおれは準備をし、森の入り口に差し掛かるところだった。

今回、おれの装備を変更していて短剣の代わりにこれまで稽古で使っていた木刀と同じくらいの長さの剣を持たされていた。きっと、あの木刀の長さはこの剣の長さに合わされたものだったのだろう。

前回のグリズリーの件があったので前の時みたいにはしゃぐ気にはなれなかったが、前回の自分からどれだけ成長できているのか、その点だけは楽しみだった。


「グリズリーみたいな魔物は魔素が溜まらないとでないから、今回はさすがに出てこないと思うけど、気を抜くなよ。」


そう言うと、すぐにカサカサっと音がして草むらからスライムが現れた。


「ショウ、お前の稽古の成果を見せてみろ!」


タリスが言う前から、おれは剣をスラリと抜き構えていた。


そして、スライムが飛び跳ねこちらにむかってくるタイミングを見計らって上段斬りを繰り出す。


シュッ


一瞬空振りをしたのかと思ったが、ちゃんとスライムが切れていた。そしてそのまま、スライムは消滅し、その場に魔石だけが残る。


「え?」


おれは思わず驚きの声をあげた。武器が短剣から長剣に変わったとは言え、今まで何撃か当てないと倒さなかったスライムが一撃だった。そう、やはりタリスの言う通り、おれはちゃんと強くなっていたのだ。


「ショウ、今のでわかっただろ?お前はちゃんと強くなってる。強くなったことでおれとの力の差に気がついて、愕然としているかもしれないが、それがわかるようになったのも強くなった証拠だ。安心していい、おれが今まで教えて来た中でもショウは成長速度が速いほうだ、あっという間におれに追いつくだろうよ。」


そう言われると、おれは照れ臭くなってへへっと笑って誤魔化してしまった。


◇◇


こうして順調に魔物退治をしながら進むと何事も問題なく森を一周しておれたちは家に帰って来ていた。本当は最初のときもこれくらい平和な狩りになる予定だったのであろう。


おれは家に着くと、今日の感覚を忘れないために家のすぐそばで素振りをしていた。

今日の魔物を倒した時のイメージと、銀髪少女に体を乗っ取られた時の動きを思い出しながら、おれは剣を振るう。


「うーん、なんか違うんだよなぁ、あのときはもうちょっと、ぬるりと、ゆるりと流れるような動きだったよなー。」

そんなことをぶつくさ言いながらおれはあることをふと思い出す。


「そういえば、あのときは剣を光の剣にかえてぶった切ったんだよな。今のおれにも同じようなことができないかな。」


そんなことを思いながら、おれは足を止め、まずは掌に魔素を集中する。そして、その魔素を剣を覆うようなイメージで刀身部に纏わせる。おれがこの魔法にイメージしたのは、純粋な切断力強化。刀身が超高速で振動することで触れたものを分子レベルに分解することをイメージして、そのイメージを刀身部に乗せると、おれはいつものように脱力感を感じていたが手元の剣は刀身を紅く光を灯していた。


体から魔素を吸収されているので疲労感がハンパなく、おれは肩で息をしながら、何かで試し切りを、と思ったが立っているのがやっとで、思わずおれはよろめきそうになるのを、剣を杖代わりにして地面に突き立てる。すると


ズブッ


おれの体重を支えるはずの剣が地面に柄の部分まで突き刺さり、そのままおれは前のめりに突っ伏していた。


おれはそのまま転がり仰向けに大の字になっての転ぶと、一言呟いた。


「嘘だろ。」


◇◇

脱力感と達成感からおれはしばらくそのまま横たわっていると、心配になったのかタリスがおれの様子を見に来た。


「おい、大丈夫か?」


タリスがそう言いながらおれに駆け寄るとそのすぐそばにあった奇妙な光景を目にする。


「え?これはなんだ?どうなってるんだ?」


地面から柄の部分だけが見えている剣。ぱっと見、刀身がなくなって柄だけになって地面に置かれているようにも見える。


タリスが柄に近づき、刀身部分が地面に埋まっているのに気がつき引き抜くと、タリスは違う地面に剣を突き刺してみた。


「ふむ。」


もちろん、力一杯突き刺したわけではないが、タリスが突き刺した剣は鋒が少し地面に入っただけで、とても刀身が全部地面に埋まるなんてことはなかった。


その様子を横で見ていたおれは、タリスと目が合うと誤魔化すための薄ら笑いを浮かべていた。

少しずつですが成長している様子のショウ。そして、遂に魔法らしい魔法を習得出来たようですが、これは一体この世界ではどの程度のものなのでしょうか。



ご覧いただき有難うございます。面白いと思って頂けたらブックマーク、ご評価を頂けると執筆活動の励みになり、とても嬉しいです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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