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激戦の行く末

オルガに不意を付かれ、気を失ったおれを他所にオルガとコウが戦い始めていた。


「ちょっと魔法がうまく使えるからって、調子に乗るなよ。」


オルガは魔力を高めたまま、ショウを吹き飛ばしたときと同等のスピードでコウに斬りかかる。しかし、コウとオルガの間は少し距離があったため、流石に同じように吹き飛ばすことはできない。それだけではなかった。立て続けに繰り広げられるオルガの攻撃をコウはヒラリヒラリと躱し続ける。


「一体何なんだよ、お前は!」


オルガが苛立ちから剣が大振りになる。コウはその脇を見て腹をその短剣で薙ぎ払う。


「うぐっ!?」


オルガにとってもちろんこの一撃だけでは致命傷にはならないが、この状態でまさか人間から攻撃をうけるとは思っておらず驚きと一瞬の動揺が生まれる。


実は、コウがオルガの攻撃を避け続けられたのにはコウが持つ剣に仕掛けがあったからだった。コウの持つ剣はある特定の魔力を持つ者が使用するとその剣の特殊能力によって相手の物理攻撃の軌道が全て視えるようになる、所謂先読み機能的な能力がついていた。もちろん、軌道がわかっても身体能力がついていかないことには避けようがないし、魔法は軌道が読めないため、有る程度の実力がないと使いこなせない剣だったが、かなり大きなアドバンテージになることは間違いない。


コウはオルガの動揺を見逃さなかった。コウは敢えて大げさに袈裟斬りでオルガに斬りかかるとオルガはバックステップでコウの剣戟を避ける。するとコウは更に距離をあけるべく風魔法でオルガを遥か後方まで吹き飛ばすと次の準備のためにその短剣を一度しまう。予想もしない攻撃にオルガはコウの狙い通り吹き飛ぶが、その反撃とばかりにオルガはコウに剣を振るい衝撃波を飛ばす。


しかし、その時には既にコウの準備はできていた。コウの右手には薄水色の氷魔法が、そして左手には緑色に光る風魔法が、完全に同じ魔素量にコントロールされ、そしてコウの手から解き放たれた。


「はっ!」


その声と同時に薄水色と緑の光がオルガの目の前で交わると、そこにはオルガの目の前を中心に真っ白な渦が巻き起こり、爆発的な速さで広がるとその渦は遂にオルガをも飲み込む。


それでもコウは魔力を放出し続け、あたり一面を豪雪の渦が包み込み、何人も身動きがとれない風がオルガの動きを止める。そして、しばらくして撒き散らされた氷雪で地面が真っ白になるとようやくコウは魔法をとめる。


おれは突然の寒さによって目を覚ますと目の前が真っ白になっていて、思わずどこかおかしくなったのかと心配になり頭を振る。


「どうなってるんだ?」


しかし、白い渦の中心から少し離れたところにコウが構えているのに気がつくと、コウがオルガに魔法を掛けたのだと気がつく。


「やったか?」


おれはコウの元へ駆けつけると、渦の中心はまだ白い靄がかかり、オルガの様子は見ることができない。


「どうだろうか?それにしても、結局ぼく一人でここまでやらせておいて。この代償は高く付くぞ。」


「あぁ、ごめん。わかった、んじゃこれが終わったらエール一杯でどうだ?」


そんなことを言っているうちにようやくオルガの様子が見えるようになる。


「少なくとも動きは止めることができた、が。」


薄っすらと浮かび上がるオルガは、両腕で身を守りながら氷塊の中に氷漬けにされていた。しかし、よく見るとその体表面からは魔力が滲み出ている。


「こいつ、生きてるな。」


おれのつぶやきにコウも頷く。


「この魔法の氷はそう簡単には溶かされるものではないがこの様子だといつかは出てきそうだな。それに、魔族は体のどこかにある核を消滅させないと多少魔力は消費するが、その核から再生してしまうんだ。だからあの腕も生えてきた。」


「ということは、核を破壊するしかない、ということか。どこにあるんだ?」


コウは手のひらを上に返しわからない、といったポーズをとる。


「それに、この上から斬らないといけない、ということだな。」


おれはオルガが氷漬けになっている部分の一部を剣でこそぎ落とすように斬ってみるが、そのままでは全く斬れる気がしない。


「なるほど、生半可な攻撃はこいつを救うようなものってことだな。それなら。」


おれは雷魔法を纏い、さらにその状態で斬れ味付与を剣にかけ、腰を落とす。目を閉じ、意識を集中し、これまで何万回と振ってきた剣の振り方の最適解をイメージし、大きく息を吸い込む。そして次の瞬間。


「はっ!」


掛け声と共に雷魔法でおれの全筋力、全神経を最速まで高め、最高に手にしたディーナの剣を軽くした状態でただ斬ることだけに集中する。すると、赤色に光った剣が無数に煌めき、オルガを氷塊諸共切り刻む。その剣筋は最早目に見えず、傍から見るとボヤッとおれの手元が赤く光っているだけかのようにみえる。


「ほぅ。」


ラキカ、コウが2人ともおれの剣捌きに関心しているようだ。おれが剣を降ろしたときには、目の前にはオルガの足元にあった氷塊の残りのみが残されていた。


「これぞ微塵切り、だな。」


コウの言葉におれは肩で息をしながら後ろを振り返り微笑む。


「あぁ、なかなか使い道がないな、と思っていたがこんなところで役に立つとは思いもしなかったよ。」


薄っすらと氷雪の積もった一面が夏の日の光に照らされ、辺り一体を真っ白な光が包むと、その様子は少し幻想的にも思えた。そんな様子におれたち3人は見惚れていると、ようやくラキカが声を出す。


「これで、ようやく終わったんだな。」


おれは頷く。


「振り返ると、長かったですね。ぼくが騎士の候補試験を受けてからのことを考えるとほぼ5年近くですか。」


「もう少し言うと、ショウたちの騎士団長が魔物に乗っ取られてからだから、更に年月は遡るのだろうか。」


ラキカが付け加える。


「いや、それを言うならばこいつの父親が戦ったそれよりさらに前からだな。何にしてもお前たち2人は本当によくやってくれた。これだけの力を持つ若い奴らがいるのであればおれはもう安心だな。」


ラキカはどこか遠い目をしている。今まで自分を追い越すものがなかなかいなかったため若い世代に物足りなさを感じていたが、逆に抜かれたら抜かれたで、自分の老いを痛感するのだろう。


「さぁ、まずは城に戻ろう!コウも今日はゆっくりしていってくれ!」


こうして、長い間アーガンスを蝕んでいたオルガは、おれとコウの2人の手によって今度こそ消滅したのであった。

コウとショウの手にかかれば国を脅かす魔物ですら取るに足らない存続となってしまうようですね。いよいよ、次の話でこの章も終わりで一区切りです。

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新作、始めました! 不遇な扱いを受けていた少年コウが、その境遇に隠された力を使いこなし、内面と向き合いながら強くなっていく冒険譚です! 是非、お読み頂けると嬉しいです!

忌み子のボクが、“気”と自分を受け入れたら、いつの間にか世界の命運を握ってました-

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