メンバー選定
おれがコウと魔族を倒しに北の大地に行くことに決めると、その場ですぐに具体的な行き方やスケジュールの調整、そしてメンバーの相談をする。どうやら、北の大地には船で行くことになるらしく、アーガンスには残念ながら船はないため、オスタからいくらしい。行くメンバーについてはコウは特に誰かを連れて行くつもりはないそうだが、おれが誰を連れて行くかは任せる、とのことだったため、一度国に戻り誰に一緒に来てもらうか、考えることにした。
この日の夜は、オスタ側が主催する両国の懇親会が催され、コウの王族としての立ち振る舞いを見ることになったがその振る舞いは素晴らしいの一言に尽きる。礼の角度から笑い方、細かな気配りまで、完璧にこなすコウをみて、これから同じように振る舞わないといけないかと思うと、ちょっとゾッとした。そんなおれの恐怖を他所に、アーガンス王はおれのことを跡取りだとか、こいつは凄い、とか言うものだからハードルが上がって仕方がない。おれが苦笑いしていたのを、コウには気が付かれてしまったが。
そんな気を揉む夜は、特に何事も起きるわけでもなく平和に済み、翌日には国に戻る準備を始め、数日後アーガンスに戻った。
「と言うわけで北の大地に行こうと思うのですが、アリスとゼラスに同行してもらってもいいでしょうか?」
おれは騎士団の詰所で、騎士団長となったグレンに相談しに来ていた。
「ほんとに君は忙しいやつだな。王の護衛をしにオスタに行ったと思ったら今度は北の大地か。」
呆れ気味に言うグレンだったがあまりいい反応ではなかった。
「おれ自身が北の大地に行ったことがないからわからないけど、あそこに行ったら基本的には帰ってこれないと聞いている。そこに騎士団の有力株の3人を行かせるとなると、ちょっとなぁ。」
そう、これまでもラキカから北の大地の話を聞いていたがグレンと同じような話をしていたのをおれは覚えていた。
「2人は乗り気なんですけど、やはりその点は気にしてたのでお伺いにきました。」
グレンは腕を組んで考えていたが、しばらくするとその口を開く。
「あまり頼るべきではないのかもしれないがやむを得まい、ラキカ様に聞いてみたらどうだ?あの人なら3人の実力も知っているし本人も北の大地に行っているからどれくらいのリスクがあってどうすべきか、貴重な意見を聞くことができるだろう。」
まぁ、やはりこうなるよな。
「実は、ラキカさんにも確認済みで、行くなら2人のうちどちらかとおれが代わり、その3人で行く、と言ってました。」
「用意周到だな。なるほど、わかった。あのラキカ様がついて行ってくれるなら何とかなるだろう。だが、くれぐれも無理はするなよ。」
おれは礼を言って最近の状況などを適当に情報交換をした上で、詰所を後にした。
「はぁ、さぁて、どうしたもんかね。」
ゼラス、アリスには北の大地に誘ったもののまだどちらかしか連れていけない可能性が高いことを伝えていなかったため、どちらを連れて行くか悩んでいた。
純粋な対個に対する攻撃力はゼラスの方が高いが、魔法を使った範囲攻撃については圧倒的にアリスに部がある。ここは2人に正直に相談することにしよう。
この日は久しぶりにマロンを含めた4人で夕食を取りながら、北の大地行きの話をしたところ、思わぬ形でこの件は決着が着く。
「えぇー?わたしのゼラスをそんなところに連れて行かないでくれるぅ?」
「ということだそうです。すみませんが今回はアリスさん、よろしくお願いします。」
アリスは思わぬ形の決定に驚くがだからといって不満があるわけでもないので頷く。
「わかったわ!ほんとはそんなにおっかないところ、なかなか行きたくないけどあんた一人でいって何かあっても嫌だからね、しょうがないからついていってあげるわ!」
こうして、北の大地に行くメンバーが決まったと思ったら、思わぬところに同行希望者がいた。
おれが家に帰り、ココに北の大地に行くことを決めたことを話したときだった。
「北の大地にゃら私も行きたいにゃ。もしかしたらマスターに会えるかもしれないにゃ。」
ココは最近は身の危険を感じるらしく、おれたちと一緒にくるのを嫌がっていたが、今回はもしかしたらディーナに会えるかもしれない、という理由からおれたちについてくるらしい。なんとも現金なものであるが、それだけディーナに会いたい、という気持ちの表れでもあるからそう思うとなかなか可愛いかもしれない。
こうして、コウ、ラキカ、アリス、そしてココにおれを含めた5人のゆかいな仲間たちで北の大地に向かうことになった。
そしていよいよ北の大地に出発する日、おれたちは予定通りオスタに向かうと船に乗っていた。しかし、ただの帆船も風魔法が使えるおれたちが乗るとただの船ではなくなる。
「なによこれ!ちょっと、う、うぅ。」
アリスが初めての船に見事に船酔いしていたが、それはアリスが初めて船に乗るからというわけではなく、おれたちの操縦が荒かったからだ。おれたちは、船が帆船であることをいいことに帆に風魔法で風を送り、無理矢理水の上を高速移動していたのだ。
「流石お前たちは色々やることが普通じゃないな!」
ラキカは甲板に立ち、その昔、自分が北の大地に行ったときのことを昨日のように思い返しながら遠い目をする。
「ほんとに、全くこいつらといると、つくづくおれは老いたと痛感させられるな。」
その顔は、嬉しいような、悲しいような、複雑な顔をして、遠い地平線を眺めるのであった。
これで北の大地にいく準備が整いました。北の大地では、一体どんなことが待ち受けているのでしょうか。