次元を越えた遭遇
ラキカたちが王を迎えに行く中で、ラキカは魔力の動きでグレイブも動き出したことに気がつく。
「やはり動いたか。」
グレイブの動きを察知したラキカとタリスは王のところへ急ぐと、なんとか先に王が待つ寝室で合流できたようだ。
「アーガンス王、無事で何よりです。」
タリスの呼びかけに王は頷き答えると、その直後にもう一人、王の元へやってくる。そう、グレイブだ。
「王、ご無事で何よりです。さぁ、この騎士団長のグレイブが護衛いたします。」
グレイブはラキカとタリスの2人が見えていないくらいの勢いで王に呼びかけるが当然問われた王はラキカとタリスの方を見る。すると、王の代わりにラキカが答える。
「これはグレイブ騎士団長。この場はこのラキカとタリスにお任せいただけないかな?可愛い弟子から父親の護衛を、と頼まれてしまってね。」
いきなりのラキカからの申し出に状況が理解できないグレイブ。
「え?どういうことですか?ラキカ様のお弟子で、王のご子息かいらっしゃるということですか?」
「あぁ、そうだ。ショウと言えばわかるかな?まだ公表されていないが、あいつがアリスと結婚することになってな。で。あいつはおれの弟子だ。」
グレイブは自分の周りを嗅ぎ回ってたのがこのラキカやショウたちだということに気がつくが当然そんな素振りを見せることはなく、さらりと流す。
「あぁそうだったんですね、それはおめでとうございます。弟子の幸せは嬉しいでしょう?でも、それとこれとは話が別です。ぼくは騎士団長として王の命を守る使命があります。ぼく一人で大丈夫なので、お二人は外の魔物を何とかしてきていただけませんか?」
外の音に耳を澄ませると、街中でも爆音や悲鳴、人々の叫ぶ声が聞こえ始めていた。また、その声はどんどんこの城に集まってきていた。そのとき、城を囲んだ四方から今度は氷魔法が打ち上げられる。
「どうやらその必要はなさそうだな。」
ラキカはそう言って胸元からショウが魔素を溜めた魔石を取り出すと、床に向かって叩きつける。すると、床に叩きつけられた魔石は粉々になると同士に淡い薄紫色の光を放ちながら城の外までその光が広がる。城の外から見ているとその光が城周辺を半円状に囲むのが見えただろう。
突然のラキカの行動にグレイブは驚くがどうやらその行動の意味に気がついたらしい。
「へぇ、面白いことをしますね。ということは、この城には簡単に魔物が入ってこなくなったってことですね。」
「あぁ、そういうことだ。これで騎士団長ともあろう人間がここに居なくても良くなっただろう?」
ラキカはわざとらしく聞いてみせる。
「そうですね。なぁんて言うと思ったんですか?そろそろネタはバレてるんでしょう?化かし合いはやめにしましょうか。」
グレイブはそう言うと右手を虚空に広げたと思うと、その虚空から禍々しい魔力を含んだ剣の柄を引っ張り出し、ゆっくりと引き抜く。
「いよいよ尻尾をだしたな、グレイブよ。さぁ、踏ん張りどこだ、タリス。ヘマするなよ!」
呼びかけられたタリスは頷く。
「えぇ、ぼく達の世代でこの戦いは終わりにしましょう!」
こうして、グレイブ対ラキカ、タリスの戦いの火蓋は切って落とされた。
◇◇
その頃、オスタと衝突している最前線でおれはオスタ陣営の中を白虎のリヒトをイメージしながら自身に雷を纏いただひたすら敵の本陣を目指して走り続ける。すると、そこにおれと同じように全身を雷に覆われた一人の相手騎士が正面からやってくるのに気がつく。
「ちっ!」
おれはそのまま抜かせる訳にもいかず、その相手めがけて一発目に放ったのと同様に雷の剣戟を飛ばすとおれ自らもその剣戟に追いつく勢いで相手に向かって走り込み、先に放った剣戟に自分の剣を重ね、相手を斬り飛ばそうとする。
しかし、何とおれの放った剣はその相手の直前に突如現れた半透明の白い壁にぶち当たり、辛うじてその障壁にヒビが入るものの、勢いはその壁に止められてしまう。両者が衝突した衝撃で2人を中心とした暴風が地面の小石とともに吹き飛ばす。
「コウ様!」
周りの騎士がおれの剣を受け止めた人物に向かって呼びかけると、その声がけに返事をするかのように、コウと呼ばれた人物は手元の短刀に土属性の魔法をかけ、おれの剣を跳ね上げ、そしてその剣でおれを突き抜こうとする。
「なんの!」
おれは咄嗟に身を翻しその剣を避けると半回転しながら斬れ味付与をかけ、コウと呼ばれた相手騎士を一閃する。相手はさらりとバックステップで回避するがその瞬間相手の額にある傷が妙に印象に残る。そして、おれは剣を放ちながらふと思い出す。コウ?オスタのコウ?たしかラキカやディーナが昔言ってた転移者ってコウのことか?
しかし、そんなことを考えている間にもコウから剣戟がおれにむかって降り注いでいる。ディーナの噂が本当であればコウはかなり昔から力を自由に使えた可能性が高い。その点からすると剣も魔法も腕前は超一級。悩みながら圧倒できる相手ではない。そして、案の定このコウが昔一緒に仕事をしていたあのコウかもしれないという思いはおれの剣や注意力を鈍らせ、コウが剣戟の中、土魔法で足元に仕掛けた沼に嵌りおれは一瞬バランスを崩す。
「っく!?」
おれは咄嗟にバランスを立て直すが時すでに遅し、コウの短刀がおれの喉元に迫る。なんとかおれは自分の剣でコウの剣を食い止めるが剣の勢いでおれは地面に押し倒されていた。両者の動きが一瞬止まる。よし、確認するならここしかない。
「コウって、重力研究所の桜庭コウか?」
おれの言葉にコウの力が緩み、その目は驚きを隠せないでいた。
「おれだ、峰ショウタだ。」
おれはコウの反応から確信する。このコウはおれの知ってるコウだ。しかし、思いがけない言葉が返ってくる。
「そんなもの知らん。」
そして、そう言うとコウはおれを蹴り飛ばしながら自分自身も後ろに飛び、おれから距離を取る。
まさか、そんな訳はない。おれはそう思っていたところ、頭の中にコウの声が響く。
(すまない、立場上いきなり戦うのをやめるわけにはいかないから、しばらく茶番に付き合ってくれ。)
その声と同時にコウはおれに向かって斬りかかってくる。なるほど、そういう事か、それならおれにも考えがある。おれは魔素を高め、そして火魔法でおれとコウを囲うように超高密度の炎の壁を発生させる。声は通るかもしれないが何をしてるか外からはわからないはずだ。どうやら、コウも納得したらしい。
(これなら動きながら念話をしなくていいから助かる。ちなみに、峰からも頭の中でおれに話しかければそれがこっちに届くから。)
なるほど、これは便利だ。
(わざわざありがと、まず、無事に生きててよかった。だが、再会を喜ぶのは後にしよう。こっちの事情で申し訳ないが、この戦争を早いところ終わらせたい。)
(アーガンスが魔物に攻められるかもしれないんだろ?)
(な、なんで知ってる!?)
おれはあまりにも唐突なコウの言葉に驚きを隠せなかった。何せ国内の殆どの人間が気がついていないのに何故他国の騎士がそのことを知っているのだろうか。
(そこまではちょっと話せないけど、でもその魔物が邪魔なのはぼくも同じだ。協力しよう。魔物を倒すためにも、峰の力が必要だ。)
(ありがとう、そう言ってくれると助かる。それにしても、この状況、どうやって終わらせる?)
コウは腕を組んで少し考えると、どうやら整理がついたようだ。
(こんなのはどうかな?)
コウは頭の中で考えたこれからの道筋をおれに伝えるとおれはほんの少し修正を加え、合意した。
(よし、そうと決まれば。)
おれたちは再び剣を構え、相対するのであった。
遂にいよいよグレイブが本性を顕にすることに成功したラキカとタリス。一方、なぜかその襲撃を知る相手の騎士、コウと遭遇したショウ。どちらの戦場も佳境を迎えます。