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トンネル大作戦

北の大地に向かうショウ、コウら一向は順調に海の上を移動していた。時折、魔物が現れるものの、このあたりの魔物はさして強いわけでもないのでなれない船上での戦闘ではあったが、歴戦のこのメンバーにかかればなんてことない相手だった。そして、船に乗って移動を始めた5日目、予定では北の大地にあと1日ほどで到着する頃になるとおれたちは魔法を使うのをやめて風に任せて進むことになる。もちろんおれとコウの魔素はそんなに簡単に空になることはないが、それでもこれから魔物や魔族と連戦になることを考えると少しでも万全な状態に近づけておきたかったからだ。


アリスは船の速度が遅くなったからか、船での移動に慣れたからか、ようやく従来の元気さを取り戻していた。


「あぁあー、このまま結婚式が挙げられずにこの北の大地で死んじゃったらどうしよ。それに、もし私が死ななくてもショウが死んだらいきなり未亡人だわ。」


「ちょ、ちょっと、そんな不吉なこと言わないでよ。」


おれはアリスの言葉に思わずたじろぐが、ラキカが追い打ちをかける。


「いや、アリスの言ったことが現実になる可能性は大いにある。ショウ、本当に気をつけろよ。」


もちろん、これだけ事前に危険だ、危険だと言われれば誰だって警戒するだろう。おれは改めて気を引き締め、そしてようやく北の大地にたどり着いた。


おれたちは手頃な岸に船を留め、船を降り、北の大地に第一歩を踏み出すとおれとアリスは思わず目眩を催しその場にしゃがみ込む。


「くっ!?こ、これは。」


「く、苦しい。何よこれ!?」


おれはすぐさま状況を理解する。この感覚は魔素の濃いところに来た感覚だ。しかし、普段魔素の変化を感じ取れないアリスですら感じるというのは相当魔素が濃いのだろう。


「やはりすぐの出発は難しいな。少し休もう。」


これは大方コウとラキカの2人には予想通りだったらしい。初めて北の大地に降り立ったとき、本人の保有している魔素が生半可だった場合、地に足をつけただけで気を失ったり、最悪の場合はショック死することもあるそうだ。ただ、最初さえなんとかなれば、少し休めばすぐに体が順応できるらしく、おれたちは少し休むことにした。ふと、陸地の方を見ると山の上に城があるのが見える。こっちにも建物があるというところがなんだか予想外だった。


「あれって?」


おれの問いにコウが応える。


「あぁ、あれが今回の魔族の居城だろう。どちらかというと今回の魔族は北の大地でも南側を主な領地にしているらしいから、ほぼ間違いないと思う。」


おれはなぜコウがここまで詳しいのか、やはり気になるがこれまで何度かそれとなく聞いても茶を濁されるから聞かないことにする。きっとコウにも何か事情があるのだろう。


そして、しばらく休むと停泊させた場所から船が動かないように岸に固定して、いよいよ北の大地を歩き始める。


魔物の巣窟と聞いていたため、どんよりとした鉛色の空に草木が全くない殺伐とした大地をイメージしていたがそんなことはなかった。少し気温が低い影響か、確かに背丈の高い木は見られなかったが、花や草などは普通に生えていて、よく通る部分は草木が生えておらず、整地こそされてないものの、街道のような役割をしていた。


「なんだか予想外だわね。」


どうやらアリスはおれと同じような感想を持ったらしい。しかし、ラキカから聞いていた通りやはり魔物は全般的に強い。もちろん、おれたちがやられるほどではないが、感覚的には回復の泉があった山岳をもう少し強くした感じで、おれとアリスとゼラスの3人ではなかなか厳しかっただろう。その辺にいる魔物でこのレベルだ。きっと拠点にいくともっとすごいのがいるのだろう。あれくらいの距離であれば一日あればつきそうなので、おれたちは魔素の使用を最小限に抑えながら居城へ歩みを進めた。


◇◇


太陽が最も高い位置から少し傾いた頃に、おれたちは魔族の居城に辿り着いた。石を丁寧に積み重ねて作られた居城はアーガンスほどではないがある程度の大きさがあり、作りも立派だったが、どちらかというと外観よりも実用性を重視した造りになっていそうで、幾重にも重なった城壁は侵入者を固く拒んでいるようだった。建物自身はおそらく、三階建くらいの高さだろうか。


「さぁ、どうしよっか。」


近くの茂みで身を隠しながら城内の侵入方法を考える。


「陽動作戦でいきましょうか。」


コウの発言に全員がコウの方を向き直る。


「1人が正面から派手に突入し、他の人は正面に魔物が集まったタイミングでどこか他のところから進む。オーソドックスですがこれが一番楽に突破できるでしょう。」


ラキカは頷く。


「あぁ、それがいいだろう。だが、だれがやるんだ?」


「おれかコウのどちらかがよいのだろうけど。」


「ぼくもそう思ってた。だから、今回はぼくがやるよ。適当に合流するからみんなは上手いこと中に入って、出来ることなら倒しておいてよ。」


コウにしては珍しく冗談を言っている。万が一おれに何かあったときにラキカやアリスに申し訳がないから無理矢理にでも陽動役を引き受けようとしてくれているのだろう。そう考えると、ここでおれがコウを止めてしまうというのは野暮というものである。


「よし、わかった。んじゃ陽動はコウに任せるよ。また借りができてしまったな。最近は借りを作ってばっかりだ。」


「いや、ここにこなければこんな借りを作る必要もなかったからな。むしろ礼を言わなければいけないのはぼくのほうだ。さぁ、じゃあ役割も決まったことだし、そろそろ行こうか。」


コウがおれたちを見渡すと、全員が頷く。


「では、後ほど!」


コウはそう言うと本当に真正面から城門に突入し、魔法を炸裂させていた。城の中にいた魔物たちがわらわらと城門付近に集まってくるのがここからでもわかる。


「よし、うまく引きつけることができているようです。それでは、ぼくたちも行きましょう。」


塀を越える方法はいくつかあるが、やはり地面に穴を掘って掘り進み、越えるのが一番だろう。トンネル大作戦である。


おれは近くの茂みから穴を掘り進め、ココ、アリス、ラキカがその後ろに続く。最近穴ばっかり掘ってる気がするが、そんな細かいことは気にしてはいけない。単純に穴を掘るだけだと、崩れてくる可能性があるため、穴の外周は土を変質させ、しっかりと固めながら進む。少し時間がかかるがおれ一人で通るわけではないから仕方がない。


「この辺でしょうか?」


おれの問いにラキカは目を閉じ、意識を集中して魔物の魔力を探索する。


「あぁ、そろそろ少しずつ上がっていったらちょうど良さそうなところに出られそうだ。」


おれは頷き、これまで横に掘っていた穴を少しずつ上に向けて掘り進むと、掘った隙間から外の光が射し込む。


「それでは、行きます!」


おれは声をかけ人が通れるだけの穴をあけると、そこは見事に居城の塀の中だった。


「よし、まずは侵入できましたね。」


遠くで破裂音や魔物の叫ぶ声が聞こえる。


「あっちもがんばってるようね。」


アリスの言葉におれたちは頷き、居城の中へ侵入するのであった。

ショウは最近穴掘りがお好きなようで。コウのおかげもあって無事敵の居城に入り込むことができたようです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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